碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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ドラマ「あなたの番です」について、デイリー新潮で解説

2019年07月09日 | メディアでのコメント・論評

 

「あなたの番です」がSNS効果で人気上昇中 

原田知世は本当に死んでしまったのか?

6月30日、「あなたの番です」(日本テレビ)が第2クールに突入した。「今日から俺は!!」、「3年A組―今から皆さんは、人質です―」と、ヒット作が続いた「日曜ドラマ」(日曜夜10時30分~)枠で、企画・原案は秋元康(61)。日テレでは25年ぶりという2クール連続のドラマである。主演は、16年ぶりの民放連ドラ出演という原田知世(51)と、原田の15歳年下の夫を演じる田中圭(34)の2人――鳴り物入りのスタートだった。

ところがその原田が、第1クールの最終回ラストで、唐突に死んでしまったのである。なにせドラマの中盤で、主役の1人がいなくなったのだ。SNSでも「彼女は本当に死んだのか?」と話題に。そのせいもあってか、第2クール初回の視聴率は9・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区:以下同じ)とシリーズ最高を記録。いよいよ2桁も見えてきた。

他局プロデューサーは言う。

「放送前から話題だっただけに、第1クール初回の視聴率は8・3%とまずまずのスタートでした。引っ越してきた原田・田中の新婚夫婦が、マンションの住民間で起こる“殺人ゲーム”に巻きこまれていくというストーリーは興味深いものですが、いかんせん出演者が多いんですね。ボーッとして見ていたら、誰が誰やらわからないうちに殺されてしまったりする。それで脱落してしまった視聴者も少なくないと思います。第2話で6・5%に落ち、それ以降は6~7%をウロウロするようになりました」

確かにキャストが多いのである。そもそも住民会議で、「人間、誰しも殺したいほど憎い奴くらい居るだろう」と、住民たちが紙片に1人ずつ名前を書いて、ランダムに配ったことから始まる交換殺人ゲームである。原田たちが越してきたマンション「キウンクエ蔵前」(イタリア語のchiunqueには“誰でも”“誰か”といった意味)は、5階建て18室(1室は空室)。家族が暮らす部屋もあるので、住人だけでも30人を超える。加えて、殺したい奴が住民とは限らないから、これまで殺された11人のうち、住人でない者が6名も。たとえば、俳優の袴田吉彦(45)そっくりの住民(袴田)は、殺したい相手によく間違えられる袴田の名を書いたために、俳優のほうが殺されるという(袴田は二役を演じている)。さらに管理人や警察官など、キャストは総勢40名を超えるのだ。

「304号の北川さん」とセリフで言われても、誰だっけ?なんていうことに……。途中で投げ出したくなるのもわかる。

「視聴率が8・0%に持ち直したのが、心優しい主婦を演じていた木村多江(48)が、狂気の一面を見せた第9話でした。そして第1クールの最終回となる第10話で、彼女が逮捕され、さてどうなるといった矢先に、原田が死んじゃったわけです。ようやく視聴率が上向いて、これから謎解きにかかると見られるところで、木村と原田という、野球で言えば3番4番を同時に失ったようなものですからね、一体どうするつもりなのか、何かとんでもない仕掛けがあるのではないか、と思っちゃいますよね」(同・他局プロデューサー)

失ったのは彼女たちだけではない。初回冒頭にストーリーテラーとして登場し、クセのある初代管理人を演じた竹中直人(63)は、その回で死亡。暴力団の構成員で顔つきからして怪しかった田中要次(55)は、いい人として殺されてしまった。怪しい人間が次々といなくなっている。そして、原田まで死んでしまったのだ。

とはいえ、ネット上では、〈実は原田知世は死んでいないのではないか〉という推測も出ている。

密室モノは実験済み

この展開をどう見るか。上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)に聞いてみた。

「普通に見ていると、やはり原田さんは死んでますよね。ただ、第1クールの終わりで主役を殺してしまうというのは驚きました。アッパレですよ。これで万が一、生き還らせるとしたら、夫の田中圭と真相を暴くために組んだという設定になるわけですが、彼女は司法解剖までされたことになっています。それに第2クールからの“反撃編”で、犯人捜しに燃えている田中圭の熱演はなんだったんだということになってしまいます。彼女が生き還ることはないと思います」

やはり、死んでしまったか……。

「それだけに今後の展開が楽しみです。当初は、ミステリーで半年もやれるのか疑問でした。コイツが怪しいとわかられてしまっては作り手の負けですし、ミステリーがフェアであるためには、ある程度のタネは見せていかねばならないという中で、今のところ、決定的に怪しいというボロは出していませんし、コイツもアイツも怪しいという状況であり、まだ生きている登場人物はたっぷりと残っている。しかも第2クールで、さらに新たな出演者も出て来るようですしね」(同・碓井教授)

生瀬勝久(58)や安藤政信(44)、片桐仁(45)といった従来の住民に加え、田中哲司(53)が新たな住人として参入することも発表されている。これまた、怪しい。

「引っ張るのが上手い。しかも、舞台はほとんどがマンションの中という密室モノです。これには2つの要素があると思います。まずは日曜ドラマ枠の前作『3年A組』で、日テレのスタッフは学校だけを舞台にした手法を学んでいたこと。そして原案の秋元さんも、かつてテレ東で欅坂46を使った深夜ドラマ『徳山大五郎を誰が殺したか?』(16年7月~10月)の原作を担当していました。このドラマは、学校を舞台に担任教師(嶋田久作[64])が殺されたナゾを解くという学園ミステリーを実験していた。密室モノを学んだ強化チームが作ったドラマだからこそ、第2クールも保たせることができているのだと思います。また、密室ドラマにして舞台を固定にすれば、コストパフォーマンスもよくなります。第2クールに違うドラマを2つ作るよりも、はるかにコスパはいいですし、予算の多くはキャスト費になる。原田や田中は別として、ギャラの高そうな竹中さんは真っ先に死んでいますしね」(同・碓井教授)

第2クールになって人気が出てきていることについては、

「SNSのおかげが大きい。日曜の遅めの夜という時間帯も、リアル視聴に適した時間帯です。見た直後に自分の推理を披露して盛り上がれる、いい素材なわけです。そうした盛り上がりも、計算済みのように思います。はっきり言ってしまえば、何ら中身のある物語ではないわけです。ひたすら視聴者に面白がってもらえればいいという、エンターテインメントに徹しているところが、相乗効果を呼んで盛り上がってきているのでしょう」(同・碓井教授)

現在、SNSではこんな声も出ている。

〈あなたの番です見てなかったので見よう。2クール目〉

〈あなたの番です というドラマ今更だけど気になっている面白い??〉

まさに日テレの計算通り? 果たして、「3年A組」の平均視聴率11・5%、最高視聴率(最終回)15・4%を超えられるだろうか。【週刊新潮WEB取材班

(デイリー新潮 2019.07.07)