[10月29日13時00分 天候:雨 福島県南会津郡桧枝岐村見通 道の駅『尾瀬桧枝岐』]
昼食を終えて、私達は取りあえず村の中心部に行くことにした。
愛原「げっ!雨降ってきた!」
高橋「そうっスね……」
愛原「マジかよ。調査しにくいなぁ……」
私は空を恨めしそうに眺めた。
と、その時、救急車のサイレンがすぐ近くで鳴り始めた。
静かな村だと思っている所に、けたたましいサイレンの音が聞こえるとびっくりする。
もっとも、私達のいる場所は、村の中でも特に観光客が賑わう所なのだろうが。
確かに1台の救急車が車庫から出て来て、国道の方を、村の中心部に向かって走り去って行った。
車庫ということは、あそこは消防署なのか。
消防署というよりは、消防団かもしれない。
愛原「あ……!」
そこで私は思い出した。
確か、UBCSが来た後、現場は火災が起きていたはずだ。
もしかしたら、消防車が出動したかもしれないと思った。
愛原「ちょっと、あそこまで行ってみるぞ!」
高橋「は、はい」
私達は救急車が出動した建物へと向かった。
そこは消防団ではなく、消防署の分遣所であった。
消防団が民間人のボランティアから構成されるのに対し、こちらは本当に消防署から派遣されている消防士や救急救命士がいる所だ。
さすがは土曜日でも、当直員はいるようだ。
愛原「失礼します。突然の訪問、恐れ入ります」
当直員「何でしょうか?」
愛原「1つ、お聞きしたいことがありまして……」
当直員「は?」
愛原「今から7~8年ほど前、この村で火災はありませんでしたか?それも、住民に死傷者が出るほどの大規模な火災です。実は私達、東京から来た探偵の者ですが、その火災について調べております」
当直員「と、急に言われても……」
愛原「まあ、そうですよね。ただ、この村では滅多に火災など起こらないと思います。にも関わらず、死傷者が出るほどの火災とあらば、記憶に残られるのではないでしょうか?」
当直員「そう言われても、自分も3年前に配属されたもので、それ以前となると……」
愛原「そうですか」
私は善場主任から渡された資料を見せた。
愛原「この住所がどの辺りなのか分かりますか?」
当直員「下見通ですか……」
消防署には地図がある。
当直員はその地図を私達に見せながら言った。
当直員「この辺り一帯ですね」
愛原「広っ!」
元々が山間にある村であるが、更に山に入った所のようだ。
愛原「ここに行くには……?」
さっき通って来た国道352号線でも良いが、それ以外だと……。
当直員「この道ですね。尾瀬・小繋ライン」
愛原「これは県道ですか?」
当直員「いえ。厳密に言えば林道です」
愛原「林道……」
高橋「こんなとこ、人が住んでるんスか?」
当直員「いえ。林業の作業小屋とか、狩猟とか、そういう関係者が寝泊まりする小屋とかはありますが、住宅は無いですね」
愛原「でもまあ、行ってみよう。何がしかのヒントくらいはあるかも……」
高橋「はあ……」
私は当直員に礼を言うと、分遣所をあとにした。
そして再び車に乗り込み、来た道を戻る恰好になる。
愛原「ああ、この道か!」
スノーシェッドを出て、すぐの丁字路がそうだったのだ。
信号など無いし、そもそも案内看板すら出ていない。
愛原「ここを入るらしい」
高橋「はい」
林道といっても、舗装はちゃんとされているし、道幅も国道352号線と遜色ない2車線である。
ただ、明らかに国道よりも車は少なかった。
例え山間の村でも、そこは国道。
田舎道は田舎道ならではの車通りがあるのに、こちらは一気に車が少なくなった。
愛原「こ、これは……!」
この道もグーグルマップのストリートビューで観れるはずだが、どうやら見落としていたようだ。
高橋「大丈夫っスか、先生?」
愛原「ああ」
何となく夢で見た光景と、かなり雰囲気の似ている道だった。
舗装はされていて、しかも道幅も広くなく狭くもなく、しかしなかなか滅多に車も通らない道……。
夢の中で見た道路と、かなり似ていた。
愛原「高橋、後ろから車来てるか?」
高橋「あ、はい。来てますが?」
愛原「ちょっと、先に行かせてやってくれ。ここからは、ゆっくり走ってほしいんだ」
高橋「わ、分かりました」
高橋は車を左に寄せると、左ウィンカーを点けて、後続の車を先に行かせた。
栃木ナンバーの車だった。
あれも、観光客の車なのだろうか。
この道には速度制限の標識は無く、ということは法定速度の60キロで走って良い道なのだろうが、そこを半分以下の速度に落としてもらう。
夢の中の光景が見えてきたら、すぐに車を止められるように。
愛原「後ろから車が来たら、先に行かせてな?」
高橋「分かりました」
そして……。
愛原「待て!車止めろ!」
高橋「は、はい!」
いつの間にか雨は止んだ。
まだ、空は曇っているが、通り雨だったのだろう。
そこは橋の近くだった。
橋の手前に交差点がある。
交差点といっても、信号などあるはずがない。
愛原「ここは……!」
夢の中で見た光景にかなり似ていた。
私は車を降りた。
車を降りると、とても静かな場所だった。
聞こえてくるのは車のエンジン音と、ハザードランプのカチカチ音。
自然音としては橋の近くということもあり、川のせせらぎの音と、天候が不安定なのか、時折吹いてくる突風のような風の音だった。
愛原「リサ、ここに見覚えはあるか?」
リサ「うん。わたしも、夢で見た光景に似てるような気がする」
愛原「人間としての記憶はどうだ?戻りつつあるんだろ?」
リサ「そ、それが……」
愛原「ん?」
どうも波があるのか、それとも変異のせいなのか、最近は人間だった頃の記憶が夢となって現れるようなことはないらしい。
愛原「だが、この道の先かもしれんぞ。ちょっと行ってみよう」
高橋「は、はい」
愛原「高橋は車で待っててくれ」
高橋「ええっ?」
愛原「この道、駐禁の標識は無かったが、こんな所に車がポツンと止まってたら怪しまれちまう。そうなった時に上手く説明しといてくれ。オマエの点数、残り1点だろう?」
高橋「そ、そうでした」
何も無いと思うが、私は一応、後ろの荷物からショットガンを取り出し、ヘルメットを被った。
愛原「リサはいいのか?」
リサ「うん、大丈夫。ブルマ穿いてる」
リサは黒いスカートを穿いていたが、それをピラッと捲ってみせた。
確かにスカートの下には、昨日から穿いているエンジ色のブルマがあった。
愛原「ああ、そう。いや、そういう問題じゃないんだが……。まあいい。行くぞ」
私はリサを伴って、夢の中に酷似した脇道に入って行った。
昼食を終えて、私達は取りあえず村の中心部に行くことにした。
愛原「げっ!雨降ってきた!」
高橋「そうっスね……」
愛原「マジかよ。調査しにくいなぁ……」
私は空を恨めしそうに眺めた。
と、その時、救急車のサイレンがすぐ近くで鳴り始めた。
静かな村だと思っている所に、けたたましいサイレンの音が聞こえるとびっくりする。
もっとも、私達のいる場所は、村の中でも特に観光客が賑わう所なのだろうが。
確かに1台の救急車が車庫から出て来て、国道の方を、村の中心部に向かって走り去って行った。
車庫ということは、あそこは消防署なのか。
消防署というよりは、消防団かもしれない。
愛原「あ……!」
そこで私は思い出した。
確か、UBCSが来た後、現場は火災が起きていたはずだ。
もしかしたら、消防車が出動したかもしれないと思った。
愛原「ちょっと、あそこまで行ってみるぞ!」
高橋「は、はい」
私達は救急車が出動した建物へと向かった。
そこは消防団ではなく、消防署の分遣所であった。
消防団が民間人のボランティアから構成されるのに対し、こちらは本当に消防署から派遣されている消防士や救急救命士がいる所だ。
さすがは土曜日でも、当直員はいるようだ。
愛原「失礼します。突然の訪問、恐れ入ります」
当直員「何でしょうか?」
愛原「1つ、お聞きしたいことがありまして……」
当直員「は?」
愛原「今から7~8年ほど前、この村で火災はありませんでしたか?それも、住民に死傷者が出るほどの大規模な火災です。実は私達、東京から来た探偵の者ですが、その火災について調べております」
当直員「と、急に言われても……」
愛原「まあ、そうですよね。ただ、この村では滅多に火災など起こらないと思います。にも関わらず、死傷者が出るほどの火災とあらば、記憶に残られるのではないでしょうか?」
当直員「そう言われても、自分も3年前に配属されたもので、それ以前となると……」
愛原「そうですか」
私は善場主任から渡された資料を見せた。
愛原「この住所がどの辺りなのか分かりますか?」
当直員「下見通ですか……」
消防署には地図がある。
当直員はその地図を私達に見せながら言った。
当直員「この辺り一帯ですね」
愛原「広っ!」
元々が山間にある村であるが、更に山に入った所のようだ。
愛原「ここに行くには……?」
さっき通って来た国道352号線でも良いが、それ以外だと……。
当直員「この道ですね。尾瀬・小繋ライン」
愛原「これは県道ですか?」
当直員「いえ。厳密に言えば林道です」
愛原「林道……」
高橋「こんなとこ、人が住んでるんスか?」
当直員「いえ。林業の作業小屋とか、狩猟とか、そういう関係者が寝泊まりする小屋とかはありますが、住宅は無いですね」
愛原「でもまあ、行ってみよう。何がしかのヒントくらいはあるかも……」
高橋「はあ……」
私は当直員に礼を言うと、分遣所をあとにした。
そして再び車に乗り込み、来た道を戻る恰好になる。
愛原「ああ、この道か!」
スノーシェッドを出て、すぐの丁字路がそうだったのだ。
信号など無いし、そもそも案内看板すら出ていない。
愛原「ここを入るらしい」
高橋「はい」
林道といっても、舗装はちゃんとされているし、道幅も国道352号線と遜色ない2車線である。
ただ、明らかに国道よりも車は少なかった。
例え山間の村でも、そこは国道。
田舎道は田舎道ならではの車通りがあるのに、こちらは一気に車が少なくなった。
愛原「こ、これは……!」
この道もグーグルマップのストリートビューで観れるはずだが、どうやら見落としていたようだ。
高橋「大丈夫っスか、先生?」
愛原「ああ」
何となく夢で見た光景と、かなり雰囲気の似ている道だった。
舗装はされていて、しかも道幅も広くなく狭くもなく、しかしなかなか滅多に車も通らない道……。
夢の中で見た道路と、かなり似ていた。
愛原「高橋、後ろから車来てるか?」
高橋「あ、はい。来てますが?」
愛原「ちょっと、先に行かせてやってくれ。ここからは、ゆっくり走ってほしいんだ」
高橋「わ、分かりました」
高橋は車を左に寄せると、左ウィンカーを点けて、後続の車を先に行かせた。
栃木ナンバーの車だった。
あれも、観光客の車なのだろうか。
この道には速度制限の標識は無く、ということは法定速度の60キロで走って良い道なのだろうが、そこを半分以下の速度に落としてもらう。
夢の中の光景が見えてきたら、すぐに車を止められるように。
愛原「後ろから車が来たら、先に行かせてな?」
高橋「分かりました」
そして……。
愛原「待て!車止めろ!」
高橋「は、はい!」
いつの間にか雨は止んだ。
まだ、空は曇っているが、通り雨だったのだろう。
そこは橋の近くだった。
橋の手前に交差点がある。
交差点といっても、信号などあるはずがない。
愛原「ここは……!」
夢の中で見た光景にかなり似ていた。
私は車を降りた。
車を降りると、とても静かな場所だった。
聞こえてくるのは車のエンジン音と、ハザードランプのカチカチ音。
自然音としては橋の近くということもあり、川のせせらぎの音と、天候が不安定なのか、時折吹いてくる突風のような風の音だった。
愛原「リサ、ここに見覚えはあるか?」
リサ「うん。わたしも、夢で見た光景に似てるような気がする」
愛原「人間としての記憶はどうだ?戻りつつあるんだろ?」
リサ「そ、それが……」
愛原「ん?」
どうも波があるのか、それとも変異のせいなのか、最近は人間だった頃の記憶が夢となって現れるようなことはないらしい。
愛原「だが、この道の先かもしれんぞ。ちょっと行ってみよう」
高橋「は、はい」
愛原「高橋は車で待っててくれ」
高橋「ええっ?」
愛原「この道、駐禁の標識は無かったが、こんな所に車がポツンと止まってたら怪しまれちまう。そうなった時に上手く説明しといてくれ。オマエの点数、残り1点だろう?」
高橋「そ、そうでした」
何も無いと思うが、私は一応、後ろの荷物からショットガンを取り出し、ヘルメットを被った。
愛原「リサはいいのか?」
リサ「うん、大丈夫。ブルマ穿いてる」
リサは黒いスカートを穿いていたが、それをピラッと捲ってみせた。
確かにスカートの下には、昨日から穿いているエンジ色のブルマがあった。
愛原「ああ、そう。いや、そういう問題じゃないんだが……。まあいい。行くぞ」
私はリサを伴って、夢の中に酷似した脇道に入って行った。