「悲惨な犯罪を防ぐことと小泉“所得格差拡大”改革(2005年12月03日)」と「子どもの命は「超高コスト社会」で守る(2005年12月05日)」の続きですが、近藤克則氏(日本福祉大学社会福祉学部教授)の「健康格差社会-何が心・社会・健康を蝕むのか-」月刊保団連2005.11)からいくつかのデータや主張を紹介してみます。
この論文の詳細は『健康格差社会 何が心と健康を蝕むのか』(近藤克則 医学書院 2625円)に記されているようですが、まだ入手していないので「内容紹介」を引用しておきます。
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豊かな日本でなぜ? 健康社会実現のヒントに満ちた1冊
心と社会と健康はつながっている。近年、そんなエビデンスが蓄積されている。本書では、わが国でも広がる「健康格差」に注目。ゆき過ぎた経済格差社会は「負け組」だけでなく「勝ち組」の健康までも悪化させること、また人間同士の温かなつながりや信頼、安心感が健康を促進させる事実を、社会疫学の理論と実証データで示した。心の病いが増加する現代において、健康社会実現のヒントに満ちた1冊。
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以下は、上記論文よりいくつか目についた部分の引用です。
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●所得階層別の要介護高齢者の割合
男女とも、全ての年齢層で、最低所得者層が最も要介護者が多い。
全体で
最高所得者層 3.7%
最低所得者層 17.2%
と、5倍もの開きがある
●高齢者における所得階層別の抑うつ群の割合
最低所得者層と最高所得者層の格差は
男性で6.9倍
女性で4.1倍
●検診受診と社会経済的地位の関係(男性 所得を3区分して比較)
検診を受診していない者
高所得者層 16.1%
低所得者層 24.1%
教育年数13年以上 14.5%
教育年数6年未満 34.6% ←2.5倍に増える
●1日歩行時間が30分未満と運動量の少ない者も、喫煙者も、社会的地位の低い者に多い。
●国際的な経験で、医療費の自己負担が増えると、不要な受診だけでなく適正な医療も抑制することが、貧しい人々に特に顕著に作用することが明らかになっている。
●心理的ストレスは最底辺層だけでなく、より高い層に比べて「相対的に低いこと」によっても増える。
リストラからまぬがれた者
「次は自分かもしれない」という心理的ストレス
「自主的な」長期間労働など
●「効率」偏重の経済政策の限界
ここ10年間日本で追求されてきたことを表すキーワードは
「景気回復」「経済成長」「小さな政府」「競争」「効率化」
これらのために、社会経済格差の拡大は必要悪として容認されてきた
それが「幸福」をもたらすと信じられていたから
↓
しかし現実は
「体感治安の悪化」「自殺」「うつ」「過労死」「長期間労働」「単身赴任」「(父親不在で)育児不安を抱える母親」「老後の不安」「将来に希望が持てない若者・ニートの増加」など
これらは社会経済格差の拡大と無縁のものだろうか
「いま以上の格差拡大」がより多くの人々に「幸福」をもたらすものか
ヨーロッパなどの前例から、むしろ格差を是正し、安心感を高める社会政策拡充の方向へと舵を切る方が「幸福」になる人は多いのではないか
人間的な労働条件を守るルールの下で競争し、生み出した富の再分配を強化するような労働政策・社会(保障)政策を拡充すべき
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#紹介は以上ですが、現在の小泉改革の目指す方向性が何をもたらすのか、いや、すでに何をもたらしたのか、私たちが認識している以上に過酷な現実が各種調査を通してきっちりと提示されています。全体として、アメリカ型市場経済かヨーロッパ型の社民政策かという方向性で考えれば、より後者に近い方が国民の「総幸福」(ブータン)は増加するという考えで、医師会や保険医協会が主張してきた方向性と一致します。「大きな政府か小さな政府か」などという中身を伴わないキャッチコピー的な二者択一論に惑わされているうちに、国民の「総幸福」はどんどん低下し、犠牲者は増え続けています。そして、いま議論されている“医療改革”なるものでそれに拍車がかかることは間違いありません。
![](https://www.igaku-shoin.co.jp/cover/0013800.gif)
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豊かな日本でなぜ? 健康社会実現のヒントに満ちた1冊
心と社会と健康はつながっている。近年、そんなエビデンスが蓄積されている。本書では、わが国でも広がる「健康格差」に注目。ゆき過ぎた経済格差社会は「負け組」だけでなく「勝ち組」の健康までも悪化させること、また人間同士の温かなつながりや信頼、安心感が健康を促進させる事実を、社会疫学の理論と実証データで示した。心の病いが増加する現代において、健康社会実現のヒントに満ちた1冊。
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以下は、上記論文よりいくつか目についた部分の引用です。
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●所得階層別の要介護高齢者の割合
男女とも、全ての年齢層で、最低所得者層が最も要介護者が多い。
全体で
最高所得者層 3.7%
最低所得者層 17.2%
と、5倍もの開きがある
●高齢者における所得階層別の抑うつ群の割合
最低所得者層と最高所得者層の格差は
男性で6.9倍
女性で4.1倍
●検診受診と社会経済的地位の関係(男性 所得を3区分して比較)
検診を受診していない者
高所得者層 16.1%
低所得者層 24.1%
教育年数13年以上 14.5%
教育年数6年未満 34.6% ←2.5倍に増える
●1日歩行時間が30分未満と運動量の少ない者も、喫煙者も、社会的地位の低い者に多い。
●国際的な経験で、医療費の自己負担が増えると、不要な受診だけでなく適正な医療も抑制することが、貧しい人々に特に顕著に作用することが明らかになっている。
●心理的ストレスは最底辺層だけでなく、より高い層に比べて「相対的に低いこと」によっても増える。
リストラからまぬがれた者
「次は自分かもしれない」という心理的ストレス
「自主的な」長期間労働など
●「効率」偏重の経済政策の限界
ここ10年間日本で追求されてきたことを表すキーワードは
「景気回復」「経済成長」「小さな政府」「競争」「効率化」
これらのために、社会経済格差の拡大は必要悪として容認されてきた
それが「幸福」をもたらすと信じられていたから
↓
しかし現実は
「体感治安の悪化」「自殺」「うつ」「過労死」「長期間労働」「単身赴任」「(父親不在で)育児不安を抱える母親」「老後の不安」「将来に希望が持てない若者・ニートの増加」など
これらは社会経済格差の拡大と無縁のものだろうか
「いま以上の格差拡大」がより多くの人々に「幸福」をもたらすものか
ヨーロッパなどの前例から、むしろ格差を是正し、安心感を高める社会政策拡充の方向へと舵を切る方が「幸福」になる人は多いのではないか
人間的な労働条件を守るルールの下で競争し、生み出した富の再分配を強化するような労働政策・社会(保障)政策を拡充すべき
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#紹介は以上ですが、現在の小泉改革の目指す方向性が何をもたらすのか、いや、すでに何をもたらしたのか、私たちが認識している以上に過酷な現実が各種調査を通してきっちりと提示されています。全体として、アメリカ型市場経済かヨーロッパ型の社民政策かという方向性で考えれば、より後者に近い方が国民の「総幸福」(ブータン)は増加するという考えで、医師会や保険医協会が主張してきた方向性と一致します。「大きな政府か小さな政府か」などという中身を伴わないキャッチコピー的な二者択一論に惑わされているうちに、国民の「総幸福」はどんどん低下し、犠牲者は増え続けています。そして、いま議論されている“医療改革”なるものでそれに拍車がかかることは間違いありません。