写真上はファドハウス「ミザ・ド・フラッジ」店内のアズレージョ。
アルファマ地区の建物はいずれもたんなるヨーロッパ風と一言では片づけられない雰囲気がある。
【アルファマ地区の丘を下る】
まだ時間があるので、次に丘をずんずん下ってみました。すると昼とは違って対岸のみえない、まるで海のような風景のテージョ川がありました。この高低差が270年ほど前の津波被害を防いだのです。
街灯はほぼなく、人影もなし。ただ、停泊する中型船の明かりだけが水面に映って、夜の寂しい景色に花を添えていました。
夜8時半に近づいたころ、広場に戻ると、例の木のドアが開いていました。人々が入っていきます。ようやく本番です。私たちもチケットを見せて入りました。
【ファド・一人目】
元教会を改装したというレストラン「ミザ・ド・フラッジ(MESA DE FRADES)」は高い天井に漆喰と太い木の梁が差し渡されていて隠れ家的雰囲気。奥が厨房、手前の客席のある空間はアズレージョのある壁によってゆるく二つに分かれていて、奥の方が歌手と演奏者の控えの間になっていました。
壁に沿った席に座ると、テーブルの上には空のお皿が置かれていました。
目の前の壁ちなっているアズレージョは白地に青、黄や土色で彩色されており、3畳ほどの大きさ。そこにはローマ式回廊のような空間でゆったりと議論したり、祈りをささげたりする人々が描かれていました。散歩のときにも感じたのですがアルファマ地区のアズレージョは黄色系統が入って、エヴォラで見た青の白の2色による図柄とは、また違った、豪華な感じ。イスラームの影響でしょうか?
最大30席はありそうですが、現状、10人ほど。
食事は座るなり運ばれてきて、ワインから始まり、前菜、メイン、デザートまで続きます。ヤギ肉のパイ、白身魚のムニエルなど、けっこうな量ですが、少し冷めかけたものもあり、レストランがメインではないな、といった印象を受けました。
食事が続く1時間ほどの間、クラシックギターや、琵琶のような形をしたポルトガルギターをポロンとつま弾いたり、歌手らが店主と談笑したりする様子が聞こえてきて、まるで楽屋におじゃましているみたいです。終始、リラックスムードで期待が高まります。
やがて食事が終わるころ、背の高いカウボーイのような服を着た男性が入口の木のドアを閉め、その前に立ちました。次いでギターの人たちもその横に座ったと思うと、唐突に歌が始まりました。これがファドか、と思う力強さ。先ほどの横丁で聞いた歌とは違って、元気が出てくる謡い方です。だのに、しばらく浸っていると鼻の奥がツーン。泣きそうな気分になるのです。歌の意味も分からず、ただ聞いているだけだというのに。
(つづく)