踊る小児科医のblog

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新型インフルエンザ:現時点でのまとめと問題点(院内報より)

2009年05月08日 | 新型インフルエンザ
● 「新型」インフルエンザ 状況に応じた現実的対応を

 政府やマスコミは国民に対して「冷静に対応を」と呼び掛けていますが、その言葉はそのまま政府やマスコミに返すべきでしょう。大事なポイントをきちんと踏まえて「現実的で冷静な対応」をしていく必要があります。

 この原稿を書いている時点(5/7)で、メキシコ・アメリカから始まった「新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)」は世界各国に広がり、感染者は二千人を超え(※)、パンデミックの警戒レベルを5から6(世界的流行)に引き上げることが検討されているようです。

 一方、国内では公式には感染者ゼロの状態を2週間近く維持していますが、無症状で検疫をすりぬけ、ごく軽症で終わったため診断されずに持ち込まれる(あるいは既に持ち込まれた)可能性は大きいと考えた方がいいでしょう。

 ※メキシコの感染者はおそらく数万人のレベルであったと推測されますが、すでにピークを過ぎて終息に向かっていると伝えられています。

 この問題に関しては、新しい情報や意見などをブログに掲載しておりますので、興味のある方はご覧下さい。RSSをご自分のブラウザやRSSリーダなどに登録しておくと、最新の情報が自動的に更新されます。ただし、状況は時と共に変化しているので、政府やマスコミだけでなく、この院内報を含めて私が書いたこともその後ずっと正しいとは限らないことを踏まえて判断して下さい。

◆ 弱毒性・抗インフルエンザ薬への耐性なし

 最も重要なことは「ウイルスの病原性はどの程度なのか?」ということで、国内外の専門家もその点を繰り返し伝えていますが、マスコミは第1例の有無や空港での検疫騒ぎなど偏った報道に終始しています。以下に説明します。

◆ 大切なポイント

◎ 病原性:「弱毒性」=季節性インフルエンザ(死亡率0.1~0.3%)と同じかやや強い(~0.5%程度)けれども、想定していたトリインフルエンザによる新型インフルエンザ(死亡率2%)よりかなり弱いと考えられています。ここが一番のポイントで、それによって私たちの対処の仕方も変わってきます。

◎ 合併症:「肺炎」=トリインフルエンザでみられる全身感染による激烈な症状(サイトカインストームと称される)や、A香港型で特に乳幼児に発生する「脳炎・脳症」などはほとんど見られておらず、重症化したり死亡したりしているのは慢性の病気など元々リスクの高い人が主となっているようです。

◎ 感染性:「普通(強い)」=季節性インフルエンザと同程度(感染性は「強い」という意味)か、それよりもやや弱めかと考えられています。

◎ 感受性者:「多い」=ほぼ全ての人が免疫をもたず、ウイルスの曝露(ばくろ)があれば感染する可能性があります。ただし、従来の「季節性」と違って高齢者の患者や死亡例が少なく若年者が主であるということが特徴的です。

 感染症が発症するには、ウイルスへの曝露(その程度が濃厚か希薄か)、局所における感染、免疫機能による排除(免疫がある場合)または発症(免疫がない場合)という段階を経ます。また、ウイルスによっては感染しても症状が出ない「無症候感染」もありますが、このウイルスに無症候感染があるかどうかはわかっていません。更に感染が成立しても、体力・免疫力のある人や、漢方薬などで軽症で済むことは通常のインフルエンザと同様と考えられます。

◎ 薬剤耐性:タミフル(経口薬)とリレンザ(吸入薬)に対する耐性は現段階ではなく、効果が認められているようです。シンメトレル(アマンタジン)は効果がないようです(現在ほとんど使われなくなった薬です)。

 以上を総合すると、誰もかかったことがないけれど、もし感染してもほとんどの人は季節性インフルエンザと同じように経過して、薬も効くということであり、これだけを見れば「流行の規模が拡大する可能性はあるけど普通のインフルエンザと変わりないじゃないか」と考えても間違いとは言えません。
 ただし、今後ウイルスが変異して病原性を増したり、タミフル耐性を獲得したり、最悪の場合トリインフルエンザと混合して変異する可能性なども否定できません。

◆ 季節性のインフルエンザと「新型」インフルエンザ

 たとえ弱毒性であっても感染の拡大に伴い、米国で毎年3万人が死亡する季節性インフルエンザと同様に、死亡例の増加が想定されています。

 日本でも毎年1万人前後が季節性インフルエンザで亡くなっていますので、流行が拡大すれば同じように死亡例が出る可能性はあります。その多くは高齢者や慢性の病気を持つ人と予想されますが、数は少なくても乳幼児で合併症を起こさないか注意が必要です。新型と季節性のどちらが怖いかという比較はあまり意味を持ちません。

◆ ワクチンは2つの「優先順位」が大問題

 ワクチンはどんなに急いでも秋以降になります。また、全てを「新型」にしてしまうと「季節性」の流行に無防備になってしまうため、両者をどの程度の割合で製造するかも決まっていません。また、全国民に接種できる量は確保できないので、優先順位をつけて接種することになっていますが、それもまだ決まっていません。大切な2つの優先順位がどちらも決まっていないのです。

◆ マイルド・パンデミック6? 対策を緩め始めたアメリカ

 パンデミックのフェーズが6に上げられることと、米国で「季節性インフルエンザと症状は同程度」と伝えれたこととは、それぞれ別に考えるべきです。

 米国国内では感染者は増え続け、全州に広まろうという勢いですが、国土安全保障長官は「学校で生徒らの感染が1人でも判明したら休校にするよう求める指針を改め、休校を勧めないことにした」と発表しました。最初に流行したニューヨークの高校では、マスクもせずに授業が再開されています。普通のインフルエンザに対する標準的な対処と変わりない状況のようです。

 一方、青森県では県内に1人でも患者が発生すれば「県内すべての学校を休校にする」と報道されています。この辺りでそろそろ頭を冷やすべきで、現実に即した冷静な対応が必要です。

 ただし、流行自体は更に各国に広がり、秋以降の第二波が押し寄せて来ることもあり得るでしょう。感受性者が多いため、感染者は増え続けることになるかもしれません。現状でも「フェーズ6」の条件に近づきつつあります。

 つまり、感染の規模が拡大することと、病原性に応じて対策のレベルを調整することとは別の問題なのです。「マイルド・パンデミック6」という言葉を小耳に挟みましたが、そういう意味での表現だと思います。

 この「新型」は来シーズン以降も「季節性」として居座り続けることになるでしょう。ちょうどA香港型やAソ連型が何十年も流行し続けているように。

◆ トリインフルエンザの脅威は何ら変わっていない

 今回の「新型」インフルエンザの発生によって、おそれていた「新型インフルエンザ」は強毒性のトリインフルエンザではなく、実は弱毒性のインフルエンザだったのかと妙な安心をしてもらっては困ります。

 今回の流行によって強毒性のトリインフルエンザによる「新型」発生の可能性に変化が生じたわけでなく、次の「新型」出現までまた何十年もかかるわけでもありません。サイコロと同じで、最初に何の目が出ようと次の確率が変わるわけではないのです。

 今回の流行によってむしろ「新型インフルエンザは必ず発生する」ことが実証されたわけで、次の「新型」のみならず毎年流行する「季節性」も含めたインフルエンザ対策をとっていく必要性が確かめられたことになります。

 新型インフルエンザ対策とはインフルエンザ対策そのものであり、毎年のインフルエンザ対策ができない国民に新型インフルエンザ対策ができるわけがありません。医療機関での「診療拒否(?)」 問題 が報道されていますが、政府もマスコミも、医療関係者も国民も、現状をきちんと把握して冷静な対応が求められています。

 新たな情報や状況に応じた対応などについては、ブログや院内掲示、次号の院内報などでお知らせしていく予定です。