今日の記事、カテゴリーとしては「私の好きな曲」のなかに入れましたが、実のところは、私の好きな演奏、いや、つい最近好きになってしまった弦楽四重奏団の話です。
自分で選曲せずにストリーミングで受動的に聴くことの利点は、曲と演奏家たちに先入観なしに出会えることです。直前の曲は、別の作曲家の作品の別の演奏家の演奏ですから、いつも「出会いは突然に」やってきます。
エスメ弦楽四重奏団との出会いもそうでした。曲はチャイコフスキーの弦楽四重奏曲第一番第二楽章「アンダンテ・カンタービレ」。曲が流れ始めてすぐに、ただ直感的に、「ああ、これはいい演奏だ」と感じたのです。今日の記事のタイトルにも使った言葉ですが、たおやかで凛としているのです。曲を慈しみ、丁寧に織り上げられた上等の絹織物のような演奏、と言ったらいいでしょうか。
演奏を堪能してから、エスメ弦楽四重奏団についてネットで検索してみました。2016年にケルン音楽大学で結成された韓国出身の女性四人組で、2018年にはウィグモア・ホール国際弦楽四重奏コンクール優勝をはじめ四つの賞に輝くなど、ヨーロッパ各地のコンクールで高い評価を得ているとのこと。この四人、幼なじみなんだそうです。
楽団名の Esmé は、フランス語の女性名にあり、もともとは英語名から来ています。さらに語源を辿ると、ラテン語の amatus にまで遡り、その意味は「神々に愛されたる者」です。彼女たちはまさに音楽の女神に愛されているのかも知れませんね。
本曲が含まれるアルバムには、まずモーツアルトの『不協和音』が収録されており、これもとても良い演奏です。チャイコフスキーの後には、朝鮮半島伝統の二胡であるヘグム(奚琴)の名手スヨン・リューが、2016年にクロノス・クァルテットのために書いた「Yessori」という曲の弦楽四重奏版が最後に収録されています。この曲、今回はじめて聴いたのですが、深い情念がこもっていて不思議な魅力をもった曲ですね。演奏も秀逸です。
彼女たちのデビュー・アルバムは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第一番、英国の作曲家フランク・ブリッジ(1879‐1941)の「3つのノヴェレッテ」、そしてドイツで活躍する韓国の女性アーティスト陳銀淑(チン・ウンスク)による前衛的な作品という、個性の全く違う三曲によって構成され、いずれも秀演。ナクソス・ジャパン提供の紹介記事には、「高い技術力と豊かな歌心に支えられた、丁重な表現が彼女たちの持ち味。若々しさと奥深い音楽、個性的な魅力に溢れた素晴らしいアルバム」とありますが、決して誇張ではないと思います。
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