今年度も残すところ
あと一ヶ月となった。
年度ごとにシステムノートを
買っているので、
またそろそろ書店に
いかなくてはならない。
A4のハードカバーの
同じ製品を10年来使っている。
これだと、カウンセリング中に
膝の上でカルテを記載するのに
役立つのである。
書庫には過去20年分くらいの
システムノートがずらりと
保管してある。
学休期間の暇なおり、
時々、自分史を振り返るように
過去のものをながめることがある。
美術の先生が描いてくれた
わが家のバロック・リュートの
冊子の表紙を切り取って
今年のノートに張ってみた。
**************
人生随談
奈保子 まだ、痛み体験はあるんですか。
先生 あとは、痛みっていうよりは恐怖体験かな。
奈保子 病気がらみの?
先生 そう。今度は鼻の病気です。
奈保子 蓄膿かなんかですか。
先生 肥厚性鼻炎って言って、鼻の奥の副鼻腔という箇所の粘膜が腫れて、鼻水が喉に逆流してたんですよ。鼻づまりもひどくて、蓄膿にもなりそうだったのね。それで、切ることになったんです。
奈保子 おいくつの時ですか?
先生 たしか、高校生のときだったね。掛かりつけの耳鼻科に一人で行ったら、コセキ先生っていうお爺ちゃん先生に「兄貴のときはお母さんと来たけど、弟は一人で来たんだな」って褒めらたんです。
奈保子 高校生が一人で手術を受けに行ったんですね。
先生 そう。偉いでしょ(笑)。で、耳鼻科にも手術室があってね、普通の診察室とは違うんですよ。奥の部屋で、ただ、診察室と同じ椅子だったけど。そこに座らされて、まず、麻酔ですよ。これがね、鼻の奥だから、トンデモなく長い注射針なんだ。
奈保子 ウワッ。それもまた、怖いですねぇ(笑)。
先生 うん。その長さにビビりました。こんなの鼻の奥にブッツリ刺すのか…ってね。盲腸んときの腰椎麻酔では、ナビスコ・ポテチの缶くらいのぶっとい注射器にビビりましたけどね…。それで、腰にブスッと刺すんだもの。毛穴がゾゾッとしました。
奈保子 ウワーッ。やだやだ。わたしも注射は苦手ですぅ~。
先生 そんで、鼻にもどると、その注射針にビビッたもんだから、唇が紫色になったんだね。そしたら、爺ちゃんのコセキ先生が、笑いながら看護婦さんに「見てみい。怖がって唇真っ青になってる」だって。
奈保子 ま~(笑)。
先生 むかしの先生って、どうして、こうやさしくないもんかね(笑)。
奈保子 今なら、ドクハラですね(笑)。
先生 そうそう。ニンマリ笑いながら、長~い注射針を鼻ん中に入れようとする爺ちゃん先生が悪魔に見えたものね(笑)。
奈保子 高校生でしたらビビるでしょうね。
先生 麻酔したら痛くはないんだけど、その後には、これまた歯先の長~いハサミがあって…。見るからに恐ろしいんですよ。それもまた鼻ん中に入れるんだから…。で、鼻の奥をジョキジョキって切られたんです…(笑)。
奈保子 手術とはいえ、目の前に道具が見えるからゾッとしますね。
先生 そうなんですよ。そして、先生が「フンッてして」って言うんで、「フンッ」てしたら、小指の先くらいの肉片が、ボトッ、ボトッ…って出てきたんです(笑)。
奈保子 うわ~。リアルですね~(笑)。
先生 その話も授業中したことがありましたが、生徒にバカ受けでした(笑)。
奈保子 なんでもネタにしちゃうんですね。
先生 そりゃ、そうですよ。ただ痛いだけの思いなんて馬鹿らしいものね。商売のネタにして元取らなきゃ(笑)。切った後は鼻血がハンパなくドバーッて出るでしょ。しかも、奥だから傷口を結紮できないでしょ。だから、脱脂綿と包帯を冗談じゃなくバケツ一杯分くらい詰め込むんですよ。
奈保子 へ~。そんなに鼻の中って入るもんですか。
先生 しかも、片方だけですよ。だからね、全部入れられたときは、片方の鼻が頬にせり出して、鏡を見たら、当時、流行っていた『エレファントマン』みたいな顔になったんです。
奈保子 それって知らないんですけど、怪物みたいなものですか?
先生 うん。象みたいな顔かな…。いつも麻の袋かぶってる怪人なので、自分も洒落でスーパーの紙袋かぶってみたんですよ。目の所だけ、穴を空けてね…(笑)。
奈保子 そんな状況でも、おバカなことは、ちゃんとやるんですね(笑)。
先生 だって、笑わな、やってられないもんね。ほんとは、もう一つ、鼻中隔湾曲症というのもあったんだけど、本屋で医学書を立ち読みしてみたら、今度は、ノミで鼻の障子に穴あける、って書いてあったんで、さすがに恐ろしくて、それはやめにしました。
奈保子 はぁ…。たいへんですねぇ…(笑)。