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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

言葉の備忘録152 取り返し・・・

2020年05月15日 | 言葉の備忘録

 

 

 

取り返し

つかぬことって

久しぶり

失いながらに

何かを得たり

 

 

美村里江『たん・たんか・たん』

 

 

 


寓話性が凄い「隕石家族」 コロナ禍と重なる日常

2020年05月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

東海テレビ制作、フジテレビ系

「隕石家族」

この寓話性かなり凄い コロナ禍と重なる日常

 

土曜深夜の「隕石家族」。設定がふるっている。数カ月後に巨大隕石が地球に衝突。人類滅亡は不可避だ。そんな中、東京で暮らす、ごくフツーの家族に何が起きるのか。

最初に動いたのは門倉和彦(天野ひろゆき)の妻、久美子(羽田美智子)だ。高校時代に憧れた片瀬(中村俊介)を探し出し、付き合い始める。言い分は「自分の気持ちに正直になりたい!」。

和彦は片瀬と同じ鉄道模型マニアを装い、妻の不倫相手に接近。ところが片瀬を好きになってしまう。BLの目覚めだ。

長女の美咲(泉里香)は、担任だった女性教師への気持ちが抑えられない。

また次女の受験生、結月(北香那)もカレシである翔太(中尾暢樹)を家に住まわせている。つまり、誰もが「最後の日々」を逆手にとって、自由に生きるようになったというわけだ。

ところが、事態は急変する。なんと隕石がコースを変えたのだ。戻ってきた日常。そうなると、「緊急事態」の最中に、それぞれが「やらかした」ことのツケが回ってくる。地球は元通りになっても、人間のほうは簡単に元には戻れない。

いや、この寓話性はかなり凄い。やがてコロナ禍が終息した時、この社会と人間の意識はどんな変貌を遂げているのか。そんな妄想までしてしまう。

脚本は「天地人」「花燃ゆ」などの小松江里子。後半戦もスリリングな展開になりそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2020.05.13)


言葉の備忘録151 すらすら・・・

2020年05月13日 | 言葉の備忘録

 

 

 

すらすら読めて、

しかも読み終わったあとで

心に何かが残る。

優れた短編とは

そういうものである。

 

村上春樹 『THE SCRAP』

 

 


言葉の備忘録150 もっと子供に・・・

2020年05月12日 | 言葉の備忘録

 

 

 

もっと子供に解放と自然を与え、

授業や詰めこみ勉強や、

強制や訓練は、

もっと減らそう。

もっと食べ物に気をつかい、

薬に気をつかうのは

ほどほどにしよう。

 

 

ナイチンゲール「ロンドンの子供たち」

『看護覚え書』より

 

 

200年前の1820年5月12日、

ナイチンゲールはフィレンツェで生まれました。

亡くなったのは90歳の夏です。


NHKテレワークドラマが示した「臨機応変に新たな活路を!」

2020年05月11日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

NHKテレワークドラマが示した

「臨機応変に新たな活路を!」

 

NHKのテレワークドラマ『今だから、新作ドラマ作ってみました』(全3話)の件です。

4日(月)に第1夜、「心はホノルル、彼にはピーナツバター」がオンエアされました。これについては翌日、「トライとしてはとても興味深く見たけれど、もっと暴れてもいいじゃないか」という内容のコラムを書きました。

そして、「もちろん5日(火)の第2夜、8日(金)の第3夜も視聴するつもりです」と。


第2夜「さよならMyWay!!!」

5日(火)に放送された第2夜は「さよならMyWay!!!」。嬉しいことに、しっかり暴れ始めてくれたのです。

登場したのは、宍戸道男(小日向文世)と彼の妻である舞子(竹下景子)。別々の場所にいる2人が、PCを通じて顔を見ながら会話する。という状況は第1夜と同じです。

違っていたのは、舞子が脳卒中ですでに亡くなっていたこと。夫は妻のユーレイと話をしている!?

笑えるのは、舞子が道男に対して「クイズ」を出題するんですね。「どれだけ私のことを知っていたのかを試すの」とか言って、10問中、6つ以上正解しなければ、離婚すると宣言。ユーレイなのに、PC越しに離婚届を突きつけます。

クイズと言っても、たわいないものなんです。生年月日に始まり、星座、血液型、それから趣味や特技とか。でも、道男は舞子の趣味が「合唱」だったり、特技が「歌」であることを知りませんでした。不合格。即、離婚です。

道男は「知らなかったよ、合唱やってたなんて」と笑って誤魔化し、「40年間、真面目に仕事を続けてきたし、浮気したこともない。平坦な人生でも満足してるのに、離婚だなんてショックだよ」

ここで舞子は「だったら、言わせてもらうけど」と押してきます。家事も育児も何も手伝わない夫に、どれだけ我慢してきたか。思いきり、これまでの不満をぶちまける。また、夫が家を事務所にして事業を始めたことで、家庭と会社の境がなくなり、本当は「息苦しかった」のだと。

しかも、ここで道男にとって「衝撃の事実」が発覚する! っていうあたりは、これから再放送やNHKオンデマンドなどで視聴する皆さんもいると思うので、伏せておきますね(笑)。

この「どんでん返し」が、第2夜のキモでした。ポイントは、そのことを視聴者が知らないだけでなく、道男自身も気づいていなかったことでしょう。

離婚を申し出たのは、自分と向き合ってくれない夫に対する「非常手段」だったのです。最後は、知り合った学生時代の思い出の曲「マイウエイ」を歌ってくれと、舞子がリクエストして大団円へと向かいました。

2人だけの出演者とPCでの会話という制約を生かしながら、ハートウオーミングな1本に仕立て上げていたことに拍手! です。

細部まで神経の行き届いた池谷雅夫さん(映画『闇金ドッグス』シリーズなど)の脚本。そして小日向さんと竹下さんの熟練の技が、最後までしっかりと見る側をリードしてくれました。


そして、注目の第3夜(最終話)「転・コウ・生」

第2夜から3日後、8日(金)に放送された第3夜のタイトルは「転・コウ・生」。真ん中が「校」ではなく、「コウ」とあるのは、柴咲コウさんが出てくるからなのですが。

いや、この最終話、ちょっと驚きました。実験的ドラマとしての「暴れ方」で言えば、第1夜から順にホップ、ステップ、ジャンプ! 今回は思いきり跳ねてくれたのです。

えーと、出演者は前述の柴咲コウさん、ムロツヨシさん、そして高橋一生さんという豪華メンバーでした。しかも、それぞれが「自分」を演じるという構造です。

たとえば、最近だとWOWOWのオリジナルドラマ『有村架純の撮休』がそうですが、有村さん自身が「女優・有村架純」の役で出てくる。ドラマですから全体はフィクションなのですが、演じるのも、演じられるのも「本人」であることで、見る側は妄想と言うか、想像力をかき立てられるんですよね。

とにかく、このドラマの中のコウさんは「女優・柴咲コウ」役で、ムロさんや一生さんも同様に「本人」役でした。

その上で、第3夜で展開されたのは、ズバリ「入れ替わり」です。そう、誰かと誰かの「中身」が入れ替わっちゃう!

当然、思い出すのは、この4月にお亡くなりになった、大林宣彦監督の映画『転校生』ですよね。あの作品では、中学3年生の一夫(尾美としのり)と、転校生である一美(小林聡美)の中身、つまり2人の「魂」が入れ替ってしまった。

しかも、こちらの「転・コウ・生」のほうは、もっと複雑です。

まず、それぞれ自分の部屋にいる、コウさんとムロさんが入れ替わった。見た目はコウさんで中身はムロさん。そしてムロさんの中身はコウさん。ムロさんときたら、コウさんの姿のまま、ちゃっかり「お着替え」なんかして、コウさんに叱られる。

また、ムロさんの外見になったコウさんは、ムロさんがレギュラーでやってる、ネットの「ライブ配信」に、ムロさんのふりをして出演しなくちゃならない。

これだけでも笑えるのに、一生さんが、なんとコウさんの愛猫・ノエルと入れ替わってしまうのだ。ネコが一生さんとして、しゃべるわけです。

PCの分割画面に映し出されるのは、コウさん、ムロさん、一生さん、ネコのノエルなのですが、それぞれ中身が違う。

さらに途中からは、この「入れ替わり」の組み合わせがランダムになったりして、もう大混乱。どうやったら元に戻れるのか。いつまでこれが続くのか。3人にも、皆目わかりません。

でも、そんな状況の中で交わされる会話がふるっています。

「(新型コロナの影響で)もう放送できるもの、ないらしいよ」
「企画がOKでも、ロケが出来ないんだって」
「こっちも臨機応変じゃないとね」
「そうやってるうちに、新たな活路も」
「意識も社会も変わっていくかもね」

やがて、「明日は(高橋)一生として生きることにした」とコウさん。「僕も明日はコウとして生きる」と一生さん。で、ノエルの姿のムロさんは「俺はどうするんだあ!」

また、そこからが凄い。「いっそ、ネコのままで動画配信、やっちゃおうか」とムロさん。しゃべるネコのライブ! コウさん、一生さんも「出たい!」

確かに、コロナ禍で、エンタメ界も相当なダメージを受けています。でも、それでも、何か出来ることがあるのではないか。

出来ない理由を挙げるより、出来る方法を考えよう。出来ることから、やってみよう。3人が、そんな気持ちになっていく。

ラスト。「月がキレイだよ」と誰かが言い出して、3人と1匹は空を眺めます。そこにあるのは「フラワームーン」。5月の満月です。

うーん、いいなあ。ドラマって、こういうこともやれるんだよなあ。ちょっと元気出るなあ。

脚本は、『JIN-仁―』や『義母と娘のブルース』などの森下佳子さん。「自分」役であると同時に、「他人」役でもあるという、難しい芝居に挑んだコウさん、ムロさん、一生さん。それぞれ、見事な「大暴れ」でした。

そして、この状況の中、前代未聞のドラマ作りに挑んだ、第1夜から第3夜までの、すべての出演者と制作陣の皆さんに感謝! です。


外出自粛中に読みたい、「社会」「カルチャー」の厳選30冊

2020年05月10日 | 「現代ビジネス」掲載のコラム

 

 

コロナ禍に疲弊したら…

外出自粛中に読みたい厳選30冊

「社会」「カルチャー」という観点から

 

お花見もできないまま4月が終わり、「ゴールデンウィーク」という呼び名にも寂寥感が漂う、異例の連休となりました。

とはいえ、「緊急事態」が続く中では外出も控えるしかない。自宅での楽しみはいくつかありますが、「本」の世界もまた、コロナ禍に疲れた私たちを大歓迎してくれます。

今年1月から3月にかけて出版された、「社会」と「カルチャー」に関連した新刊の中から、読んでみてオススメできるものを30冊選んでみました。好奇心と興味関心のアンテナが少しでも反応するようなら、読んでみてください。

 

【社会】

内田樹、えらいてんちょう(矢内東紀)『しょぼい生活革命』

晶文社 1650円(税込み、以下同じ)

両親は東大全共闘の生き残りだという30歳の異色起業家と、「生きているうちに伝えておきたいこと」があるという70歳の対談集だ。共同体、貧困、資本主義、国家、家族、教育、福祉など話題は多岐に及ぶ。「分断と自閉の時代」を生きるヒントとして秀逸な一冊。

 

NHKスペシャル取材班『憲法と日本人~1949-64年 改憲をめぐる「15年」の攻防

朝日新聞出版 1650円

日本国憲法が70年以上も改正されなかったのはなぜか。かつて展開された白熱の改憲論議を検証し、憲法の現在とこれからを探る試みだ。改憲論の原点とは? アメリカや経済界からの改憲圧力の内幕。改憲と護憲の攻防戦。果たしてそれは「押しつけ憲法」だったのか。

 

橋本健二『<格差>と<階級>の戦後史』

河出新書 1210円

現代社会を語る際、必須の概念となっている「格差」。本書は、経済史や世相史、さらに文化史なども踏まえ、格差の問題を「戦後日本の歴史的な文脈に位置づけ、評価し直す」試みである。格差の背後に「階級構造」があるという指摘が、戦後史の見方を変えていく。

 

籠池泰典、赤澤竜也『国策不捜査~「森友事件」の全貌

文藝春秋 1870円

「森友学園」前理事長は、詐欺などに問われた裁判で有罪判決を受けた。一方、国有地を不当な安値で売却した背任や、行政文書の改ざんなどを行った側は刑事責任を問われていない。公権力は何をして、何をしなかったのか。本書は事件の核心部分を暴く重要証言だ。

 

石川文洋『ベトナム戦争と私~カメラマンの記録した戦場

朝日新聞出版 2200円

ベトナム戦争終結から45年が過ぎた。著者は戦時中、約4年にわたってサイゴンに住み、南ベトナム政府軍や米軍に同行撮影した。さらに北ベトナムにも入り、戦場のリアルと民間人の日常を目にする。「これが戦争なのだ」という実感が伝わる、貴重な回想記だ。

 

片山夏子『ふくしま原発作業員日誌―イチエフの真実、9年間の記録

朝日新聞出版 1870円

新型コロナウイルス騒動で脇に置かれた、今年の3月11日。しかし9年が過ぎたことで、ようやく明かされる真実もある。「行ってはいけない」場所で働く人たちは、その目で何を見てきたのか。取材を続けてきた記者が伝える、終わりなき原発事故のリアル。

 

内田 樹『サル化する世界』

文藝春秋 1650円

著者によれば、為政者から市民までを支配する気分は「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」。つまり「朝三暮四」の論理だ。ポピュリズム、憲法改正、貧困など多様なテーマを論じる本書。正しい書名は「サル化する日本と日本人」かもしれない。

 

橋爪紳也『大阪万博の戦後史―EXPO'70から2025年万博へ

創元社 1760円

大阪を舞台とする「現代史読み物」であり、軸となるのは昭和45年の大阪万博だ。万博以前、万博そのもの、そして万博後と、編年体の通史になっている。中でも万博主要パビリオンの解説は圧巻。世紀のイベントが大阪という街にもたらしたものは何だったのか。

 

長谷部恭男『憲法講話~24の入門講義

有斐閣 2750円

法は「人として本来すべき実践的思考を簡易化する道具」だと著者は言う。頼り過ぎも危険であると。その上で使える道具としての憲法を講じていく。平和主義と自衛権。表現の自由と規制。内閣総理大臣の地位と権限。現代社会を再検証するための教科書だ。

 

宇梶静江『大地よ!―アイヌの母神、宇梶静江自伝』

藤原書店 2970円

俳優・宇梶剛士の母でもある著者は、アイヌの自立と連帯を体現してきた女性だ。昭和8年北海道生まれ。23歳で中学校を卒業した。詩作と、アイヌの叙事詩を古布絵として表現する活動が現在も続く。本書では自身の軌跡はもちろん、リアルなアイヌ文化を語っている。

 

小川和久『フテンマ戦記~基地返還が迷走し続ける本当の理由

文藝春秋 1980円

軍事アナリストの著者は長年、普天間問題に関わってきた。本書はその回想録であると同時に、日本の民主主義に対する警鐘だ。無責任な首相や防衛官僚だけでなく、最高権力に近い奸臣の存在も指摘する。問題の経緯と原因を明らかにした貴重なドキュメントだ。

 

小田嶋 隆『ア・ピース・オブ・警句~5年間の「空気の研究」2015-2019

日経BP 1760円

アベノミクス、モリカケ問題、文書改ざん、東京五輪など、現在まで続く事象の大元、その本質は何なのか。5年分の時評コラムを読み進めながら、「そうだったのか」と何度も得心がいった。様々な局面で露呈する「事実」の軽視。それはコロナ禍の現在も変わらない。

 

カルチャ―

<本>

北上次郎『息子たちよ』

早川書房 1870円

平日は会社に泊まり込み、家に帰るのは日曜の夜だけ。それが20年続いたことにく。いわば無頼の書評家が、子供としての自分も踏まえて2人の息子への想いを綴った。「家族はけっして永遠ではない」と覚悟しながら愛し続けた家族と本をめぐるエッセイ集だ。

 

吉田 豪『書評の星座』

集英社 2970円

著者はプロ書評家にしてプロインタビュアー。格闘技専門雑誌『紙のプロレス』に参加していた、生粋の格闘技ライターでもある。この15年間に書いた、膨大な「格闘技本」の書評をまとめた本書だが、実は著者初の「書評本」だ。裏格闘技史としても画期的。

 

三浦雅士『石坂洋次郎の逆襲』

講談社 2970円

『青い山脈』『陽のあたる坂道』などで知られる作家、石坂洋次郎。かつてのベストセラーや大ヒット映画に比して、現在その名を見聞きすることは稀だ。しかし「主体的な女性を追究した」作品群が現代につながると著者は言う。新たな視点による石坂文学再評価だ。

 

柴田元幸『ぼくは翻訳についてこう考えています』

アルク 1760円

ポール・オースターなどアメリカ現代作家の翻訳で知られる著者。過去30年の間に翻訳について書いたり話したりしたことのエッセンスが一冊になった。「翻訳は楽器の演奏と同じ」「読んだ感じがそのまま出るようにする」など、100の意見と考察が刺激的だ。

 

毎日新聞出版:編、和田誠:画『わたしのベスト3―作家が選ぶ名著名作』

毎日新聞出版 2200円

「毎日新聞」書評欄の人気コーナー、15年分である。肝心なのは選者だ。誰が、誰の、どんな作品を選ぶのか。原尞のチャンドラー。逢坂剛のハメット。太田光の太宰治も好企画だ。さらに、みうらじゅんのスキャンダル、三谷幸喜が選んだ和田誠の3冊も見逃せない。

 

三島邦弘 『パルプ・ノンフィクション~出版社つぶれるかもしれない日記

河出書房新社 1980円

2006年、著者は単身でミシマ社という出版社を興した。動機はシンプル。自分が思う「おもしろい本」を出したかったのだ。本書は過去5年分の回想記であり、「本」をめぐる思考の記録でもある。この小さな版元は、なぜ今もリングに立ち続けていられるのか?

 

<音楽>

野川香文『ジャズ音楽の鑑賞』

シンコーミュージック・エンタテイメント 2640円

昭和23年に刊行された日本初の本格ジャズ評論集の復刻版だ。明治生まれの野川がジャズ研究を始めたのは昭和5年頃。出版当時44歳だったが、黎明期、ラグタイム時代、ブルースの誕生とたどる発達史は画期的なものだった。70年前の情熱が甦る、歴史的な価値をもつ新刊だ。

 

古関正裕『君はるか―古関裕而と金子の恋

集英社インターナショナル 1760円

この春に始まったNHK朝ドラは『エール』。主人公のモデルは作曲家・古関裕而と妻の金子(きんこ)である。本書は夫妻の長男によるノンフィクション・ノベル。オペラ歌手を目指す少女が書いた、一通のファンレターから始まる文通と恋は、小説より奇なる純愛物語だ。

 

<芸能>

塩澤幸登『昭和芸能界史 [昭和二十年夏~昭和三十一年]篇』

河出書房新社 2970円

戦後の芸能界を多角的に描いた労作。映画、音楽、放送はもちろん、出版にも目配りした点がユニークだ。当時、雑誌の連載小説を映画化し、読者を観客として動員する流れが王道だった。時代を作ったスターやアイドルの原風景がここにある。

 

<映画>

崑プロ:監修『映画「東京オリンピック」1964』

復刊ドットコム 4950円

昭和39年10月10日、国立競技場。古関裕而作曲「オリンピック・マーチ」と共に5千人を超える選手が入場し、東京五輪が始まった。この世紀の祭典を記録したのが市川崑監督率いる550余名の制作陣だ。企画、準備から本番、編集まで極秘作業の全貌が明かされる。

 

<テレビ>

藤村忠寿『笑ってる場合かヒゲ~水曜どうでしょう的思考2

朝日新聞出版 1430円

全国区のローカル番組『水曜どうでしょう』のディレクターが、新聞に連載したコラム集だ。5夜連続放送のドラマ制作。役者として参加した劇団の舞台。マラソン大会への出場。そして『水どう』ファンとの祭り。他人と積極的に関わることで自分が見えてくるそうだ。

 

<落語>

川田順造『人類学者の落語論』

青土社 1980円

文化人類学の泰斗と落語の組み合わせが新鮮だ。戦後の小学生時代から落語と接してきた経験は、後のアフリカ口承文化研究につながっている。著者が愛する八代目桂文楽や五代目古今亭志ん生の芸と、現地で採取された「アフリカの落語」が地続きとなる面白さ。

 

立川談四楼『しゃべるばかりが能じゃない~落語立川流伝え方の極意

毎日新聞出版 1650円

他者に何かを伝えようとする時、その人の個性が出る。書けば文体、しゃべれば口調。立川談志の口調は「断定型」だが、真似ても劣化コピーにしかならないと著者は言う。かつての弟子として、落語家として、さらに師匠としての体験を交えて語る「伝わる」の極意だ。

 

<美術>

渡辺晋輔、陳岡めぐみ『国立西洋美術館 名画の見かた』

集英社 2310円

開館から60年が過ぎた上野の国立西洋美術館。2人の著者はその現役学芸員であり、イタリアとフランスの美術史専門家だ。静物画や風景画など、ジャンル分けした収蔵品を解説しながら西洋美術史をたどっていく。また美術館と作品をめぐるコラムもトリビア満載だ。

 

とに~『東京のレトロ美術館』

エクスナレッジ 1760円

歴史のある美術館ではなく、レトロな趣が漂う34の美術館が並ぶ。いずれも美術作品は白い壁で囲まれた展示室ではなく、個性に満ちた空間に置かれている。著者はアートを愛する、お笑い芸人。朝倉彫塑館、原美術館、五島美術館など建物も含めて丸ごと鑑賞したい。

 

<建築>

隈 研吾『点・線・面』

岩波書店 2420円

新国立競技場の外壁は、なぜ杉の板なのか。「風通しをよくしたい」と建築家は言う。人と物、人と環境、人と人をつなぎ直すために、建築という大きなボリューム(量塊)を点・線・面へと解体するのだと。世界を巡り、過去へと遡る思考の旅。その全記録である。

 

<茶道>

伊東 潤『茶聖』

幻冬舎 2090円

千利休という「茶聖」と「茶の湯」のイメージを一新させる長編歴史小説だ。秀吉が茶の湯に求めた「武士たちの荒ぶる心を鎮める」機能。利休が天下人に求めた「人々が安楽に暮らせる世」の実現。互いの領分を侵さぬはずが、やがて表と裏の均衡は崩れて・・・。

 

<陶芸>

加藤節雄『バーナード・リーチとリーチ工房の100年』

河出書房新社 2750円

イギリス西南端の街、セントアイヴス。リーチ工房はそこにある。フォトジャーナリストである著者が初めてこの地を訪れたのは45年前。やがてリーチへのインタビューも実現させた。美しい写真と簡潔な文章が、リーチの人物像と工房の歴史を浮き彫りにしていく。

 


本邦初の「テレワークドラマ」を見てみたら・・・

2020年05月09日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

NHKのトライ、

本邦初の「テレワークドラマ」を

見てみたら・・・

 

見てみました、NHKによる本邦初の「テレワークドラマ」。パソコンのカメラとマイクで、テレビ電話みたいな感じで相手と話をする、あのシステムを使って作られたドラマです。

『今だから、新作ドラマ作ってみました』という深夜の特別枠を設け、30分で完結する形式のドラマを、3夜で3本。5月4日(月)の23時40分から放送された第1夜が、「心はホノルル、彼にはピーナツバター」でした。

ちなみに画面を見る限りでは、 Zoom(ズーム)ではなく、Microsoft Teams(チームス)を使用しているみたいですね。

登場したのは、千明(前田亜季)と五郎(満島真之介)のカップルで、2人は別々の部屋にいます。途中で、千明は東京にいて、五郎は異動先の福岡にいることがわかりました。

この2人、本当は今ごろハワイにいて、結婚式を挙げる予定でした。それが新型コロナウイルスの影響で出来なくなってしまい、また直接会うこともままならず、あちらとこちらでPC越しの会話が続く日々、らしい。

視聴者は、PCのカメラに映る2人を眺め、2人の会話を聞いているわけで、友人でも知り合いでもないカップルの内輪の話に、聞き耳を立てるというか、のぞき見というか(笑)。

 

肝心の中身は・・・

まず、千明が仕掛けた「結婚式ごっこ」に、五郎があまりノッてこなかったので、千明は不満気味。「ハワイでの式の後に話そうと思っていたけんだけど」と断ったうえで、「(結婚しても)急いで子どもを作らなくてもいいかな」と思っていることを告白します。

パンには「いちごジャム」が定番だったのに、「子種を増やすにはピーナツ!(タイトルの意味ですね)」と千明に言われて、「ピーナツバター」を食べるようにしていた五郎が、「なぜ、突然そんなことを!」と異議を唱えます。そして、「もしかして、浮気してる?」

このあたりの会話、ちょっと面白くなってきたのですが、千明の部屋で「ピンポン!」とチャイムの音が。よもや男が来たのでは、とアセる五郎ですが、宅配業者さんでした。って、予想通りのオチ。

今度は五郎が「オレたちがHしなくなったの、いつから?」と、千明に尋ねます。五郎が東京を離れてからか。夏休みの海外旅行でもそうだった。たまに会っても同様と、レスをめぐるやりとりが続きます。

そこから、なぜ子どもを欲しがるのかを問われた五郎が、「結婚したら、子どもを持つのが普通」と答え、千明がむっとする。

「産むの、私だよ。ゴロちゃん、あまりに無責任だよ」

そう言われた五郎は少し我にかえり、また千明も言い過ぎたかもしれないと冷静になります。

「なんか、初めてだね、ここまで言い合ったの」と千明。続けて「一緒にいたら、ここまで話せなかった」

「会いたい人に会えない。外に出られない。辛抱ばかりだけど、いいこともあるもんだね」と千明。

五郎が「さっき(結婚式ごっこ)のベール、似合ってた。早くウエディングドレス姿、見たい」とPC越しに言ったりして、徐々に仲直りしていく2人。ここでドラマは終りです。


見終って・・・

「面白かったですか?」と聞かれたら、「面白くないことはなかったですよ」などと答えてしまいそうです。

通常の番組作り、ドラマ作りが困難であることを逆手にとって、つまり不自由を武器にして新たなモノ作りの形に挑戦したこと。まず、その意気に拍手です。

じゃあ、十分に楽しめたかと言えば、この第1夜に関しては、残念ながら今一歩でした。

終始、「リアルだなあ」「確かに、今って、こんな感じだよね」と、現実の再現映像を眺めるような感覚であり、ドラマを見る時の、「気持ちが揺り動かされる快感」みたいなものには至らなかったからです。

かなりの制約の中で作られた、一種の会話劇。しかも出てくるのは2人だけ。これを作るのは、決して簡単ではありません。

登場人物たちが「どんな人」なのか。「どんな関係」なのか。そして、「どんな話」をするのかに成否がかかっている。通常のドラマ以上に「設定」や「せりふ」が重要で、つまり脚本の力が問われる作品なのです。

第1夜の脚本は、矢島弘一さんでした。これまでの作品の中では、『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS)が忘れられません。前田敦子さんが演じたヒロインも、新井浩文さんの新聞記者も、先が読めない行動と言葉で、見る側をドキドキさせてくれたからです。

今回は、ドラマ全体が実際の社会状況に対して、やけに従順というか、いわば「ステイホーム啓発ドラマ」とでも言うべき内容になっていた。もっと矢島さんならではの「暴れ方」をしてもよかったんじゃないか、と惜しい気がしました。

しかし、再度言いますが、トライとしてはとても興味深く見ましたし、もちろん5日(火)の第2夜、8日(金)の第3夜も視聴するつもりです。なんてったって、貴重な「新作ドラマ」ですから。


朝ドラ「エール」 戦争と音楽 どう描く?

2020年05月08日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

朝ドラ「エール」

戦争と音楽 どう描く?

 

この春から放送中のNHK連続テレビ小説「エール」。主人公である古山裕一(窪田正孝)のモデルは作曲家の古関裕而(こしき ゆうじ)だ。

古関が昭和を代表する作曲家の一人であることは確かだが、なぜ古賀政男でも服部良一でもなく、古関なのか。何より64年の東京オリンピックの入場行進曲「オリンピック・マーチ」を作ったことが大きい。第1話にそのエピソードを入れたことでも明らかだ。

昨年の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」で地ならしをし、今年の「エール」でオリンピックムードを盛り上げる。そんな予定だったのだろう。

NHKの二枚看板を使った国家的イベントのPR。さすがに政権からの直接要請はなかったようだが、一種の忖度だった可能性はある。

とはいえ、「エール」は誰もが楽しく見られる良質な朝ドラになっている。オペラ歌手を目指していた妻・音(二階堂ふみ)との「夫婦物語」であり、幼少期から音楽に親しんできた二人の「音楽物語」でもあるという、絶妙な合わせ技が効いているのだ。

ただし、今後の展開で注目したいことがある。戦時中の古関は、いわば“軍歌の巨匠”だった。「勝って来るぞと勇ましく」の歌い出しで知られる、大ヒット曲「露営の歌」はその代表作だ。

たとえば昭和16年だけでも「みんな揃って翼賛だ」「七生報国」「赤子(せきし)の歌」など大量の作品を作っている。

さらに12月8日、つまり開戦当日の夜にはJOAK(後のNHK)のラジオ番組「ニュース歌謡」で、古関が書いた「宣戦布告」なる曲が放送されたのだ。こうした活動は敗戦まで続けられた。

果たしてドラマでは、この時代の古関をどう描くのか。レコード会社の専属作曲家としての「業務」だったことは事実だが、戦時中もしくは戦後の古関の中に葛藤はあったのか、なかったのか。

また戦場へと駆り出された若者たちは、どんな思いで古関の歌を聞き、そして歌ったのか。

さらに、戦時放送という形で戦争にかかわり続けた、当時唯一の放送局であるJOAKを、現在のNHKは、そして制作陣はどう捉え、ドラマの中で表現していくのか。戦時のエール(応援)が持つ役割と意味を見極めたい。

(しんぶん赤旗「波動」2020.05.04)

 


YOSHIKIさん、異次元の「ありがた感」漂うCM

2020年05月07日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

アサヒ飲料 

ワンダ極「極めた人」篇

異次元の「ありがた感」漂う

 

X JAPANもそうだが、YOSHIKIさんもまた「異次元」という言葉がよく似合う。いや、音楽家として優れた才能の持ち主というだけではない。社会や世間とは一線を画す、もしくは俗世から離脱したかのような孤高の雰囲気。まさに「極めた人」じゃないか。

「『ワンダ極」の最新CMで、YOSHIKIさんは黄金色のドラムを叩いている。ドラマ―がドラムを叩いているだけなのに、秘仏を拝観する時と同様の「ありがた感」が漂うのはなぜだろう。しかも決めゼリフは、たったひと言「出来ました」だ。肩の力が抜けた、自然体の言葉。

これまた美味しいコーヒーが出来たという意味を超え、何か素晴らしいことが起きたと告げられたようなインパクトがあり、思わず手を合わせたくなる。って、YOSHIKIさんは仏像か!

そういえば先日、YOSHIKIさんが新型コロナ救済基金に約1000万円を寄付したと報じられた。俗世の困難を看過できない、その異次元の慈愛に感謝だ。

(日経MJ「CM裏表」2020.05.04)

 

 


言葉の備忘録149 知性などと・・・

2020年05月06日 | 言葉の備忘録

 

 

知性などというものは、

お品のいいものではない。

死力を尽くして生きなければならないとき、

人間という獣が発揮する

力をはらんでいなければなりたたない。

 

三木 卓 『若き詩人たちの青春』

 

 


百花繚乱の「動画配信サービス」、おすすめは?

2020年05月05日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

外出自粛で再注目! 

百花繚乱の「動画配信サービス」、

おすすめは?

 

気がつけば、今や「動画配信サービス」も百花繚乱。一人で何種類ものサービスを利用している人も多いでしょうし、逆に、昨今の外出自粛をきっかけとして、「これから導入です」という人もいるかと思います。

先日、雑誌の取材を受けました。テーマは、「おすすめの動画配信サービスと作品」です。

記事になるのは、記者さんにお伝えた中のほんの一部だと思いますので、話の概要をざっとまとめてみました。参考にしていただけたら幸いです。


おすすめの「動画配信サービス」

まず、動画配信サービスですが、1つ目は、「Amazon Prime Video」を挙げました。「Amazon Prime」の利用者なら無料という太っ腹なサービスであり、何より、新旧のメジャーな映画作品が大量に並んでいるのが有難いですね。

次が、「ディズニーデラックス」になります。ディズニー、ピクサー、スター・ウオーズ、マーベルという4大ブランドの作品が、月700円で見放題というリーズナブルな設定が嬉しいです。

そして3番目は、テレビ局が運営する中から選んで、フジテレビの「FOD(フジテレビオンデマンド)プレミアム」にしました。

最大の魅力は、日本のテレビドラマ史上に燦然と輝く、90年代から2000年代初頭にかけてのヒット作の数々が見られることでしょう。月額888円(フジテレビらしく8並び)です。


<各サービスの個人的「おすすめ作品」>

記者さんからは、それぞれの動画配信サービスでの、個人的「おすすめ作品」も問われました。以下が、その回答です。


「バチェラー・ジャパン」(Amazon Prime Video)

アマゾンのオリジナルコンテンツである「恋愛リアリティ番組」、もしくは「婚活サバイバル番組」です。ハイスペックな1人の男性をめぐって、25人の美女たちが争奪戦を繰り広げます。

ゴージャスなデートの一方で、彼をゲットするためなら駆け引きも裏切りも何でもあり! リアルで過酷な恋愛勝ち抜きゲームは、一度見始めると次回が気になってしかたない。

見る者を最後まで引っ張っていくのは、彼女たちの「本気度」です。恋愛中の人も、そうでない人も、「現代恋愛論」を学ぶつもりで、ご覧ください。


「スター・ウオーズ/マンダロリアン」

(ディズニーデラックス)

「スター・ウオーズ」ファンには堪らない実写ドラマです。舞台は銀河帝国の崩壊から5年後の世界で、一匹狼の賞金稼ぎであるマンダロリアンの冒険譚。

追いつ追われつの物語展開と、迫力のバトルシーンが見ものです。登場人物はもちろん、宇宙空間や惑星、乗り物やドロイドなども、完全に「スター・ウオーズ」の世界観で成り立っており、ファンでなくても興奮必死でしょう。

主人公以外のキャラクターの中では、ヨーダと同じ種族だという50歳の赤子で、強いフォースをもつ「ザ・チャイルド」が秀逸です。ひと時だけ、銀河の果てに現実逃避するのも悪くありません。


「HERO」(FODプレミアム)

言わずと知れた、2001年のヒット作。もう20年近く前になるんですね。

型破りな検事・久利生公平(木村拓哉)を補佐する、担当事務官の雨宮舞子(松たか子)に注目したいです。

雨宮は仕事も私生活も、その生真面目さ、もっと言えば「身持ちの堅さ」が最大の特徴です。いや、だからこそ、ふとした瞬間に見せる「隙」が好ましい。

この雰囲気は松さんならではのものであり、生まれや育ち、また男性的ともいえるさっぱりした性格などの背景があります。

「松たか子が演じる雨宮舞子」を見られるだけでも(笑)、「HERO」は傑作なのです。コロナ禍にお疲れ気味の人は、ぜひ雨宮に励まされてください。

 

「動画配信サービス」選択の注意点

取材の最後に、「注意点は?」とのことでしたので・・・

それぞれの動画配信サービスには特色があります。わかりやすく言えば、「得意ジャンル」が存在します。

映画、ドラマ、バラエティなど、自分が好きなのはどんなジャンルなのか、再確認してから選択するといいでしょう。また抱える作品の量と質も、大事な検討項目です。

さらに無料なのか、有料なのか。有料の場合は、自分にとっての「費用対効果」が重要です。必ず「お試し」を実施してから、正式な申し込みをしてください。


NHK朝ドラ「エール」 夫婦愛が彩る「応援歌」に

2020年05月04日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

NHK朝ドラ「エール」 

夫婦愛が彩る「応援歌」に

  

この春、NHKの連続テレビ小説「エール」が始まった。主人公は作曲家の古山裕一(窪田正孝)。モデルは古関裕而(ゆうじ)だ。

古関が昭和を代表する作曲家の一人なのは確かだ。しかし、当時健在だった山田耕筰(こうさく)、また古賀政男や服部良一でもなく、彼を取り上げたのはなぜか。

1964(昭和39)年の東京オリンピック、開会式の入場行進曲「オリンピック・マーチ」の作者であることが大きい。

それはこのドラマの初回で明らかだ。冒頭こそ「原始時代」からスタートする奇策だったが、舞台は開会式当日の国立競技場へと飛び、初老の古山夫妻が現れた。

そして回想シーンには、昨年の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」で阿部サダヲが演じた、田畑政治と思われる黒縁メガネの人物も登場。

「(日本が)復興を遂げた姿を、どーだ!と世界に宣言する。先生はその大事な開会式の音楽を書くわけですから責任重大ですぞ!」とプレッシャーをかけていた。「いだてん」から「エール」へのバトンリレーだ。

そんな「エール」だが、今や幻となった今年の東京オリンピックを意識した企画であることを超えて、多くの人が楽しめる“朝ドラ”になっている。

その第1の要因は、この作品が古山裕一だけを描くのではなく、オペラ歌手を目指していた妻、音(二階堂ふみ)との「夫婦ドラマ」としたことだ。それぞれに1週分を使って二人の

幼少時代をじっくりと見せ、3週目からは文通に始まる純愛物語が展開されている。生い立ちや背景、性格描写も丁寧で、見る側が「愛すべき主人公たち」として受け入れることがききた。

第2のポイントは、「音楽ドラマ」という骨格だ。蓄音機、レコード、ハーモニカで育ち、やがて五線紙と向き合うようになった裕一。

教会の賛美歌に感動し、人気オペラ歌手(柴咲コウ)に憧れて声楽を学ぶ音。二人の人生が重なることで、日常的に音楽が存在するドラマになっている。

古関裕而は数々のヒット歌謡で知られているが、その作品は実に多彩だ。

「若い血潮の予科練の」という歌詞の軍歌「若鷲(わし)の歌」、阪神タイガースの応援歌「六甲颪(おろし)」、映画で小美人を演じたザ・ピーナッツの「モスラの歌」、さらに敗戦から4年後に出た「長崎の鐘」。音楽に彩られた「昭和ドラマ」が期待できそうだ。

タイトルの「エール」だが、元々はオリンピックのアスリートたちを応援する意味が込められていたはずだ。期せずしてではあるが、コロナ禍に見舞われたこの国と、そこに暮らす私たちを励ますドラマになってくれたらありがたい。

(毎日新聞「週刊テレビ評」2020.05.02

 


その本質が問われる、コロナ禍におけるテレビ

2020年05月03日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

本質問われる

コロナ禍のテレビ

 

今期クールの目玉となるドラマの多くが、放送延期や制作中断に追い込まれている。またワイドショーのコメンテーターたちは自宅などスタジオ以外の場所からリモート出演し、モニターの中から語りかけている。

さらに、メインキャスターが不在となるニュース番組まで現れた。言わずと知れた新型コロナウイルスの影響だが、未曽有の事態と言える。

だが、それ以上に驚いたのは人気バラエティー番組から「司会者」が消えたことだ。「月曜から夜ふかし」(日本テレビ―STV)の4月13日放送分で、司会を務めるマツコ・デラックスと村上信五が「音声」だけの出演となっていたのだ。

この番組は「世間で話題となっている様々な件」を独自調査し、スタジオのマツコと村上がツッコミ的なコメントをしていく構成になっている。意外だったのは、2人が音声のみであるにもかかわらず、それなりに番組が「成り立っている」ように見えたことだ。

もちろん、視聴者が番組の流れをよく理解しているという前提があった。しかし、「番組の顔」である司会者が、それこそ顔や姿を見せていなくても番組が出来てしまったことに注目すべきだろう。

70年近い時間をかけて築き上げ、見る側も作る側も当たり前だと思っていたテレビのスタイルが、一晩で丸ごと変わったようなインパクトがあった。ややオーバーな表現をすれば、「パンドラの箱」を開けてしまったのかもしれないのだ。

いつになるのか分からないが、コロナ禍が終息したとしよう。その時、バラエティー番組には、コロナ以前と同様の「ひな壇芸人」が並んでいるだろうか。ワイドショーのスタジオには、タレントやコメンテーターが座っているだろうか。

いや、それどころか、バラエティーやワイドショーの司会者やニュース番組のキャスターも、以前と同じような形で存在しているのかさえ不明だ。

広く知れ渡った言葉に「断捨離」がある。不要な事物を「断つ、捨てる、離れる」ことで、生活のみならず人生そのものを改善しようとする取り組みだ。

現在のテレビは、新型コロナウイルスという外圧によって、この断捨離を強いられていることになる。人やシステムを見直し、「本当に必要なもの」だけを取捨選択する。

ただし、そうやって苦境を乗り切ったとして、すべてが「元通り」になるはずもない。それは退化や劣化なのか。それとも予期せぬ進化なのか。テレビというメディアの本質が問われることになる。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2020年05月02日) 

 


言葉の備忘録148 勝たなくて・・・

2020年05月02日 | 言葉の備忘録

 

 

 

勝たなくていい

守れりゃいい

 

 

板垣恵介『バキ』第138話

 

 


【気まぐれ写真館】 京都のお店に・・・

2020年05月01日 | 気まぐれ写真館

京都 ホホホ座浄土寺店