コンフィデンスアワード・ドラマ賞
「優秀作品賞」を受賞した、
『だから私は推しました』の魅力とは!?
2019年7月クールのドラマから選ばれる、第17回コンフィデンスアワード・ドラマ賞。その「優秀作品賞」を、よるドラ『だから私は推しました』(NHK)が受賞しました。あらためて、このドラマの魅力を振り返ってみたいと思います。
ちなみに、もう1本の「優秀作品賞」は『監察医 朝顔』(フジテレビ系)。そして「最優秀作品賞」を受賞したのは『凪のお暇』(TBS系)でした。
「地下アイドル」と「ドルオタ女子」の物語
よるドラ枠で放送された、桜井ユキ主演『だから私は推しました』(全8話)は、1人の地下アイドルと、彼女を推す(特定のアイドルを熱烈に応援する)ドルオタ(アイドルオタク)女子の物語ですが、当初の予想をいい意味で裏切る展開に目が離せない作品でした。
主人公の遠藤愛(桜井ユキ)は、一見どこにでもいそうなOLさん。いきなり失恋するのですが、その原因のひとつは、SNSでの自己アピールに夢中になりすぎたこと。常に「いいね!」を熱望する、その過剰な「承認欲求」に、彼氏があきれたのでした。
愛は、スマホを落としたことをきっかけに、偶然入った小さなライブハウスで、初めて「地下アイドル」なるものに出遭います。
一方の栗本ハナ(白石聖)は、地下アイドルグループ「サニーサイドアップ」のメンバー。ただし、歌もダンスも不得意な上に、コミュ障気味という困ったアイドルでした。そんなハナを見て、愛は思います。「この子、まるで私だ」と。それ以来、ハナを全力で応援する日々が始まったのです。
まず、このドラマで描かれる「地下アイドルの世界」が興味深い。ライブ会場の雰囲気、終演後の「物販」、「厄介なファン」の存在、アイドルたちの経済事情などが、かなりリアルでした。
アイドルの「地上」と「地下」
たとえばAKB48や乃木坂46が「地上」のアイドルだとすれば、「地下」の最大の特色は、アイドルとファンの「距離感」です。
普通、地下アイドルの公演は、武道館や東京ドームなどの大会場で行われたりしません。ほとんどは、それこそ地下にある小さなライブハウスだったりします。キャパが小さい分、アイドルとの物理的距離も近いのです。
近いからこそ、応援する自分を「推し(応援しているアイドル)」が認識してくれるし、その応援に対してアイドルからの「レス(ファン個人への反応)」が来たりもします。応援とレスの相互作用は、地下アイドルの世界ならではの醍醐味だと言えるでしょう。
まだ楽曲も売れていないし、有名ではないし、パフォーマンスも稚拙だったりするのですが、そういうことさえ、地下アイドルファンには応援する「動機」となります。また、ファンもたくさんはいないので、「物販」と呼ばれるライブ後のグッズ販売や、サインや握手などを通じて、本人との、かなり密接なコミュニケーションが可能となるのです。
そんな状況が、このドラマでは細部までリアルに描写されていて、多分、本物のドルオタの皆さんが見ても、その再現度の高さに納得するのではないかと思うほどでした。
先の読めない「オリジナル脚本」
脚本は森下佳子さんの「オリジナル」です。昨年夏に放送された『義母と娘のブルース』(TBS系)同様、ヒロインたちの心理が、丁寧に書き込まれていました。
また、ドラマの冒頭、ヒロインは警察の取調室にいます。ある事件の容疑者だったんですね。その事件とはどんなもので、なぜ彼女がここにいるのか。そういったことが徐々に明らかになっていく、サスペンス性も十分なストーリー展開でした。
漫画や小説などの原作がない、「オリジナル脚本」のドラマだからこそ、最後までどんな展開になるのか、予測できない面白さがありました。たとえば、いくつかの誤解や行き違いもあって、愛とハナの「蜜月」的関係が崩れ、それぞれの本音が露わになっていくところなど、実に見応えがありました。
さらに、地下アイドルについても、十分な取材を行っていることがうかがえ、感心しました。このドラマには、「地下アイドル考証」として、本物の地下アイドルである「姫乃たま」さんの名前がクレジットされています。地下アイドルに関する著作もある姫乃さんが、その体験と知見で、ドラマのリアルを下支えしていたわけです。
「女優・桜井ユキ」という逸材
女優陣も大健闘で、徐々に自分を解放していくアラサーのドルオタ女子を、メリハリのある芝居で好演していた桜井ユキさん。そして、自分に自信の持てない、弱気な地下アイドルがぴったりだった白石聖さん。2人の拮抗する熱演は特筆モノでした。
特に桜井さんは、これまで多くのドラマに出演してきましたが、今回は「主役」という形で、その存在感を見せつけました。
現在放送中の『G線上のあなたと私』(TBS系、主演:波留)で、バイオリン講師を演じている桜井さんですが、正直言って、この役ではちょっともったいない(笑)。今後、「演じるべき役柄」と遭遇すれば、より大輪の花を咲かせそうな逸材です。