(注)本シリーズはホームページ「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0166OpecNext50Years.pdf
5.生産割当の歴史
OPEC各国が埋蔵量にこだわる一つの理由は、埋蔵量が多ければ生産能力を高めることができ、高い生産能力を誇示できれば有利な生産割当量が得られる、という三段論法が成り立つからである。本章ではOPECの生産割当の歴史を振り返ってみることにする。
OPECが初めて国別生産割当(Quota)制度を導入したのは1982年3月の第63回臨時総会である 。総会では当時の加盟13カ国の原油生産量を同年4月以降1,800万B/Dとすることが決定された(注、13カ国中アンゴラ及びインドネシアはその後脱退。またイラクは現在対象外である)。その背景には1979年の第二次オイルショックにより40ドル近くまで急騰した価格が急速に下落する様相を見せたこと、さらには全世界の石油の消費量が減少する中でOPEC自体のシェアがかつての50%から30%にまで低下したためである(図「地域別生産量とOPEC生産比率の推移」http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-2-95aOilProduction1965-1.gif 参照)。
OPECは第一次オイルショックでその威力をまざまざと見せつけ、その後も石油価格を意のままに操ってきたが、その市場支配力に陰りが見え始めたのである。OPECは今一度結束して価格支配力を取り戻すべくQuota制度を導入した。このQuota制度はその後の度重なる試練をくぐり抜け、現在では「Quota」から「Allocation」という穏やかな呼び名が使われているものの、その本質は変わっていない。
1990年代に入ると世界の石油需要が順調に伸びたことによりOPECはQuotaを引き上げ、実生産と輸出量は年々増加、価格も20ドル前後でほぼ安定した。石油はかつての「戦略商品」から「市場商品(Commodity)」とみなされるようになった。これはOPECにとっては、石油収入が安定するとともに欧米先進国のOPEC敵視政策が薄らいだという二重の意味で好ましい状況だったと言える。
しかし21世紀も石油の需要が増えるとみたOPECがQuotaを1998年1月にそれまでの2,500万B/Dから一挙に2,750万B/Dに引き上げると(注、この年からイラクが生産割当の対象外となりこれ以降割当対象国は10カ国となって現在に至っている)、途端にアジア向け指標原油であるドバイ原油の価格は10ドルを割り、年間平均WTI原油価格も12ドルに暴落した。OPECはあわててQuotaを次々と引き下げ2000年4月には2,100万B/Dまで落とした。これによって価格は1998年の12ドルから99年に21ドル、2000年には34ドルへと急回復したのである。
ただOPEC加盟国の中にはこのような大幅なQuotaの削減について行けず抜け駆け生産を行った国が少なくない。と言うのは生産割当量から年々増え続ける国内消費量を差し引けば輸出量は大幅に削減せざるを得ないのであるが、それは歳入の殆どを石油輸出に頼るOPEC加盟国にとっては自殺行為だったからである。各国の経済は1980年代のオイルブームで膨張したままであり、経済をブーム以前の状態まで引き締めるのはもはや不可能だった。こうしてOPEC加盟国がQuotaを公然と無視する傾向が2000年以降ますます強くなった。OPEC組織にはQuota破りに対する強制力も罰則規定もない。外部の目にはQuota制度はOPECの名ばかりのゼスチャーと映るようになった。
OPECのQuota制度は総会でまず全体枠を決め、それをQuota開始当時の各国割当量に比例配分する方式であり、その後の各国の生産能力の変化を考慮したものではない。そのため例えば生産能力が停滞した上に国内消費が増え輸出余力のなくなったインドネシアなどは2004年には与えられた枠の生産ができないどころか数年後には純輸入国に転落する有様であった(同国は結局2009年にOPECの正式メンバーからはずれた)。
幸いにも2000年以降世界景気が上昇に転じ石油の消費量も増えたため、2005年のOPEC生産枠 は2,800万B/Dという過去最高の生産水準を誇り全世界の生産量に占める割合は45%に回復している。そして価格も大幅に上昇したためOPEC各国は膨大なオイル・マネーを手にすることができた。
OPEC加盟国の中には、自国の生産割当量に不満を持つ国、割当量を無視して増産に励む国もあり、決して一枚岩ではない。しかしいずれの国も高止まりしている現在の原油価格に満足している。彼らは(少なくとも当面は)OPECにとどまることにメリットを見出している。だからこそ割当量を順守するかしないかはさておき、生産割当と言うパイの取り分をできるだけ大きく持っておきたいのである。
(続く)
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