ごっとさんのブログ

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難治性ガンの治療薬を開発

2017-05-13 10:45:21 | 健康・医療
九州大学と東京大学、理化学研究所の研究チームが、難治性のガンに対する阻害剤を発見したことを発表しました。

難治性ガン細胞の生存や転移に重要な役割をしているタンパク質を突き止め、この働きを阻止する化合物を見つけました。チームが研究対象としたのは、変異したガン遺伝子を持つガンで、膵臓ガンのほとんどや大腸がんの約5割で見られるなど、ガン全体の3分の1で確認されています。

こういったガンに対しては、有効な治療薬は開発されておらず、難治性となっています。これまで変異遺伝子を持つガンの増殖や転移には、細胞の形態変化を促す分子「RAC」の活性化が原因であることが分かっていました。

これに関連したRas遺伝子というものがありますが、これは正常細胞においては分子スイッチとして機能しており、細胞外から刺激を受けたときのみ活性型に変化し、増殖や生存といった細胞活動を支える働きをしています。

ところが変異によって常時活性型になると、ガン細胞は細胞外から栄養分の取り込みを増進させ、低栄養条件下でも生存・増殖ができるように変化します。さらに周辺組織に浸潤し、血管やリンパ管を介して遠隔転移するようになります。

これまでの研究からRasによって誘導されるガンの悪性化には、RACの活性化が必要であることが知られていましたが、その活性化に関わる分子については不明でした。このRACの性質上、これをコントロールする薬の開発は難しいことから、RACを活性化させている分子を見つけることが課題でした。

研究チームはRACに関係する多数の分子のうち、DOCK1というタンパク質に注目しました。このDOCK1を発現しないように遺伝子操作をしたところ、ガン細胞の周辺組織への浸潤や、細胞外からの栄養源の取り込みが低下し、ガン細胞の生存度が低下することが確認できました。 

このことから研究チームはDOCK1がRACの活性化に大きな影響を与えている分子と判断しました。このDOCK1の活動を抑えれば、RACの活性化を妨げると考え、約20万種の化合物をスクリーニングしました。その結果活性を示す化合物の最適化を行いました。

ちなみに私の専門は、こういった活性化合物の類似化合物を合成し、最適化していくというのが最も得意とする分野です。こうしてDOCK1の活動を阻害するTBOPPという化合物を見出しました。これをガン細胞を移植したマウスに投与したところ、転移や腫瘍の増大が抑えられ、明白な副作用もなかったようです。

このようにこれからの抗ガン剤というのは、単にガン細胞を殺す薬剤ではなくある特定のタンパク質の阻害剤などが、副作用のない薬として出てくると思われます。