万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

対ロ制裁の決断-相互依存論の盲点

2014年03月09日 15時25分43秒 | 国際政治
経済制裁に懸念の声=対ロ、難しい選択―EU(時事通信) - goo ニュース
 EUでは、ロシアに対する制裁をめぐり、加盟国間で温度差が見られるそうです。特に慎重な姿勢を見せている諸国は、ロシアとの経済的な結びつきが強い諸国であり、対ロ制裁が自国経済に跳ね返ってくることを怖れているのです。

 平和理論としての相互依存論とは、国家間の経済的関係の密接化が、両国の合理的な経済上の得失の計算から、戦争を防ぐという学説です。つまり戦争が非経済的な行為となれば、戦争に訴える国はなくなると考えるのです。この説に従えば、”平和を実現するためは、積極的に敵対する国、あるいは、国際法を順守しない国とも経済関係を深めよ”ということになるのですが、この説には盲点がありそうです。そして、まさに今回のケースは、この盲点を明らかにしているのです。それは、経済的な相互利益を優先させれば、国際秩序が破壊されかねない事態もある得るということです。ウクライナの政変に関しては、事実関係や背後関係がはっきりしない部分も多く、新政権側にも問題がないわけではありませんが、それを理由に、ロシアによる一方的なクリミア併合に正当性が生じるとは思えません。国連憲章では、まずは平和的な解決手段に訴えることを定めていますので、強引な手法が蔓延しますと、国際社会は暴力の脅威に晒されることになります。相手国が順法精神が欠ける場合、経済的な利益に基づく戦争回避、あるいは、制裁回避が国際社会の法秩序を崩壊させるという意味において、相互依存論は、むしろ、国際社会の安全を根底から覆してしまうのです。この時、平和理論は戦争理論へとあっさりと転じます。

 政経の間の重大な決断を迫られる場面は、将来的には、中国の脅威として再現されるかもしれません。今や中国は世界一の貿易国ですので、何れの国も経済的な利益を”人質”にされています。”政治と経済は別”との意見もありますが、こうした考え方は、危機の先送りでしかないと思うのです。

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コメント (2)
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