石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

OPEC50年の歴史をふりかえる(最終回)

2010-05-20 | OPECの動向

(注)本シリーズ1~9回は「MY LIBRARY(前田高行論稿集)」に一括掲載されています。

9.石油価格は誰が決める?

 石油価格の推移を20世紀初めからの110年と言う超長期で見ると(図:http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-2-97bOilPrice1900-2010.gif参照)、1973年まではバレル当たりせいぜい1ドル(1900年~第二次大戦直後)か2ドル(1972年まで)であった。そしてその後の第一次オイルショック(1973年)により10ドル近くに跳ね上がり、更に第二次オイルショック(1979年)を経て2000年まで石油価格は20ドル前後を上下している。このことから世界の石油価格は20世紀の初めからの70数年間はメジャーが握り、その後の4分の1世紀はOPECが握っていたと言えよう。

  しかし2000年以降の石油価格の急騰相場を作り出したのはメジャーでもなければOPECでもない。それは中国やインドなど新興工業国による石油需要の増加がもたらした需給バランスによるものと言えよう。2008年には投機マネーが相場を撹乱し7月に147ドルと言う史上最高を記録、同年の年間平均価格は90ドルを超えた。そして現在は70~80ドル台を維持している。この価格は1980-90年代のほぼ4倍の水準であるが、石油生産国及び石油消費国を含め関係者の多くはこの価格水準を容認しているようである。つまり現在は「見えざる神の手」として市場が石油価格を決めていると言えそうである。

  かつてのOPEC全盛時代には世界中がOPEC総会の決定に一喜一憂し、イラン、リビア、ベネズエラのような当時の強硬派を勢いづかせた。米国を中心とする欧米消費国はこれに対して「OPEC悪者論」を主張し、それが国際世論の潮流となった。1974年にIEA(国際エネルギー機関)が設立されたが、これは客観的な調査及び統計を通じて石油の安定した需給構造を確立するための提言を行う石油消費国の組織としてOPECの対抗勢力に位置づけられた。

  欧米との協調を重視するサウジアラビア、UAEなどの穏健派はOPEC内部で孤立し、OPECの結束は乱れた。結果的に1990年代末には石油価格が暴落しOPEC加盟国自身が大きな痛手を被っている。同時に国連の経済制裁によりイラン及びリビアが国際社会で孤立した。これによりサウジアラビアのナイミ石油相を中心とする穏健派がOPECの主導権を取り戻し、2000年に入ると欧米消費国との対話あるいはIEAとの協調の道を探り始めた。

  その一つの表われが2002年の大阪におけるOPEC総会と、それに続く第8回国際エネルギーフォーラム(IEF)の同時開催であろう。この時にこれまでバラバラであった生産国と消費国のエネルギー統計を統一しようと言う機運が盛り上がり、共同機関の本部がサウジアラビアのリヤドに設置された。さらにOPECはEUとも定期的な協議を行うようになり、石油生産国と消費国の対話、いわゆる「産消対話」が始まったのである。

  ただ「産消対話」と言う言葉は耳触りのよい夢と期待感にあふれた言葉であるが、実際にそれほど甘いものではないことは明らかである。生産者と消費者は本来利害が対立するものであり、両者が一致した結論を出すことは不可能に近い。そこには調停者或いは仲介者が欠かせない。例えば日本と言う一つの国の中の話であれば、政府省庁や公正取引委員会あるいは裁判所などが調停の役割を果たす。しかし国際社会ではそのような調停者や仲介者がいないか、いたとしても権限が極めて小さいのが現実である。

  結局エネルギー統計の統一事業は未だに中に浮いたままであり、IEAとOPEC、或いはOPECとEUの産消対話も何ら見るべき成果も無いままずるずると続いているだけに見える。2007年から2008年にかけて原油相場が急上昇し天井が見えないような時は産消対話の機運が盛り上がる。そのような状況になると欧米先進国の消費者は自国政府の無策を非難する。これに対して欧米政府はOPECに増産を促す。もしOPECが増産に応じなければ欧米政府は「OPEC悪者論」を振りかざして責任を転嫁する腹積もりである。そこでOPEC穏健派は加盟国を説得して増産決議をする。実際に増産するかどうかは問題ではない。OPEC増産決議により投機筋が手を引いて原油価格が落ち着けばそれで十分なのである。

  しかし原油価格が下落する局面では先進国の消費者も政府も何も言わない。原油が安いにこしたことはないからである。この時はOPEC総会で減産が決議される。しかしロシア、メキシコなど非OPECの有力産油国がOPECの減産量をカバーする増産をすれば価格は落ち込んだままである。一部のOPEC産油国は石油収入の低迷にしびれを切らして抜け駆け増産を行う。つまり価格が下落する局面ではOPEC内部はお互い疑心暗義になりやすい。

  2000年以降は幸いなことに中国、インドなどが世界の景気をけん引している。そして先進国では省エネが進んだ結果、景気が後退しても石油需要はさほど減らず、世界全体の石油需給は漸増傾向にある。そのため価格は70ドル前後に安定している。OPECは一昨年12月の総会で決議した420万B/Dの削減を1年半以上続けているが、実際の生産統計を見ると削減幅は50%程度しか守られておらず抜け駆け生産が横行している。それでも石油相場は安定している。

  OPECにとってこのような好ましい状況がいつまで続くかは解らない。一寸先は闇である。しかし現在のところ価格はOPECの満足する水準にある。本シリーズの第1回「穏やかな50周年を迎えたOPEC」に書いたとおり、OPECはかつてない「ユーフォリア(至福)」の状態にあると言えそうである。

(完)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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