写真は昆明に比較的近い九郷鍾乳洞。洞内には「九郷盲魚」と呼ばれる、何世代も暗闇で生息していたために目が退化した珍しい魚が生息している。雲南省Ⅱ類保護魚類に指定されている。サワラやししゃもの仲間の魚だ。このように鍾乳洞内には様々な生物が息づいている。
【石灰岩質が生み出す風景】
なぜ、雲南のコウモリでSARSの研究が進められたのでしょう?
まず一点目は、SARSがはじめて報告された食用野生動物の市場がある広東省から近い場所にあること。このときはハクビシンなどが疑われ、中国全土で取り扱いが一時期、禁止されました。
私は2004年から2005年にかけて昆明の市場に通っていましたが、SARSまっただ中だというのに市場にさりげなく犬や亀、ウサギなどとともにハクビシンが売られているので、雲南の人はニュースを気にしないのか、と驚いたものです
(犬もハクビシンも中国では食用。
ハクビシンは雲南料理、広東料理に使われるほかに、満漢全席のメニューにも梨との煮込み料理の記載があります。臭みはあるけど、味は濃くておいしいそうです。私は食べたことはありません。
ちなみにハクビシンは日本にもいます。我が家の屋根裏にも住みつかれ、ベランダでは目があい、お隣さんの屋根では繁殖までしてフンガイものです)
二点目は、もうおわかりになった通り、雲南はコウモリ天国でもあるのです。雲南の中央部を占める現在1400メートルを超える標高のある雲貴高原は鍾乳洞と石林の宝庫なのです。
雲南中央部で観光地化を強力に推し進めている「○○風景名勝区」は十数カ所ありますが、それらの過半には「洞」もしくは「林」という名がついていて、石灰岩質ならではの景色を作り出しています。
これは2億年前は雲貴高原は海底だったからです。珊瑚礁などの石灰岩質のものが厚い層を作った後、6000万年前から1000万年前の強烈な地殻変動と海面縮小で隆起し地上に押し出され、地上部は風化して石林に、地下なら水の浸食で鍾乳洞になったというわけです。
昆明周辺では2007年に世界遺産に登録された昆明の東南12㎞ほどの路南石林。鍾乳洞なら、燕子洞のある建水の他、昆明東北60㎞ほどの距離にある九郷が有名です。
これらの地形はコウモリが住み着くのに最適な穴蔵を提供してくれるほか、最近まで人の住み処も提供してくれていました。
九郷や建水の燕子洞など巨大な鍾乳洞には、必ずといっていいほど、新石器時代の遺物が発見されるのです。
磨製石器や石包丁、猪などの骨、炭など人の住んだ痕跡が残されているのです。
1980年代にこれらの鍾乳洞の一つを訪れた人から見せてもらった写真には石林や鍾乳洞に上手に住居を造って居住する人々がうつっていました。
日のあたらない、じめじめした住居にみえましたが、温度変化が少ない、雨漏りがしないなどのメリットがあるのでしょう。戦乱で住み処を追われた一族が住み始め、外界の歴史が進んでいることも知らずに住み続けていた、という人々の報告もあります。ただ、そのような場所に住む人は日光に当たる時間が少ないためクル病などの独特の病気が見られた、ということです。
ご多分にもれず、近年、建水の鍾乳洞を流れる川も建水の隣にある開遠市の工業化に伴い水質汚染が激しくなっているそうです。独特の生態系を持つ鍾乳洞を流れるだけではなく、飲み水として多くの建水市民が昔から利用し、名産の豆腐のにがり水まで提供している水でもあるだけに、本当に対策が急がれます。
(この章、おわり)
*次回は、たぶん甘酒の話です。
【石灰岩質が生み出す風景】
なぜ、雲南のコウモリでSARSの研究が進められたのでしょう?
まず一点目は、SARSがはじめて報告された食用野生動物の市場がある広東省から近い場所にあること。このときはハクビシンなどが疑われ、中国全土で取り扱いが一時期、禁止されました。
私は2004年から2005年にかけて昆明の市場に通っていましたが、SARSまっただ中だというのに市場にさりげなく犬や亀、ウサギなどとともにハクビシンが売られているので、雲南の人はニュースを気にしないのか、と驚いたものです
(犬もハクビシンも中国では食用。
ハクビシンは雲南料理、広東料理に使われるほかに、満漢全席のメニューにも梨との煮込み料理の記載があります。臭みはあるけど、味は濃くておいしいそうです。私は食べたことはありません。
ちなみにハクビシンは日本にもいます。我が家の屋根裏にも住みつかれ、ベランダでは目があい、お隣さんの屋根では繁殖までしてフンガイものです)
二点目は、もうおわかりになった通り、雲南はコウモリ天国でもあるのです。雲南の中央部を占める現在1400メートルを超える標高のある雲貴高原は鍾乳洞と石林の宝庫なのです。
雲南中央部で観光地化を強力に推し進めている「○○風景名勝区」は十数カ所ありますが、それらの過半には「洞」もしくは「林」という名がついていて、石灰岩質ならではの景色を作り出しています。
これは2億年前は雲貴高原は海底だったからです。珊瑚礁などの石灰岩質のものが厚い層を作った後、6000万年前から1000万年前の強烈な地殻変動と海面縮小で隆起し地上に押し出され、地上部は風化して石林に、地下なら水の浸食で鍾乳洞になったというわけです。
昆明周辺では2007年に世界遺産に登録された昆明の東南12㎞ほどの路南石林。鍾乳洞なら、燕子洞のある建水の他、昆明東北60㎞ほどの距離にある九郷が有名です。
これらの地形はコウモリが住み着くのに最適な穴蔵を提供してくれるほか、最近まで人の住み処も提供してくれていました。
九郷や建水の燕子洞など巨大な鍾乳洞には、必ずといっていいほど、新石器時代の遺物が発見されるのです。
磨製石器や石包丁、猪などの骨、炭など人の住んだ痕跡が残されているのです。
1980年代にこれらの鍾乳洞の一つを訪れた人から見せてもらった写真には石林や鍾乳洞に上手に住居を造って居住する人々がうつっていました。
日のあたらない、じめじめした住居にみえましたが、温度変化が少ない、雨漏りがしないなどのメリットがあるのでしょう。戦乱で住み処を追われた一族が住み始め、外界の歴史が進んでいることも知らずに住み続けていた、という人々の報告もあります。ただ、そのような場所に住む人は日光に当たる時間が少ないためクル病などの独特の病気が見られた、ということです。
ご多分にもれず、近年、建水の鍾乳洞を流れる川も建水の隣にある開遠市の工業化に伴い水質汚染が激しくなっているそうです。独特の生態系を持つ鍾乳洞を流れるだけではなく、飲み水として多くの建水市民が昔から利用し、名産の豆腐のにがり水まで提供している水でもあるだけに、本当に対策が急がれます。
(この章、おわり)
*次回は、たぶん甘酒の話です。