集中講義で学生たちと植物哲学についての拙論を読んでいるが、拙論に引用されている文献の他の箇所を補遺として紹介することがある。例えば、フランスの植物学者フランシス・アレが『植物礼讃 新しい生物学のために』(Éloge de la plante. Pour une nouvelle biologie, Éditions du Seuil, 1999)のなかで silence という名詞や silencieux という形容詞を使っている箇所である。アレはそれらの語に特別な意味を込めて使っているわけではなく、植物は人間のように話すこともなく、動物のように叫んだり鳴いたりすることもなく、自ら声や音を発することなく静かにそこに在るという意味で使っている。ただ、一箇所、とても印象的な使い方をしている箇所がある。
それは « Tout dire sans un mot » と題された章の最初の段落のなかである。
Mai 1997. On voit affiché sur les murs de la ville un portrait de Juliette Binoche pour le parfum Poême de Lancôme. D’habitude les pubs sont débiles mais celle-ci a un côté profondément végétal qui me touche : le visage radieux de Juliette, une petite fiole dorée et, entre les deux, « Tout dire sans un mot… ». Beauté, silence, parfum ; comment mieux exprimer, outre la poésie des plantes, leur véritable style de fonctionnement par rapport aux animaux ? Tout dire sans un mot et, ajouterais-je, tout faire sans un geste, voilà une digne introduction à la biochimie des plantes.
1997年に街中に貼られていたランコムのポエムという香水のポスターには、フランスを代表する女優のひとりジュリエット・ビノシュの輝くように美しい顔と当の香水の金色の小瓶との間に « Tout dire sans un mot… » というコピーが置かれていた。「一言も言わずにすべてを言い尽くす」。美、沈黙、香水。これらが人間を含めた動物たちに対してどのように働きかけるかを植物の詩学以上に見事に表現できるだろうか。このコピーに、 « tout faire sans un geste » (身動きひとつせずにすべてを為す)とアレは付け加える。そして、この二つのコピー相まって植物の生化学にふさわしい序の言葉になっていると言う。
なんともオシャレな導入ではありませんか。
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