石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

天然ガスに国際政治が絡み大荒れの東地中海 (上)

2020-01-17 | 中東諸国の動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0494EastMedPipeline.pdf 
 

(英語版)
(アラビア語版)

 

 東地中海の天然ガス開発と海底パイプライン敷設を巡りキプロス、トルコ及びギリシャ3国間に紛争が発生している。問題を複雑にしているのが地域最大のガス田を有するイスラエルと世界最大の天然ガス輸出国ロシアがパイプライン敷設を巡ってしのぎを削っていることである。ロシアのヨーロッパ向け天然ガスパイプラインの中継国であるトルコは北アフリカのリビアとの間で排他的経済水域(EEZ)を設定し長年の宿敵キプロスを抑え込もうとしている 。

 さらにここには天然ガスをめぐるロシアと米国のしのぎ合い(hegemony)及び中東・北アフリカの主導権(leadership)をめぐるトルコとサウジアラビア/UAEの争いが絡んでいる。西ヨーロッパのエネルギーをロシアに握られることを嫌う米国はロシアのパイプライン建設にクレームをつけている。アフリカの資源大国リビアではトルコ及びカタールが西部トリポリを拠点とする正統政府を支援し、一方サウジアラビア及びUAEは東部の反政府ハフタール軍閥を支援している。対立の根底にはサウジ/UAEがリビア正統政府をムスリム同胞団寄りだとみなしていることにある。2017年にムスリム同胞団の問題をめぐってサウジ/UAEがカタールと断交、カタールがトルコに救いを求めており、その構図がそのままリビアに反映されている。

 ただし問題は一筋縄ではない。ロシアの戦争請負企業Wagnerグループがハフタール軍閥を支援しており、リビアはロシアの有力な武器輸出市場である。ここではトルコとロシアの利害は対立している 。またヨーロッパはリビアから天然ガスを輸入しているが、同時にリビア地中海沿岸からの難民流入に悩まされている。ヨーロッパは天然ガスの輸出は歓迎だが、難民の流入は困る。「モノ」はOKだが「ヒト」は願い下げということである。リビアの安定のためトリポリ正統政府と良好な関係を維持したいのである。

リビアの隣国エジプトはどうかと言えば、サウジ/UAEの同胞団排除政策に同調してカタール断交に加わり、リビアではハフタール軍閥支持を表明している。しかし同国は経済再建が最優先であり、隣国イスラエルからの天然ガス輸入を開始した 。経済再建に失敗すれば「アラブの春」の悪夢が再来する。シーシ軍事政権は当面国内の民主勢力或いは隣国イスラエル及びリビアを刺激しないよう息をひそめている。

 東地中海は荒れ模様である。ここでは問題をガスパイプライン敷設に絞って地域の動きを眺めてみよう。

発端はイスラエルの巨大ガス田発見

 問題の発端は2010年から2013年にかけてイスラエル領海の東地中海に巨大ガス田TamarとLeviathanが相次いで発見されたことである。Tamarガス田は2013年に、Leviathanガス田は昨年12月に生産が始まった。特にLeviathanの埋蔵量は国内消費量の40年分と言われ、いまやイスラエルはガス埋蔵量4千億立方メートル(石油換算26億バレル )のエネルギー大国に変身した。同国は天然ガスの輸出に着手、すでにエジプトへの輸出を始めており 、まもなくヨルダンにも輸出しようとしている 。さらにイスラエルはギリシャ及びキプロスと海底パイプラインEast Med Pipeline敷設に合意、西ヨーロッパへのガス輸出も視野に入ってきた 。

(続く)


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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com 

 

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