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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

ラッパ屋の新作「ブラジル」に拍手!

2009年01月25日 | 舞台・音楽・アート
「好きな劇団は?」と聞かれたら、必ず「ラッパ屋です!」と答える。この20年くらい、ずっと同じだ。

そのラッパ屋の新作を観てきた。紀伊国屋ホールでの「ブラジル」である。

いやあ、もう、客席で開演を待っている間も嬉しくて仕方がなかった。何しろ新作は2年ぶりだ。

最近は、福本伸一さん、おかやまはじめさん、木村靖司さん、弘中麻紀さん、岩橋道子さん、三鴨絵里子さんといった<ラッパ屋の役者さん>たちの活躍の場が広がり、みんな忙しい。

それに脚本・演出の鈴木聡さんがまた忙しい。昨年はNHKの朝ドラ「瞳」などの大仕事もあったし。それで、以前は年に1回は行われた公演が、なかなか難しくなっているのだ。

ホールのロビーで、久しぶりで鈴木さんとご対面。「待ってましたよお」と公演へのお礼を申し上げた。

そして、いよいよ「ブラジル」の開演だ。

例によって、ワンシチュエーションの舞台装置。今回は、千葉の海岸近くにあるペンションである。

集まってきたのは、大学の軽音楽サークル(しかもボサノバ!)のOBやOGたちだ。サークルを創設した大先輩が還暦を迎え、そのお祝いという名目で、みんなが久しぶりに集合したらしい。このペンションを経営する夫婦も、サークルの仲間だ。

彼らの年齢は40代から60代まで。中にはサークル内で結婚したカップルも複数いる。独身の男女もいる。会社の窓際族もいる。不倫中の女性講師もいたりする。

メンバーの一人は、最近、健康診断で引っかかり、再検査となった。もしかしたら、余命半年かもしれない。初めて身近に感じる死。ココロは乱れる。その乱れは、他のメンバーにも伝わっていく。みんなも、それぞれココロに抱えているものがあるからだ。

ペンションという限られた空間と、2泊3日という限られた時間の中で、互いの過去と現在が交錯し、ぶつかり合う。

大きく言えば、「生きることと死ぬこと」という大テーマだ。「年齢を重ねること」「老いること」の意味も問われる。

でも、そこはラッパ屋である。この重いテーマを、明るさとユーモアの中で展開していく。観客は、大いに笑って、そして少しほろっとしながら、ちゃんと<大事なもの>に触れていく。気がつかされるのだ。

「永遠と感じた瞬間こそが永遠なんだよ」のセリフが、忘れられないものとして残る。

終わって、拍手、拍手。

うーん、よかった。ラッパ屋結成25年。成熟期だ。

紀伊国屋ホールでの公演は今日が千秋楽。いずれまた見せてもらえるはずの新作を、辛抱強く、楽しみに待たせていただこう。

鈴木さん、ラッパ屋の皆さんに感謝です。

「白い想い出」の想い出

2009年01月10日 | 舞台・音楽・アート
昨日は寒かった。

大学のある八王子郊外の気温は、都心と比べて体感で2~3度は低い。久しぶりで傘をさしながらキャンパス内を歩いていると、ハイファイセットが歌った「冷たい雨」が思い浮かんだ。

それが途中からみぞれになり、ついに白いものが降ってきた。

「初雪」というのは、その年の冬の最初の雪だけど、1月なので、“なんちゃって初雪”気分だ。

続々と降ってくる結構大柄な雪片を眺めていたら、今度は別の曲を思い出した。

45年も前の曲で、記憶が怪しいが、こんな歌詞だ。

  雪が降ってきた ほんの少しだけど
  私の胸の中に 積りそうな雪だった
  幸せをなくした 暗い心の中に
  冷たくさびしい 白い手がしのびよる

誰が歌っていたのか。複数の歌声を記憶しているから、当時、いろんな人がカバーしたんだろう。曲のタイトルは「白い想い出」という。

で、この「白い想い出」の作者だが、作詞・作曲ともに山崎唯(ただし)さんなのだ。

山崎さんの名前で反応するのは、ある年代以上のはず。実は、人気<人形劇>というか、人気<人形キャラ>だった「トッポ・ジージョ」の声を演じた役者さんだ。いや、役者だけでなく音楽家であり、タレントさんだった。

トッポ・ジージョの声の山崎さんが、あの、ほどよくセンチメンタルで、やさしく胸にくる”隠れた名曲”を作っていたなんて・・・。

山崎さんが90年に亡くなっていたことも最近まで知らなかったが、この「白い想い出」は、毎年、雪を見ると必ず思い出す。

この曲と同時に高校時代の雪の日を思い出すし、また大学時代に見た東京の大雪の風景も甦る。

八王子のキャンパスで初めて見た雪は、しばらくすると、またみぞれに変わってしまった。

「白い想い出」の2番は、

  雪が溶けてきた ほんの少しだけど
  私の胸の中に 残りそうな雪だった

というものだったはずだ。

一夜明けて、今日は冬空に陽が射している。

15年を経て甦ったラブソング

2008年12月03日 | 舞台・音楽・アート
ラジオから聴いたことのあるメロディが流れてきた。classの往年のヒット曲「夏の日の1993」である。

ところが、あれれ、歌声は確かにあの2人組なのに、歌詞が違うぞ・・・。

と思ったら、曲が終わってからパーソナリティによる説明があって、何と「冬の日の2009」という“新曲”なんだそうだ。

しかも、あの夏から15年経った、同じ男女が主人公。

宣伝文句としては、「15年前の夏(つまり1993年だね)に恋に落ちて結婚した2人が、様々な経験を経て15年後の冬(つまり現在)に、もう1度あの頃の気持ちのまま恋に落ちる」んだって。

いやあ、笑いました。

自分たちを“一発屋”たらしめたミリオンヒットを、15年後に別バージョンで吹き込んじゃう、その根性というか、執念というか、臆面の無さに、思わず拍手であります。

だって、見方によっては、自作自演の<替え歌>なんだもん。

というわけで(?)、懐かしいclassの替え歌、じゃなかった新曲である「冬の日の2009」は、本日、12月3日の発売であります。

冬の日の2009
class,松本一起,enzo
R and C Ltd.( C)(M)

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土曜に開催したシンポジウムの記事が、
「北海道新聞」に掲載されました。

以下の道新サイトで読むことが出来ますので、
どうぞご覧ください。

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/culture/132157.html


聴いても、読んでも

2008年11月28日 | 舞台・音楽・アート
つい買ってしまうジャンルの一つに<ジャズ本>がある。

聴くだけじゃなく、読んでも楽しいんだなあ、これが。

最近だと、中山康樹さん、小川隆夫さん、後藤雅洋さんなどのものは、出るたびに手にとってしまう。

今日のジャズ本は『ジャズ魂(ジャズスピリッツ)厳選ジャズアルバム250名盤』。

輸入ペーパーバックスみたいな感触の音楽本を、このところがんがん出している版元、プリズムの新刊だ。

250枚のアルバムが、アーティストのABC順に並んでいて、どこを開いても「ふむふむ」とか「うーん」とか言いながら読めてしまう。

基本は1人1枚だが、マイルスやコルトレーンなどは、やはり複数のアルバムが紹介されている。

もちろん知らない(聴いてない)アルバムも大量にあるが、演奏メンバーに知ってる誰かが入っていたりすると、ぐっと親近感がわき、聴いてみようかな、なんて思う。

プリズムペーパーバックス No.004 ジャズ魂(ジャズスピリッツ)厳選ジャズアルバム250名盤

プリズム

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で、最近手に入れたCDが、『ベスト・ジャズ100 ピアノ・スタンダーズ』。

ジャズピアノが好きなので、6枚組みで100曲は嬉しい。

次にどんな曲が出てくるかわからないまま、クルマの中で連続再生しておくのが最高。100曲聴いてたら、相当遠くまで行ける(笑)。

ミュージシャン個々のアルバムもいいが、こういう“持ってけ!ドロボー”的なCDも楽しい。

ベスト・ジャズ100 ピアノ・スタンダーズ
ドン・ランディ,ジェイソン・モラン,チューチョ・ヴァルデス,ベニー・グリーン,エディ・ヒギンズ,ブライアン・ディー,アール・ハインズ,ソニー・クラーク,ビル・エヴァンス,レイ・ブライアント
EMIミュージック・ジャパン

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いよいよ明日29日(土)は、コーディネーター・司会を務める公開シンポジウム「ギャラクシー賞受賞報道活動を見て、制作者と語る会」だ。

まだまだ先と思っていたら、いつの間にか、来ちゃうぞ本番。

よかったら、ぜひ、東京工科大学・八王子キャンパスの会場へ。

http://www.teu.ac.jp/event/extension/012125.html

「縁(えにし)の糸」をたぐっていくと

2008年11月23日 | 舞台・音楽・アート
昨夜、慶大SFCにいた頃の教え子、ゼミ生たちが集まった。年に一度の「総会」と呼ぶのだが、いつも楽しみにしているイベントだ。

表参道近くの店の会場は、ほどよい広さの個室だった。どこか小規模な教室を思わせる部屋の中は、久しぶりで見る顔もあり、ふと、かつてのキャンパスでの、ゼミの時間を思わせた。

参加者の多くが30代になっており、仕事の上でも、私生活でも大車輪の時期に差し掛かっている。特に、仕事上では、上司・先輩ブロックと、部下・後輩ブロックとの間に位置する苦労も体験しはじめた。とはいえ、みんな、なかなかいい顔の“大人”になっている。それが嬉しい。

出席者には、全員、短い「近況報告」をしてもらうのだが、今回は何人かの元「男の子たち(?)」が、最近、子どもが生まれたり、生まれようとしていたり、という話をしていた。そうか、学生が社会人になり、今、父親になってきたのかと、ちょっと感慨ありだった。

私自身は、大学時代のゼミを、途中で“中退”しているので、卒業後の、こういう「ゼミの集まり」の体験はない。ないだけに、余計この集まりが楽しいのかもしれない。

当時、私のゼミを志望してくれる学生の中から、面接などを経て選ばせてもらったメンバー。もちろん、入りたい、入れたい、という互いの意思はあったものの、俯瞰で見れば、これもまた一種の“ご縁”だったのだと思っている。

で、今、ここに「袖擦(す)り合うも多生の縁」と書こうとして、あれっと思う。

思い出したのだ。毎朝、NHKから流れてくる、竹内まりやさんの歌声。

朝の連ドラ「だんだん」のテーマ曲「縁(えにし)の糸」の冒頭は、確か「袖振り合うも多生の縁と、古(いにしえ)からの伝えどおり」と歌っていたぞ。歌詞を確認したら、やはりそうだった。

え、「袖、振り合う」の? 袖、擦り合うんじゃなくて、振り合っちゃうわけ? 着物の「振袖」なら分かるけど、とか何とか、とにかく気になり始めた。

手元の「岩波国語辞典」で「袖」を引いてみる。お、例文に「袖触れ合うも多生の縁」とあり、この世で、道を歩いて袖を触れ合うほどのちょっとした関係も前世の因縁があるからだ、という解説文が載っている。

ならば、「新潮国語辞典」のほうはといえば・・・おお、「袖振り合う」ではないか。竹内まりやさんは新潮派だったのか。

さらに三省堂の「新明解国語辞典」、「新解さん」では・・・へえ~、「袖触(ふ)り合う」になっている。どちらも「そで、ふりあう」ではあるけれど。

じゃあ、私が思い込んでいる「袖擦り合う」は、どうなっているんだろう。

「袖振り合う」、「袖触り合う」、「袖触れ合う」、そして「袖擦り合う」。たぶん、いずれもOKってことなんだろうなあ、と勝手に考える。面白いけど、今、大きな辞典がないので、探索はここまで、です。

岩波国語辞典

岩波書店

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新潮国語辞典―現代語・古語

新潮社

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新明解国語辞典 第6版 小型版

三省堂

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晩夏にサザンを聴きながら

2008年08月27日 | 舞台・音楽・アート
クルマで走りながらラジオを聴いていたら、あちこちの局でサザンが流れる。そうか、ラストライブが終わったんだっけ、と思いあたった。

サザンオールスターズが、あの「勝手にシンドバッド」でデビューしたのが1978年。つまり30年前だと聞くと、はやり驚く。

正直言って、最初に彼らをテレビで見たときは、てっきりコミックバンドの一発屋だと思った。すみません。

いいことも悪いこともあったこの国の30年は、そりゃ「ろくでもない社会」と言う人もいるだろうが、いつもサザンの曲が流れる中で暮らせたことはラッキーだったかも、と思う。

サザンはいくつもの面を持つ、多面体のようなバンドだ。サザンの曲には、ロックも、ポップスも、バラードもある。ずいぶん幅広い。しかも、どのジャンルでも、あるレベル以上。だから、聴く人が、自分史の中で、そのときどきの自分の状態や好みや波長に合ったものを楽しむことができたのだ。

以前、『ジョン・レノンを聴け!』『ディランを聴け!!』といったタイトルで、「全曲批評」というトンデモナイ本を書いてきた中山康樹さんが、昨年2月に『クワタを聴け!』を出した。

新書なのに厚さ2センチ。普通の新書の2倍から2.5倍はある。少なくとも昨年2月までのものに関しては、サザン、クワタバンド、ソロ、そしてシングルのB面まで、とにかく桑田佳祐の楽曲のすべて、1曲1曲について批評しているのだ。これはすごい。

桑田の魅力について、中山さんはこんなふうに書いている。

   「50年代に生を受け、
    アメリカ化していくニッポンで育ち、
    さらに音楽的には
    イギリスがそのアメリカもニッポンも飲み込み・・・
    といった時代的音楽的混沌と融合が凝縮されている」

確かに、サザン・桑田の曲には、不思議な懐かしさがある。それは、和と洋、過去と現在、さまざまな音楽が桑田の中でギュッと圧縮され、壮大なビッグバンを起こしたようなものかもしれない。

ラジオで、パーソナリティーが「好きなサザンの曲をリクエストしてください」みたいなことを言っていたっけ。サザン30周年を祝い、また解散を記念して、自分も<好きな曲>を発表順に選んでみる。

   「いとしのエリー」 1979.4 10ナンバーズ・からっと
   「私はピアノ」   1980.3 タイニイ・バブルス
   「夏をあきらめて」 1982.7 NUDE MAN
   「鎌倉物語」    1985.9 KAMAKURA
   「Melody(メロディ)」     同
   「いつか何処かで(I feel the echo)」
               1988.7 Keisuke Kuwata
   「希望の轍」    1990.9 稲村ジェーン
   「真夏の果実」        同

うーん、どれもいい曲だよなあ。サザンに、桑田さんに、感謝です。

クワタを聴け! (集英社新書 380F)
中山 康樹
集英社

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