碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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サンデー毎日で、朝ドラ「わろてんか」についてコメント

2017年10月05日 | メディアでのコメント・論評


連続テレビ小説 「わろてんか」 
またもヒット確実か 丸わかりガイド


▼モデルは吉本興業創業者?「笑い」に生きる女の一代記

NHKの連続テレビ小説「わろてんか」が、今月2日にスタートした。吉本興業の創業者である吉本せいと思われる女性をモデルにした一代記。明治後期から第二次世界大戦後までの大阪を舞台に、寄席経営や笑いを求め奮闘するヒロインの姿を描いていく。

初代の桂春団治や花菱アチャコらのレジェンドから、明石家さんま、ダウンタウンまで数多くの芸人を輩出し、芸能界に君臨する吉本興業。明治末期の創業で、100年以上の歴史を誇っている。

創業者・吉本せい(1889~1950年)は、幼いころから笑い上戸な女の子だった。あるとき寄席に出かけ大きく心を動かされる。そこから、やがて日本中を笑いの渦に巻き込むべく、吉本の人生が地殻変動を起こしたように動き出した。

せいをモデルにしたと思われる主人公・藤岡てんを演じるのは、2000人以上の中からオーディションで選ばれた葵わかな(19)。ほんわかした笑顔が印象的な若手だ。TVコラムニストの桧山珠美さんはこう期待を寄せる。

「ここ数年の朝ドラのヒロインは、すでに知名度があり、完成された感のある女優が多かった。有村架純や吉高由里子、高畑充希などです。そうした中でまだ名前と顔が一致しない葵わかなは、ドラマで成長していくヒロインとともに、演じながら女優として伸びていく過程を見ることができるでしょう」

近年の「とと姉ちゃん」(2016年度上半期)や「べっぴんさん」(同下半期)のように、朝ドラといえば実在の人物をモデルにした実録路線が大半だった。そうした作品では、ヒロインの実人生から大きくはみ出ることが難しい。話があまり弾まず、ドラマチックな展開になりづらい弱点があったのだ。ところが今回のヒロインは、単なる優等生的な女性ではなく、芸能といういっぷう変わった事業を興した異色の人物。その人生がどう展開するのか、非常に楽しみな部分だ。

上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は、こう指摘する。

「何といっても、吉本興業に触れることが勇気あるドラマといえるでしょう。単純にヨイショで終わるはずはありませんし、加えて、芸能あるいは芸能界の陰の世界をどこまで見せるのか、どう描くのか。それを切り捨ててしまうことはないと思いますし、踏み込んだ展開が楽しみです」

その見方でいくと、「カーネーション」(11年度下半期)で描かれた小篠3姉妹の母親の場合、その不倫までドラマの中に取り込み、一歩踏み込んだ作品となった。朝からいけない恋を描くのかと、当時大きな話題となった。

「今回の『わろてんか』も、単なる奇麗事の作品にするのではなく、描かなければならないことはしっかり描き、ドラマに広がりや奥行きをぜひ持たせてほしいところです。難しいところではありますが、恐らくそこまで描かないとドラマに真実味が出てこないでしょう」(碓井教授)


女子の大好物を揃えたキャスト

一方で、前出の桧山さんは逆にこんな危惧を抱く。

「最近のNHKは実際の番組で、吉本興業の芸人がまるでコラボしているかのようにいろいろな番組に食い込んでいます。ですから、あまり吉本を持ち上げすぎたり美談ばかりだと、意図しないところで反感を買うことになりかねない、そんな心配もあります」

そうであっても、“毎朝3回の笑いを取りたい”とNHKが謳(うた)い、芸能界の草創期を描く内容から、冒頭から視聴者の心をつかむのではないかと言うのは、朝ドラウオッチャーでライターの田幸和歌子さん。

「芸人が芸人としてキャラを押し出して出演したのは、ジェームス三木脚本で沢口靖子主演の『澪つくし』(1985年度上半期)での明石家さんまがルーツなんです。そこから芸人が本人のキャラを生かして出ることが始まり、いまではお馴染(なじ)みになっています。芸人が花を添えてきた朝ドラが、いよいよ本丸の世界を描くのかとワクワクしています」

今秋の朝ドラの見どころは、豪華なキャスティングにある。いまの朝ドラは、どんなイケメンが出演するかということも成否のカギを握っている。

「今回は、女子の大好物をよりどりみどり揃(そろ)えたような、あるいはかつての巨人軍のような強力な布陣を敷いています。『おんな城主 直虎』に出演し、異例のCDまで出した高橋一生を起用して、それだけでは飽き足らず、松坂桃李に千葉雄大、毛色が変わったところでは濱田岳に遠藤憲一。これだけでも見ますよ、という感じです(笑)」(桧山さん)

そこで、イケメン評論家の沖直実さんに今回の朝ドラ俳優を評価してもらった。松坂桃李は「梅ちゃん先生」(2012年度上半期)に続いて朝ドラ2回目の、ヒロインの相手役としての出演なので、安定的なポジションだ。遠藤憲一も大人の魅力が溢(あふ)れているという。

「主婦的に萌(も)えるのは、やはり高橋一生ですね。彼には引きの美学の色気があって、太陽ではなく月の魅力を感じます。前へ前へ出ようとする王道の王子様キャラではないけれど、必ず光っている存在なんです。また、イケメン評論家的にはスイート系の千葉雄大を推します。ヌクメン俳優と呼ばれていて甘く優しいのですが、初出演の朝ドラでそれをどう壊してくれるのか、期待が高まります。NHKが彼をどう使うのか、腕の見せどころです。これを機に、子犬のような可愛らしさから脱皮するかもしれませんね」(沖さん)

ヒロインの相手役、松坂桃李が演じる北村藤吉は夢が叶(かな)う前に亡くなることが既に分かっている。となると、藤岡てんは未亡人の期間がかなり長い。そこに登場するのが、日本のエンタメやショービジネスを普及させた青年実業家役の高橋一生だ。宝塚や東宝を立ち上げた小林一三を参考にしているといわれている。

「その高橋一生の関わり方が、作品全体を通しての注意ポイントになるのでは。もともとはヒロイン・てんの許嫁(いいなずけ)だったのが、てんが松坂演じる藤吉に思いを寄せていることを知り、それを後押しする報われない役です。ですけど、藤吉が亡くなってから再婚の可能性があるのではないかと私はみているんです」(田幸さん)

朝ドラマニアへのサービスも?!

確かに、NHKが「今回の作品はフィクションです。大胆に再構成します」と強調しているところを勘案すると、史実に忠実にというより思い切った展開が待っている可能性がある。しかもそれが、今を時めく高橋一生である。相当なボリュームが割かれることは十分に考えられ、期待大である。

近年、主演ではない朝ドラ俳優の中から、注目される存在が多く出てきている。「カーネーション」の綾野剛や、「ごちそうさん」(13年度下半期)では菅田将暉、「あさが来た」(15年度下半期)のディーン・フジオカもそうだ。意外な次代の注目俳優が巣立っていくことも楽しみだ。

女優陣も充実している。てんの母に鈴木保奈美、祖母には竹下景子、嫁ぎ先で意地悪をする義母役に鈴木京香らが顔を揃えている。

「鈴木保奈美はメジャーになる前に『ノンちゃんの夢』(1988年度上半期)にヒロインよりもきれいな従妹(いとこ)役で出演し、のちにトレンディードラマのスターになりました。久しぶりに朝ドラに戻ってきた印象です。個人的に驚いたのは鈴木京香。朝ドラの歴史の中でも1年間放送されたのは限られていますが、鈴木京香のスタート作品ともいえる『君の名は』(91年度)は、上品で美しいけれども演技が評価されませんでした。その後、民放で花開いたので、朝ドラに戻ってくることは感慨深いですね」(田幸さん)

「梅ちゃん先生」や「あまちゃん」(2013年度上半期)に出演していた徳永えりは今回、ヒロインの女中役。まったく面白くない芸人を演じる藤井隆も、かつて「まんてん」(02年度下半期)に出ていた。

「過去の朝ドラに出ていた俳優がこれだけ出演するのは、NHKは狙っていると思います。いま朝ドラというコンテンツは注目度が高くなり、細かい部分の読み解きを楽しむファンが増えている。もしかすると、再登場の人たちが、過去の作品に関係したことをちょろっと入れる、そんな細かいサービスをする可能性があると思います」(田幸さん) 朝ドラマニアには、たまらない展開が待っているかもしれない。

山崎豊子の『花のれん』は、今回の朝ドラと同じように吉本せいをモデルとした小説だ。舞台化もされている。また朝ドラ「心はいつもラムネ色」(1984年度下半期)にも吉本をモデルとした人物が登場している。それらとどんな差別化をした作品となるのか。

「わろてんか」とは笑ってください、笑ってほしいとの意。笑うことで生きる力が生まれてくる。そんな思いがちりばめられ、古きよきコメディータッチの温かい作品に期待が高まっている。 【本誌・青柳雄介】

(サンデー毎日 2017年10月15日号)

産経新聞で、「過熱する不倫報道」についてコメント

2017年10月04日 | メディアでのコメント・論評



【ZOOM】
過熱する不倫報道 
放送時間2年前の6倍 視聴率に直結

渡辺謙さんに斉藤由貴さん、山尾志桜里前衆院議員など、今年に入って芸能人や政治家の不倫疑惑が相次いで報じられている。
不倫に関する話題に割かれるテレビ各局の放送時間は、2年前に比べて6倍以上と急増。不倫の2文字を目にする機会は劇的に増えた。不倫はなぜ多大な時間を割いて報道される国民的な関心事になったのだろうか。(三宅令)

◆ベッキーさん後…

メディアコンサルタントの境治さんは、不倫報道の転機について、「昨年1月、タレントのベッキーさん(33)と、歌手の川谷絵音さん(28)の不倫が発覚したことだった」と指摘する。

境さんがデータ会社に依頼し、在京キー局の不倫問題の放送時間を調べたところ、平成26、27年は年間30時間以下だったのに対し、ベッキーさんらの不倫が発覚した昨年は約6倍の170時間5分に急増。今年は8月27日までで120時間54分となっており、境さんは「明らかに報道が過熱している」と分析する。

ベッキーさんらの不倫問題では、ベッキーさんが記者会見で不倫を否定した後、2人の関係を裏付けるような無料通信アプリLINE(ライン)の生々しいやりとりが流出するという劇的な展開が強い関心を呼んだ。

週刊誌の報道を後追いしたテレビ番組は、約1年後にベッキーさんが地上波にレギュラー復帰するまで、「2人の動向を報じるたびに、通常より高い視聴率をマークし続けた」(境さん)という。

境さんは「この2年の不倫報道の急増ぶりは、ベッキーさんの件でテレビ局が『不倫は視聴率が取れる』と2匹目のどじょうを狙い続けた結果では」と話す。

◆ニュース番組でも

データではさらに、ワイドショーや情報番組だけでなく、ニュースや報道番組でも「不倫」を扱う時間が増加していることが明らかになった。

境さんは「ここ2~3年の間、とくに午前帯で、ワイドショー・情報番組と、ニュース・報道番組の垣根が低くなった」と分析する。インターネットの隆盛で速報性が重視されるようになり、民放各局の番組編成で、情報・報道分野のライブ番組の割合が増えていることが一因だという。とくに平日午前6時~昼過ぎまでは、ニュースとワイドショーが連なる。

「とはいえ毎日、そんなにキャッチーなネタがあるわけでもない。不倫は時間を埋めるのに手軽な話題になっている」

また、上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は、報道番組で有名人の不倫が報じられるようになった背景について、「以前は視聴率とは無関係だった報道番組も、現在は数字を求められるようになってきている」と指摘する。

テレビの求心力の低下に伴い、各局の番組の判断基準が、「より視聴率に依存するようになってきた」といい、「『不倫』のような、一昔前なら下世話と躊躇(ちゅうちょ)していたような話題も、視聴率を考えると長い時間、取り上げざるを得なくなっている」と話す。


◆ネット連動で拍車

「インターネットの浸透が不倫報道の過熱に拍車を掛けた」と語るのは、同志社女子大の影山貴彦教授(メディアエンターテインメント論)だ。

不倫報道では、週刊誌がネット上で報道を予告し、その反響をテレビ局が取り上げることによって、さらにネットが盛り上がるという連動が起きている。

「ネット社会では個人が情報の受け手であり、発信者でもある。その場のたわいない発言でも、数が集まれば外部からは大きなムーブメントに見えてしまう」と分析。

それを社会的な問題としてテレビ局が取り上げることで、さらに話題が集まる。影山教授は、「不倫問題を取り上げること自体が悪いわけではない。ただ、今の状況は行き過ぎであり、『不倫報道バブル』とでもいうべきもの」と危惧した。

(産経新聞 2017.10.03)


朝ドラ「ひよっこ」は、なぜ名作と言える一本となったのか

2017年10月03日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、先月末にゴールした朝ドラ「ひよっこ」を総括しました。


名作に育った「ひよっこ」
私たちの戦後史そのもの

先週末、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」が幕を閉じた。開始直後は「主人公が地味だ」「話が進まない」といった声も聞こえたが、半年間で名作と言うべき一本となった。

その最大のポイントは、谷田部みね子(有村架純)というヒロインの設定にある。ここしばらく続いた実在の人物がモデルやモチーフの「実録路線」とは異なり、あくまでも架空の人物だ。

しかも、みね子は「とと姉ちゃん」の小橋常子のように雑誌を創刊したり、「べっぴんさん」の坂東すみれのように子供服メーカーを興したりはしなかった。

また実在の女性ではないから、人生の結末どころか、明日さえも見えない。まさに無名で、何者でもないみね子だが、家族や友だちを大切にしながら懸命に働き、明るく生きていた。そんな等身大のヒロインだからこそ、見る側は応援したくなったのだ。

さらに脇役たちが単なる脇役にとどまらず、それぞれ魅力的なキャラクターとして描かれていたことも、このドラマの長所だ。故郷・奥茨城の人たち。ラジオ工場で一緒に働いた「乙女寮」の仲間たち。赤坂の「すずふり亭」と「あかね荘」の面々。今もどこかで元気に暮していてほしい、愛すべき人々である。

次が時代設定だ。最終的に、このドラマは昭和39年から43年まで4年間の物語だった。まだ戦後の影を残し、暮らしも社会も緩やかだった昭和30年代。そして、この国が経済大国へと変貌していく40年代。

そのちょうど境目、東京オリンピックが開催された昭和39年から物語が始まったことも有効だった。私たち日本人が何を得て、その代わりに何を失ってきたのかを感じさせてくれたからだ。

同時に視聴者は「タイムトラベル(時間旅行)」も楽しめた。東京オリンピック、ビートルズの来日、テレビの普及とクイズ番組の隆盛、そしてツイッギーとミニスカートブームなど、同時代を生きた人には懐かしく、知らない世代には新鮮なエピソードが並んだ。

東京オリンピックの時に高校3年生だったみね子は、逆算すれば昭和21年生まれということになる。いわゆる戦後第一世代であり、この年に公布された「日本国憲法」と、いわば同期生だ。

憲法とみね子。戦後に誕生し、少しずつ成長しながら周囲を支え、また周囲に支えられてきた姿も、どこか重なるものがある。それだけに、今年71歳のみね子がどんな女性になっているのか、気になるのだ。無名のヒロインの歩みは、私たちの「戦後史」そのものだったのだから。

(北海道新聞 2017年10月03日)


“成りきり”アーティスト風CMが笑える、「ロバート」秋山さん 

2017年10月02日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(日経流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回は、江崎グリコの動画CM「ALMONDPEAK presents マイクロズボラ」篇を取り上げました。


江崎グリコ「アーモンドピーク」
シンガーPV風 間奏で商品説明

主婦は毎日がんばっている。頼りになるのは自分だけ。やることは無限で時間は有限。ちょっとくらい手を抜いてもいいじゃないの。

という主婦の皆さんの心の声に応えるのは、お笑いトリオ「ロバート」の秋山竜次さんだ。アーティスト風の白い衣装で登場し、「♪いいんだよ、マイクロズボラ(ちいさなずぼら)~」などと極太の美声で歌い上げていく。

靴下を足で脱ぐ。洗った手をシャツで拭く。新聞を鍋敷きにしちゃうなど、ズボラといっても可愛いものばかり。でも主婦は真面目だから罪悪感をもっている。秋山さんが「いいよ」と、ひたすら肯定してくれることで癒されるのだ。

それにしても秋山さんの歌唱力と、じっと主婦を見つめる目ヂカラがすごい。動画全体が謎のシンガーのプロモーションビデオみたいなので、肝心のチョコレート「アーモンドピーク」はどうするのかと思っていたら、何と間奏部分でしっかり商品説明。これも笑える。

(日経MJ「CM裏表」 2017.10.02)


【気まぐれ写真館】 9月最後の夕空  2017.09.30

2017年10月01日 | 気まぐれ写真館
2017年9月30日の夕空

さらば、夏クール! 2本の「刑事ドラマ」に感謝です

2017年10月01日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


夏クールのドラマが続々と終了しました。そんな中で、特に大人を楽しませてくれた、2本の「刑事ドラマ」に感謝です。連続ドラマ『遺留捜査』と単発ドラマの『琥珀』。いずれも枠にはまらない異色刑事が主人公でした。


『遺留捜査』の異色刑事には京都の街がよく似合う

主人公の糸村刑事(上川隆也)が、遺留品への並外れた「こだわり」によって事件を解決していく『遺留捜査』。東日本大震災の年に始まったこのドラマも、今期の放送は堂々の第4シリーズでした。

大きく変わったのは、糸村が月島中央警察署から京都府警の特別捜査対策室へと異動したことです。室長の桧山(段田安則)、刑事の佐倉(戸田恵子)や神崎(栗山千明)など、顔ぶれも一新されていました。

ただし、いつも糸村にヒントを与えてくれる科捜研の村木(甲本雅裕)は、人材交流で京都に来ていたのでホッとしました。無理難題をふっかける糸村と、逃げ回りながらも協力してしまう村木。2人の掛け合いはこのドラマの名物と言っていいでしょう。

舞台が京都になっても糸村の観察眼とマイペースぶりは変わりません。被害者の部屋に落ちていた人形。遺体の手元にあったコイン。さらに事件現場から消えた万年筆などから、隠された事実を探っていきます。

たとえば、ある時の「遺留品」は、被害者である女性経営者(小沢真珠)が履いていた、かかとの折れたハイヒールでした。彼女にとって靴は戦いのツールであり、成功の証しでもあったのです。

遺留品というモノを通じて、人間の性(さが)や業(ごう)にまで迫ろうとするこのドラマ。回によってはストーリー的にやや弱い時もありましたが、上川さん演じる糸村の飄々とした雰囲気と、京都の風景が十二分に補っていました。

『相棒』や『ドクターX』などに続く「安心品質の定番」として、第5シリーズを楽しみにしたいと思います。


浅田次郎ドラマスペシャル『琥珀』に漂っていた濃密な情感

9月15日の夜に放送されたのが、浅田次郎ドラマスペシャル『琥珀』(テレビ東京系)です。放火殺人事件の容疑者で、25年間も逃亡を続けている男。そんな過去を知らないまま、男を好きになってしまった人妻。2人が暮らす北陸の港町に、突然刑事が現れて……という物語でした。

殺人逃亡犯と刑事が出てくるとはいえ、派手なアクションも、緊迫のサスペンスもありません。また男と人妻による濡れ場があるわけでもなかった。しかし、この3人を寺尾聰さん、鈴木京香さん、西田敏行さんという実力派たちが演じることで、見事な「大人のドラマ」となっていました。

脚本は朝ドラ『ひよっこ』の岡田惠和さんです。原作である浅田次郎さんの短編をベースにしながら、独自のイメージで物語世界を構築していました。

寡黙ですが実直な男(寺尾)は、なぜ妻と自宅を焼くようなことをしたのか。明るく振る舞いながらも、どこか影のある女(鈴木)は、どんな家庭を持っているのか。

さらに定年を数日後に迎えることになっていた刑事(西田)は、何を思ってこの町にやってきたのか。岡田さんの脚本は、彼らが抱える心の重荷をじっくりと丁寧に、そして優しい目で描いていきました。

ラスト近く、男が営む喫茶店「琥珀」の中で、3人の会話が約15分間も続く場面があります。それは告白であり、謎解きであり、人が生きる上で大切なものを提示するクライマックスでした。

岡田脚本と寺尾・鈴木・西田の演技が生み出した濃密な情感こそ、浅田ドラマの醍醐味だったと思います。そして、ピアニストでもある本田聖嗣のオリジナル音楽が、3人の役者をしっかりと支えていたことも記しておきます。


ヤフー!ニュース連載「碓井広義のわからないことだらけ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/