2018.2.1
荒葉一也
Areha_Kazuya@jcom.home.ne.jp
ジェットコースターのようなサウジ外交
サウジアラビアの外交が変調をきたしている。トランプ大統領が最初の外国訪問先にサウジアラビアを選んだ時、サルマン国王及びムハンマド皇太子は得意の絶頂であった。IS(イスラム国)あるいはイランとの闘いを錦の御旗に、さらにトランプ大統領の支持発言をバックにサウジアラビアは地域の紛争で主導権を握り、トルコ、エジプトを押しのけてアラブの盟主の地位を狙った。
スンニ派の盟主を自認するサウジアラビアはシーア派の旗頭イランとの対決姿勢を強め、シリア内戦でアサド政権の退陣を求めて反体制派を支援した。あるいはイエメンではハディ暫定政権の後ろ盾となって空爆作戦を行い、イランをバックに優勢を伝えられるフーシ派反政府勢力と泥沼の戦いを続けている。そして今度はあろうことか堅い同盟関係をはぐくんできた湾岸君主制国家6カ国GCCのリーダーであるサウジアラビア自らが同盟国カタールと断交したのである。それが昨年前半までのサウジアラビアの華々しい外交政策であった。
ところが昨年下期以降一転してサウジ外交の歯車が狂い始めた。IS(イスラム国)崩壊後のレバント地域の主導権はロシアとトルコと彼らに支持されたアサド政権の手にわたりサウジアラビアは完全に蚊帳の外である。イエメン内戦は先行きが見えず最近ではむしろ首都リヤドに向けたフーシ派のミサイル攻撃にさらされるありさまである。またカタールとの紛争もカタールがイランやトルコに接近するなどGCCそのものが崩壊の瀬戸際にある。そのような中で米国のトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認め、大使館を移転すると宣言した。米国と二人三脚のつもりでいたサウジ政府も今度ばかりは追従するわけにはいかない。かと言って米国を正面から非難する勇気もなく、奥歯にものの挟まったような言いぶりに終始している。
このようなサウジ外交を見てサウジの外交能力に疑問を抱いたのは周辺諸国のみならずヨーロッパ・アジアの大半の国であろう。多分米国ですらサウジ外交の底の浅さにあきれているのではないだろうか。今やサウジアラビア外交が先の見えない八方ふさがりの状況にあることは誰の目にも明らかである。サウジ外交の誤算の原因の多くはムハンマド皇太子の場当たり的な外交方針と分不相応な大国意識にあることは間違いない。
昨年1月以降のサウジアラビアの外交活動についてムハンマド皇太子の動きを交えて時系列的に俯瞰するとほぼ以下のような状況である。
2017年5月:トランプ大統領の初外遊先に選ばれ得意の絶頂
昨年5月、トランプ米国大統領が就任後初の外遊先としてサウジアラビアを訪問したことに世界は驚いた[1]。サウジ政府はイランを除く主要なイスラム国の首脳を首都リヤドに招き米国大統領との会議を開き、大いに面目を施した。サルマン国王とトランプ大統領は共同宣言でテロとの闘いをうたい、イランをその元凶と厳しく批判した。同時にサウジは戦闘機を含む米国の兵器数千億ドルの購入契約を結びビジネス・ファーストのトランプ大統領への手土産とした[2]。
ムハンマド皇太子は3月に米国を訪問、トランプの娘婿クシュナー大統領上級顧問と緊密な連携を図りこの日に備えたのである[3]。クシュナーはユダヤ教徒でありスンニ派イスラムの盟主を任じるサウジアラビアとしてはかなり向こう見ずな外交とも映るがムハンマド皇太子は何のてらいもなかったようで、得意の絶頂で自らの力を誇示したのである。前任のオバマ大統領が民主主義と人権外交をかかげ脱中東政策を実行した時、米国とサウジアラビアの関係は最悪となり、ムハンマドはロシアのプーチン大統領や仏大統領に近付いたが[4]、今やサウジアラビアはトランプ大統領との親密な関係を印象付けることで中東地域外交のイニシアティブをとったつもりでいた。
しかしその後のサウジ外交は暗転する。
(続く)
[1] “‘A new page’ as US President Donald Trump lands in Saudi Arabia” on 2017/5/20, Arab News
[2] “US says nearly $110 billion worth of military deals inked with Kingdom” on 2017/5/21, Arab News http://www.arabnews.com/node/1102646/saudi-arabia
[3] “Trump, Deputy Crown Prince call for intensifying efforts to fight terror” on 2017/3/15, Saudi Gazette
[4] “Royal visit to give a fillip to Riyadh-Paris relations” on 2015/6/24, Arab News他