報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「真夜中の竹取飛翔」

2023-03-01 20:28:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月22日00時13分 天候:晴 静岡県富士市本町 JR富士駅]

 私達を乗せた東海道本線下り普通列車は、本来は沼津止まりである。
 しかし、金曜日と土曜日だけは臨時の快速列車となり、静岡まで延長運転される。
 その為、私達は沼津駅ではなく、富士駅でタクシーに乗り換える計画を立てることができた。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく富士、富士です。お出口は、左側です。この電車は、快速、静岡行きです。富士を出ますと、清水、終点静岡の順に止まります。尚、この電車は最終です。この後、東海道線の普通列車はございません。身延線におきましても、本日の運転を終了致しております。予め、ご了承ください。まもなく、富士です」〕

 愛原「……っ、と……!」

 高橋にあれほど寝るなと言ったのに、私の方が舟を漕いでしまったようだ。

 愛原「高橋、すまんな」
 高橋「いえ、大丈夫っス!」

 そこは高橋。
 スマホに興じているとはいえ、ちゃんと起きている。
 高橋に任せて、起こしてもらうという選択もありだったか……。

 高橋「どうしたんスか、先生?」
 愛原「どうしたって、もう富士だろ?」
 高橋「富士?」

 高橋がバッと後ろを振り向く。
 ちょうど電車が止まったところだった。
 そして、大きなエアー音と、京王電車とよく似たドアチャイムを鳴らしてドアが開く。

〔「ご乗車ありがとうございました。富士、富士です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。5番線の電車は、快速、静岡行きです。次の停車駅は、清水です。通過駅にご注意ください」〕

 愛原「ここだよ!」
 高橋「あーっ!」

 あーじゃない!
 こいつはこいつで、スマホに夢中になって乗り過ごすタイプだったか!

〔「快速の静岡行き、まもなく発車致します」〕

 電車の車外スピーカーから、乗降促進メロディが流れる。
 JR東日本でも中距離電車に、発車メロディと同じ曲のそれがある。
 しかし、発車メロディを殆ど導入していないJR東海においては、全くのオリジナルメロディというわけだ。
 ワンマン列車ではよく鳴らすが、ツーマン列車でも、こういう終電などにおいては使用するようだ。

 愛原「あっぶねぇ!」
 高橋「ちょいギリっス!」

 私達は無事、電車を降りることができた。
 旧型のモーター音と新型のモーター音を響かせて、臨時の快速列車は発車していった。
 三島駅発車の時点では座席が全て埋まり、吊り革にも乗客が掴まるほどの乗客数だったものが、この時点では空席を目立たせていた。

 愛原「やっぱり寝ないように気をつけるべきだったな」
 高橋「さ、サーセン……」

〔「本日、当駅から発車致します列車は全て終了致しております。本日、当駅から発車致します列車は、全て終了致しております。ご利用ありがとうございました。尚、まもなく駅の方、閉鎖となります。どなた様も、お気をつけてお帰りくださいませ」〕

 私達は改札の外に出る前に、トイレを借りた。
 もちろん、小さい方なのですぐである。
 そして、それから自動改札機を通過した。

 愛原「北口から出た方がいいな」

 階段を下りて、人けの少ない駅前に出る。

 愛原「タクシーに乗る前に、ちょっと一杯飲もう」
 高橋「了解っス!ビールっスか!?」
 愛原「何言ってんだよ。ただの水分補給だよ」
 高橋「あっ……」

 階段を下りた所にある自販機でお茶を購入する。
 自覚していない状態での脱水が1番危険だ。
 案の定、飲み始めるとペットボトルの半分を一気に飲む形となった。

 愛原「やっぱりな……」
 高橋「もう1本買っときますか」
 愛原「そうしよう」

 駅の敷地内にある自販機ということもあり、ICカードが使える。
 それでペットボトルをもう1本買っておき、鞄の中に入れておいた。

 愛原「よし、行こう」

 そして、駅前のタクシー乗り場で待機しているタクシーに乗り込んだ。
 首都圏では見られなくなった普通車タイプのタクシーで、高橋が、

 高橋「クルーだ、クルーだ」

 と、何だか喜んでいた。
 何だ?
 走り屋から注目される車種なのか?

 愛原「富士宮の……」

 私は運転手に行先を告げた。
 富士宮までの長距離客だということで喜んでいたようだが、有名なスポットが行先ではない為、ナビに住所を入力してもらい、その通りに行ってもらうことにする。

 愛原「やっぱり、到着は1時頃になりそうだな」
 高橋「ガチの真夜中っスね!俺にとっては、エンジン全開っス!」
 愛原「若いっていいねぇ……」

[同日01時00分 天候:晴 静岡県富士宮市下条 民宿さのや]

 タクシーは国道バイパスではなく、県道を通って向かった。
 途中には真っ暗な道をハイビームで照らして進む場所もあり、地元の人でないと分からない道であることが分かる。
 運転手も仕事柄、富士宮市にはよく行くそうだが、やはり観光客を乗せて行く場合が多いようで、そういったスポットであれば、ナビ無しで行けるのだが、さすがに小さな民宿となると、そういうわけにもいかないようだ。
 で、向かう最中に東名高速や新東名の下を通って行くわけだが、週末の夜中ということもあり、高橋と同好の士が車が爆走しているようで、ちょうどそんな車が爆音鳴らして通過する所を見ると、高橋もうずくようである。
 その度に私は、『今日は仕事だ』と窘めるのであった。

 運転手「この辺りのようですが……」
 愛原「あー、そうですね」

 で、そこはさすが民宿。
 看板に電気が灯っていて、県道からでも分かるようになっている。
 県道といっても1.5車線ほどの狭い道幅の道路なのであるが。
 中型で本数も少ないとはいえ、ここを路線バスも通るのだから、そういう時はすれ違いが大変だろう。
 私は民宿の正面玄関前に、タクシーを止めてもらった。
 支払いは善場主任からもらったタクシーチケットで払う。
 こういう民宿だと、正面玄関は閉鎖されている。
 しかし、ここは大石寺の近くで、信徒も宿泊することがある民宿だ。
 丑寅勤行へ参加する為に、裏口から出入りできるようになっているのだという。
 私はタクシーを降りると、すぐに公一伯父さんに電話した。
 私達が着くまで起きていると言っていたが、なかなか電話に出ないところを見ると、やっぱり寝てたか。
 まあ、私も危うく電車の中で寝てしまったから、人の事は言えないのだが。

 愛原公一「おー、学。ご苦労さんじゃのー」
 愛原学「あー、伯父さん。悪いね、寝てる時にw」
 公一「な、何を言う!?ワシは寝らんぞ!?」

 ウソこけw

 学「まあ、とにかく、今着いたから。今、民宿の前」
 公一「そうか。では、今裏口を開ける。そこまで来てくれ」
 学「分かったよ」

 私は電話を切った。

 学「というわけだ。行くぞ」
 高橋「は、はい」

 高橋も笑いを堪えていた。
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“私立探偵 愛原学” 「深夜の卯酉東海道」

2023-03-01 15:41:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月21日22時40分 天候:雨 東京都千代田区丸の内 JR(東海)東京駅→東海道新幹線815A列車16号車内]

 降りしきる雨の中、私と高橋を乗せた覆面パトカーは、赤色灯にサイレンを鳴らしながら東京駅に向かった。
 おかげで赤信号を突破していたこともあり、新幹線の最終列車には間に合いそうだった。
 車が日本橋口に到着する。
 ここは作者の勤務地に程近い東京駅の最北にある出入口で、JRバスなどの高速バスの到着場となっている。
 ピーク時には引っ切り無しに各地から到着してくる高速バスでごった返すロータリーだが、深夜の今は到着便も少ない為か、バスの姿は少なく、代わりに空車表示のタクシーが何台か停車していた。

 善場の部下「到着しました!」
 愛原「ありがとうございます!」

 よくよく考えてみれば、デイライトの職員は国家機関からの出向者ばかりであり、何らかの権限で緊急車両を使用することができるのだろう。
 この職員も、出向元は警察とかなのかもしれない。

 愛原「高橋、行くぞ!」
 高橋「はい!」

 私と高橋は車を飛び降り、駅構内へと飛び込んだ。
 団体客の待ち合わせ場所に使われるアトリウムを抜け、JR東海が運営するキップ売り場へと飛び込む。

 愛原「新幹線は三島までだが、そこから在来線で富士駅までは行けるんだ。だから、キップもそこまで買う」
 高橋「さすがですね」

 キップを買うと、すぐに改札口に飛び込んだ。

〔「本日の最終、“こだま”815号、三島行きは、14番線から、まもなくの発車となります。ご乗車のお客様は、14番線へお急ぎください」〕

 それから階段を駆け上り、14番線ホームに到着する。
 ホームにはN700Aが発車を待っていた。
 日本橋口改札からホームへ行こうとすると、北端部分に出る。
 なので、もっとも近い車両は最後尾の16号車となる。

〔「レピーター点灯です」〕

 どうやら信号が開通したらしい。
 私達が16号車に飛び乗る頃、ホームから発車メロディが鳴り響いてきた。

〔14番線、“こだま”815号、三島行きが、発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕

 普通、発車メロディは1コーラスだけなのだが、終電ということもあり、2コーラス流すこともあるし、3コーラス流すこともあるという。
 その為、発車が遅れることもあるようだが、終電なので仕方が無い。
 私と高橋は、空いている2人席に腰かけた。
 金曜日の夜なのに比較的空いているのは、まだコロナ禍の影響が出ているということだろう。
 ようやく車両のドアが閉まり、列車がスーッと走り出した。

〔♪♪(車内チャイム。“AMBITIOUS JAPAN”)♪♪。今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、三島行きです。終点、三島までの各駅に止まります。次は、品川です〕

 窓には水滴が付いている。
 だが、天気予報では静岡は晴れているようなので、神奈川県辺りで雨は止むのかもしれない。

 愛原「とんでもないことになったな……」
 高橋「本当に大丈夫なんスかね?」
 愛原「分からん」

[同日23時39分 天候:晴 静岡県三島市一番町 JR三島駅→東海道本線273M列車先頭車内]

 列車は品川、新横浜と乗客を乗せて行き、小田原、熱海と降ろしていく。
 その間、高橋は喫煙ルームにタバコを吸いに行ったり、私もトイレに行ったりした。
 途中で飲み物が買えなかったのは痛かった。
 “こだま”には車内販売は無いし、自販機も無い。
 また、終電ということもあり、後続の“ひかり”や“のぞみ”の通過待ちも無いので、途中駅もすぐに発車してしまう。
 その為か、三島まで1番早く到着できる“こだま”かもしれない。

〔♪♪(車内チャイム。“AMBITIOUS JAPAN”)♪♪。まもなく終点、三島です。東海道線、伊豆箱根鉄道線はお乗り換えです。今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 列車が速度を落として行く。
 この頃になると、窓に付いていた水滴は乾いているし、富士山の上に月が見える。
 リサのことさえなければ、月見酒を嗜みたいところだ。

〔「……乗り換えのご案内です。東海道本線下り、快速の静岡行きは、4番線から23時47分の発車です。この列車は沼津行きですが、本日は快速の静岡行きとなります。尚、上りは本日の運転を終了致しております。……」〕

 そう。
 沼津行きの最終電車は、金曜日と土曜日だけ、静岡まで延長運転が行われる。
 それも、快速なる。
 もっとも、富士駅までは各駅停車だが。
 他にも伊豆箱根鉄道がこの新幹線に接続しており、乗り換え客が殺到するものと思われる。

〔みしま、三島です。みしま、三島です。ご乗車、ありがとうございました〕

 最終列車が三島駅に到着する。

 愛原「乗り遅れるなよ!」
 高橋「はい!」

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、三島、終点、三島です。車内にお忘れ物の無いよう、お気をつけください。東海道線下り列車、伊豆箱根鉄道線におきまして、最終列車の接続を行っております。東海道線下り、快速の静岡行きは4番線。伊豆箱根鉄道駿豆線、各駅停車の大場行きは7番線です。……」〕

 新幹線乗換口を通過し、地上にある4番線ホームに行くと、5両編成の電車が停車していた。

〔「4番線に停車中の電車は、23時47分発、快速の静岡行きです。本日は沼津より先、快速運転となり、静岡まで参ります。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 中央本線で乗ったことのある211系電車を先頭に、新型の313系を連結した新旧混合編成である。
 私達は先頭車に乗り込んだ。
 尚、いずれも座席はロングシートのみである。
 少し詰めてもらって、ピンク色の座席に腰かけた。
 JR東日本のエメラルドグリーンの座席と比べると、こちらの方が軟らかい。

〔「ご案内致します。この電車は東海道本線下り、23時47分に発車致します、快速の静岡行きです。富士までの各駅と清水、終点静岡の順に停車致します。……」〕

 この分だと、伯父さんの民宿に到着するのは、夜中の1時ぐらいになりそうだ。

 愛原「高橋、寝過ごさないように気をつけろ」
 高橋「大丈夫っス。走り屋は、夜中が勝負なんス」
 愛原「自分で運転してたらの話だろう?」
 高橋「仲間の運転でも、寝ちゃダメなんですよ」
 愛原「あー、そうかい」
 高橋「先生は寝てていいっスよ。着いたら、起こします」
 愛原「リサのことが心配で、とても寝付けないよ」

 もしもリサが手遅れになろうものなら、善場主任からすぐに連絡が来るようになっている。
 しかし、スマホを確認したが、今のところそんな連絡はまだ無かった。
 そして発車の時間が迫る。
 これもまた終電ということもあり、駆け込み客を待ったりしたもので、発車が遅れてしまったが、途中駅で回復できるようになっているのだろう。
 その為の快速運転と思われる。
 もっとも、下車駅の富士駅までは各駅停車だが。
 JR東日本の車両と違い、京王電車と同じ音色のドアチャイムが後付けされた、その音色を響かせて、ドアが閉まる。
 あとは、寝過ごさないようにするだけだ。
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