定め得ることなど何も無い世の中だが、確かなことがひとつある。生まれたら必ず死ぬということだ。幸か不幸か、人は自分が生まれることを選択できない。ましてや、どのような時代にどのような社会のどのような家庭に生まれるかなど選びようがない。自分が生を受けたところで、その生を全うするしかないのである。個人の人生は、その与えられた状況と時間に応じて展開する。自分の裁量の余地というのは、決して大きなものではないような気がする。そう考えれば、出来ることは出来るうちに行い、あるものはあるうちに使う、ということが行動や思考のかなり根幹に近いところに置かれるべき原理原則と言えるのではないだろうか。
映画のほうは、心臓病で余命いくばくもない30代の元ダンサーを軸に展開するが、クレジットによれば、彼の姉が主人公である。夫と別れ、3人の子供を抱え、さらに病気の弟の面倒までみながら社会福祉事務所で働く人だ。物語はこの家族だけでなく、彼等と関わる人々の人生にも少しずつ踏み込む形で展開する。ひとつの作品のなかで、複数の人物の人生を描いてみせるというのは、最近観た「そして、私たちは愛に帰る」でも使われていた手法だ。物語の展開テンポが速くならざるを得ないので、ひとつひとつのサブストーリーの完成度を高くしておかないと作品全体が破綻してしまうが、上手くいけば作品のリアリティが高くなり観客をより強く惹き付けることになる。この作品は大小様々のサブストーリーのひとつひとつが丁寧に作られている上に構成も巧みで、見事な出来映えだ。
全体を通じて、登場人物の誰もが肉体的な人間関係を求めているかのように描かれており、これに違和感を覚える向きもあるかもしれない。しかし、そうした物理的なものへの依存を描くことで、その背後にある空虚な精神が描写されているように思う。そして、その虚無のなかをさすらう人々の姿に現代という時代のリアリティがあるということなのだろう。
例えば、心臓病の弟が、病気の所為で外出がおもうにようにできないと姉に訴え、それに応えて姉が弟の友人たちを呼んでホームパーティーを開くという場面がある。たくさんの客に囲まれて弟も楽しそうにしているが、仲間とショーで踊っていたダンスを踊るところでは、身体が思うように動かなくなってしまう。そこで改めて身体の現実を突きつけられ、かつての仲間たちの世界と自分の現実との断絶を意識させられることになる。別の場面で、大学教授が教え子に一目惚れしてストーカー行為を繰り返すというものがある。幸か不幸か、その教え子とは肉体関係にまで進むのだが、彼女は若い男友達との関係もある。それを知った教授は、おそらく以前にも増して深い孤独を味わうことになる。
挙げればきりがないのだが、人間のありようについての深い洞察を感じさせるエピソードやシーンが盛りだくさんの作品だ。病気の弟の口から語られる独白のような台詞に、製作者のメッセージを感じるのだが、これは冗長に過ぎるかもしれない。
映画のほうは、心臓病で余命いくばくもない30代の元ダンサーを軸に展開するが、クレジットによれば、彼の姉が主人公である。夫と別れ、3人の子供を抱え、さらに病気の弟の面倒までみながら社会福祉事務所で働く人だ。物語はこの家族だけでなく、彼等と関わる人々の人生にも少しずつ踏み込む形で展開する。ひとつの作品のなかで、複数の人物の人生を描いてみせるというのは、最近観た「そして、私たちは愛に帰る」でも使われていた手法だ。物語の展開テンポが速くならざるを得ないので、ひとつひとつのサブストーリーの完成度を高くしておかないと作品全体が破綻してしまうが、上手くいけば作品のリアリティが高くなり観客をより強く惹き付けることになる。この作品は大小様々のサブストーリーのひとつひとつが丁寧に作られている上に構成も巧みで、見事な出来映えだ。
全体を通じて、登場人物の誰もが肉体的な人間関係を求めているかのように描かれており、これに違和感を覚える向きもあるかもしれない。しかし、そうした物理的なものへの依存を描くことで、その背後にある空虚な精神が描写されているように思う。そして、その虚無のなかをさすらう人々の姿に現代という時代のリアリティがあるということなのだろう。
例えば、心臓病の弟が、病気の所為で外出がおもうにようにできないと姉に訴え、それに応えて姉が弟の友人たちを呼んでホームパーティーを開くという場面がある。たくさんの客に囲まれて弟も楽しそうにしているが、仲間とショーで踊っていたダンスを踊るところでは、身体が思うように動かなくなってしまう。そこで改めて身体の現実を突きつけられ、かつての仲間たちの世界と自分の現実との断絶を意識させられることになる。別の場面で、大学教授が教え子に一目惚れしてストーカー行為を繰り返すというものがある。幸か不幸か、その教え子とは肉体関係にまで進むのだが、彼女は若い男友達との関係もある。それを知った教授は、おそらく以前にも増して深い孤独を味わうことになる。
挙げればきりがないのだが、人間のありようについての深い洞察を感じさせるエピソードやシーンが盛りだくさんの作品だ。病気の弟の口から語られる独白のような台詞に、製作者のメッセージを感じるのだが、これは冗長に過ぎるかもしれない。