碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「俺の家の話」介護に笑い、クドカンの剛腕

2021年02月15日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

「俺の家の話」 

介護に笑い、クドカンの剛腕

 

たくさんのドラマの中から「これを見よう」と決める時、その選択基準は何なのか。告知情報などで知った概要。刑事ものとか医療ものとかのジャンル。好きな俳優や人気女優が出ている。さらに脚本家で選ぶという人も少なくないだろう。中でも宮藤官九郎の名前は吸引力が強い。見たことのないもの、トンデモナイものを見せてくれそうな期待感があるからだ。

長瀬智也主演のTBS系「俺の家の話」(金曜午後10時)は、そんな期待を超えたドラマだ。キーワードは「介護」「プロレス」「能」。普通は想像もつかない。しかし、宮藤の手にかかると、この三つが融合した前代未聞の「ホームドラマ」になってしまうのだ。

舞台は能の宗家。当主の観山寿三郎(西田敏行)は二十七世観山流宗家で人間国宝だ。とはいえ2年前に脳梗塞(こうそく)で倒れ、下半身のまひが消えていない。長男の寿一(長瀬)は家を出てプロレスラーをしていたが、突然、寿三郎が危篤状態に陥ってしまう。驚いた寿一は急きょプロレスから引退し、父の跡を継ごうと決意する。

物語を際立たせているのは、有能な介護ヘルパーの志田さくら(戸田恵梨香)の存在だ。寿三郎は彼女にほれ込み、婚約者扱い。財産を全て渡すと記した遺言状を何通も書く。すでに始まっている認知症の影響らしい。

一方、寿一の弟で弁護士の踊介(永山絢斗)が調べたところ、これまでにさくらは亡くなった被介護者から遺産を受け取っていた。狙いは観山家の財産なのか。性悪な「後妻業の女」なのか。彼女は介護を行っただけだと言うが、まだ多くの謎に包まれている。

引退し、さくらと共に父の面倒をみている寿一だが、時には目を離すこともある。寿三郎にトラブルが発生するのはそんな時だ。「最近は調子がよかったから、まさか」と言い訳する寿一をさくらがしかった。「介護にまさかはないんです! 常に細心の注意で臨んでも、予期せぬ事が起こるんです。介護をナメないでください!」

この作品はホームドラマであると同時に秀逸な「介護ドラマ」でもある。誰かを介護したり、誰かに介護されたりすることが当たり前の社会にいながら、つい目を背けているのが介護問題だ。宮藤は見る側を笑わせながら、「要介護」や「要支援」の規定から、シルバーカー(高齢者用手押し車)利用者の心理まで、ごく普通の事として介護の話題を物語化していく。

父の世話と能の稽古(けいこ)に加え、家の台所事情から覆面レスラー「スーパー世阿弥マシン」としてリングに戻った寿一。「強い体幹を持つ男」を演じる長瀬が頼もしい。

(毎日新聞夕刊 2021.02.13)


大河『青天を衝け』の主人公、渋沢栄一が創った「会社」

2021年02月14日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

大河ドラマ『青天を衝け』の主人公、

渋沢栄一が創った「会社」はどこ?

 
2月14日(日)から、新たな大河ドラマ『青天を衝(つ)け』が始まります。
 
戦国時代の明智光秀から一転して、舞台は近代です。主人公は、渋沢栄一。
 
実は、というほどのことではありませんが、2月13日は、渋沢の「誕生日」でした。
 
おめでとうございます、渋沢翁!
 
渋沢が生まれたのは、1840年2月13日。181年前のことです。実家は、現在の埼玉県深谷市にあった農家でした。
 
1840年というのは天保11年。歴史の教科書に出てくる、老中・水野忠邦の「天保の改革」の天保時代に生まれたわけです。
 
渋沢がすごいなあと思うのは、天保11年に生まれて、弘化、嘉永、安政、万延、文久、元治、慶応、明治、大正、そして昭和6年まで生きたことです。享年91。
 
現在、91歳の人はたくさん(私の母もその一人です)いますが、生きてきたのは昭和、平成、令和という3つの時代です。同じ91年間に、11もの時代を経験した、渋沢のような人はいません。
 
11の時代の経験者というだけでも、何を見てきたのか、一度話を聞いてみたくなります。
 
もちろん話は聞けませんので、今回の大河ドラマを通じて、渋沢が歩んできた、それぞれの時代を追体験できたらと思っています。
 
何しろ渋沢は、11の時代を生きただけでなく、現代社会につながる、いくつもの事業を興した人物。どんなジャンルでも、「初めて物語」が面白くないはずはありません。
 
渋沢が、その創設に奔走したという会社は、500社を超えます。1人の人間が、どうやったら、そんなことが可能なのか。それは今後、この大河ドラマで分かってくるのでしょう。
 
ここでは、渋沢が創設した会社の「一端」を挙げてみました。当時と現在の社名を見るだけでも興味深いものがあります。
 
<金融・保険>
・第一銀行→みずほ銀行
・東京貯蓄銀行→りそな銀行
・東京海上保険→東京海上日動火災保険
・万歳生命保険→マニュライフ生命保険
 
<ガス・電気>
・東京瓦斯→東京ガス
・広島水力電気→中国電力
 
<ホテル・劇場>
・帝国ホテル→帝国ホテル
・帝国劇場→東宝
 
<陸運・海運>
・日本鉄道→JR東日本
・北海道鉄道→JR北海道
・東洋汽船→日本郵船
 
<造船・鉄鋼>
・東京石川島造船所→IHI
・東京製綱→東京製綱
 
<綿業>
・大阪紡績→東洋紡
・京都織物→エコナックホールディングス
・東京帽子→オーベスク
 
<製紙・出版>
・中央製紙→王子製紙、日本製紙
・中外商業新報社→日本経済新聞社
 
<窯業>
・浅野セメント→太平洋セメント
・品川白煉瓦→品川リフラクトリーズ
 
<その他>
・大日本麦酒→サッポロビール、アサヒビール
・日本皮革→ニッピ
・澁澤倉庫→澁澤倉庫
 
いやはや、なかなかのラインナップではありませんか。「近代日本経済の父」「日本資本主義の父」などと呼ばれるのも頷けます。
 
では、これらを含む500社もの会社創設が、どのように行われたのか。そもそも「実業家」とは何をする人なのか。
 
また、実業家の誰もが「一万円札」や「大河ドラマ」になるわけじゃない。渋沢は、他の実業家と何が同じで、何が違っていたのか。その人物像は?
 
それやこれやの興味や素朴な疑問に、大河ドラマ『青天を衝け』が答えてくれるのを楽しみにしています。
 

【気まぐれ写真館】 サウナで記念撮影に応じる「超大型巨人」を目撃!

2021年02月13日 | 気まぐれ写真館


【気まぐれ写真館】 サウナでパンケーキを捕食する「超大型巨人」を目撃!

2021年02月13日 | 気まぐれ写真館


【気まぐれ写真館】 サウナでテレワークする「超大型巨人」を目撃!

2021年02月12日 | 気まぐれ写真館


倉本聰×是枝裕和 特別対談、土地に根づいた物語の魅力

2021年02月11日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

<碓井広義の放送時評>

倉本聰×是枝裕和 特別対談、

土地に根づいた物語の魅力

 

対談番組の成否はテーマと人選で決まる。1月23日に放送された、HBC創立70周年記念 倉本聰×是枝裕和 特別対談「“あのとき”から~北の大地とドラマと…」を見て、あらためてそう思った。

第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールに輝いた映画「万引き家族」。その是枝監督が富良野を訪ねた。放送開始から40年になる「北の国から」(フジテレビ-UHB)をはじめ、北海道を舞台に数多くの名作を生み出してきた倉本と、ドラマと脚本について語り合おうというのだ。

是枝にとって倉本作品は学生時代から脚本の教科書だったそうだ。今や世界的な映画監督だが、倉本と向き合う姿勢は終始謙虚だ。具体的かつ的確な質問が繰り出され、倉本もまた真摯(しんし)に答えていく。

たとえば「幻の町」(76年)は、かつて住んでいた樺太・真岡町の地図を作ろうとする老夫婦(笠智衆、田中絹代)の物語だ。そこには認知症になった倉本の母親が、疎開先の家や集落を鮮明に思い出す姿が投影されていた。

また「りんりんと」(74年)では、東京から北海道へと向かうフェリーの中で、病気を抱えた母親(田中)が息子(渡瀬恒彦)に尋ねる。「母さん、ほんとに生きてていいの?」と。これもまた倉本が母親から聞いた衝撃の言葉だった。

さらに「ばんえい」(73年)で、父(小林桂樹)と息子(中村まなぶ)が言い争いから取っ組み合いになる場面。父は息子に腕力でかなわなくなったことに屈辱を覚え、息子は父の老いを知ってがくぜんとする。確かに時間は残酷で、やがて親は子供に遠慮するようになる。

倉本は自らの記憶を物語に溶け込ませたことを明かし、是枝も自分と父親との関わりに触れながらこの作品への強い思いを語った。自身の体験をドラマに生かす、いわば「わたくし性」をエンタメ化する手法は、形を変えて是枝にも受け継がれていたのだ。

HBCはこの3作だけでなく、大滝秀治主演「うちのホンカン」シリーズなども制作した。これを放送したのが、かつての「東芝日曜劇場」である。

「日曜劇場」となった現在は普通の連続ドラマ枠だが、当時は全国各地の放送局が制作した作品も流される貴重な場だった。この舞台から、HBCは何本もの秀作を全国に送り出した。主軸となったのが同局の守分寿男(もりわけとしお)ディレクターであり、倉本だ。

そんなドラマ制作の歴史も振り返りながら、「土地に根づいた物語」の魅力を再認識することができた。

(北海道新聞 2021.02.06)


「その女、ジルバ」女性たちの現実がさりげなく、そして辛辣に

2021年02月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

池脇千鶴「その女、ジルバ」

女性たちの現実がさりげなく、そして辛辣に

 

バーの名は「OLD JACK&ROSE」。在籍するのは自称50~80代のホステスだ。「その女、ジルバ」(東海テレビ制作・フジテレビ系)の舞台である。

そんな超熟女バーに笛吹新(池脇千鶴)が迷い込む。

昼間は流通倉庫で働く40歳独身。恋人はいないし、貯金もないし、将来への希望もなかった。「ホステス募集。40歳以上」の貼り紙を見て、つい扉を押してしまったのだ。

不況の中、新の倉庫でもリストラの嵐が吹き荒れる。チームリーダーのスミレ(江口のりこ)がパワハラ疑惑でターゲットになったのだ。新は元カレで上司の前園(山崎樹範)に「リストラする側もつらいなんて言い訳はズルい!」と抗議する。本当につらいのは切り捨てられる側だと。

結局、スミレは残ることになったが、仲間のみか(真飛聖)は故郷に帰ることを決めた。このドラマでは、弱い立場にいる女性たちの「現実」がさりげなく、そして辛辣に描かれていく。

夜のバーは客だけでなく、ホステスたちにとっても大事なオアシスだ。池脇が見せる、程よい「ゆるみ感」と「くたびれ感」が秀逸な新もまた、ここでは不思議なオーラを放つ。

くじらママ(草笛光子)、ナマコ(久本雅美)、エリー(中田喜子)、ひなぎく(草村礼子)、そしてマスター(品川徹)という布陣は最強で、一度行ったら病みつきになること必至だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.02.10)


 【解読『おちょやん』】  松竹新喜劇のルーツが見える新章 

2021年02月08日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

 

【解読『おちょやん』】

松竹新喜劇のルーツが見える新章 

当時の「大阪喜劇界」事情は

 

千代、道頓堀に帰還!

鶴亀株式会社の大山社長(中村鴈治郎)の命令で、「新しい喜劇の一座」に参加するため、千代(杉咲花)は4年ぶりの大阪・道頓堀にやって来ました。

第9週(2月1日~5日)は、新一座の「旗揚げ」までのエピソードです。

集められたのは須賀廼家天晴(渋谷天笑)、須賀廼家徳利(大塚宣幸)、女形の漆原要二郎(大川良太郎)といった元「天海一座」の面々と千代。

加えて、新たなメンバーも来ていました。しっかり女優オーラを放っている和服姿は、東京新派劇の名門「花菱団」の元トップ、高峰ルリ子(元宝塚の明日海りお)。

踊っているのは元「鶴亀歌劇団」のアイドル、石田香里(松本妃代)。元歌舞伎役者の小山田正憲(曾我廼家寛太郎)もいます。

そして「座長」として紹介されたのが、天海一平(成田凌)でした。

天晴や徳利からは大ブーイング。頼りにしていた須賀廼家千之助(星田英利)が不参加と知って、出て行ってしまいます。

黒衣(桂吉弥)のセリフじゃありませんが、波乱の幕開けどころか、これでは幕も開きません。千代の奮闘が始まります。

「俺を笑わせたら一緒にやったる」と、うそぶく千之助。千代は、なけなしの金ならぬ、なけなしの芸を披露します。

ニワトリやネコの真似、ついにはタコ入道までやって見せますが、千之助はそう簡単には笑いません。

まあ、この時の杉咲さんの「顔芸」の凄いこと。役に入り込んでいなければ出来ない、吹っ切れた演技でした。

当時の「大阪喜劇界」事情

現在、このドラマの時代背景は昭和3年(1928)。

「世界恐慌」に関わる、「ウォール街大暴落」が起きたのが昭和4年(1929)ですから、その少し前になります。

当時、大阪の喜劇界をけん引していたのが、「曾我廼家五郎」の率いる一座でした。板尾創路さんが演じる「須賀廼家万太郎」のモデルですね。

「鶴亀」ではなく、現実の「松竹」としては、この一強体制を打破すべく、天海一平のモデルである「渋谷一雄(二代目渋谷天外)」を支援し、「松竹家庭劇」の結成へと動きました。

現在の「松竹新喜劇」につながる、ルーツの一つです。

この「松竹家庭劇」の中心となったのが、「須賀廼家千之助(星田英利)」のモデル、「曾我廼家十吾」でした。

人気者で実力者でしたから、いないと客が呼べません。ドラマの中で千代たちが千之助を必死で誘うのも当然なわけです。

天海一平の「苦悩」

大山社長によって、座長に指名された一平。目標は「万太郎一座を凌ぐ、日本一の喜劇一座」であり、目指していたのは「新しい喜劇」でした。

では、「新しい喜劇」とは、一体どんなものなのか。

実は、台本を書きながらも、まだ一平にもよく見えていません。しかし一平の「志」は、その言葉の中にありました。

女形の漆原に向って、「時代遅れ」「お払い箱」ときついことを言う一平。これからは女性の役は女優が演じるのだと。続けて・・・

「芝居を観終わって、芝居小屋から外に出た途端に忘れられてしまうような芝居やなく、自分のことのように笑って泣いて、明日も頑張ろうと思えるような芝居。歌舞伎やシェイクスピアみたいに10年後も50年後も忘れられへん芝居がやりたいんや」

舞台の常識を変えるためにも、漆原には女形としてではなく、男優として舞台に立って欲しかったのです。

その真意を知らない漆原は激怒し、一平を殴り倒しました。すると・・・

「やったら出来るやないか! それやったら出来る、男の役かて。一緒に新しい喜劇、作ってくれ!」

わざと殴られることで、女形から男優への転換を促したのです。やるなあ、一平。

しかも、この時にボコボコにされた顔(お岩さん状態)のおかげで、「俺を笑わせたら一緒にやったる」と豪語していた千之助を、思いきり笑わすことも出来ました。まさに怪我の功名。

千之助の「笑わしてみろ」は、一平の父である故・初代天海と出会った時、天海から言われた言葉でした。もっと一緒に芝居がしたかったという思いは、今も千之助の中にあります。

「芝居茶屋」の明暗

この第9週では、見る側も懐かしい人たちに再会できました。

道頓堀といえば、芝居茶屋「岡安」の女将シズ(篠原涼子)です。篠原さんが画面に出てくるだけで、その場の密度がぐっと上がるような気がしますね。

ただ、千代がいた頃と比べると、芝居茶屋という商売自体が時代と合わなくなってきていました。しかし、シズは毅然として暖簾を守り続けています。

「岡安」の台所事情を察した、お茶子の一人が辞めると言い出した時のシズ・・・

「あんたらの面倒みられん時は、暖簾を下ろす時だす。この岡安は、わてが看取る!」

その覚悟は、一平が自分も腹をくくって新たな喜劇に挑戦することを決めたほどです。

一方、「岡安」のライバルだった芝居茶屋「福富」は、喫茶店を併設した、おしゃれな楽器屋さんになっていました。女将の富川菊(いしのようこ)も元気です。

「福富楽器店」は、変化する時代の象徴なのかもしれません。

「鶴亀家庭劇」波乱の旗揚げ

一同が揃って、いよいよ「新しい喜劇の一座」の結成です。いや、一人いませんでした。そのことを気にする一平。

その時、かっこいい男性が現れます。スーツにソフト帽のその人物は、なんと女形の漆原でした。で、ひと言・・・

「俺の席、あるかな?」

いいセリフです。

一座の名前が「鶴亀家庭劇」と発表され、一平が、みんなに向って決意を述べました。

「しんどい時があっても、また顔を上げて生きていこうと思えるような、家族が一緒になって楽しめる芝居を作りたい」

コロナ禍の今だからこそ、刺さる言葉です。たとえ不要不急と言われようと、エンタメを含む文化は、人が生きる上で必要なものですから。さらに・・・

「俺は、家庭というものを知りません。でも今日から、ここが俺の家庭や。みんなで力を合わせて、新しい喜劇を一緒に作っていきましょう!」

泣かせるね、一平。

家庭を知らないのは、千代も同じです。一平だけでなく、この2人にとって、一座が家庭になっていくことを予感させてくれました。

とはいえ、ここで終りではありません。一平が書いた台本『母に捧ぐる記』に対し、いきなり千之助が「待った!」をかけます。

「このホン(台本)、読ませてもろたわ。おもろないよな、いっこも」

おお、そう来たか。いや、千之助はそうでなくっちゃ。「松竹新喜劇」の源流の一つをモデルとする、千代たちの「鶴亀家庭劇」。その波乱の旗揚げの顛末は、8日(月)からの第10週へと続きます。


『天国と地獄』 予測する「楽しみ」と 裏切られる「快感」

2021年02月07日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『天国と地獄』は

予測する「楽しみ」と

裏切られる「快感」のハイブリッド

 

日曜劇場『天国と地獄~サイコな2人~』が凄いことになってきました。何しろ、あの綾瀬はるかさんが、ゴルフクラブで人を撲殺しちゃったんですから。
 
いや、もちろん綾瀬さんじゃありません。
 
「不穏な協力関係」の急変
 
正確に言えば、猟奇殺人事件の犯人である日高陽斗(ひだかはると、高橋一生)と、彼を追っていた捜査第1課刑事の望月彩子(もちづきあやこ、綾瀬はるか)の「魂」が入れ替わってしまった。
 
そして、彩子の中に入った日高の「魂」が、彩子の「ボディ」を使って、ゴルフクラブ殺人を犯したのです。
 
でも、彩子の姿形をした日高の犯行も、入れ替りを知らない、もしくは信じない警察から見れば、彩子が殺人者ってことになってしまうでしょう。
 
それに、彩子の魂が入った日高もまた、剛腕刑事の河原(北村一輝)をはじめとする警察の追及を受けています。確たる証拠を握られたら、日高として逮捕され、死刑もあり得る。
 
入れ替わり以来、「不穏な協力関係」にあった日高と彩子。それを大きく崩したのが、前回の終盤に起きた「ゴルフクラブ殺人」でした。
 
これまでの連続殺人も、日高の意図が何なのかも、まだ皆目見えていません。
 
日高は「レクター博士」か!?
 
分かるのは、たとえ別人の「肉体」を持っても、日高の「魂」は人を殺すことを止めない、止められないということです。だからこそ、日高は「サイコパス」なのかもしれません。
 
サイコパスと聞いて、多くの人が思い浮かべるのが、映画『羊たちの沈黙』や『ハンニバル』のハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)ではないでしょうか。
 
彼が、極めて冷静に人を殺すことが出来るのは、他者に対して一切の「共感」を覚えないからでした。躊躇することなく、どんな残忍な行為も出来てしまう。
 
日高も、それに近い人間ではないかと思えるのですが、まだ彼の過去も動機も不明。今は、あれこれ想像するだけです。
 
というか、日高のことに限らず、このドラマには、見る側が想像したり予想したりする「楽しみ」が溢れています。
 
そして物語の次の展開によって、自分の想像や予測が見事に裏切られる「快感」があります。
 
「敵対関係にある男女」の入れ替わり
 
過去にも、大林宣彦監督の映画『転校生』や、ドラマ『さよなら私』(NHK)といった「入れ替わり物語」は存在しました。
 
しかし、当事者は幼なじみや親友同士であり、「回復」を目指す助け合いは友好的なものでした。
 
一方、このドラマのポイントは、「敵対関係にある男女」が入れ替わったことにあります。しかも圧倒的に不利なのは彩子のほうです。
 
何とか再び日高と入れ替わり、元に戻らなくてはならないのですが、主導権は「刑事」となった日高にある。
 
その不利な立場が、あのゴルフクラブ殺人で、さらに危ういものとなってしまったわけです。
 
「あやこ」と「サイコ」
 
日高によって乗っ取られた彩子の肉体。被害者の頭を、クラブでメッタ打ちにする犯人の見た目は、あくまでも「彩子」です。いえ、こうなると「あやこ」ではなく、「サイコ」と読み替えたくなる殺人者です。
 
日高というサイコと、サイコにさせられてしまった彩子。まさに「2人のサイコ」の出現でした。
 
どこまでも予測不能な日高。彩子が抱える恐怖感。奄美大島の「伝説」をからめた、入れ替わりの謎。綾瀬さん主演の『義母と娘のブルース』も手掛けた、森下佳子さんの脚本が冴えています。
 
今後の展開を予測する「楽しみ」。その予測を綺麗に裏切られる「快感」。『天国と地獄~2人のサイコ~』では、その両方が味わえる。一粒で二度おいしい、ハイブリッド・サスペンスと言えそうです。
 

【気まぐれ写真館】 気温15℃ 梅の花

2021年02月06日 | 気まぐれ写真館

2021.02.06


週刊朝日で、大江麻理子アナ「マスク出演」について解説

2021年02月05日 | メディアでのコメント・論評

 

 

 

テレ東「WBS」大江麻理子アナ 

マスク出演で「報ステ」抜ける?

 

テレビ東京の報道番組「ワールドビジネスサテライト(WBS)」が、3月29日から1時間繰り上げて夜10時の放送に移動する(金曜日は夜11時)。1月25日に行われた改編発表会見では、同社の石川一郎社長は「コロナ禍で生活様式が変わった」ことなどを理由に挙げた。

夜10時開始といえば「報道ステーション」(テレビ朝日)と同時間帯で、視聴者争奪戦が繰り広げられることになる。芸能評論家の三杉武氏はこう話す。

「テレ朝の夜10時は『ニュースステーション』の久米宏氏、『報ステ』の古舘伊知郎氏という大物キャスターがメインを務めた時代と比べて存在感が低下しているので、テレ東の看板番組『WBS』が裏に来るのは脅威でしょう。『WBS』は経済界の大物がゲストで出演するので、視聴者が引っ張られると思います」

コロナ禍で在宅時間が増えたことも起因し、情報番組や報道番組は視聴率の狙いどころ。そのため各局は今期の改編で勝負に出ているという。

そんな中、「WBS」の存在感を世に知らしめる出来事があった。1月18日から、メインの大江麻理子アナらがマスクを着用したまま出演し始めたのだ。他局にはない徹底した感染対策に視聴者の反応は概ね好評のようだが、業界内では不穏な声も少なくないとか。

「感染対策強化は良いのですが、『余計なことしてくれた』『やられた』と他局のテレビ局員は嘆いています。正しいモデルとしての同調圧力につながりかねないことからです」(三杉氏)

メディア文化評論家の碓井広義氏は、対策の「行き過ぎ」を懸念する。

「アナウンサーと他の出演者の間に距離もアクリル板もある中でのマスク着用は“やっている感”の演出のようにも見えてしまいました。街を歩くときにマスクが必要なのは言うまでもありませんが、直接対面しているわけでもない視聴者に向かってまでマスク姿で語りかける必要はあるのか。家にいるときまでマスクをしないといけないような『圧』を感じてしまいました」

感染対策にテレビはどう向き合うか、悩みどころのようだ。(本誌・岩下明日香)

(週刊朝日  2021年2月12日号)

 


『にじいろカルテ』の脚本家、岡田惠和の「隠れた佳作」

2021年02月04日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『にじいろカルテ』の脚本家、

岡田惠和の「隠れた佳作」

 

高畑充希主演『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)が、異色の医療ドラマとして好調です。

どこが異色なのか? ヒロインが他者を救う「医師」であると同時に、自身が重病を抱えた「患者」でもある、という設定です。この二重性から物語に奥行が生まれているのです。

脚本は、NHK朝ドラ『ちゅらさん』や『ひよっこ』などの岡田惠和さん。

今月の4日に、岡田さんが手掛けた、もう1本の「命をめぐるドラマ」が放送されました。それが「隠れた佳作」とも言うべき、『人生最高の贈りもの』(テレビ東京系)です。

信州の安曇野に嫁いでいる田渕ゆり子(石原さとみ)が突然、東京の実家にやってきます。翻訳家で一人暮しの父、笹井亮介(寺尾聰)は驚きました。当然、帰省の理由を訊ねるのですが、娘は「何でもない」としか言いません。

実は、ゆり子はがんで余命わずかという状態だったのです。そう聞いた途端、「なんだ、よくある難病物か」と言う人も、「お涙頂戴は結構」とそっぽを向く人も少なくないと思います。

しかし、このドラマは「そういう作品」ではありませんでした。見るのが辛いヒロインの闘病生活も、家族のこれでもかという献身的な看病も、ましてや悲しい最期も見せたりはしません。

また特別な、つまり変にドラマチックな出来事も起きない。あるのは父と娘の静かな、そして束の間の「日常生活」ばかりです。

父はいつも通りに仕事をし、妻を亡くしてから習った料理の腕をふるい、2人で向い合って食べる。ここでは料理や食事が「日常の象徴」として描かれていました。

途中、不安になった亮介は、ゆり子の夫で教え子でもある高校教師、田渕繁行(向井理)を信州に訪ねます。そこで娘の病気が重いこと、余命についても聞きました。

しかも、ゆり子は「残った時間の半分を下さい。お父さんに思い出をプレゼントしたい」と訴えたというのです。亮介は自分が知ったことをゆり子には伝えないと約束して、東京に帰っていきました。

娘は、父が自分の病気と余命を知ったことに気づくのですが、何も言いません。父もまた、娘の病状に触れたりはしません。その代わり、2人は並んで台所に立ち、父は娘に翻訳の手伝いをさせます。

時間を共有すること。一緒に何かをすること。そして互いを思い合うこと。それこそが2人にとっての「最高の贈りもの」なのでしょう。石原さんも寺尾さんも、ぎりぎりまで抑制した演技が随所で光っていました。

思えば、人生は「当り前の日常」の積み重ねかもしれません。昨年からのコロナ禍で、私たちはそれがいかに大切なものかを知りました。

終盤、信州に帰るゆり子に亮介が言います。「大丈夫だ、ゆり子なら出来るさ」と。その言葉は見ている私たちへの励ましにも聞こえました。

岡田脚本の、ゆったりした時間の流れを生かした丁寧な演出は、『昨日、悲別で』(日本テレビ系)などの大ベテランである石橋冠さん。見終わった後に長く余韻の残る、滋味あふれる人間ドラマでした。

『にじいろカルテ』もまた、病(やまい)や死と向き合うことで、命と生を見つめるドラマになっています。


「天国と地獄」綾瀬はるかと高橋一生の難役対決

2021年02月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

TBS日曜劇場「天国と地獄」は

綾瀬はるかと高橋一生の

難役対決から目が離せない

 

猟奇殺人事件の容疑者、日高陽斗(高橋一生)。彼を追う捜査第1課刑事、望月彩子(綾瀬はるか)。そんな2人の魂が入れ替わってしまったのが「天国と地獄~サイコな2人~」(TBS系)だ。

過去にも、大林宣彦監督の映画「転校生」や、ドラマ「さよなら私」(NHK)といった「入れ替わり物語」は存在したが、当事者は幼なじみや親友同士だった。

このドラマのポイントは、「敵対関係にある男女」が入れ替わったことにある。しかも圧倒的に不利なのは彩子だ。剛腕刑事・河原(北村一輝)の追及を逃れながら、何とか再び日高と入れ替わり、元に戻らなくてはならない。日高として捕らえられたら死刑になる可能性が高いからだ。

彩子が抱える緊迫感。どこまでも不敵な日高。奄美大島の「伝説」をからめた入れ替わりの謎。綾瀬主演「義母と娘のブルース」も手掛けた森下佳子の脚本が冴える。

かすかな望みが出てきたのは、部下で相棒だった八巻(溝端淳平)が入れ替わりに気づいてくれたことだ。協力して真相を探り始めた。

見どころはやはり入れ替わった2人の演技だ。たとえば高橋が演じるのは、「男性であることを意識した言動」をしなくてはならない彩子が内面にいる日高。しかも場面によって「素の彩子」の露出の度合いは異なる。綾瀬と高橋、人気者同士による難役対決だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.02.03)

 


【解読『おちょやん』】浪花千栄子の父は、テルヲ以上のトンデモ親父だった!?

2021年02月02日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

【解読『おちょやん』】

浪花千栄子の父は、

テルヲ以上のトンデモ親父だった!?

 

NHK連続テレビ小説『おちょやん』の第8週(1月25日~29日)は、まさに「テルヲ週間」でした。テルヲとは千代(杉咲花)の父であり、いまや「朝ドラ史上最悪のトンデモ親父」の呼び声も高い、竹井テルヲ(トータス松本)のことです。

テルヲ、撮影所に乱入!

千代の道頓堀時代、テルヲが多額の借金をめぐって騒動がありました。「岡安」の女将、シズ(篠原涼子)に助けてもらいながら、千代は逃げるように大阪を離れたのでした。

そのテルヲがまた現れた! 当然、千代の周辺で事件が起こります。

千代が大部屋女優であり、稼ぎも少ないことを知ったテルヲは、突然撮影所に乗り込んでいく。

そして片金所長(六角精児)に向って、「次の映画で、千代を主役にしたってください!」と直訴。そりゃ、無茶です。

次に千代の撮影現場にも潜入し、主演女優の滝野川恵(龍谷さくら)を「ブサイク」呼ばわり。

監督に「主役を千代に代えろ」とせがんだかと思うと、不注意からセットを破壊してしまう。もちろん撮影は中止です。困るよなあ、千代。

さらに、所内で新作の主演女優募集が行われます。千代もオーディションを受けますが、結果は「合格者なし」。

結局、主役を手にしたのは、スポンサー令嬢でもある滝野川です。確かに、このオーディションは茶番でした。

怒ったテルヲは、またも撮影所に怒鳴り込みます。

なぜ千代が主役になれないのかと、大山社長(中村鴈治郎)に食って掛かるのですが、この場面でのテルヲは、これまでと一味違っていました。

「わいの娘はな、竹井千代は、日本一の女優になるんじゃ! 母親によう似てベッピンやし、根性もあって、みんなから好かれて、友だちだってぎょうさんいてる。わいなんかとは似ても似つけへん、ええ娘やねん! この先、大女優間違いなしや。そん時、吠え面かくなよ! お前ら全員、土下座させたるさけな!」

暴言ではありますが、初めて吐露された「父の心情」です。トータス松本さんの演技が素晴らしい。

この父の言葉は千代の心も動かしたようで、テルヲを叱りつけながらも、「せやけど、おおきに」と小さな声で感謝していました。

しかし、テルヲがそれで大人しくなるはずもありません。借金取りの連中に脅されると、お金を探して千代の部屋をひっかき回します。原因は博打でした。困ったお父ちゃんだ。

娘がこつこつと貯めた、わずかなお金を奪っていこうとするテルヲ。その姿を見た千代はテルヲをなじりますが、途中で諦めます。

その瞬間、ふっと笑った千代の悲しそうな顔。杉咲さんの見せ場です。そして・・・

「ええわ、もうええ、それ持ってき。うちら、もう親子やあらへん。繋がってるのは血やのうて、お金や。金の切れ目が縁の切れ目や」

テルヲは、千代が床に投げた小銭まで拾い集めて、出ていきました。

浪花千栄子と父親

千代は、テルヲによって9歳で大阪に奉公に出され、18歳で奉公先の芝居茶屋「岡安」から京都に向い、女優修業を始めました。

一方、千代のモデルである浪花千栄子は、同じく9歳から大阪の仕出し弁当屋で働きましたが、16歳になった頃には、父親がお金をせびるためにやって来ます。

そして、またも父親に〝売られる〟ような形で、別の奉公先へと送られてしまいました。新たな奉公先で、女中さんとして、さらに数年を過ごした千栄子。

彼女は、千代以上に、父親に手ひどい扱いを受けてきたわけですが、ついに自由になろうと決意します。自伝では・・・

「私は、もうおとうさんの言いなりになってはいられない。年季が明けたとなったら、年ごろも年ごろ、こんどはどんなところへ売り飛ばされるやら、考えてもおそろしい。第一、父の言いなりになっていては私は、取柄のない、人形のような、ばか女になってしまうだろう」

そんな千栄子と同様、千代もまた「なけなしの貯金」をテルヲに渡すことで、あらためて父と訣別し、自立を目指したのです。

初めての「愛の告白」と「プロポーズ」

第8週の見せ場の一つが、助監督の小暮真治(若葉竜也)の「愛の告白」と「プロポーズ」でした。

前週までの展開の中では、小暮が大女優・高城百合子を好きだと知って、千代は勝手に「失恋」したつもりだったのです。しかし、小暮は密かに千代を思っていました。

助監督は、自分が書いた脚本を会社に認められることで、ようやく監督に昇進します。小暮も頑張ってはいるのですが、なかなか脚本にOKが出ません。

しかも、資産家である東京の父から、そろそろ諦めて戻ってこいという手紙が届きました。

最後のトライと思っていた新たな脚本も却下され、ついに映画界を去ることを決意します。そのタイミングでの告白であり、プロポーズでした。

千代だって嬉しくないはずはありません。しかし、これを断ります。

「堪忍。うち、やっぱり女優続けたい。せやさかい、一緒に行くことはでけしまへん。うちは小暮さんには不釣り合いだす」

小暮は、千代が女優を諦めないことを分かっていたと言い、続けて・・・

「もしかしたら千代ちゃんへの気持ちも、(監督への昇進が)うまくいかなかった自分を慰めて欲しかっただけかもしれない」

カフェー「キネマ」で、飲めないビールを大量に飲んだ小暮。金一封が出る「ビール月間」で、千代を一等賞にするという置き土産を残して、京都を去ったのでした。

小暮を演じた若葉さん、夢を追いかけて頑張る助監督がぴったりでしたね。

この小暮のモデルはいたのかと探しましたが、浪花千栄子は何かを書き残したり、語ったりしていません。

ただ、気になる人物が1人います。

千栄子は東亜キネマ時代に、『帰ってきた英雄』(仁科熊彦監督)という作品で準主役に抜擢されました。

そして、この作品で脚本デビューしたのが、脚本部に所属していた山上伊太郎(やまがみ いたろう)です。

山上は別の女性を妻としましたが、千栄子と同じ現場に立っていた山上青年のイメージが、どこか小暮と重なるのです。

後に山上は、マキノ雅弘(正博)監督の有名な『浪人街』の脚本を手掛けたり、自身も監督として作品を撮ったりしましたが、太平洋戦争中にフィリピンのルソン島で行方不明となります。41歳でした。

天海一平、現る!

第8週で忘れてはならないのが、天海一平(成田凌)の登場シーンです。千代が、父・テルヲの件で困惑している時、一平が現れました。

「まだ、あの親父に縛られてるのか。情けないなあ」と厳しい一平。「あんたに、うちの何が分かるねんな!」と言い返す千代。それを聞いた一平が語ります。

「分かるはずないやろ。人の苦しみが、そない簡単に分かって堪るか。どんだけ知ったふうな口叩いても、お前の苦しみはお前にしか分からへん。俺の苦しみは、お前なんかに絶対分からへん」

じっと聞いている千代。一平、続けて・・・

「せやから、俺は芝居すんねん。芝居してたら、そういうもんがちょっとは分かる気がする。分かってもらえるような気がする」

千代の中に、天海一座の芝居に飛び入り出演したことや、山村千鳥一座で演じた『正チャンの冒険』が浮かんできました。目から涙がこぼれます。それを一平に見られて、少し照れくさい。

「いきなり現れて・・・。こっち見るな! あっち行け!」

一平とは、いずれまた遭うはずです。

千代、再び「道頓堀」へ!

千代は大山社長に呼ばれ、なんと道頓堀で新たに始めるという「喜劇一座」に加わるよう命じられます。

大阪から京都へ来たのに、今度は大阪へと戻ることになる。千代は知りませんでしたが、「なぜ、千代を?」と訊ねた片金所長に、大山社長が答えました。

「実物の良さが、カメラでは収まりきれん」

つまり、スクリーンの中の「映画女優」よりも、観客と直接向き合う「舞台女優」のほうが、千代という素材が生きるという判断でした。

撮影所を去ろうとする千代。門から出ていく時、守衛の守屋(渋谷天外)に挨拶します。「うちは、どんな女優でしたか?」と訊ねる千代に、守屋が答えました。

「忘れられへん女優さん」

いいセリフですね。浪花千栄子にも通ずる、千代が目指す女優像と言っていいでしょう。

カフェー「キネマ」の仲間に見送られ、千代は大阪へと向かいました。そこには新結成の「喜劇一座」だけでなく、「岡安」はじめ道頓堀の人々も待っているはず。期待の新章突入です。


『ボス恋』菜々緒ストリープの「30万部雑誌」発売中!?

2021年02月01日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『ボス恋』

鬼編集長、菜々緒ストリープの

「30万部雑誌」発売中!?

 
上白石萌音主演『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』の舞台は、鬼編集長(菜々緒)が率いる女性ファッション誌の編集部。世界を目指すという「MIYAVI」の創刊号は、1月28日の発売でした。
 
「菜々緒ストリープ」のインパクト
 
『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)のヒロインは、地方出身の女子学生だった鈴木奈未(上白石萌音)。彼女が就職したのは、東京の大手出版社である音羽堂出版です。
 
志望していたのは「備品管理部」だったのですが、ひょんなことから新創刊するファッション誌「MIYAVI(ミヤビ)」編集部に配属されました。そして、彼女を待っていたのが、海外から招かれた敏腕編集長、宝来麗子(菜々緒)です。
 
麗子は、ヒロインを吹き飛ばしそうなインパクトのある女性であり、菜々緒さんはドハマリしています。当初、麗子の立ち居振る舞いを見て、「これって映画『プラダを着た悪魔』じゃん」と思った人は少なくないでしょう。
 
コーヒーの用意、チケットの予約、車の手配、メモの伝達、そして荷物運び等々。麗子が、まるで「小間使い」のように奈未を酷使する様子が、映画で雑誌「ランウェイ」の鬼編集長を演じていたメリル・ストリープと重なったからです。
 
菜々緒がストリープなら、奈未はアン・ハサウェイということになりますが、さすがに、そう単純なトレースではありません。
 
アン・ハサウェイ演じるランディは、野心満々のジャーナリスト志望でした。一方、奈未は編集者を目指していたわけでもなく、「普通の、人並みの生活が出来ればいい」というスタンスの「安定志向女子」です。
 
第1話では麗子が、
 
「雑用もまともにできないあなたが、普通や人並みを求めるなんておこがましい!」
 
と奈未を一喝していました。
 
それでも第3話あたりからは、徐々に仕事の面白さに目覚めつつあるようで、上白石さんは例によって「やがて輝く平凡女子」を好演しています。
 
そんな奈未が偶然知り合った、カメラマンの潤之介(玉森裕太)。この優しくて涼やかな青年が、実は麗子の実弟であり、資産家の御曹司でもあるといった設定は、ちょっと韓国ドラマみたいですが、ラブコメの王道という意味で文句は言えません。
 
世界を目指す雑誌「MIYAVI」
 
さて、鳴り物入りでパリからやって来た宝来麗子編集長が創刊する、新たなファッション誌「MIYAVI」ですが、一体どんな雑誌になるのか。
 
第1話で、副編集長の半田進(なだぎ武)が説明していました。
 
世界には様々なインターナショナル系のモード誌があり、たとえば「ヴォーグ」は世界27の国や地域で発行されていると。それを踏まえて・・・
 
「日本初の世界に向けたモード誌として創刊を目指し、出版界冬の時代に一矢報いようとし、そしてファッション業界に旋風を巻き起こさんと目論んでいるのがMIYAVIです」
 
って、チカラ入ってますね。
 
続いて、麗子の所信表明がありました。
 
「私がここに来たのは結果を出すため。2ヵ月後にMIYAVIを創刊し、半年で発行部数30万部を実現します!」
 
おお、これはスゴイ。
 
わずか2ヵ月で、ゼロから作り上げるのも大変なことなのに、半年後に「30万部雑誌」にするというのは、相当なことですから。
 
副編の説明を聞く限り、「ヴォーグ」をライバルとしているみたいですが、現在、「VOGUE JAPAN」、「ELLE JAPON」、「madame FIGARO japon」などの発行部数は、だいたい7~8万部といったところです。
 
そんな中で30万部というのは途方もない数字で、達成すれば出版界の事件です。もしかして、半年の合計が30万部? それなら月5万部でいいけど。
 
いや、麗子のことですから、やはり「30万部雑誌」にする自信があると見ました。
 
その上で、麗子と編集部の面々が、これまでにやってきたことを挙げてみると・・・
 
<第1話> パリからトップモデル(冨永愛)を呼んで、「表紙」の撮影を行いました。バラ園を見つけたのは奈未のお手柄ですが、渋る経営者をくどいたのは土下座も辞さない麗子でした。
 
<第2話> 第2特集の「カルチャーページ」で、人気漫画家・荒染右京(花江夏樹)とカルティエのコラボ企画を実現。同時に、「表4」と呼ばれる裏表紙でもカルティエの広告をゲット。奈未の「けん玉」チャレンジが功を奏しました。
 
<第3話> 「特別インタビュー」として掲載予定だった、柔道家の瀬尾光希(高山侑子)の記事。校了1週間前になって突然、麗子がグローバル経済アナリスト・小早川佐和子(片瀬那奈)に差し替えました。瀬尾の故障した腕が完全に治っていないことを見抜いたのは麗子です。
 
結局、現在までにドラマの中で見せてくれた、創刊号の主な「ネタ」は以上でした。
 
「MIYAVI」はライバルに勝てるか?
 
26日の第3話では、麗子の仕事のやり方を理不尽だと憤慨した編集部員たちが反乱を起こします。それでも最後は、再集合して作業にあたりました。そして「責了」の朱印が麗子によって押されたことで、2ヵ月をかけた創刊号の編集作業は終了を告げます。
 
テレビ画面に映った「中吊り広告」を見ると、見事なバラを背景にした冨永愛さんの写真をベースにして、前述の「ファッション×漫画コラボ」と「特別インタビュー」の他に、「春の小物大特集 『着飾る春』を再発見!」といった項目が印刷されています。
 
ちなみに「VOGUE JAPAN」の最新号では、映画『ティーンスピリット』などで注目の女優、エル・ファニングを特集しています。また同じく女優のリリー・コリンズも特集で登場。それぞれの記事と写真は、どちらもかなり魅力的なものになっています。
 
もちろん「MIYAVI」創刊号の中身も、「漫画家のイラスト」と「経済アナリストのインタビュー」と「春の小物」だけではないでしょう。
 
きっと私たち視聴者は知らない、充実の「キラーコンテンツ」が並んでいるはずです。そうでないと、半年後の30万部なんて夢のまた夢です。
 
ドラマの中の「架空の雑誌」の内容など、大した問題ではないと思う人もいるかもしれません。しかし、ヒロインの奈未にとって、麗子が本当に「ぶつかりがいのある存在」であり、自分たちが取り組む雑誌が「価値あるもの」であることは、大事だと思うのです。
 
なぜなら、このドラマは、奈未の「成長物語」でもあるからです。
 
「MIYAVI」創刊号、発売中!?
 
中吊り広告には、特集の項目と共に、
 
「2021年1月28日(木)発売」
 
の大きな文字が、しっかりと入っていました。
 
予定通りなら、1月28日に「MIYAVI」は本屋さんの店頭に並んだはずです。カリスマ編集長である菜々緒ストリープが、いずれ「30万部雑誌」にすると豪語した創刊号。それがどれほどのものなのか、出来るなら、ぜひ見てみたい。
 
それと、気になることが1点・・・
 
第1話から第3話まで、「ドラマの中の時間」は2ヵ月だったのですが、その間、創刊号の作業ばかりで、2号や3号の企画会議や仕込みや取材は、まったく行われていませんでした。大丈夫なのかな?
 
これまた視聴者に見えないところでやっていたのかもしれませんが、ちょっと心配になりました。
 
というわけで、今後も奈未の恋の進展と同様、「MIYAVI」の行方を見守っていこうと思っています。