集中講義にかぎらないが、授業で考察の対象として取り上げているテーマに関連して学生たちにあれこれと参考文献を紹介するのは、文系の大学教師にとって別に珍しくもなんともないことである。
この問題についてさらに広く深く考えるには、これとこれは少なくとも読んでおく必要がありますよという教育的配慮からいくつかの文献を紹介するのが主な目的だが、話しているうちに、ああそう言えばこんな本もあったなとその場の思いつきで追加して紹介をすることも少なくない。
そのような場合、もとの問題とはかけ離れた分野の本を紹介することもあり、そのような紹介があれからこれへと連鎖的に続き、しかも自分たちにはまったく未知の本であるとき、紹介された学生の方では、興味は持つものの、いったいどこに連れて行かれるのかと不安にもなり、頭がクラクラしてしまうこともあるようである。「まあ、興味があったら読んでみてください。みなさんがなにか問題を考えるとき、あるいは論文を書くとき、どこかでヒントになるかも知れませんよ」と必ず付け加えはするが。
今日の演習では、フランシス・アレがいう植物の「沈黙」に特に興味をもった学生に、マックス・ピカートの『沈黙の世界』(みすず書房、1969年。新装版2021年)とアラン・コルバンの『静寂と沈黙の歴史 ルネサンスから現代へ』(藤原書店、2018年)を紹介しておいた。
この二冊にかぎらず、紹介された本を読むかどうかはまったく学生たちの自由だが、彼女ら彼らの読書網が広がり、その網目が細かくなり、網に掛かってくる本も自ずと増え、その網の結び目にほかならない自分の精神がそれだけ豊かに広がりと奥行きをもつようになるであろう素晴らしい本たちを、たとえありがた迷惑だと思われても、紹介し続けたいと思っている。
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