消えゆく公営住宅ガガーリン

このタイトルを見た時、絶対ソ連の宇宙飛行士ガガーリンのことだと思ってしまいました。１９６１年４月１２日、人類初の友人宇宙飛行を…

成功させた人。ちなみにアメリカは直後の５月５日に、初の宇宙飛行士アラン・シェパードが搭乗したマーキュリー計画でのこと。

この辺のことは、トム・ウルフ原作、フィリップ・カウフマン監督「ライトスタッフ」（８３）をぜひ。すごく勉強になります。

さて、冒頭の映画はファニー・リヤタール＆ジェレミー・トルイユ監督「ＧＡＧＡＲＩＮＥ／ガガーリン」（２０）です。ポスターにも月が…。

１６歳のユーリ（アルセニ・バティリ）は、パリ東郊にある赤レンガの大規模公営住宅ガガーリンで暮らしています。宇宙飛行士ガガーリンの…

名前に由来するこの団地で、自分も宇宙飛行士を夢見る一方、かつて自分を置いていった母の帰りを待ち続けていました。ところがある日…

老朽化と２０２４年開催のパリ五輪のため、ガガーリン団地の取り壊しが決定。住人たちの退去が進む中、ユーリは母との大切な思い出が…

詰まった団地を守るため、親友フサーム（ジャミル・マクレイヴン）やディアナ（リナ・クードリ）と解体計画阻止に奔走。果たして？

アルセニ・バティは本作がデビュー作。リナ・クードリは「パピチャ 未来へのランウェイ」（１９）や「フレンチ・ディスパッチ」（２１）、

「オートクチュール」（２１）などに出演のアルジェリア出身の２９歳。監督２人が短編で初めて制作した作品を、長編映画化。注目です。

モノクロで描く故郷ベルファスト

ケネス・ブラナーは王立演劇学校を首席で卒業後、２３歳でロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに参加。多くの舞台に出演し…

最年少で『ヘンリー五世』を演じるなど、天才としての才能を見せつけます。自身でもルネサンス・シアター・カンパニーを設立し…

『十二夜』、『お気に召すまま』、『リア王』、『夏の夜の夢』などを上演。初監督作品「ヘンリー五世」（８９）では、脚本と主演も。

２９歳でアカデミー監督賞、主演男優賞にダブルノミネートされます。シェイクスピア役者としても＜ローレンス・オリヴィエの再来＞と呼ばれます。

ブラナーは、１９６０年１２月１０日北アイルランドのベルファスト出身の６１歳。最新監督作は、自身の半自伝的ドラマ「ベルファスト」（２１）です。

この地は映画でもよく取り上げられていますが、『北アイルランド問題』という長い紛争が背景にあります。しかし、本作は激動の時代に…

翻弄されるベルファストの様子や、少年の成長がテーマ。９歳のバディ（ジュード・ヒル）は、仲の良い家族と友人たちに囲まれ…

映画や音楽を楽しむ幸せな日々を過ごしていました。１９６９年８月１５日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を開始。

バディの完璧な世界は一変します。この日を境に暴力と隣り合わせの日々に。バディと家族たちも故郷を離れるか否かの決断を迫られ…果たして？

両親をカトリーナ・バルフとジェイミー・ドーナンが、ジュディ・デンチとキアラン・ハインズが、ばあちゃん、じいちゃんを演じます。必見！

仮想空間に棲む闇

南アフリカのヨハネスブルグ上空に巨大宇宙船が現われ、エイリアンたちが難民として住み着くというドキュメンタリータッチのＳＦドラマ…

「第９地区」（０９）で日本初登場し、すっかりファンになってしまったニール・ブロムカンプ監督。本作はピーター・ジャクソン監督のバックアップで…

制作され大ヒット。おかげでその後も順調に作品を発表しています。マット・デイモン主演のＳＦサスペンス「エリジウム」（１３）が２作目。

３作目はＡＩロボットが主人公の「チャッピー」（１５）。演じるのは「第９地区」からの盟友シャールト・コプリー。「エリジウム」にも出演。

これまでの３作品はいずれも脚本、製作、監督。４作目も。それが「デモニック」（２１）。『未体験ゾーンの映画たち２０２２』の上映です。

故郷に戻って来たカーリー（カーリー・ポープ）は、絶縁していた母アンジェラが全身マヒで昏睡状態になっていると伝え聞きます。

看護師だった母は、老人ホームに放火し大量殺人を犯し逮捕されたのでした。医療新興会社セラポールを訪れた彼女は、医師のマイケルから…

ある依頼を受けます。母の意識とつながる仮想空間＜シミュレーション＞に入り、母を呼び戻して欲しいというのです。半信半疑ながらも…

仮想空間へ入るカーリー。果たして、彼女がそこで見たものは？母親を大量殺人に導いたものとは？タイトルのデモニックとは…

＜悪魔のような、凶暴な＞の意。シャールト・コプリーは出てなくて、残念。あの続編『第１０地区』が作られるとか。うれし過ぎます。

オートクチュールのお針子とは？

フランスのベテラン女優ナタリー・バイは、ロバート・ワイズ監督「ふたり」（７２）で映画デビュー。１９４８年生まれの７３歳です。

「映画に愛をこめて アメリカの夜」（７３）のフランソワ・トリュフォー監督作品や、「勝手に逃げろ／人生」（７９）や「ゴダールの探偵」（８５）の…

ジャン＝リュック・ゴダール監督作に多く出演。最近では、「わたしはロランス」（１２）や「たかが世界の終わり」（１６）の…

グザヴィエ・ドラン監督作品に連続して出演。スティーヴン・スピルバーグ監督「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」（０２）にも。

最新作はシルヴィ・オアヨン脚本、監督「オートクチュール」（２１）。ディオールのオートクチュール部門で責任者を務める…

お針子のエステル（ナタリー・バイ）は、次のコレクションでの引退を決意。ある朝、地下鉄で若い女性にバッグをひったくられます。

犯人のジャド（リナ・クードリ）に、自分の後継者としての才能を見出した彼女は警察に突き出さず、アトリエで見習いとして面倒を見ることに。

反発し合いながらも、母娘のように親友のように繊細な技術をジャドに授けていきます。果たして？ところで、オートクチュールとは…

高級婦人衣装店、そこで作られる高級仕立服のこと。シャネル、ジバンシー、サンローラン、ヴァレンチィノ、セリーヌ、グッチなどハイブランドが。

ちなみにプレタポルテはすぐに着られるという意味の既製服のこと。ロバート・アルトマン監督「プレタポルテ」（９４）は、オールスターキャストの内幕物。ぜひ。

チョコレートを食べながら、どうぞ。

ここで言うリバイバルとは、映画の再上映のこと。リバイバルって、すご～く昔の映画を劇場で見ることだと思っていましたが…

まさか、トム・ハンクスの映画がリバイバルだなんて。ロバート・ゼメキス監督「フォレスト・ガンプ／一期一会 ４Ｋニューマスター版」（９４）のこと。

確かに制作から２８年。当時３８歳のハンクスも今では６５歳ですものね。原作は、アメリカ人作家ウィンストン・グルームが、１９８５年に発表した…

小説『ファレスト・ガンプ』。映画化にあたりかなり脚色されているそう。本作はアカデミー賞１３部門にノミネートされ、作品賞、主演男優賞、

監督賞、脚色賞、視覚効果賞、編集賞を受賞。もし未見でしたら、今回のリバイバルでぜひ見て欲しいです。原作のユニークさと…

トム・ハンクスの名演で物語に引き込まれてしまうはず。アラバマ州グリーンボウに住む、フォレスト・ガンプ（トム・ハンクス）は…

ちょっとだけ頭が弱いけど、母親のミセス・ガンプ（サリー・フィールド）に普通の子と同じに育てられます。小学校で少女ジェニー…

（ロビン・ライト）に出会い、生涯の恋人となります。大学では俊足を買われアメフトの選手になり、ベトナム戦争では仲間を救い…

勲章をもらいます。除隊後はダン・テイラー中尉（ゲイリー・シニーズ）とエビ漁を始め大成功を。ケネディ大統領、ジョンソン大統領、ニクソン大統領、

ジョン・レノン、毛沢東などアーカイブ映像で共演するトム・ハンクス。今見ても絶対感動します。音楽はアラン・シルヴェストリ。ぜひ。

それは耳鳴り？

ジョージ・クルーニー主演「フィクサー」（０８）で、アカデミー賞助演女優賞を受賞したティルダ・スウィントン。１９６０年１１月５日ロンドン出身。

いつの間にか６１歳。ウェス・アンダーソン監督とは「ムーンライズ・キングダム」（１２）、「グランド・ブダペスト・ホテル」（１３）、

「犬ヶ島」（１８／声の出演）、「フレンチ・ディスパッチ」（２１）があり、コーエン兄弟とも「バーン・アフター・リーディング」（０８）、

「ヘイル、シーザー！」（１６）で組んでいます。他にもデレク・ジャーマン、ダニー・ボイル、スパイク・ジョーンズ、ジム・ジャームッシュ、テリー・ギリアム、

ルカ・グァダニーノ、デヴィッド・フィンチャー 、ポン・ジュノと名監督からのオファーが多数。１８０ｃｍの長身でスリムなボディから…

上品なイメージを受けます。「ミラノ、愛に生きる」（０９）や「少年は残酷な弓を射る」（１１）、「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」（１３）、

「胸騒ぎのシチリア」（１５）などお気に入りも多数。最新公開作はタイ映画「ブンミおじさんの森」（１０）のアピチャッポン・ウィーラセタクン脚本、監督…

「ＭＥＭＯＲＩＡ メモリア」（２１）です。ジェシカ・ホランド（ティルダ・スウィントン）は、ある日の明け方、大きな爆発音で目を覚まします。

それ以来、自分にしか聞こえない爆発音と衝撃波のようなものに悩まされるように。姉カレンが住むボゴタに滞在するジェシカは…

不可解な体験を探求するため、コロンビアを旅すると更なる感覚異常を感じ始めます。果たして？いつも髪色が違う彼女。今回は黒みたい。

マリア・カラスのギリシャ悲劇

ピエル・パオロ・パゾリーニ生誕１００年記念、２作目が「王女メディア」（６９）で２Kレストア版での公開。未見です。

メディアはギリシア神話に登場するコルキスの王女の名。ギリシア神話はなかなか手強いです。そんな中「王女メディア」は、古代ギリシアの劇作家…

エウリピデス作のギリシア悲劇の代表作。夫の不貞に怒るメディアの復讐劇です。パゾリーニは、メディア役に２０世紀最大オペラ歌手…

マリア・カラスをキャスティング。カラス、最初で最後のドラマ出演です。イオルコス国王の遺児イアソン（ジュゼッペ・ジェンティーレ）は…

父の王位を奪った叔父ペリアス（ポール・ヤバラ）に王位の返還を要求。するとペリアスは、返還の条件に異郷の地コルキスにあるという…

＜金の羊皮＞を手に入れるよう求めます。旅に出たイアソンは、そこで巫女メディアと出会い、彼女の心を射止めて＜金の羊皮＞の奪還に成功。

余談ですが、ドン・チャフィ監督「アルゴ探検隊の大冒険」（６３）はこのイアソンの物語をレイ・ハリーハウゼンの特撮で映画化。

最高に楽しめます！未見の方はぜひ！それはさておき、約束を反故にされたイアソンはメディアと隣国コリントスへ。そこで国王に見込まれた…

イアソンは、メディアを捨て国王の娘と婚約してしまいます。裏切られたメディアは、復讐を決意。果たして？パゾリーニの芸術性の高さは…

ほぼセリフのない前半、フラッシュバック多用の後半…など難しそう。日本では蜷川幸雄演出、平幹二朗主演の舞台『王女メディア』が思い出されます。

タイトルは「定理」の意

イタリアの巨匠ピエル・パオロ・パゾリーニの名前、もちろん知っています。有名な作品のタイトルも、もちろんいくつか知っています。

でも作品は見たことがありませんでした。監督作には「華やかな魔女たち」（６６）、「アポロンの地獄」（６７）、「テオレマ」（６８）、

「王女メディア」（６９）、「デカメロン」（７０）、「カンタベリー物語」（７１）、「アラビアンナイト」（７４）、「ソドムの市」（７５）など。

なんだか難しそうな気がして、未見でした。ところで今回、ピエル・パオロ・パゾリーニ生誕１００年記念で２作品が４Kスキャン版として…

公開されることに。まず「テオレマ」（６８）から。ミラノ郊外の大邸宅に住む裕福な一家。工場経営者のパオロ（マッシモ・ジロッティ）、

美しい妻ルチア（シルヴァーナ・マンガーノ）、娘のオデッタ（アンヌ・ヴィアゼムスキー）、息子の ピエトロ（アレドレ・ホセ・クルス）は…

家政婦のエミリア（ラウラ・ベッティ）と平穏な日々を送っていました。ある日、見知らぬ青年（テレンス・スタンプ）が現れ、なぜか同居を始めます。

家族全員は青年の謎めいた魅力の虜に…。そして青年が去り、奇妙な行動を取り始めた家庭は崩壊していきます。果たして、何が？

作品を調べていく時、監督の衝撃的な死を知りました。１９２２年３月５日イタリアのボローニャ出身のパゾリーニは、遺作となった…

「ソドムの市」撮影後の１９７５年１１月２日、ローマ郊外のオスティア海岸で他殺体となって発見。５３歳。真相は今も謎だとか。知りませんでした。

美しき転校生との恋

新宿３丁目にあるシネマート新宿は、２スクリーンのミニシネコン。２つでもシネコンって呼ぶんですね。昔はミニシアターでした。

それはともかく、６Fのスクリーン１は３３５席、７Fのスクリーン２は６２席と席数が極端。意外な作品が上映されるので、たまにお出かけします。

主な上映作品は韓国や中国などのアジア系映画。２０１５年６月に閉館になったシネマート六本木、現在も営業中のシネマート心斎橋と同じ…

株式会社エスピーオー直営の映画館だとか。シネマート六本木も、韓流ブームの時はいつもファンがいっぱいでした。香港映画や時々上映される…

個性的な洋画を探して、ここにたどり着きます。ニコラス・ケイジ主演「オレの獲物はビンラディン」（１６）、フランシス・リー監督…

「ゴッズ・オウン・カントリー」（１７）、オールスターキャストのトッド・ロビンソン監督「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」（１９）とか。

そして５年目の開催となる『のむコレ（のむらコレクション）’２１』があります。その中から１本。アンドレアス・シュタインヘーフェル原作、

ヤーコプ・Ｍ・エルヴァ脚本、監督「僕の世界の中心は」（１６）が公開です。サマーキャンプから帰ってきたフィル（ルイス・ホフマン）は…

双子の姉妹と母の間が険悪になっていて、居心地の悪さを感じます。夏休みの残りの日々を女友達のカットと遊び歩くフィル。

新学期が始り、転校生のニコラス（ヤニク・シューマン）がやって来ます。カットの忠告をよそに、ニコラスと恋に落ちるフィル。果たして？

韓国系アメリカ人の決意

ホン・カウ監督「ＭＯＮＳＯＯＮ／モンスーン」（２０）で、主人公のキット（ヘンリー・ゴールディング）はベトナムのサイゴン出身。

６歳の時、ベトナム戦争の混乱を逃れるため両親とイギリスに渡った、所謂ボートピープル。両親の遺灰埋葬のため、３０年ぶりに帰郷します。

戦争を知らない彼はすっかり現代のイギリス人。ベトナム語も話せないし、少ない記憶とあまりに違うホーチミンの変貌に戸惑います。

「トワイライト」（０８、０９、１０）３部作に出演のジャスティン・チョン脚本、監督「ブルー・バイユー」（２１）でも自身のルーツに苦しみます。

韓国で生まれ、３歳の時に養子としてアメリカに連れてこられたアントニオ（ジャスティン・チョン）。以来、ルイジアナ州のバイユー地帯で…

暮らして来た彼は、シングルマザーのキャシー（アリシア・ヴィキャンデル）と結婚し、娘のジェシー（シドニー・コワルスケ）と３人、貧しいながらも…

幸せに暮らしていました。ある日、些細なことで警官とトラブルを起こし逮捕されたアントニオは、３０年以上前の養父母による書類の不備が発覚。

移民局へと連行され、国外追放命令が。下手をすれば強制送還、２度とアメリカに戻って来れなくなります。アントニオとキャシーは…

裁判を起こして異議申し立てをしようとするのですが、それには５千ドルの高額な費用が必要。果たして、アントニオの決心とは？

第７４回カンヌ国際映画祭のある視点部門（２１年７月開催）に正式出品。バイユーは、細くゆっくりと流れる小川を意味するそうです。