10月18日(月曜日)。☀☀(ニース)。午前8時。朝ご飯を食べている間に、3つ目の寄港地ニースに入港。当初の予定ではポルトフィーノの次はイタリアの隣のモンテカルロだったんだけど、モナコが今年いっぱいクルーズ船を受け入れないことにしたので、急遽モナコを通り過ぎて隣のフレンチ・リヴィエラのニースに変更。埠頭近くの建物の色合いがポルトフィーノと同じなのは、同じサルディニア産の石を使っているということかな。イタリアからフランスまで(たぶんスペインまで)、国が違っても、言葉が違ってもあまり違和感がないのは、リヴィエラが古代ギリシャ人の時代から「地中海文化」を展開して来たところだからだろうな。きのうの夜にポルトフィーノを出てから、遠い水平線に沿って人間が住んでいることを示す小さな明かりが一晩中瞬いて見えていたっけ。
今日は5時間のバスツアーで、まずはエズという村。夏はバカンス客で大賑わいだけど、今はひっそり。バスを降りて、頂上の教会を目指して、くねくね、ジグザグと石畳の坂道を登りながら、よくこんなそそり立つようなところに住み着いたもんだと感心。でも、高ければ高いほど遠くが見えるし、地形が険しいほど海からの侵略に備えやすかったのかもしれないな。古代の世界地図では海を囲む国々の向こうはTerra Incognita(ラテン語で「未知の地」)となっていて、豊かな地中海はそれこそ「世界の中心」。経済や社会の覇権競争にしのぎを削ったのは今と同じだったんだろうな。でも、そうやって栄えた地中海文明も、やがて背後の「未知の地」からの脅威に晒されるようになったわけで、歴史ってほんとにおもしろい。
バスに戻って、今度はサンポール・ド・ヴァンスへ。ヴァンスという町にあるアーティスト村で、エズと同じように一番高いところまで、石畳の坂道がくねくね。でも、よく見ると一貫したデザインが見て取れる比較的新しい石畳で、両側はすてきな絵や工芸品、装飾品を売る店がずらり。ウィンドウに飾ってあった画家のサイン入りのコートダジュールの風景画が気に入って、値段も手ごろだったので買おうかな、どうしようかなと散々迷った挙句に、カレシに「飾れる壁がないじゃないか」と言われて断念。ほんどに気持が明るくなるような色合いのすてきな絵だったんだけどなあ。
坂道を歩いてくたびれての船への帰り道は、海岸に沿って延々と続く遊歩道プロムナード・デ・ザングレ。19世紀にこの地に保養にやって来た裕福なイギリス人たちの構想から生まれたから「イギリス人の遊歩道」。ベ・デ・ザンジュ(天使の入江)の名がほんっとにぴったりする、透き通るようなきれいな青い海に面してすてきなホテルがずらりと並んでいて、バカンスシーズンが終わって少し静かになったところだそうだけど、道路を縁取るように並んだおしゃれなレストランやカフェのパティオはけっこうなにぎわい。船に戻ってちょっと遅いランチを済ませて船室でくつろいでいたら、海の方からにぎやかな声。ベランダに出てみたら、わっ、練習をしているらしい赤い帆のヨットの列。目の前の防波堤には釣り糸を垂れている人たちが点々。やがて、燃えるような夕日・・・。