踊る小児科医のblog

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感染性と病原性(押谷仁先生)

2009年05月09日 | 新型インフルエンザ
押谷仁先生の【ニュース解説】が防災リスクマネジメントWebに掲載されています。大切なポイントをわかりやすく解説してくれていますので是非ご一読下さい。

2009/05/05
【ニュース解説】地域での感染拡大を想定した医療体制作りを
新型インフルエンザの脅威から人々を守るために自治体や医療従事者が今すべきこと
押谷仁 東北大学大学院医学系研究科教授
http://bousai.jiji.com/info/swine_flu/090505_02.html

2009/05/06
【ニュース解説】新型インフルエンザの感染性と病原性(毒性)
押谷仁 東北大学大学院医学系研究科教授
http://bousai.jiji.com/info/swine_flu/090506_02.html

なお、新型インフルエンザA/H1N1情報リンク集(4月28日)を随時更新しておりますのでご参照下さい。

新型インフルエンザ:現時点でのまとめと問題点(院内報より)

2009年05月08日 | 新型インフルエンザ
● 「新型」インフルエンザ 状況に応じた現実的対応を

 政府やマスコミは国民に対して「冷静に対応を」と呼び掛けていますが、その言葉はそのまま政府やマスコミに返すべきでしょう。大事なポイントをきちんと踏まえて「現実的で冷静な対応」をしていく必要があります。

 この原稿を書いている時点(5/7)で、メキシコ・アメリカから始まった「新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)」は世界各国に広がり、感染者は二千人を超え(※)、パンデミックの警戒レベルを5から6(世界的流行)に引き上げることが検討されているようです。

 一方、国内では公式には感染者ゼロの状態を2週間近く維持していますが、無症状で検疫をすりぬけ、ごく軽症で終わったため診断されずに持ち込まれる(あるいは既に持ち込まれた)可能性は大きいと考えた方がいいでしょう。

 ※メキシコの感染者はおそらく数万人のレベルであったと推測されますが、すでにピークを過ぎて終息に向かっていると伝えられています。

 この問題に関しては、新しい情報や意見などをブログに掲載しておりますので、興味のある方はご覧下さい。RSSをご自分のブラウザやRSSリーダなどに登録しておくと、最新の情報が自動的に更新されます。ただし、状況は時と共に変化しているので、政府やマスコミだけでなく、この院内報を含めて私が書いたこともその後ずっと正しいとは限らないことを踏まえて判断して下さい。

◆ 弱毒性・抗インフルエンザ薬への耐性なし

 最も重要なことは「ウイルスの病原性はどの程度なのか?」ということで、国内外の専門家もその点を繰り返し伝えていますが、マスコミは第1例の有無や空港での検疫騒ぎなど偏った報道に終始しています。以下に説明します。

◆ 大切なポイント

◎ 病原性:「弱毒性」=季節性インフルエンザ(死亡率0.1~0.3%)と同じかやや強い(~0.5%程度)けれども、想定していたトリインフルエンザによる新型インフルエンザ(死亡率2%)よりかなり弱いと考えられています。ここが一番のポイントで、それによって私たちの対処の仕方も変わってきます。

◎ 合併症:「肺炎」=トリインフルエンザでみられる全身感染による激烈な症状(サイトカインストームと称される)や、A香港型で特に乳幼児に発生する「脳炎・脳症」などはほとんど見られておらず、重症化したり死亡したりしているのは慢性の病気など元々リスクの高い人が主となっているようです。

◎ 感染性:「普通(強い)」=季節性インフルエンザと同程度(感染性は「強い」という意味)か、それよりもやや弱めかと考えられています。

◎ 感受性者:「多い」=ほぼ全ての人が免疫をもたず、ウイルスの曝露(ばくろ)があれば感染する可能性があります。ただし、従来の「季節性」と違って高齢者の患者や死亡例が少なく若年者が主であるということが特徴的です。

 感染症が発症するには、ウイルスへの曝露(その程度が濃厚か希薄か)、局所における感染、免疫機能による排除(免疫がある場合)または発症(免疫がない場合)という段階を経ます。また、ウイルスによっては感染しても症状が出ない「無症候感染」もありますが、このウイルスに無症候感染があるかどうかはわかっていません。更に感染が成立しても、体力・免疫力のある人や、漢方薬などで軽症で済むことは通常のインフルエンザと同様と考えられます。

◎ 薬剤耐性:タミフル(経口薬)とリレンザ(吸入薬)に対する耐性は現段階ではなく、効果が認められているようです。シンメトレル(アマンタジン)は効果がないようです(現在ほとんど使われなくなった薬です)。

 以上を総合すると、誰もかかったことがないけれど、もし感染してもほとんどの人は季節性インフルエンザと同じように経過して、薬も効くということであり、これだけを見れば「流行の規模が拡大する可能性はあるけど普通のインフルエンザと変わりないじゃないか」と考えても間違いとは言えません。
 ただし、今後ウイルスが変異して病原性を増したり、タミフル耐性を獲得したり、最悪の場合トリインフルエンザと混合して変異する可能性なども否定できません。

◆ 季節性のインフルエンザと「新型」インフルエンザ

 たとえ弱毒性であっても感染の拡大に伴い、米国で毎年3万人が死亡する季節性インフルエンザと同様に、死亡例の増加が想定されています。

 日本でも毎年1万人前後が季節性インフルエンザで亡くなっていますので、流行が拡大すれば同じように死亡例が出る可能性はあります。その多くは高齢者や慢性の病気を持つ人と予想されますが、数は少なくても乳幼児で合併症を起こさないか注意が必要です。新型と季節性のどちらが怖いかという比較はあまり意味を持ちません。

◆ ワクチンは2つの「優先順位」が大問題

 ワクチンはどんなに急いでも秋以降になります。また、全てを「新型」にしてしまうと「季節性」の流行に無防備になってしまうため、両者をどの程度の割合で製造するかも決まっていません。また、全国民に接種できる量は確保できないので、優先順位をつけて接種することになっていますが、それもまだ決まっていません。大切な2つの優先順位がどちらも決まっていないのです。

◆ マイルド・パンデミック6? 対策を緩め始めたアメリカ

 パンデミックのフェーズが6に上げられることと、米国で「季節性インフルエンザと症状は同程度」と伝えれたこととは、それぞれ別に考えるべきです。

 米国国内では感染者は増え続け、全州に広まろうという勢いですが、国土安全保障長官は「学校で生徒らの感染が1人でも判明したら休校にするよう求める指針を改め、休校を勧めないことにした」と発表しました。最初に流行したニューヨークの高校では、マスクもせずに授業が再開されています。普通のインフルエンザに対する標準的な対処と変わりない状況のようです。

 一方、青森県では県内に1人でも患者が発生すれば「県内すべての学校を休校にする」と報道されています。この辺りでそろそろ頭を冷やすべきで、現実に即した冷静な対応が必要です。

 ただし、流行自体は更に各国に広がり、秋以降の第二波が押し寄せて来ることもあり得るでしょう。感受性者が多いため、感染者は増え続けることになるかもしれません。現状でも「フェーズ6」の条件に近づきつつあります。

 つまり、感染の規模が拡大することと、病原性に応じて対策のレベルを調整することとは別の問題なのです。「マイルド・パンデミック6」という言葉を小耳に挟みましたが、そういう意味での表現だと思います。

 この「新型」は来シーズン以降も「季節性」として居座り続けることになるでしょう。ちょうどA香港型やAソ連型が何十年も流行し続けているように。

◆ トリインフルエンザの脅威は何ら変わっていない

 今回の「新型」インフルエンザの発生によって、おそれていた「新型インフルエンザ」は強毒性のトリインフルエンザではなく、実は弱毒性のインフルエンザだったのかと妙な安心をしてもらっては困ります。

 今回の流行によって強毒性のトリインフルエンザによる「新型」発生の可能性に変化が生じたわけでなく、次の「新型」出現までまた何十年もかかるわけでもありません。サイコロと同じで、最初に何の目が出ようと次の確率が変わるわけではないのです。

 今回の流行によってむしろ「新型インフルエンザは必ず発生する」ことが実証されたわけで、次の「新型」のみならず毎年流行する「季節性」も含めたインフルエンザ対策をとっていく必要性が確かめられたことになります。

 新型インフルエンザ対策とはインフルエンザ対策そのものであり、毎年のインフルエンザ対策ができない国民に新型インフルエンザ対策ができるわけがありません。医療機関での「診療拒否(?)」 問題 が報道されていますが、政府もマスコミも、医療関係者も国民も、現状をきちんと把握して冷静な対応が求められています。

 新たな情報や状況に応じた対応などについては、ブログや院内掲示、次号の院内報などでお知らせしていく予定です。

過剰反応の連鎖

2009年05月07日 | 新型インフルエンザ
過剰反応:政府(特に舛添厚労相)とマスコミ だれも決められた「マニュアル」を実情に合わせて変えられない
過剰反応に対する過剰反応:診療拒否(と称すべきかどうかも問題)
過剰反応に対する過剰反応に対する過剰反応:「医師法違反」(舛添厚労相)

いいかげん頭を冷やすべきでしょう。弱毒性の「新型」インフルエンザに対して、いつまで強毒性の「新型インフルエンザ」を想定した対策で押し通すつもりなのか。

こういうファジーなケースがGW中にでも出てくるということは、前回の(クローズドのMLへの)メールに書いた通りで、こういった対応が出て来ることも、何ら驚くべきことではないし、誰もそれに対する具体的な答えを示そうとしなかった。
というよりも、この国なら絶対こうなるって。。(-_-)

いま流行が残っているのは幸いB型がメインなので八戸では混乱は起きてませんが、もしこれでA型が流行中だったらどうするつもりだったのか。。

水際で防衛線死守(旧日本軍か?)とか、100%の振り分けなんて絶対に不可能なんだから、それを前提にした話をすべきだと思う。国民に対しても医療関係者に対しても。

通常のインフルエンザと同様?

2009年05月02日 | 新型インフルエンザ
楽観視は禁物で、今後の変異など予断を許さない部分はありますが、正直、政府やマスコミが騒ぎ過ぎだと思います。(特に舛添厚労相は不必要に国民の不安をあおっている)
強毒性のトリインフルエンザを想定した対策をそのまま全部やるなんて、馬鹿げてます。
悪い方を想定してスタートすることは正しいとしても。。
状況に応じた対応ということが、出来ない。
昨日のNHK特番でも押谷さんが、対応について今後柔軟に変えていく必要があるかもしれない、といった意味のことを仰ってましたが。。

>オバマ大統領「通常のインフルエンザと同様だった、という結果となる可能性も出てきた」

【新型インフル】予想より脅威低い? 米専門家ら見解浮上
2009.5.2 10:01
http://sankei.jp.msn.com/life/body/090502/bdy0905021003005-n1.htm

 【ニューヨーク=松尾理也】感染拡大の阻止に向け各国が懸命の努力を続けている新型インフルエンザをめぐり、「当初予想されたほどの深刻な脅威ではないのではないか」との見方が1日、相次いで浮上した。結論を下すのは時期尚早だが、未知の部分が残るウイルスについて分析が進んでいるのは明るい知らせといえそうだ。

 AP通信によると、米疾病対策センター(CDC)インフルエンザ予防局長、ナンシー・コックス氏は今回のウイルスについて、限定的な分析結果と前置きしつつ、「1918年に大流行し、多くの死者を出したスペインかぜのウイルスのような強い毒性につながる遺伝子的特性を欠いている」と述べた。

 また、別のインフルエンザ研究者も「新型ウイルスは通常のインフルエンザ・ウイルスと似通っている」と指摘。「特別深刻な脅威であると信じる理由は見あたらない」と述べた。

 対策にあたっている行政側も同様の見方を示し始めている。ニューヨークのブルームバーグ市長は、1日の段階でも同市で発生している感染が、当初の私立高校など数校にとどまっていることを挙げ、「現在のところ、新型インフルエンザはさほど心配する必要はない」と述べた。

 オバマ大統領も同日、「通常のインフルエンザと同様だった、という結果となる可能性も出てきた」と述べた。

 とはいえ、米国は対策の手を緩めてはいない。オバマ大統領は、たとえ毒性が弱いとしても、その後変異する可能性があるとして、「われわれは真剣に対策に取り組んでいる」と強調。コックス局長も「スペインかぜの原因となったウイルスについても未知の部分が多い。毒性については、今後も解明作業が続く」として、安心を戒めた。

過剰反応:県内全校休校?

2009年05月02日 | 新型インフルエンザ
今朝(といっても5/1)の新聞を寝る前に眺めていて驚きました。
。。。
「県内で1人でも新型インフルエンザ患者が出たら県内の全校(小中高)休校にする」というのが25道府県にも及ぶのだと。。
もちろん、我が青森県も含まれてます。。(-_-)
一部では「隣接する都道府県であっても全域を休校にする」方針で、
「最大2か月の休校」を想定する県もあるなど
 ↑↑↑↑↑↑↑
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。。(-_-) 誰がそんなこと要請したか。。

もちろん、パンデミックになったら休校するのは正しい処置です。是非そうして下さい。
自分の学校の足下に火が点いたら、タイミングを見計らって1週間くらい休校にすれば良い。
もし2週間も休めれば子どもは大喜び。
それで流行のピークをやりすごすことができます。。罹患ゼロにすることはできません。

新型インフルエンザ対策とは、通常のインフルエンザ対策そのもの。
ということは、
毎年のインフルエンザ対策ができていない国で、新型インフルエンザ対策が出来るわけがない。

今回の「新型インフルエンザ」は、良い練習問題になりそうです。。

感染研感染症情報センターによるアセスメント

2009年05月01日 | 新型インフルエンザ
国立感染症研究所感染症情報センターよる新型インフルエンザに関するアセスメント(現時点での暫定的なまとめ)が発表になっています。ぜひご一読下さい。
インフルエンザA(H1N1)による流行状況-更新1 2009年5月1日
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009who/09who10.html

詳しくは全文をご覧いただきたいと思いますが、主なポイントとしては、
1)現在、渡航歴のない人への感染が認められているのは、米国〔カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州〕とメキシコの2ヶ国で、カナダ〔ブリティッシュコロンビア州〕では学校から地域への伝播が報告されているが、詳細は不明。
2)症状は季節性のインフルエンザに類似しており、米国例では比較的消化器症状(下痢・嘔吐)を伴っていることが多い(20~25%)。
3)重症例のなかに基礎疾患のある症例が存在することが報告されているが、重症化率、致死率については現在のところ検討できる情報がない。
4)無症候性感染や軽症例には、診断に至るのは非常に難しく、今後感染が広がることも否めない。
5)医療従事者への感染は、標準予防策が徹底されたあとは、みられていないようだ。

数日前に岡部先生(同センター長)もおっしゃっていたように、軽症例からむしろ感染が拡大する可能性が高く、そういうケースの国内侵入を水際で防いだり、早期に診断して封じ込めすることは難しいと思われます。

いつまでこの「国内1例目シロかクロか」で大騒ぎしていられるものか。。

正当にこわがることはむつかしい。

2009年05月01日 | 新型インフルエンザ
ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい。
- 寺田 寅彦 (1935年)

#今回の新型インフルエンザだけでなく、食の安全とか予防接種、タバコの問題などでも同じことが言えますが、この寺田寅彦の格言はそれをよく表現してくれています。下記の安藤先生のまとめサイトに掲載されていて初めて知ったのですが、増田氏のサイトで言及されているように放射線科学者が原発推進擁護のために用いているのはちょっと違うかもしれません(どのような使われ方をしているかは原文では確認していませんが)。寺田寅彦の引用元の文章「小爆発二件」も青空文庫に掲載されていましたので、後で目を通してみたいと思います。

新型インフルエンザ・メモ(安藤@荒川医院)
http://www.cminc.ne.jp/pub/pandemic08.htm

正当にこわがる (4月30日 下野新聞)
http://www.shimotsuke.co.jp/special/raimei/20090430/141826

正当にこわがることはむつかしい。(増田耕一:SFC研究所)
http://web.sfc.keio.ac.jp/~masudako/sayings/fear_ja.html

小爆発二件(寺田寅彦)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2507_13840.html