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雲南の冬の味覚「柚子」3

2006-12-22 23:53:48 | Weblog
 写真左側中央は「本草綱目」の柚、右下が「植物名實図考」の柚。

 今日は冬至です。ゆず湯に入られた方もいらっしゃることでしょう。中盤の名前の由来は長いので、読み飛ばしてください。調べだしたら止まらなくなってしまっただけなので、最初の部分と最後の結論だけをどうぞ。

【ヨウズの原産地】
 昆明のヨウズは主に雲南省の南部・西双版納(シーサンパンナ)で収穫される。標高1890メートルの昆明と比べて、シーサンパンナ州の州都・景洪(チンホン)の海抜は550メートル。海抜が低い上に日本の仙台から東京ほどの距離を南下するため、一年中、南国フルーツがたわわに実る、亜熱帯気候なのだ。植物図鑑にも原産地は雲南、東南アジアと書いてあったので、本場なのだろう。

 1月にシーサンパンナ州の「モンルン」に行った折には、こんな大きなものがぶら下がって樹木は傷まないのかしら、と心配するほどヨウズがそこら中で実っていた。もちろん、地元の路上や市場でもヨウズがたくさん売られていた。値段は1個1元(15円弱)ほど。昆明の半額ぐらいだ。

 ちょうどスイカも収穫期で、路上で売っていたので、その甘みにむしゃぶりついた。ラグビーボールほどのすいかが半個で1元。飲み物の自動販売機などない田舎では、くだものの地売りがなにより喉をうるおしてくれるのだと実感した。スイカは、このあたりでは1980年代半ば水田裏作として始められ、極寒の東北地区に冬場に出荷すると高く売れるというので、以降、さかんになったのだそうだ。

【柚子はユズ? ヨウズ?】
 では、なぜ日本で柚子はユズを指すものが、中国ではブンタンを指すのだろう。
事典(平凡社大百科事典、1985年)のユズの項を引いて見ると「中国名の〈柚〉は転化して現在はブンタンをさす。」とあった。この文章によると、中国でも元はユズを意味していたものが、いずれかの時にブンタンをさしたことになる。

 西暦100年ごろの後漢時代(古墳時代より以前)につくられた中国最古の部首別字書『説文解字』によると「柚は橙に似て酢っぱい」と書かれている。橙は「橘の属」と説明されているので、柚は柑橘系で果汁が酸っぱいものだとわかる。どちらかというとユズを指しているようではないか。

 次に一気に時代が下り漢方薬の大著として有名な明代(日本では室町時代ごろ)の『本草綱目』では柚の別名として「臭橙、朱欒」とあり、その解説には「今の人はその黄色くて小さいものを蜜筒(瓜の一種らしい)と呼ぶ。大きいものを朱欒という」と書かれていた。
 ‘朱欒’は日本ではザボンと音読され、ブンタンと同じ意味だ(と、植物学では理解されている)。産地は広南、ともある。末文は「大小や古今や方言によって呼び方は同じではない」と結ばれていた。明らかにブンタンを指した文章だ。

 『本草綱目』の挿絵を見ると皮の分厚さがおそろしく強調されたまん丸の実が描かれている。うまい絵とはいえないが、ブンタンの特徴がよく表れている。つまり明代には柚子はブンタンを意味していたらしい。

 さらに時代を下って清代(日本では江戸時代ごろ)に書かれた『植物名実図考』には「柚は南方にきわめて多く、赤い果肉で、たいへん佳しきもの」とある。香りにはまったく触れていない。やはりユズというよりブンタンをさしているようだ。ユズならば、そのままで食べるには、ちと苦い。だが、挿絵を見ると、グレープフルーツ系であるブンタンに特徴的なツルツルとした皮ではなく、ボツボツの皮で実の下の部分がきゅっとすぼまった形で描かれている。この丸さのない、ごつごつとした形はユズっぽい。むう、どちらを意味しているのじゃ、と絵に問いかけてみたくなる。

 『本草綱目』の作者・李時珍は湖北省出身、『植物名実図考』の作者・呉其しょうは河南省出身なので、わりと地域的に近接している。同じものを意味しているような気もするが、どうだろう。

 ぜひ、皆さんの意見をお聞かせください。
 ただ一ついえることは、ユズは耐寒性があるが、ブンタンは暖かいところでしか育たないこと。地域性があるので、同じ漢字でも呼び名が変わることは当然ありうるだろう。

【すっぱいのがユズ】
 日本に目を向けると、ユズは古来、もしくは奈良、飛鳥時代に中国あたりから渡来したらしい。表面がでこぼこしていることから「オニタチバナ」とも呼ばれていた。「ユズは実のすっぱい酸をユノスとよび、これがつまってユズとなった」(たべもの語源辞典、清水桂一編、東京堂書店)。

 一方、ブンタンは江戸時代までに南方から持ち込まれたといわれる。元禄時代の「嵯峨日記」などにブンタンのことを書いた文がでている。

 おもしろい話を見つけた。「ブンタン」の由来についてだ。1927年生まれの佐賀大学名誉教授岩政正男さんが台湾大学に行った折に聞いた話では、「旦は俳優を意味し、昔、文という俳優さんの庭園に見事な洋ナシ形をした柚があったので、この果実を文旦と呼ぶようになったという。」(岸本修編『日本のくだものと風土』古今書院)
 ブンタンの代表種・晩白柚(バンペイユ)も日本の台湾統治下の1930年に台湾から日本に導入されている。南方からもたらされたくだものであることは間違いない。しかし、それにしても名前の付け方は、ずいぶん、いいかげんなものだ。

 中国でもユズはあるにはあるが、現在ではあまり料理には使われない。日本ほどポピュラーな食物ではないのだ。だからこそ、南方の珍しい実であったブンタンが「柚子」の字を頂戴することになったのかもしれない。
コメント
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