(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第1章 民族主義と社会主義のうねり(7)
023.イスラエル独立(その1):ユダヤ人の祖国建設運動(2/3)
政治的な事件として有名なのはフランスの「ドレフュス事件」である。1894年、フランス陸軍のユダヤ人大尉ドレフュスがドイツに対するスパイ容疑で逮捕された。事件は後に冤罪であることが立証され、大尉は1906年に無罪判決を獲得した。12年にわたる裁判闘争は文豪エミール・ゾラの政府弾劾書簡の発表などフランスを揺るがす大事件となったのである。また社会的な出来事としては19世紀末の帝政ロシアに広がった一連のユダヤ人大量虐殺事件「ポグロム」をあげることができる。「ポグロム」は第二次大戦中のドイツの「ホロコースト」と並ぶ悲惨な出来事であり、当時のヨーロッパの庶民が如何にユダヤ人を毛嫌いしていたがわかる。
このような社会環境に置かれたユダヤ人たちがヨーロッパ以外の土地に安住の地を求めるようになったのは無理のないことである。そして多くのユダヤ人が「新世界」アメリカに移住したが、中には自らの祖国「ホームランド」建設を夢見る者たちもいた。ヨーロッパ諸国の白人為政者たちもヨーロッパ以外の土地にユダヤ人のホームランドを与えることが足元の社会不安をなくす妙案であると考え、この構想を後押しした。いわば体の良いユダヤ人追っ払い政策である。
しかし20世紀の地球上に新しい国家を建設できる耕作可能な無人の土地などあるはずがない。そこでイギリス政府は中央アフリカの植民地はどうかと提案した。黒人の原住民がいるがそれは英国の力でどうにでもなるからである。しかし祖国建設運動の指導者ヘルツェルたちはあくまで祖先が2千年前に追放されたパレスチナでの祖国復活を主張した。彼らは「シオンの丘へ帰れ(シオニズム)」と「土地なき民を民なき土地へ」を合言葉とし、祖国建設運動は激しさを増していった。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com