■■【経営コンサルタントのお勧め図書】 実践「アメーバ経営」 管理会計を超えた稲盛流経営術
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■■【経営コンサルタントのお勧め図書】
『実践「アメーバ経営」』
(稲盛和夫 京セラコミュニケーションシステム著 日本経済新聞出版社)
■ 管理会計を超えた経営管理の優れもの「アメーバ経営」(はじめに)
「アメーバ経営」は、「京セラ会計」として管理会計の世界でよく知られた手法に「京セラ会計」を支える経営管理・組織・哲学・戦略を加えたものです。
京セラの創始者であり、紹介本の著者でもある稲盛和夫氏が、本来、京セラの企業機密である管理会計手法と、その管理会計手法が円滑に運用される基盤としての経営管理手法を、多くの中小企業のために、2000年前後に社外に公開したことが、「京セラ会計」が世に広まる契機となりました。700社以上の企業が京セラ傘下のコンサルティング会社の指導により導入し、業績を飛躍的に伸ばしています。
「京セラ会計」は管理会計の教科書に必ず載るポピュラーな管理会計手法になりましたが、「京セラ会計」のテクニックを学んでも、それが確実に企業の業績を伸ばすツールになるとの確信を持てませんでした。皆さんはどうですか。私はそうでした。
その原因がこの紹介本を読んでよく解りました。それは「京セラ会計」の裏の見えないところに流れている会計実践者の心の内を知らないからです。まさに“心を作ること”、それが「アメーバ経営」と言われる経営管理手法の神髄であり、「京セラ会計」を優れた管理会計ツールにする基盤なのです。
紹介本を通じ、また、JALの再建成功(注)という偉大な事実を通じ、「アメーバ経営」の底力を次項で見てみたいと思います。
(注)JALは2010年1月に会社更生法の適用申請。申請直後の2010/3期の営業利益は▲1,337億円。2012年9月に再上場。再上場直前の2012/3期の営業利益は2,049億円の黒字。約2年余りの再建期間で、3,349億円の採算改善を成し遂げた。
■ 優れもの「アメーバ経営」の“神髄”
【JAL再建成功で立証された「アメーバ経営」の底力】
著者は、JALが短期間のうちに再生会社から高収益企業に生まれ変わった要因として次の5つの要因を挙げています。
「①新たな経営理念の確立②フィロソフィーをベースとした意識改革③アメーバ経営の導入④「人のため、世のため」という思いの共有⑤トップの無私の姿勢」の5つです。
これは「アメーバ経営」そのものの導入といってよいでしょう。京セラの経営理念は「全従業員の物心両面の幸福(しあわせ)を追及すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」です。JALで再建に当たり導入した経営理念は「全社員の物心両面の幸福を追求すること」でした。「公的支援を受けた企業」の経営理念にはふさわしくないと批判を浴びながらあえて導入したのは、社員一人一人の幸福なしに何事も進まないことを著者はよく理解していたからでしょう。ここに「京セラ会計」の基本が有ります。
京セラでは、経営理念に現わされた経営目的を実現するための行動指針として、また素晴らしい人生を送るための考え方の基準として「京セラフィロソフィー」があり、一つの手帳としてまとめられています。JALにおいても「JALフィロソフィー」を作り、社員一人一人とのコミュニュケーションの場を作り、「JALフィロソフィー」の浸透とそれによる意識改革を図ったのです。
「全社員の幸福」の次には「世のため、人のため」という考え方をお互いに共有しようとし、本来ならば経営理念の中に一緒に織り込んでも良いものを、あえて二つに分けて、優先順位を明らかにしたのです。最後に経営者・リーダーのあるべき姿勢を強調しているのです。ツールとして導入した「アメーバ経営」それは「京セラ会計」そのものです。
以上見て来ました様に、稲盛流経営、アメーバ経営をJALの再建に全面的に取り入れたのです。結果はご存知のように、再建企業JALが、超優良企業に生まれ変わっていったのです。「京セラ会計」というツールと、そのツールを活性化させる経営管理・戦略が相伴った「アメーバ―経営」の底力を、目の当りに見ることができるのではないでしょうか。
【「考え方」こそが人生・経営を左右する】
著者は、経営について次のような公式を持っています。
人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力
JAL再建に当たってもこの公式を全面的に導入しました。その中でも特に「考え方」が大切と著者は主張します。その考え方はまず「プラスの考え方」でなくてはならないとします。次に、具体的な経営者的「考え方」は、全社員との家族のような関係の構築、経営者意識を持った人材の育成、独立採算意識を浸透させるためのアメーバ組織と収益状態を管理するツール(「京セラ会計」)の導入、アメーバ組織間の利害対立の解消、全社員の会社経営への参画であるとします。
このような考え方に、アメーバ経営の神髄を見ることができるのではないでしょうか。
【「アメーバ経営」で時間を捉えることの意味】
アメーバ経営の会計管理ツール「京セラ会計」では、他の管理会計にはない特徴的概念として“時間概念”が取入れられています。
「京セラ会計」の一つの目的に、生産性・採算性の向上が有ります。「アメーバ組織の生産性・採算性を計る尺度として、一般的な純利益を使うと、一人一人の労務費・給与がつまびらかになり、組織のメンバーの目が、労務費・給与に向き、本来の活動に濁りが入ってしまう。これを避けるためにアメーバ組織の採算を、一時間当たり純利益という指標で見る」と著者は説明します。加えて、アメーバ―組織間での、時間当たり純利益を比較することで、共通の尺度で比較でき、アメ-バ組織間の比較・競争・改善にプラスに働くとします。
“時間概念”は「京セラ会計」の一つの特徴ですが、この他、アメーバ組織間での売買価格、間接部門コストの配賦などの仕組みの構築、仕組みの情報システム化などに相応のコストがかかりますが、それを大きく上回る、生産性・採算性の向上と、経営への全員参加や社員の意識変革などのメリットが得られると著者は強調します。
【その他の「アメーバ経営」の優れているポイント】
他にも京セラ会計の「7つの会計原則」「従業員をやる気にさせる7つの鍵(経営者の役割)」等、著者の実体験から生まれた知見が紹介されています。詳しくは紹介本をお読みください。
■「アメーバ経営」の導入で企業は生まれ変わるか(むすび)
倒産上場企業が再上場出来た過去の実績は6.5%という厳しい数字が有ります。そのような難題であるJAL再建・再上場が、再建計画を上回る成功に至ったカギについて、JALの再建に携わった企業再生支援機構(現地域経済活性化支援機構)の企業再生支援委員長の瀬戸英雄弁護士(瀬戸氏自身も倒産企業の再建のベテラン弁護士として、JAL再建成功のもう一つのカギと評価されている)は、「稲盛和夫氏を招聘できたこと」であると述べています(「JAL再生〈引頭麻実著 日本経済出版社〉」より引用)。
紹介本や上記で引用した「JAL再生〈引頭麻実著〉」を通読し、JAL再建・再上場成功の中で果たした稲盛流「アメーバ経営」の力に、驚きの念を禁じえません。
「アメーバ経営」の導入により企業に変革をもたらすには、管理会計ツールの裏にある経営管理・変革の努力が不可欠であることを痛感するのです。この努力をする覚悟無しでは、管理会計ツールの導入効果は皆無に等しいと痛感するのです。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
http://sakai-gm.jp/
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
長い経営コンサルタント経歴の基、書かれたページで、経営コンサルタントになるひとの60%ものの人が目を通しています。