◇死亡事故のあらまし
埼玉県ふじみ野市の市民プールで7月31日、女児が排水口に吸い込まれて死亡しました。全国にくり返して報道されている通り、痛ましい事件です。
排水口は3カ所。入口の直径約60センチ。50センチほど中に入ると、直径は約30センチに小さくなる。排水口1カ所の柵は60センチ四方の格子状で2枚。そのうち柵1枚のボルトが外れて事故が起きた。
朝日新聞(大阪本社)8月1日朝刊では、事故時のありさまをこう述べている。
事故が起きた10分ほど前、プールで泳いでいた子どもが、さくが外れているのを見つけ、監視員に届けたという。ふじみ野市によると、監視員は控室にいた管理責任者に報告に行き、責任者は人が近づかないようにするよう指示。緊急補修用の道具を取りに行ったが、戻った時には瑛梨香さんが吸い込まれていたという。この際、ポンプを止めるなどの措置は採らなかったという。
プールの監視員はおおむね若い人で、夏だけのアルバイトも多いだろう。私は、事故死の責任を現場のプール監視員に責任を転嫁されることが心配だ。本質は構造欠陥にある。
◇なぜしっかりした格子柵の修繕工事をしておかなかったのか
別のテレビニュースによれば、ボルトは外れやすくなっており、針金を使って補強留めしていたという。現場の監視員らは当然その状況を上司に報告しているだろう。
上司、あるいは上司のその上の上司が適切な対応を取らなかった可能性がある。あるいは修繕を担当するセクションが適切な対応を取らなかった可能性がある。よく使われる口実は「予算がない」だ。
◇監視員の対応は適切だったか
こういう突発事故などへの対応の仕方について、監視員への教育・訓練が徹底されていなければ、普通の人間に適切な対応はできないのが普通だ。個人の才能任せは、余りに酷だ。おそらく安全管理の教育・訓練は不十分だったであろう。
それでも、朝日新聞が指摘している通り、直ちに排水ポンプを止めなかったのは現場責任者の過失であろう。吸引力が「子どもが吸い込まれるほど」とは、現場責任者も監視員も認識していなかったと思われるが、責任者としては過失責任を免れない。
こういう突発事故の場合、現場職員の対応について、突けば材料はいくらでもあるのものだ。突発事態に、直ちに適切に対処行動できる人間は、少ないものだ。
◇問題の主因は構造欠陥にある
今回のように、排水口の吸引力が人命を奪うほど強いものならば、そして格子柵にこれほどの安全上の重要性があるのならば、格子柵は耐久寿命が永いものでなければいけない。設計時点の安全認識に問題がある。
表面にフタをはり付けるような今のボルト付けは、余りに安易にすぎる。用水路やため池の樋ひ を見れば、厚い鉄板をはめ込むようになっている。コンクリート構造物に鉄の枠を埋め込み、その枠に厚い鉄板を上から下にはめ込む構造だ。ため池の場合は、この鉄板を上下させて調整排水する。
この構造をプールに適用すれば良い。プールはコンクリートの箱だ。その壁の排水溝の部分を強化して、排水口の格子板を上下移動できるはめ込み式にするべきだった。
◇いわば欠陥商品だ
パロマのガス瞬間湯沸かし器の製品欠陥に起因する死亡事故が、最近話題になっている。このプールの排水口の安全柵は、耐久力が余りに弱い。安全に関する重要性に比して、耐久力が余りに貧困だった。いわば欠陥商品だ。
こういうことについて、現場職員にすべての責任を負わせて事足れりとすならば、同様の事故はどこかの場所で再発するだろう。