ヴァージニア・ウルフは『自分ひとりの部屋』(A Room of One’s Own)のなかでローマにあるキーツの墓に刻まれた言葉に言及している。墓碑銘を直接引用はしていないが、あの有名な一行だけではなく、墓碑銘全体を念頭に置いて、「才能ある男女こそ、才能についてとやかく言われることをひどく気にする」例として挙げている(以下、引用は平凡社ライブラリー版〔2017年〕の片山亜紀訳による)。ただ、一昨日の記事で述べたように、あの墓碑銘のなかの「ここに、その名前が水に書かれた人が眠る」の一文以外は、キーツの死後、彼の身近な友人たちが考えた文章であり、それはキーツの遺志には必ずしも沿っていない。それはともかく、ウルフがキーツをとても高く評価していたことは間違いない。
『自分ひとりの部屋』第三章では、芸術家本人が自分の精神状態について語るようになるのはおそらく十八世紀になってからで、そのはじまりは多分ルソーだとし、十九世紀になると自意識がたいへん発達し、文筆家が告白録や自伝で心中を語るのは習慣となったと言っている段落で、キーツがカーライルやフロベールとともにそのような例として挙げられている。「自分の死期が迫っても世間は無関心というときに、キーツがどうやって詩を書こうと奮闘していたのかを、わたしたちは知っています。」(We do know […] what Keats was going through when he tried to write poetry against the coming death and the indifference of the world.)
もう一箇所、ウルフが優れた創作者の特性として挙げる両性具有(androgynous)を備えた詩人としてキーツが挙げられている。
この両性具有とネガティブ・ケイパビリティとは密接に関係していると思う。