石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

OPEC50年の歴史をふりかえる(8)

2010-05-13 | OPECの動向

(注)本シリーズ1~9回は「MY LIBRARY(前田高行論稿集)」に一括掲載されています。

8.石油のグリーンスパン:ナイミ・サウジアラビア石油相

 OPEC50年の歴史を前半と後半の二幕の舞台劇にたとえれば、第一幕の主役はサウジアラビアのヤマニ元石油相であり、第二幕の主役は同じサウジアラビアのナイミ現石油相であろう。OPECの創設メンバーであるサウジアラビアは当時も今もOPEC全生産量の半分近くを占める巨大な産油国である。従ってナイミがOPECのリーダーであることにどこからも異議は出ない。かつてOPECに脅威と反感を抱いていた欧米の石油消費国が現在ではOPECに信頼感を持つようになったのはナイミのOPEC内部における傑出した指導力と世界のエネルギー情勢に対する透徹した洞察力に負うところが大きいと言えよう。

  ヤマニは1930年生まれ、ナイミは1935年生まれで二人は5歳しか違わない。しかし二人の経歴は対照的である。ナイミはマッカの名家の生まれで早くから海外に留学したエリートであり、32歳の若さで石油相に就任、24年間にわたってその地位を保った後、1986年にファハド国王によって解任されたが、その時でもまだ56歳だった(本稿第5章及び第6章参照)。

  これに対してナイミが石油相になった時、彼は既に60歳に達していたのである。彼は東部州の貧しい家に生まれ、わずか13歳でアラムコ(現サウジアラムコ)に入社した。仕事は事務所のお茶汲みと書類運搬の雑用係であった。しかし聡明で勤勉な彼は欧米人社員から可愛がられ10代後半には、社内の奨学金制度によりベイルートのアメリカン大学、ついで米国本土の大学で地質学部を卒業、1963年には遂にスタンフォード大学で地質学修士号を取得したのである。

  彼は石油の開発・生産の専門家として社内で順調に昇進、1975年に生産・水圧入担当の副社長となり、1984年には遂に社長に就任した。そして病弱のファハド国王にかわり実権を掌握したアブダッラー皇太子(現国王)が1995年に内閣改造を行った時、ナイミは石油相に抜擢され以来現在も石油相の地位にある。サウジアラビアはサウド家一族が絶対的な支配権を握り主要閣僚もサウド家の王族が占めている。そのような中で王族でもなく有力家系でもない純粋のテクノクラートであるナイミが今も石油相を続けていることは全く異例のことである。

   同じGCC諸国でもクウェイトでは代々の石油相はサバーハ首長家の王族であることが多い。またカタールのアッティヤ副首相兼エネルギー相は在任期間はナイミより長いがアル・サーニー首長家につながる有力一族の出身である。その他のOPEC諸国の石油相は国家元首によって頻繁に交代させられている。つまりナイミのような純粋のテクノクラートが15年も石油相の地位を占めているのは彼に対する国王の信頼が如何に厚いかを示している。

  ナイミも既に75歳の高齢である。年齢的に見てヤマニの在任期間24年を超えることはまず無理であろうが、現在のところ健康状態に問題はなさそうであり、また2007年の任期満了時にも留任を求められ来年3月までの任期を全うすることは間違いないであろう。実は2007年の任期満了時、マスコミから辞任説が流れたことがある。その時本人は辞めたいとも辞めたくないとも言っていない。メディアの執拗な質問に対して彼は、「閣僚の任免権はすべてアブダッラー国王にある。本人に深刻な健康不安がない限り、閣僚は国王によって任命或いは罷免される。私はご覧のとおり健康である」と、記者達を煙に巻いた 。来年3月の改選時の彼の去就が今から注目されている。

  ナイミは今や単なるサウジアラビアの石油相ではなく、OPEC全体のリーダーであり、OPECの顔として押しも押されもせぬ第一人者である。と同時にOPEC穏健派の代表として消費国側の政府や国際石油会社の彼に対する信望は厚い。石油価格が上下動するたびに、世界最大の生産量と埋蔵量を誇るサウジアラビアの石油政策がどのようになるのか、或いはOPECの生産枠が変更されるか否かについて、世界はナイミ石油相の一言一句に固唾を飲む。そしてナイミ石油相は、OPEC総会で急進派を説得し、常に消費国の期待を裏切らない結論を導き出す。

  メディアはそのような彼を「石油のグリーンスパン」と呼んでいる。グリーンスパンとは言うまでも無く前FRB議長のことである。彼は通貨の面から米国及び世界経済を安定させたカリスマ的な人物である。ナイミはエネルギー面で世界経済を安定させることができるカリスマ的な人物であり、それ故に「石油のグリーンスパン」と呼ばれるのである。

(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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