内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

追悼=小澤征爾 ― フォーレの『レクイエム』を聴きつつ

2024-02-11 16:09:10 | 雑感

 大江健三郎氏(1935年1月31日生)が昨年3月3日に88歳で亡くなられ、今月6日に同年生まれ(9月1日)の小澤征爾氏がやはり88歳で亡くなられた。私は大江作品の良き読者ではなく、小澤氏の演奏を特に好んでいたわけではなかった。それでも、戦後日本の精神の品位とダイナミズムと志の高さを文学と西洋音楽の分野において世界的なレベルで体現し続けた無二のその偉業を讃えることに躊躇いはない。
 昨年末だったか、滞在先のホテルでテレビを観ていたとき、NHKの2023年クラッシク音楽回顧みたいな番組だったと思うが、小澤氏が総監督を務める「セイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)」(長野県松本市)で9月2日に指揮を振ったジョン・ウイリアムズの演奏の映像が流れた。
 演奏後、舞台袖で演奏を聴いていた小澤氏がウイリアムズの促しで舞台に登場した。その姿に私は胸を突かれた。人に押された車椅子に沈み込むように小さく座った氏は、膝に赤い毛氈を掛け、赤いマフラに白いマスク姿で登場した。その弱々しい姿は痛々しくさえあり、こんな状態なのに無理に舞台上に引きずり出すことはないじゃないかとテレビを観ながら一人憤ったりもした。
 だから、今回の訃報は驚きではなかった。晩年は闘病生活も長く、かつてのような目覚ましい活動はされていなかったが、指揮者・音楽監督としての世界のトップレベルでの長年のご活躍は長く人々の記憶に残るであろうし、日本の西洋音楽の水準を飛躍的に高めたその功績は不朽である。
 今日は、朝から追悼の意を込めて、氏が指揮された作品をずっと聴いていた。氏の演奏はそれほど熱心に聴いてこなかったから、まったく偏狭な個人的趣味から選んで聴いた。
 プロコフィエフ『ロミオとジュリエット』、リムスキー・コルサコフ『シェエラザード』、ホルスト『惑星』、ドボルザーク交響曲第9番「新世界より」、マーラー交響曲第一番「巨人」、フォーレ『ペレアスとメリザンド』、ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』(ピアノ=クリスチャン・ツィメルマン)、チャイコフスキー『くるみ割り人形』、ベートーヴェン交響曲第七番、バッハ『ロ短調ミサ曲』・『マタイ受難曲』。
 そして、心よりの冥福を祈りつつ、フォーレの『レクイエム』を聴きながら、この記事を書いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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