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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

毎日新聞で、「権力者と芸能人」について解説

2019年07月04日 | メディアでのコメント・論評



特集ワイド:首相インスタに登場 

OKIO、吉本新喜劇…… 

気になる権力者と芸能人の距離  

 

 もしかして安倍晋三首相は芸能人との付き合いがご自慢なのか。そう勘ぐりたくなるほど、首相官邸は写真共有アプリ「インスタグラム」などを使って、芸能人やお笑い芸人らとの交流を積極的に発信している。写真からは楽しそうな雰囲気が伝わってくるが、権力者と芸能人の距離感に違和感が拭えない。【石塚孝志】

 首相官邸や安倍首相のインスタグラムを見ると“華麗なお付き合い”がズラリ。その一例を紹介すると――。

 「TOKIOの皆さんと再会しました。福島復興のために頑張ってくださっています。話に花が咲き、本当に楽しいひとときを過ごすことができました!」(5月12日掲載)

 「先日、映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』に出演された、大泉洋さんと高畑充希さんのお二人と、御一緒させていただく機会を得ました。(中略)撮影の際のご苦労なども伺い、あっという間のひとときでした」(5月24日掲載)

 6月29日に閉幕した主要20カ国・地域(G20)首脳会議を巡っては、西川きよしさんや吉本新喜劇のメンバーが6日に首相公邸を訪れて昼食を共にした。新喜劇に安倍首相が出演し、G20への協力を呼び掛ける時間を設けてくれたことへのお礼だったという。思い起こせば、4月に安倍首相が主催した「桜を見る会」には、歌舞伎俳優の市川猿之助さんや、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」のメンバーらの姿もあった。

 首相の重要な仕事として、多くの人の話に耳を傾けることもあるが、それにしても芸能関係者との面会や会食が目立つ。

 そこに、メディア文化論が専門の上智大教授、碓井広義さんは、安倍政権の巧みなメディア戦略を感じ取る。

「首相官邸のホームページなどで芸能関係者との懇談を紹介しているのは、安倍政権の広報、PR活動の一環として捉えているからです。誰と交流すれば安倍首相のイメージにプラスとなるか、という戦略を描いているのでしょう」。

一方、芸能人らにも苦言を呈する。「首相官邸の戦略にまんまと乗せられる芸能人ってどうなんだろうか。芸能やお笑いには、その時々の為政者や権力者なりを、ある時はからかい、庶民の怒りや問いかけを代弁してくれる機能があったはず。ジャニーズ事務所のアイドルが報道番組のキャスターをする時代。首相だけでなく芸能人への違和感もあります」

 宣伝効果があるだけに、政治家と芸能人はウィンウィンの関係にありそうだ。お笑い評論家で江戸川大教授の西条昇さんは「安倍首相と吉本新喜劇とのやり取りはユーチューブで見られますが、視聴者の反応は安倍首相は気さくだとか、懐が深いなどおおむね好評です。また、芸人のステータスも上がります。そもそも、はやされたら踊るのが芸人。その場で何をするか、どういう爪痕を残すかが腕の見せどころです」と語る。

 首相公邸では、吉本新喜劇のメンバーのギャグを楽しんでいた安倍首相に、西川きよしさんが「衆参同日(選挙)あんのかーい」と突っ込む場面があったが、これは「爪痕」なのか?

 風刺コント作家の松崎菊也さんに尋ねると、すぐさま駄目出しだ。「権力におもねってごまをするのが芸の肥やしになるんでしょうか? もっと吉本の芸人らしくバカバカしい心意気を見せてほしかったね。例えば、安倍首相に定番ギャグの『乳首ドリル』をしたり『年金で集めた金をばくちですったんかー』と(公的年金の運用で巨額損失を出した問題を皮肉って)突っ込んだり。それをされた安倍首相の反応を面白がるのが、権力者に対するお笑い芸人のちゃかしというものです」と手厳しい。

 芸能人にも政権に近づきたいという下心がある、と指摘するのは、元博報堂社員でノンフィクション作家の本間龍さんだ。「芸能事務所も営利企業。時の政権と仲良くしておけばメリットがあるでしょう」と推測する。お笑い業界はテレビや舞台だけではなく、多角的に事業を展開しようとしている。吉本興業も例外ではなく、4月に「遊びと学び」をテーマに、デジタル技術を活用した教育コンテンツの制作・配信事業を10月にも始めると発表した。同事業で官民ファンドのクールジャパン機構から最大100億円の出資を受けるなど、近ごろのお笑いは国や自治体との関係を深めている。

 ◇若年層へのイメージ戦略

 安倍政権が芸能人に頼る理由について、本間さんは公職選挙法改正が絡んでいると説明する。「選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた影響が大きい。だから自民党は電通と組み、若年層の取り込みに力を入れているようです。実際、4月には『#自民党2019』プロジェクトを発表し、特に選挙権を得る前の15~17歳へのアプローチを始めています。イメージ操作をしやすい若者層を取り込むには、政治と芸能人が絡んだ映像や写真の露出が役立つのです」

 このプロジェクトの一つに、歌やダンス、落語などで活躍する10代の若者たちが登場する動画がある。彼らが「自分らしくいたい」「壁なんていらない」とアピールすると、安倍首相が「未来をつくりたい」と語るという内容だ。また、安倍首相らを「七人の侍」に見立てた水墨画調の屋外広告を自民党本部に設置。10~20代向けの女性ファッション誌「ViVi」(講談社)では、自民党のマーク入りTシャツをプレゼントするという企画もあった。「このような若者へのアピールは、表現は乱暴ですが早いうちに餌付けしてしまおうという作戦。野党が手を打てていない部分なので、若年層の取り込みは自民党の独り勝ちです」と本間さんは分析する。

 芸能人らを使ったソフト路線の展開に、安倍政権は苦心しているのかと思えば、コラムニストの小田嶋隆さんによると、そうではないらしい。「安倍政権の支持者と、お笑い文化のファン層とは親和性が高い」。小田嶋さんは安倍政権の本質を、斎藤環筑波大教授が名付けた「ヤンキー政権」、つまり知性や政治的な正しさ、論理よりも、その場の空気感や情緒を重視する文化によって支えられた政権と見る。

 「旧来の自民党支持層とは異なり、ヤンキー的な文化に親しんでいる若者層は安倍首相と一緒に、このいまいましい官僚や既得権益層がつくった世の中を改革するつもりでいる。この気分は、安倍首相とも親しいダウンタウンの松本人志さんなど吉本興業の芸人のファン層が共有しているものでもある」と話す。

 さらに芸能界の疑似家族的な徒弟制が、安倍政権と若者層の関係にシンクロしているとも言う。「芸能界は今も古い徒弟制度を引きずっています。『礼儀を知らない』と見られると干されるように、上意下達が基本です。この構図は、実は国家のためなら個人は従えといった国家主義的な空気とも近い。仮に政治と芸能事務所のトップが手を組めば、若い人たちの対人感覚を戦前の古い時代のスタンダードに引き戻す力になるかもしれない。もし、安倍政権が憲法改正の国民投票までこぎ着けた場合、どんなキャンペーンを打ってくるのか、心配です」

 前出の本間さんは「TOKIOや嵐、AKB48といった人気グループが改憲の賛否を明確に意思表示することはないでしょう。でも国民投票が行われることになれば、改憲推進派のCMで彼らの歌を流す可能性はありそう。そこには『輝く明日に旅立とう』とか『古い衣を脱ぎ捨てよう』といった歌詞が入るかもしれません」と推測する。

 安倍政権と芸能人はさらに距離を縮めるのだろうか。

(毎日新聞 2019.07.03)

 


「特捜9」最終回  班長・宗方は主人公以上に印象を残した

2019年07月04日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「特捜9」最終回

班長・宗方は主人公以上に印象を残した

 

井ノ原快彦主演「特捜9season2」(テレビ朝日系)が終わった。警部補となった浅輪(井ノ原)、小宮山(羽田美智子)、青柳(吹越満)など馴染みの面々が並び、そこに新藤(山田裕貴)という新メンバーも参加した9係。毎回、チームワークのよさで事件を解決してきた。

最終回では、2人の弁護士が被害者となる連続殺人が発生。捜査を進めるうちに、過去の冤罪事件が浮上する。真相を知る裁判官(嶋田久作)を追及するが、上から捜査に圧力が加わって……という展開だった。

実は、この最終回で強い印象を残したのは、主人公の浅輪よりも班長の宗方(寺尾聰)のほうだ。警察という組織内の“悪”を、その職を賭けて正そうとする浅輪を守るために、自分が辞表を出す宗方。それは覚悟の“刺し違え”だった。

「1億人の規範となるべき法の正義は冷たい。たった1人でも浅輪のような“優しい正義”が必要だ」と言って去っていく宗方がカッコいい。

思えば40年前、「西部警察」(テレ朝系)のリキこと松田刑事(寺尾)は、でっかい44マグナムをぶっ放していたっけ。捜査上のやり過ぎや行き過ぎは、軍団長の大門(渡哲也)が見えないところでカバーしてくれていた。あのリキが、今度は愛すべき後輩のために、自身の警察人生に自ら幕を下ろしたかのようだ。

さらば! 宗方。そして、また会おう! 浅輪。

(日刊ゲンダイ 2109.07.03)