『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

飲茶

2022-08-29 06:26:47 | 食物・飲物

今朝方は
ぐっと冷え込んで、
窓を開け放してあった書斎は
18℃まで下がっていた。

なので、
今シーズン初めて
ストーヴを焚いて
22℃まで温めた。

昨日あたりから
大分と秋めいてきて、
空気が少しヒンヤリもしてきた。

そのせいか、
タオルケット一枚では
朝方寒くって、
喉が少しばかり痛い。

カラダが暑熱順化していたので、
これから秋モードに戻していかないと、
季節の変わり目で
風邪をひいたり咽頭炎になることが
よくある。

*

 

日曜のきのうは、
10時頃、軽くブランチをして、
午後からカミさんと
イオンまで買い物にでかけた。

ついでに、
『横浜大唐』という
ネイティヴの営む中華店で
飲茶セット(1500円)を
3時半頃やってきて、
夕飯はなしにした。

9品で1500円だと、
スマホの電卓で計算したら、
一皿あたり169円となり、
お得感があった。

前菜の「棒棒鶏」から、
麻婆豆腐、エビチリ、
炒飯、ワンタンスープ・・・と、
次々と運ばれてきた。

ひと段落したら、
春巻き、ショーロンポー、
シューマイと点心類がきて、
最後が杏仁豆腐だった。

 

味は、飛びぬけて美味しい
というほどではないが、
この値段では、
まずまず・・・といった処だろうか。

ゆんべは、
夕飯抜きだったのに、
今朝はしっかり1㎏太っていた(笑)。

*

 

毎週、録音していた
FMの『松尾堂』が、
カセット・デッキが壊れて
ここ数週間、録れずにいる。

そしたら、昨日、
ティアックから
最新型が新発売された、
というので見てみたら、
6.7万もする高級機だった。

PCにも対応する
フルスペックだが、
ただFMチェックするだけには
多機能過ぎてコスパがよくなく、
一瞬、食指が動いたが、
買い留まった。

学生時代から、
ティアックは愛用しており、
これまで数台を購入してきた。

*

 

『アンビリバボー』で
一度視た「前世の記憶を持つ子」を
YouTubeでも再度視た。

3歳児くらいの女の子が、
ある日、突然、漫画家の母に向かって、
自分がお空から滑り台でやってきた、
という話をして、それを漫画にして
インスタにアップしたのが
評判になった。

一度、流産して、
自分を責めたり、哀しんだ事を、
"ふうちゃん"が、
"ひいちゃん"(妹)は、滑り台の途中で
お菓子の忘れ物をしたんで
お空に取りに戻ったからだよ、
そして、また、来たんだよ、
と物語ると、母親は慰められ、
癒され、涙した。

「また、来てくれたんだね・・・。
 ありがとう・・・」
というシーンでは、
思わず、もらい泣きしてしまった。

YouTubeには、
他にも、前世の記憶を留めている
女の子たちがいて、
いくつか視てみたが、
それが、彼女たちの
妄想とも空想とも思い難く、
母親の証言と一致するので、
シンクロニシティでもあり、
ほんとの事のようにも感じられた。

そう考えると、
「魂の不滅性」やら
「天界のしくみ」
「神の存在」などが、
具体的にイメージできて、
この乱世の不安多き時代をも
安心立命感を抱いて
生きていけそうな気がした。

 

 

 

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怪談『夜這う赤児』

2022-08-28 12:29:51 | 創作

 お盆休みに、親友の山下と飲んだときのことだ。

   

 彼のまだ十一ヶ月の長男がつかまり立ちやハイハイするようになったという微笑ましい話から一転して、彼の顔色が曇った。


「あのよ・・・。なんだかムスコがよ、最近、ぶきみでなぁ・・・」 
「エッ、なんで?」
「毎晩、十二時過ぎるとパッチリ目ぇ開けてよ、
もそもそフトンから這い出すんだ」

「・・・んなの、どってことねーじゃん。
 赤んぼのときは、よくあるって。
 ウチだってあったもん」
「そっかなぁ・・・。
 でもよ、ウチのは最近、毎晩だぜ」
「えーっ? 二、三回じゃねーのか」
「そうなんだ。
 だからよ、カミさんも気味悪がって・・・。
 医者に連れてこーか、って言うんだ」
「ほぉぉ・・・。
 なんだか、気持ちワリーな、たしかに・・・」
「だろッ・・・」

「・・・んでも、ハイハイしてどこまで行くの?」
「いやぁ、ふとん抜け出ても、せいぜいフスマにぶち当たってそっから先にゃ行けないんだけど・・・」
「ふーん・・・」
「あ、そうだ。
 いっぺんだけ、フスマ蹴ったことあんだよ」
「ほんとかよー?」
 私は赤ん坊が小ちゃな足でキックしてる様を思い浮かべると、思わず笑ってしまった。
「ほんとだって」
 山下は笑ったが、嘘じゃなさそうだった。

「なんで、フスマ蹴ったんだろ?」
「知らねーよ、んなの・・・。
 おまえ心理屋だから、なんか知らねーの?」
「ま、乳幼児心理学っつーのはあるけんども・・・。
 フスマ蹴っぽるヤヤコの話なんざ聞いたこともねーべさ」
 山下はゲラゲラと笑った。
「んだね・・・」
 話は、不気味なんだか、笑い話なんだか酔いも手伝って、段々ワカンナクなった。

「じゃよぉ、こーすべー」
「ん? どーすんの?」
「今夜さぁ・・・、ヤヤコが這い出したらよ、おめえも寝てねーでさ、フスマをよ、いっぺん開けてみれッ」
「あぁー。なるほいど・・・」
「そしたら、ヤヤコのやろ、どごさいぐのが、わがっぺした・・・」
 酔いが回ってきたのか、ふたりとも段々と呂律がまわらなくなり地金がはがれて田舎ことばが出てきた。
「んだなすッ!」
 山下は単純に感心したかのように酔いに濁らせた目を一瞬、キラリと光らせた。
「今晩、やってみっぺ・・・」

 次の週の土曜。 

 私たちは、ホルモン焼きのうまい店で待ち合わせた。

「どしたい? お坊っちゃん」
 私は開口一番に尋ねた。
 気のせいか、山下はいくぶん緊張したような面持ちで言った。
「あのよぉ・・・。やったのよ」
「おう」
「そしたらよ、あいつ・・・
 ハイハイ、ハイハイ、ふすま超えて行くんだわ」
「ふんッ」
「廊下ぁ、真っ暗なのに、平気でハイハイ行くのな・・・」
「ほぉ」
「で、行くとこまで行かせようと、もう手ぇ出さねーで後ろにくっ付いていったんだ」
「ふんふん。ほんで?」
「そしたら、玄関の方に行くのな。
 真っ暗なんだぞ。玄関だって・・・」
 

 私は段々と面白くなってきて、からだを前にのり出した。
 山下は、目の前のビールを一口流し込んだ。
「そんでね・・・。
 玄関のタタキにおっこちると大変だから、真うしろから、いつでも手ぇ出せるように構えてたらよ・・・」
「はん」
「あいつ、何したと思う?」
「さあ・・・なんだべ」
「いいから、当ててみれッ」
「んだよぉ・・・。クイズはいいからよ」
「ハハハ・・・。吠えたんだよ」
「えーッ?! ガオーってか?」(笑)
「ちがわいッ!」
 山下も噴き出し笑いをした。

「エテカーッ! ・・・って」(笑)
「なんじゃ、そりゃーッ!」
 私は松田優作節でツッコンだ。
「な、笑うだろッ!
 なにもんやねん、おぬし・・・って、俺だってツッこんだもん」(笑)
「なんなの? そのエテコーって・・・。
 猿公のことかいな?」
「違うって。エテコーじゃなくて・・・
 エテカ、エテカー・・・っつうのよ」
「エテカぁ・・・?
 ナスカの宇宙人の子か? おまえんとこの」
「違う、っつうの」(笑)

「ほんで、どーしたの?」
「なんだか、ぼっこれテープみたいに、エテカ、エテカ、ばっかり言うもんだからワケわかんなくて、
『はいはい。
 もう、お寝んねちまちょーね』
 って、ふとんに連れてったんだ」
「バッカだなぁ。おめぇ・・・」
「えっ、なんでよ?」
「その先、続きがあったんじゃねーの?」
「なんの続きよ?」
「だからよぉ、ヤヤコがまだなんか言いたかったか、どっかへ行きたかったかの・・・」

 山下は少し呆れたような顔をして言った。
「だって、お前、真夜中なんだよ。
 俺だって、会社あるもん・・・」
 私は笑った。
「だよな・・・。俺みたいな暇人じゃねーもんな」
「んだでば・・・」
 

 焼き上がったホルモンをコリコリ噛りながら山下がふと洩らした。
「そーいやよ・・・
 あいつ、玄関の先っつーか、外の方向いて、吠えてんだよ。目線がな・・・」
「ふーん。
 じゃ、外に出ていきたいんだべ、たぶん」
「んなこと、あるわけねーべ・・・」
「なんで?」
「んだって・・・」
 そう言うと、山下は急に、ブルッと身震いした。
「なんだか、気持ちワリーッ」
「何が?」
「んだって・・・なんだかよぉ、玄関の外さ誰かいたら、どーすんだば・・・」

「はぁー。なるほいど・・・。そっかぁ・・・」
「なにがよぉ・・・」
 山下は独り合点している私の顔を怪訝そうにのぞいた。
「あのよぉ、お前、また、実験してみる気ぃ、ねーかい?」
「ウチの子でか?」
「んだ」
「なにをーッ?」
 

 私はその場で実験デザインを語って聞かせた。
「あのね。お前さ、会議用のボイス・レコーダー持ってんべ」
「ああ」
「それでさ、今夜もヤヤコ追跡して、録ってほしいのよ」
「吠えてっとこを?」
「んだんだ」
「どーすんだい?」
「心理学の研究に使うんだべさ」
「ちゃっかりしてからに・・・。
 ウチのセガレ実験に使うてっか・・・」
「んだんだ。(笑)
 今日は奢っからさ・・・」  
 山下は快諾とはいかないまでも乗りかかったナントカで、やってみると言った。

 サンプリング・データの回収は、また土曜の晩だった。
 例によって寿司屋で飲んでいた。

「ほら、これ・・・」
 山下はレコーダーを通勤バッグから取り出した。
「どうだった?」
「んー・・・」
 と言ったっきり、彼はコハダを一貫パクリとやった。

「ちゃんと入ってるけんど・・・。
 なんだか、こんどは違うのよ・・・」
「なにが?」
「エテカじゃなかった。ゆんべのは・・・」
「でも吠えたんだろ?」
「おお。吠えた」
「なんて?」
「なんだか、よくわかんねーの。
 だから、あとで、聞いてみれッ」
「ほーん。そりゃ、楽しみだない」
 山下は寿司とビールを交互に口中に放りこんだ。

「荒木兄すごむ・・・」
「はーッ? なに言ってんの?」
「いや、ゆんべのが・・・アラキアニスゴム・・・って
俺には聞こえたんだな、これが・・・」
「せがれのセリフか?」
「んだ」
「ほだにハッキリべしゃくったのか?」
「いや・・・。なんとなく、そー聞こえるんだわさ。
 荒木のアンちゃんが凄んだ・・・って、覚えやすいべぇ」
「なーるほいど」
 

 目の前のカウンターに私の好物の煮穴子がトンと置かれたので、すかさず手を伸ばした。
「ほいで、おめさ、玄関開けんかったの? やっぱし・・・」
 山下は、鼻でフンと笑うと
「なんだか、やっぱおっかねぇんだわ・・・。
 なんでだべ・・・」
「このやろ。臆病なんだべぇ」
「ほだず・・・。おら、オクビョーだず。
 んだげんと、真夜中に、赤んぼのくせして、ほんとに誰か呼んでるみてーなんだもん。
 目線がよぉ、ちょーど人の顔のあたりなんだず。
 気持ちワリーぞ、おめぇ・・・」

 翌日、私は講義の合間に研究室のパソコンにさっそく録音データを取り込み音声解析ソフトを駆使して、あーでもない、こーでもない、と試行錯誤していた。

 その時、ノックの音がした。
 院生の奈保子が修論の下書きを持ってやってきた。

「先生。どうにか、やっとゆうべ書き上がりました」
「あ、そ・・・。ちょっと待っててね・・・」
 と言ってマウスを何気なくクリックした。
 すると、突然、パソコンから子どものような叫び声が出た。

「もう しないからッ!・・・」

「ウワーッ! なんですか? 今の・・・」
 奈保子がビックリして言った。
 私もドキンとした。
 

 慌てて慌ててパラメーターを確認すると「逆行」発声の操作をしたらしい。
 再度リターンすると
「もうしないから・・・」
 という女の子の声がハッキリ聞き取れた。
 

 私は奈保子にも確認した。
「そう言ってるよね・・・」
「はい。そう聞こえます・・・。
 けど、何なんですか? これ・・・」
 私はハッとして目の前のホワイトボードに
「MOUSINAIKARA
 と横文字で書いてみた。
 奈保子がそれを声に出して読んだ。
「モウシナイカラ」
「じゃ、反対から読んでごらん」

「あらきあにすおむ」

「そう・・・。
 荒木兄凄む、じゃなかったんだ」
 

 私はすかさず赤いマーカーで
「ETEKA」
 と書いてみた。
 そして背筋がゾッとした。

「エテカ・・・?
 なんです、これ?」
 奈保子は不思議そうな顔をした。
「反対に読んでみな」


「あ・け・て・・・」
 

 そう。

 そうなんだ・・・。

「あけて。あけて。
 あけて。あけて。
 もうしないから・・・」

 

                 

 私は奈保子におかまいなしに、すぐに山下の会社に電話を入れた。
「どしたの?」
 のんびりしたその声とは正反対に私は高ぶった声で訊いた。
「お前んちってたしか借家だったよな」
「そうだよ」
 私も彼も、職場では決して方言を使わなかった。

「あのさ、前に住んでた家族って知ってるのか?」
「ああ」
「どんな?」
「叔父さん夫婦だよ。今は、別のところに新築したから移ったけど・・・」
「叔父さんちに子どもいたか?」
「ああ。いたよ三人」
「死んだ子っていたか?」
「死んだ子ぉ・・・? いねーよ。んなの・・・」
「そっかぁ・・・」
 私は当てが外れてちょっとガッカリした。
 私の突飛な空想はどうやら空振りに終わったようだった。

「あっ・・・ 

 あのな、そーいや、叔父さんたちの前にも、別な夫婦が住んでたんだよ・・・」
 受話器の向こうで語る山下は、私の推理小説まがいの空想なぞ、想像もつかないはずであった。
「ほんでな・・・、たしか、まだ三才くらいの、小っさい女の子がいたんだけど、病気で死んだんだって・・・。
 いや・・・。
 近所の噂では、折檻っていうの?
 酷かったらしいぞ。
 今なら児童虐待か・・・。

 なんでも、真冬でも、裸足で玄関の外に、閉め出されたりしたらしいぜ・・・。
 あんがい、病死じゃなく凍死だったりしてな・・・
 アハハ・・・」

                         

 

*

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火傷も癒えてきた・・・

2022-08-28 10:55:39 | 家族

ミカちゃんから
プールや粘土遊びの様子が
動画と写真で届いた。

ウォーター・スライダーでは、
リク坊はニコニコしてるのに
ママが「キャーキャー」言ってるのが
バアバと二人で受けた。

パパ・ママも
愛児と共に、童心に返って、
幸せそうなのが
見ていてもホッコリした。

黄色い粘土では
レモンを作ったようで、
「チュッパイ」お顔までしてくれた(笑)。

なにせ、
リク坊は"名優"なので、
ディレクター兼プロンプター・ママが
「じょうず!」と思わず動画に
声が入るような、演技をしてくれる(笑)。

11時間もかけて
帰阪した際の
「パパ、運転、ありがと・・・」
の動画は、今朝、
「再生100回」にもなっていて
驚いた。

世のパパさんたちの
胸に響く健気な可愛さが
共感を呼んだのだろう・・・。

帰省中に、
"生まれて初めての"花火で
火傷したお手々も
さりげなく映されており、
その後の様子も確認できたが、
赤くはなってるものの
だいぶ治りかけているように見える。

ジイジは、
朝晩、ご神前で、
「早期完全治癒」の
ご祈念をしている。

*

市から、また、
地域振興券が発行され、
3000円で4500円分の買い物ができ、
ホームにいる老母の分とで
「3000円」分の
タダ買いが出来るとあって、
近所の『やまや』で
買おうと思ってた
『クールボアジェ』(コニャツク)を
買ってきた。

"ぼっちフレンチ"の
フランベ(香りづけ)では、
製菓用の安いブランデーを使ってるが、
フォアグラのテリーヌ創りなどでは、
やはり、本物のコニャックでないと
あの高貴感はでない。

『XO』よりワンランク下の
『VSOP』だが、テイスティングしたら、
むせかえるようなブーケと
コクのある仄甘さが感じられた。

これならば、
コーヒーに合わせる
カフェ・ロワイヤルにしても
高貴な香りが楽しめそうである。

*

今年は
3年ぶりに
学界が神戸で開催される。

11年間、
関西に在住していたので、
神戸にもよく出かけた。

ポートピアランドにあった
フレンチの名店『アラン・シャペル』や
『ジャン・ムーラン』に出かけ、
ついでに、よく異人館の辺りを

散策した。

生徒を引率した遠足も
六甲山だったように思う。

*

学界は、大スターであられた
河合先生亡きあとは、
食指の動くプログラムがなく、
聴くに値する講演や
ワークショップがないので、
毎年スルーしている。

やはり、
学界の中にも、
「わかる・おもろい・ためんなる」
というYouTuberのような

パーソナリティーが不在だと、
参加モチベは上がらないものである。

*

お盆に墓参りした折、
年に何度も書写する
「佐々木」の文字を
撮ってきた。

我が苗字ながら、
手書きとなると、
どうも巧くバランスがとれない。

なので、
達筆な書を見るたびに
臨書しているが、
いまだに、納得のいく
字体が定着していない。

*

 

 

 

 

 

 

 

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怪談『別荘の女』

2022-08-27 08:45:21 | 創作

 新人編集者の只野佑介は、大手出版社で文芸誌に配属され、何人かの作家を担当することになった。
 そのなかに、なかなか原稿を書かない、ということで知られた老大家の遠藤がいた。
 学生の時以来、遠藤文学のファンであった彼は、大家と縁ができたことを幸運に思い、原稿の催促はさておき、菓子折りや酒を持参しては、都内にある遠藤のマンションに足繁く通った。
 
 そんな大家詣でがしばらく続いた頃、編集部に佑介への電話が入った。
「実は、三十枚ばかりの短篇を書いたので、取りにいらっしゃい」
「は?」
 佑介は一瞬きょとんとした。
「今、僕は苅葉野渓谷の別荘にきているんだ。
 これから、来れないかい?」
 という、予期せぬ申し出であった。
 佑介は二つ返事で
「今から、伺います」
 といくらか興奮して応えた。
 

 編集長は、苦笑いをしながら
「ま、ビギナーズ・ラックというやつだな・・・。
 行ってこい」
 と冷やかした。
 佑介は、遠藤先生と心が通じたような気分に、なかば酔いしれて上機嫌に社を飛び出した。
 

 東京駅から1時間ほど在来線に乗り、初めて乗るローカル線に乗り換えた。
 有名な観光地でもない苅葉野駅に着いた頃は、すっかり日も傾きかけていた。 
 駅から、遠藤から聞いたとおりボンネット・バスが別荘地のある「林道前」まで出ていた。
 過疎地の夕刻、バスに乗ってかの地に向かう乗客は佑介のほか一人もいなかった。

 佑介は車内で揺られながらも念のために地図を広げて「林道前」から別荘地まで一本道であることを再確認した。
 遠藤は電話口で、一本道の行き当たりに太くて折れた赤松が目印だから、と説明した。
 バスは田舎道を半時間ほど走ると、やがて目的地に到着した。
 遠藤の別荘は、そこからさらに四、五キロの距離があるとのことだった。
 

 車は通れそうにもないようななだらかな山道を佑介はとぼとぼと歩いた。
 あたりは鬱蒼とした林木にかこまれて、夕刻にひとりで歩くのは心細いほどだった。 
 足がだるくなるほど歩き続けて、ようやく佑介は、かの折れた赤松の目印まで到着した。
 それと確認するには、よくよく目を凝らさなければならないほど、夕闇が降りかけていた。
 目の前にたしかに木造の平屋の別荘があった。

     

      

 

 佑介は微かな門灯を見つけると、ホッとしながら、いくらか急ぎ足になり玄関のチャイムを鳴らした。
 

 しばらくして、
「はい・・・」
 という、か細い女の声がした。
 佑介は、てっきり遠藤先生が出迎えてくれるのだとばかり思い込んでいて、アラッと内心軽い驚きを覚えた。
「こんばんは。平成社の只野です」
 と挨拶した。
 

 扉は少しも開けられず、声だけが
「なんのごようでしょうか・・・」
 と、やっと聞き取れるほどのか細さで言った。
 佑介は一瞬面喰って、
「あの・・・。
 先生の原稿を頂きに参ったのですが・・・」
 と、言葉を継いだ。
 

 しばらく間があって、女は凍ったような声で
「知りませんけど・・・」
 と、扉の内側から応えた。
「えっ?」
 佑介は驚いて
「こちらは遠藤先生のお宅ではないんでしょうか?」
 と尋ねると、しばらくして
「違います・・・」
 と返ってきた。 
 佑介は愕然とした。

(道を間違ったのか・・・。
 でも、たしかに一本道だったし・・・。
 目印の折れた赤松もあった。
 だのに、なんで?・・・) 
 

 佑介は、再度、扉の向こうの女に尋ねた。
「あの・・・。
 小説家の遠藤先生のお宅は、ご近所でしょうか?」
 また、焦れるような間が空いて
「知りません・・・」
 という絶望的な声がした。 
 

 扉を開けぬのは、不審者を警戒してのことだろうが、佑介は意を決して
「すみませんが。お電話をお借りできないでしょうか・・・」
 と声の主にお願いしてみた。
 すると、ややあって、カチャリと内側から鍵を外す音がして、
「どうぞ・・・」
 という、か細い声だけがした。
 

 女は依然として姿を見せなかった。
 佑介は、
「失礼します」
 と、扉を開け、玄関のたたきに立った。
 そこは10ワットほどの豆電球がついただけの仄暗い玄関だった。
 そこにつづく廊下の先は真っ暗で様子がわからなかった。
 

 女は暗い廊下に立っていて、うつむいたまま、か細い指先で無言のまま、下駄箱の上の電話機を指差していた。
 その姿は痩せこけて、長い髪が両側から顔まで垂れていて、目鼻がはっきり見て取れなかった。
 
 佑介は不気味に感じながらも、逸る気持ちで老大家のところに電話を入れた。
 しばらく呼び出し音がして、聞きなれた遠藤の声が耳に飛び込んできた。
「只野君。今、どこだね」
 と大家が尋ねたので、佑介は自分が言われたとおり「林道前」で降りて、赤松の折れた所に到着したが、先生宅ではない、と言われた・・・という、事の顛末を話した。
 受話器の向こうで、老大家は訝しげに
「君は、そこが木造の平屋って言ってるけど、ウチはレンガ作りの二階建てだよ」
 と、応えた。

 佑介は一瞬、ブラックアウトに陥ったような不可解な感覚にとらわれた。

「えっ? じゃ、ここは、いったい・・・」
 と、疑念が涌いて出たときだった。 

 女の顔が、佑介の目の前にあって、長い髪から白目をむいた片目をのぞかせた。


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 

 

 

 

 

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久々のAI越え

2022-08-27 08:02:46 | 藤井 聡太

きのうは
山間部にある僻地校への
勤務日だった。

まだ第七波の渦中とあって、
せまいカウンセリング室から
お隣の広い視聴覚室での
執務となった。

ここには
本格的なオーディオ施設があるので、
休憩時間には
持参したCDで大音声での
交響曲なぞを聞けて
すこぶる気持ちがいい。

*

 

目の前には
ウッドデッキの中庭があり、
全校生8名が
自分の担当野菜があり
それぞれ栽培している。

*

 

昼休みに
観て廻ると、
手の平サイズの
可愛いスイカがなってたり、
大きな花がついた
赤ちゃんキュウリなどが
目を楽しませてくれた。

一角には、
イチゴが百株くらい
植わっており、
これが結実したら、
さぞや見事だろうなと想像した。

去年の夏は、
山から下りてきた
大蛇が入り込んで、
先生方総勢での
捕獲騒動になったそうな(笑)。

いかにも、
山の学校「あるある」である(笑)。

*

 

ひと月ぶりに開催された
ソーちゃんのタイトル戦の
振り返りで、久しぶりに
石田九段の
「とっつぁん節」を聴いた。

並の棋士なら、
「3九歩」と受ける処を、
自玉が詰まないと読み切って
「4一銀」と決めに行ったのは、
さすがである、と大絶賛だった。

ライヴでも、
事実、AIは候補手に
「3九歩」を示していたが、
それを長考の末に、
最短距離で決めにいったのは
驚愕的であった。

YouTuberの追っかけたちにも、
「神の一手」「AI越え」
というキャッチコピーが並んだ。

アベマのプロフィール写真が、
二十歳の近影画像に差し替えられた。

そこには、
まだデヴュー7年と
短いキャリアながらも、
勝率8割3分という
驚異的な値が、
「竜王・叡王・王将・棋聖・王位」
という五冠と共に
燦然と輝いている。

そして、タイトル戦に限っては、
棋界トップ3の
渡辺名人、トヨピー、永瀬ッチを
相手に9割3分という
圧倒的勝率を誇っている。

すでに、
棋聖・叡王を防衛したが、
3-1で王手としている「王位」も
のこり三局で1勝するのは
火を見るよりも明らかであろう。

ファンの期待は、
順位戦でA級トップになり、
勝ち越している渡辺名人から
タイトル奪取する事であり、
残りの「王座」「棋王」も戴冠して
棋界初の「八冠」を
達成することである。

その前哨戦として、
来月一日には
王座戦の「挑戦者トーナメント」が
始まる。

過去、数回負けもしている
振り飛車党で
「さばきのアーティスト」と言われる
久保九段との久しぶりの
居飛車の「対抗形」での対戦が
見物である。

*

きのうも
ミカちゃんから、
親子三人で屋内プールでの
ウォータースライダーの動画が
送られてきて、
バアバとリク坊の喜び興じてる様に
目を細めていた。

年末・お正月にも
また、帰省してくれるようなことを
フミが言ってたので、
それを楽しみに
二学期の仕事を頑張ろうと
張り合いとしている。

 

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