3.イラクとイランの埋蔵量争い
創立50周年の今年のOPECは内外ともに平穏でハッピーな年であった。しかし来年以降もこのような状態が続くと言う保証はない。日本や欧米先進国で景気刺激のために打ち出された金融緩和策により世界的にマネーがだぶついており、それが原油市場に流れ込んで原油価格をじりじりと押し上げている 。リーマンショック以前のバブル期に価格が急騰したことが思い起こされる。そして世界的なドル安のためドル決済が主流のOPEC各国は実質的な収入減に見舞われている。OPEC内部に目を転じると、新たな国別生産量割当量をどうするかを巡って加盟国の間で駆け引きが始まった。最近、イラクとイランが相次いで埋蔵量の数値を上方修正し、埋蔵量世界3位と4位の座を争っていることなどはその例であろう。
価格の上昇による石油収入の増加とドル安による実質手取り額の減少はOPEC産油国にとってはプラス・マイナス・ゼロとなり必ずしも致命的な問題とは言えない。むしろ新たな国別生産割当をめぐってOPEC内部で不協和音が高まるほうが問題は大きいと考えられる。イランとイラクの埋蔵量競争はOPECの生産割当問題と一見無関係であるように見えるが、必ずしもそうではない。実は埋蔵量を大きく見せることで自国の生産割当量を増やそうとする深慮遠望があるからだ。後で詳しく述べるが、埋蔵量が多くなれば生産能力を高めることができ、生産能力が高い国には大きな生産割当量が配分される、と言う三段論法が成り立つのである。
OPECの統計「Annual Statistical Bulletin 2009」によれば、イランとイラクの昨年末の確認埋蔵量はそれぞれ1,370億バレルと1,150億バレルであり、サウジアラビア(2,650億バレル)、ベネズエラ(2,110億バレル。但しBP統計では1,723億バレル )に次いで世界第3位と第4位である。埋蔵量アップを先に宣言したのはイラクである。同国は10月4日、西クルナ及びズベア油田を見直した結果、国内の埋蔵量は280億バレル増の1,430億バレルになったと発表した。これにより同国の埋蔵量は一挙に25%増加し、イランを抜いて世界第3位となった。イラクは現在OPECの生産割当の対象外であるが、同国のOPEC代表団の一人は、埋蔵量の見直しによってイラクは将来高い生産割当量を得ることができる、と説明している 。
そのイラク発表からわずか1週間後、今度はイランが埋蔵量を1,500億バレルに見直すと発表した。こちらは従来より130億バレル、9%増加するというものである。これにより同国の埋蔵量は再びイラクを上回り世界3位の座を死守したことになる 。イラクとイランは1980年代のイラン・イラク戦争を持ち出すまでもなく永い歴史的な対立を繰り返している。民族的に見てもイラクはアラブ民族、イランはペルシャ民族であり、また同じイスラムとは言え、シーア派のイランはイラク国内の撹乱要因となっている。いずれも地域の大国を自認しており、平時でも両国の対抗意識は強い。
両国とも数千万人の人口を養うためには石油収入が唯一の頼りであり、今後石油の輸出に一層拍車をかけなければならない。従って今回の埋蔵量見直し競争は両国のメンツの張り合いと言うよりも、イラクのOPEC代表団の一人がいみじくも語ったように有利な生産割当を得るための実利的な側面が大きいのである。しかし今回イラクが一挙に25%も埋蔵量を増加したことについて、専門家の間に信ぴょう性を疑う声があるのも事実である。イラクの追加埋蔵量280億バレルと言えば世界の1年間の石油消費量300億バレルとほぼ同量である。メディアは両国の動きを宿敵のライバル同士による’bidding war(競り上げ競争)’と呼んでいる 。イラクは昨年石油鉱区の大規模な国際入札を行いExxonMobilを含め世界の名だたる石油会社が開発に乗り出そうとしている。同国石油相は今後6-7年以内に生産能力が1,200万B/Dに達すると宣言している。これは現在のサウジアラビアやロシアに並ぶ巨大な生産量である。
埋蔵量は不確実な要素が多く、また大幅な増産にこぎつけるためには解決すべき多くの問題があり、今後の石油生産の推移を注意深く見守る必要があろう。しかし近い将来のエネルギー事情としては石油に頼らざるを得ないことは間違いない。その場合イランとイラクは増産余力を持った数少ない国である。従って両国の埋蔵量見直しやイラクの大増産計画を頭から否定できないのが現実である。
10月の総会でOPECの新しい長期戦略(new Long-Term Strategy, LTS)を策定することが決まった。新長期戦略は12月にエクアドルのキト―で開催される次回総会に提案されることになっている。OPECがどのような戦略を打ち出すのか世界が注目している。
(続く)
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