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身近なものにも意外と多い「毒」のはなし

2022-11-14 10:39:56 | 化学
上野の国立科学博物館で特別展「毒」が開催されており、ここでは250点以上の毒が展示・紹介されているようです。

毒の定義は「人間に害を及ぼす物質」ですが、怖い感じがある反面何となく興味をひかれるところがあるのではないでしょうか。

私は有機化学を専門として、新しい医薬候補化合物を合成し探索する仕事をやってきました。ここで留意すべきことのひとつが「猛毒」を作らないということです。

私が毎日合成している化合物は、それまで世界に存在していない始めての構造を持つ化合物であり、それがどんな性質を持つかは合成して調べて初めてわかるものですので、全く予想はできません。

そのためごく稀にですが、猛毒と呼ばれるような化合物を作ってしまう可能性があります。そこで既存の毒物を全て調べ、特に化学兵器として使われた毒物などについて徹底的に調べて、どんな構造に毒性が出るかを勉強しなければいけません。

そして自分が作ろうと計画している化合物の中から、毒物になりそうなものを排除するという作業を日常的にやっているのです。つまり有機合成研究者は一流の毒物学者といえるのです。

さて身近なものの中にもかなり毒は含まれており、野外に出ればハチやヘビなど毒をもつ動物は多くいます。また草花の中にも毒性を持つものがあり、ヒガンバナやスズランなどにはかなり多く毒が含まれています。毒キノコの中毒のはなしは、一向になくなりません。

またカフェインやアルコールのように大量に摂取すると毒性が出るというものもありますが、私は少量でも危険なものを毒物と考えています。

昔のスイスの医学者が「あらゆる物質は毒である。毒になるかクスリになるかは使う量による」と言っていますが、この辺りはクスリの開発者としては気にしているところではあります。

生物が毒をもつ場合は、「攻め」と「守り」で説明できることが多いようです。主な用途は狩りで、獲物を捕らえ殺したり無力化するために毒を利用しています。一方守りの毒については動きの遅い動物に多く、植物の場合は身体を食べられないようにしたり、重要な生殖器官である花や実を守るために毒を利用することが多いようです。

一方毒のある者同士が互いに身体の特徴を類似させるのはミューラー擬態と呼ばれ、さまざまな系統のハチ類の斑紋などの特徴が似ている現象です。このように毒については、毒のある化合物がなかなか面白いだけでなく、毒をもつ生物にも興味ある現象が多数存在しています。

一説によれば人間は古くから毒を使ったり、ある意味毒にかこまれて生活しているといえるようです。そういった毒を見直すと、何か新しい発見があるのかもしれません。


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