2020年3月11日 午後2時46分 四谷
東京も被災地も「頑張れよ!」
サントリー ボス
「宇宙人ジョーンズ・漁港」篇
地球調査中の宇宙人ジョーンズ(トミー・リー・ジョーンズ)が訪れたのは、宮城県の石巻漁港だ。ひと仕事終えて、ここで働くおじさん(光石研)と雑談する。どうやら彼は、かつて東京で暮していたらしい。
オリンピックが近づき妙に騒がしい首都を指して、「盛り上がってるんだってなあ」と笑う。続けて「だけど、俺はこの町でいつも通り働くことにプライド持ってんだ」と言い切った。
バックに流れているのは、中島みゆきの「ホームにて」。望郷の念と都会で生きる後ろめたさ。「ネオンライトでは燃やせない、故郷(ふるさと)行きの乗車券」といった歌詞が、多くの地方出身者の心を揺さぶり続けた名曲だ。
間もなく3月11日がやって来る。今年は新型コロナウイルスの影響で、9年目を迎える被災地のことも脇に置かれているようだ。いや、だからこそ、「東京も頑張れよ!」というおじさんのエールが胸に響いてくるのかもしれない。
(日経MJ「CM裏表」2020.03.09)
『知らなくていいコト』の「イースト砲」が、
テレビ局の「ヤラセ疑惑」を撃った!?
連続ドラマも、軒並み終盤戦に突入しました。中には、「あれ、まだやってたんだ?」というものもありますが、「ええ! 次はもう最終回なのか」という作品もあるわけで・・・。
吉高由里子主演『知らなくていいコト』(日本テレビ)は、すっかり後者となり、終了したらロスを起こす人が結構いるんじゃないでしょうか。
そんな『知らなくて』ですが、4日の第9話では、なんとテレビ局の「ヤラセ疑惑」が登場しました。
これまでに、「イースト砲」は大学と文科省の贈収賄疑惑、人気プロ棋士の不倫疑惑などを狙い撃ちして、成果をあげてきました。しかし、ついにドラマにとっては、自分たちの足元であるテレビ局を標的にしたわけで、「やるなあ、脚本の大石静さん!」と思った次第です。
描かれた「ヤラセ疑惑」
ヤラセといっても、番組の種類によって、その線引きや問題のあり方は違ってきます。ニュースや報道、そしてドキュメンタリー系など、「現実」を扱う番組の場合、結果的に「事実」とは異なる情報を伝えるヤラセは、強い批判の対象となります。
今回、このドラマで描かれた舞台はバラエティで、いわゆる「大食い番組」でした。そういえば、ひと頃に比べて、大食い番組をあまり見かけませんね。
ケイト(吉高)に情報を伝えてきたのは、大食い大会の出場者で、素人チャレンジャーの女性。彼女によれば、番組の主役でもある大食い美人タレントに出される料理が、密かに細工されているというのです。
さっそくケイトたちは取材に入りますが、後輩の若手記者が頑張りました。制作現場や上司への不満を持つ、大食い番組のアシスタント・ディレクター(AD)と親密な関係を作り、ヤラセの手法などを証言させたのです。
それは、美人タレントが食べる「巨大ハンバーグ」の内側を、ごっそりと削って空洞化させ、実質の量を減らすという、まあ、なんともシンプルというか、姑息というか(笑)、ちゃちな手口でした。
黒幕は、番組の女性プロデューサー。美人タレントを優勝させることで、彼女が所属する芸能事務所の社長に恩を売り、企画中の新規番組に、その事務所の人気タレントをキャスティングするのが狙いでした。うーん、これまた小さな見返りを求めたものです。
しかも、「局P」と呼ばれる放送局のプロデューサー、つまり番組の責任者本人が、このレベルのお粗末なヤラセを、ADに指示してやらせるなんてことは、ほぼあり得ません。発覚すれば、自分も番組も吹っ飛ぶからです。
それに、現在放送されている番組のほとんどに、制作会社が入っています。バラエティ番組はもちろん、報道番組もまた然りです。
このADも局員ではないようでした。局Pが、総合演出と呼ばれる局のディレクター、制作会社プロデューサー、現場の制作会社ディレクターなどを飛び越えて、制作会社のADに直接ヤラセを強要するというのは、さすがに無理があるのです。
もちろん、フィクションであるドラマとしては、それなりに面白く見られるようになっていました。そのことは重々承知の上での「無い物ねだり」です。
というのは、前述の贈収賄問題も不倫問題も、ネタにしろ、取材過程にしろ、なかなかリアルで刺激的だったからです。それと比べると、今回の「大食い番組のヤラセ疑惑」は、ちょっと残念な内容でした。
それに、見る側も日常的に、現実の「ヤラセ疑惑」を見聞きしているんですね。それこそ日テレも例外ではありません。
リアルな「ヤラセ疑惑」
昨年7月、『世界の果てまでイッテQ!』の「ヤラセ疑惑」に関して、放送倫理・番組向上機構(BPO)の「放送倫理検証委員会」が、意見書を公表しました。
問題となったのは2017~18年に放送された、タイの「カリフラワー祭り」やラオスの「橋祭り」などです。
宮川大輔さんが、世界各地の珍しい祭りに参加する人気企画でしたが、BPOは2つの「祭り」は伝統的なものではなく、番組のために現地で用意されたものとしながら、「重いとは言えない放送倫理違反」と結論付けました。
平たく言うと、ヤラセを行ったのは現地のコーディネート会社だから、ということです。「こんな祭りがあるんですよ」という口車に乗せられた制作会社も、ましてや制作会社が撮ってきた番組を見て気づかなかった日テレも、お咎(とが)めなしというわけです。
もしも、この時、BPOがヤラセと認定していたら、日本民間放送連盟(民放連)の会長も務める、日テレの大久保好男会長は大恥をかくところでした。
BPOは、この意見書の中で、「ヤラセ」という言葉を使用していません。これに疑問を持った記者の方も少なくなかったようで、会見では「なぜヤラセなどの言葉を使わなかったのか」という質問が出ていました。
これに対して、BPOの升味佐江子委員長代理は「お約束として視聴者が納得している演出には、誰もヤラセとは言わない」と答えています。
しかし、果たして視聴者は皆、「お約束」として見ていたでしょうか。年に一度の海外の「伝統ある祭り」に、日本から宮川さんが参加して、挑戦し、頑張ったというドキュメント・バラエティを信じて見ていたわけです。
それが、伝統ある祭りでも何でもなく、番組用に設定された祭り(というか単なるイベントですね)ということになれば、普通は、演出でも誇張でもなく、でっち上げ、ヤラセといわれても仕方ありません。
かつては、ヤラセの事実があれば、たとえ制作会社の撮った番組であっても「重大な放送倫理違反があった」となったはずですが、随分、BPOも寛容になりました。のど元過ぎて、この祭り企画も復活したようですね。
練達の脚本家・大石静さんであっても、さすがに、このスケールのヤラセ疑惑を、ドラマで扱うのは難しいでしょう。ですから、かつてヤラセ疑惑が話題となったこともある「大食い番組」というジャンルを舞台に、ごくシンプルなお話にしたのだと思います。再度言いますが、あれはあれで、それなりに面白かったです。
さらばケイト! さらばイースト砲!
このドラマも、次が最終回。もうイースト砲が見られなくなるかと思うと、寂しいです。そして、ケイトの父親をめぐる問題、尾高(柄本佑)との関係など、どう決着をつけていくのか。「知らなくていいコト」とは何だったのか、大いに「知りたい!」です。
日曜劇場『テセウスの船』は、
主人公と共に翻弄される快感!?
TBSの日曜劇場『テセウスの船』が、中盤に差し掛かってきました。しかも、回を重ねるごとに、確実に面白くなってきています。
なぜなら殺人事件、それも無差別大量殺人という大事件があって、その真犯人が誰なのか、動機は何なのか、なかなか真相がつかめない。というか、謎がますます深まっている。つまりミステリードラマとして成功している、というわけです。
「加害者家族」の31年
これまでを、おさらいしておくと・・・
事件が起きたのは31年前。平成という時代が始まったころです。場所は北海道の寒村。音臼小学校の行事の際、生徒たちが飲んだオレンジジュースに毒物が混入され、何人もの幼い命が奪われました。
逮捕されたのは、村の駐在警官、佐野文吾(鈴木亮平)。妻の和子(榮倉奈々)と2人の子どもがいて、間もなく3人目が生まれるはずでした。なぜ、現職の警察官が殺人犯に? その犯行の動機は? 多くの謎を残したまま、文吾は死刑を宣告され、長い拘置所生活を送ってきました。
一方、文吾の家族にとっても、実に辛い31年でした。「殺人犯の家族」というレッテル、差別、いや迫害は、いくら住まいを変えても続いたからです。和子は、父親の存在を否定しながら、3人の子どもを育ててきました。
事件の後で生まれたのが、主人公である田村心(竹内涼真)です。母の旧姓を名乗り、妻の由紀(上野樹里)との間に、もうすぐ子どもが生まれるところでした。
由紀は、文吾がえん罪である可能性もあると言い、関係が絶えていた文吾に会いに行くよう、心を促します。心は拘置所にいる父を訪ねる前に、事件のあった音臼村で、当時を知る人から話を聞いてみることにしました。
時空を超えた「謎」
その村で、なんと心は31年前へとタイムスリップしてしまったのです。
まだ事件が起きていない時点で、若き日の両親、子どもだった姉や兄と出会います。父の文吾は陽気な家族思いで、仕事熱心で、殺人と結びつけることは難しい人物でしたが、心から見て不穏な行動があったことも事実です。
犯人が文吾であるなら、その犯行を止めれば、自分たちが「殺人犯の家族」になることはない。つまり未来を変えられるかもしれない。また別に犯人がいたとしても、悲惨な事件を防ぎたい。心はそう考えます。
調べを進める心の中に、殺人犯は文吾ではなく、他にいるのではないかという確信が生まれてきました。実際に怪しい人物もいたのですが、予期せぬ死を迎えたりして、心は(そして見る側も)困惑するばかりです。
そんな時、心は突然、現代に戻ってしまいます。ただし、周囲はタイムスリップする前とまったく同じではありません。由紀は、心の妻ではなく、初対面の記者として現れます。
また、姉の鈴(貫地谷しほり)は、「殺人犯の娘」という宿命から逃れようと、名前を変え、整形までして別人になりすましていました。
しかも鈴の内縁の夫は、音臼小事件の被害者でもある、木村みきお(安藤政信)。彼の養母は、当時、音臼小学校の教員だった木村さつき(麻生祐未)でした。このさつきは、被害者の会のリーダーであり、佐野文吾を早く死刑にするよう訴え続けている人物です。
鈴は自分が文吾の娘であることを隠していましたが、ついにさつきにバレてしまいます。それ以来、さつきは鈴を支配する、強い立場になりました。心や由紀の動きにも敏感で、証言者として名乗り出ようとした松尾紀子(芦名星)を排除しようとします。このさつきが、かなり怖い。麻生さん、あっぱれな怪演、いえ快演です。
脚本、演出、俳優の総合力
これが先日までの展開ですが、現在は、さつきの存在が圧倒的に目立ちます。しかし、そのまま真犯人なのかどうか、まだわかりませんよ。時には無実の人間を「怪しい」と思わせる、いわゆる「ミスリード」の仕掛けを用意するのがミステリードラマだからです。
このあたり、演出はもちろんですが、脚本の高橋麻紀さんが大健闘しています。同名の原作漫画という素材を前提としながらも、新たな材料をプラスして、物語をより深化させています。そう、原作通りの結末かどうかも不明なのです。
俳優陣の好演も目を引きます。特に竹内涼真さんは、『下町ロケット』シリーズ、『陸王』、そして『ブラックペアン』と、日曜劇場という「道場」で修業を重ね、大きく成長してきました。
今回、理不尽ともいうべき「運命」に抗(あらが)うように、自分と家族の人生を取り戻そうと必死で頑張る主人公の姿は、見る者の気持ちを揺さぶります。
また父親役の鈴木亮平さんも大奮闘です。31年前のシーンでは、子煩悩で職務熱心な善人なのか、それとも狂気を秘めた悪人なのか、瞬時に変わる鈴木さんの表情から目が離せませんでした。
そして、あらためてその演技力に感心するのが上野樹里さんです。タイムスリップ前は心の妻でしたが、彼が過去から現在に戻ってみると全くの他人になっていました。
それでいて、心にどこか親しみを感じ、真犯人探しに協力していくという難しい役柄です。しかし上野さんは、繊細な目の動きや、セリフに込めた情感やニュアンスで、この女性を見事に造形しています。
主人公と共に翻弄される快感
物語は後半へと入っていきます。思えば、このドラマには、名探偵も敏腕刑事も登場しません。あくまでも「普通の人」である心という青年が、深い闇に包まれた「謎」を追っていくという設定です。ここまで、その謎はしっかりキープされています。
心は、捜査のプロではありません。いわば「素人探偵」であり、見る側に近い存在でもあります。もちろん一直線に犯人へとたどり着くはずもなく、見る側は心と同じく一喜一憂の連続です。
主人公と一緒に、考えたり、立ち止まったり、混乱したり、欺かれたりする。主人公と共に翻弄(ほんろう)されていく。そんな快感もまた、優れたミステリードラマの愉楽(ゆらく)の一つなのです。