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晩期資本論(連載第14回)

2014-12-01 | 〆晩期資本論

三 搾取の構造(3)

労働力は、売買契約で確定された期間だけ機能してしまったあとで、たとえば各週末に、はじめて支払いを受ける。だから、労働者はどこでも労働力の使用価値を資本家に前貸しするわけである。

 労働力という商品の売買の特殊性を言い表す命題である。ここでマルクスが挙げているのは週給の例であるが、月給であれば報酬の支払は月末であるから、労働力の使用価値は一月近くも前貸しされることになる。マルクスは、もう少し抽象化して、「労働者は、労働力の価格の支払を受ける前に、労働力を買い手に消費させるのである、したがって、どこでも労働者が資本家に信用を与えるのである。」とも言い換えている。

労働力の消費過程は同時に商品の生産過程であり、また剰余価値の生産過程である。労働力の消費は、他のどの商品の消費とも同じに、市場すなわち流通部面の外で行なわれる。

 『資本論』の根本命題である剰余価値論につながる重要な中間命題である。簡単に言えば、資本は労働力を使って商品を生産し、その過程で付加価値を生み出す。資本主義にとっては至極当たり前のことを言っているだけだが、この関係に巧妙な搾取の構造を読み取ろうとするのが、『資本論』の主題である。

労働とは、まず第一に人間と自然とのあいだの一過程である。この過程で人間は自分と自然との物質代謝を自分自身の行為によって媒介し、規制し、制御するのである。

 マルクスは独自の剰余価値論を展開するに当たり、いくつか基本的な概念規定を行なっている。ここでは、まず労働一般の定義が示される。それによれば、労働とは人間と自然との媒介である。しかも、それはミツバチの受粉のような動物的な本能による媒介行為ではなく、自分自身の合目的的な意志に基づく意識的な行為である。

労働過程の単純な諸契機は、合目的的な活動または労働そのものとその対象とその手段である。

 労働過程の三つの要素、すなわち労働それ自体と、その対象、手段が区別される。これらは労働過程を分析するうえでの基本的な要素ともなる。

労働手段とは、労働者によって彼と労働対象とのあいだに入れられてこの対象への彼の働きかけの導体として彼のために役立つ物またはいろいろな物の複合体である。労働者は、いろいろな物の機械的、物理的、化学的な性質を利用して、それらのものを、彼の目的に応じて、ほかのいろいろな物にたいする力手段として作用させる。

 労働対象には、土地・水のような天然資源とそれに人間が手を加えた原料とがあるが、労働手段は労働対象に働きかけてそれを種々の製品に加工するための用具である。労働手段は時代によっても変遷があり、「労働手段は、人間の労働力の発達の測定器であるだけではなく、労働がそのなかで行なわれる社会的諸関係の表示器でもある」。すなわち、労働手段を見れば、その社会の構造も見えてくる。

この全過程(労働過程)をその結果である生産物の立場から見れば、二つのもの、労働手段と労働対象とは生産手段として現れ、労働そのものは生産的労働として現れる。

 生産物の観点から遡ってまとめれば、労働手段と労働対象という二種の生産手段を用いて、生産的労働が行なわれることで生産物が完成する。ただし、これはマルクス自身が注記するとおり、一般論にとどまり、資本主義的生産過程の特殊性を踏まえた規定とはまだなっていない。

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