ごっとさんのブログ

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セルロースナノファイバー 木材生まれの夢の素材

2017-05-05 10:39:05 | 化学
最近、セルロースナノファイバー(CNF)が色々な分野で注目を集めているようです。

CNFはその名の通りセルロースですので、原料は木材であり豊富に存在しています。CNFは幅が数ナノメートルという髪の毛の1万分の1ほどときわめて細いものですが、この繊維は鋼鉄の5分の1の軽さで、強度は5倍以上とされています。

しかしこれは人間が作り出したものではなく、植物自身によって作られていますが、非常に硬く複雑に絡み合った構造となっています。従ってこれからほぐして取り出すのが非常に難しく、1990年代では高温、高圧で非常に大量の薬剤を必要としていました。

ですからコストがかなりかさみ、例えば1キログラムの価格として、鉄鋼50~200円、アルミニウム合金400円、プラスチック200~1,000円に対してCNFは5,000~10,000円と高いものになっていました。

それが2002年東京大学のグループが、マイナスの電荷を持たせる特殊な薬品を入れ化学反応をさせる方法を開発しました。これはマイナスの電荷を帯びた繊維同士が互いに反発しあうことで、繊維が勝手にほぐれていったのです。この方法によりコストも1,000円程度まで下がり、他の素材との競争も可能となっていきました。

CNFの特性としては軽くて強い、チキソ性を持つ、表面積が広いなどが上げられるようです。紙もCNFも同じセルロースからできていますが、紙は繊維が細かく分解していないため、繊維同士の結合点が少なく隙間が多いため強度が出ません。一方CNFはナノサイズまでに細かく分解されているため、結合点の数が数万倍も多くなるため強度が増すとされています。

このための産業応用の一つが自動車のボディとして車を軽量化し、燃費の向上につなげようというものです。しかしそのまま乾燥・固形化すると収縮したり形がゆがんでしまう欠点がありました。そこで京都大学を中心に収縮しにくいプラスチックを混ぜる方法に取り組みました。

しかしCNFはグルコースという親水性の物質ですが、プラスチックは油に溶ける親油性と全く逆の性質を持っています。そのためCNFの水酸基(OH)の一部を油に溶けやすい性質の物質に置換することで均一化に成功しました。こうした手法により車のバンパーやドアへの応用が検討されているようです。

またチキソ性(この点は省略します)を利用したボールペンのインクへの応用など、今後広い用途への展開が期待されているようです。現在どこまで実用化が進んでいるのかわかりませんが、色々な新しい分野にも応用できそうな面白い素材といえそうです。