石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(31)

2010-12-14 | 中東諸国の動向

砂漠と海と空に消えた「ダビデの星」(7)
大空に散華した三番機(上)
三機編隊の後方に米軍の戦闘機が近づきつつあった時、『アブダラー』は他の二人のパイロットと同様米軍の救援により「地上」に舞い戻れるという安心感が高まった。彼は自分自身に言い聞かせた。

<落ち着け!米軍に従えば無事に帰還できる>と。

しかしその一方、他の二人とは異なり彼だけは安心感と不安感が交錯する奇妙な感覚を覚え始めていた。その感覚は『マフィア』が隊列を離れ伴走の米軍機と共にアラビア半島方面に消えて行き、次は自分の番だと告げられた時、少し鋭さを増した。

米軍機のパイロットが『マフィア』の時と同じように『アブダラー』機の下に回り込み、装備を確かめた。パイロットは左翼と胴体部分にそれぞれ1発づつのミサイルが装着されたままであることを目視するとそのことを直ちに基地に報告した。基地に緊張が走った。

「右上方を見よ!」
『アブダラー』の耳に米機のパイロットの声が飛び込んできた。

「これから給油機により貴機に空中給油を行う。」

米戦闘機の後に従いつつ揺れ動く心に気を取られていた『アブダラー』は我に返り窓外を見た。黒い巨体が頭上に迫っていた。

先導役の米戦闘機が並走態勢に戻り、給油機が覆いかぶさるように彼の戦闘機の上にせり出し、腹部から給油パイプを空中に伸ばし始めた。

「本給油機は我が国がイスラエル空軍に売却したものと同じ型式だ。従って通常の訓練の要領で給油を受けよ。」

今度は給油機のパイロットの声であった。頭上の給油機のマークが目に入った。パイロットになりたての時、米国アリゾナ州の空軍基地で受けた飛行訓練を思い出した。あの時と全く同じ光景だ。否、一つだけ違うことがあった。それはあの時『アブダラー』が操縦したのは五角形の星の米軍訓練機であったが、今彼が操縦している戦闘機には六角形の星がついている。

入れ替わりに再び米軍戦闘機のパイロットが語りかけてきた。

「給油が終わる頃にはホルムズ海峡を越えているはずだ。そこでディエゴ・ガルシア島の基地を発進した別の米軍機に護衛業務を引き継ぐ。彼が貴機をディエゴ・ガルシアまで送り届ける予定である。」

 (続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

荒葉一也:areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(12月14日)

2010-12-14 | 今日のニュース

・アッティヤ・カタール副首相;北部ガス田開発モラトリアムを継続。

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(12月12日)

2010-12-12 | 今日のニュース

・OPEC、現行生産枠の継続を決議:第158回総会(エクアドル・キトー)

*参考レポート

「新たなる半世紀に踏み出したOPEC」(本ブログで連載中)

OPEC50年の歴史をふりかえる」(マイ・ライブラリー)

 

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荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(30)

2010-12-11 | 中東諸国の動向

砂漠と海と空に消えた「ダビデの星」(6)

回転する六角星:海に墜ちた一番機(下)
空母『ハリー・S・トルーマン』の飛行甲板上で整備士の二等水兵がこちらに向かってくる1機の戦闘機を見上げていた。F15の格納作業を終え艦内に戻ろうとした矢先、艦橋からけたたましいサイレンが鳴りわたり、同時に数名の水兵を乗せた救命ボートが海面に降りて行くのを目撃した。

<所属機の着艦予定は無かったはずだが-----------。ひょっとして近くの陸上基地から飛び立った戦闘機が事故か何かで緊急着陸許可を求めているのだろうか。だとしても着艦装置を持たない戦闘機が航空母艦に無事着陸できる訳ではないし、着艦経験のないパイロットには土台無理な話だよな。>

空を見上げているのは整備士の二等水兵だけではなかった。どこで聞きつけたのか非番の兵士たちがあらゆる物陰から固唾をのんで北の空を仰いでいる。娯楽の乏しい航空母艦の生活でこれほどスリリングな事件に立ち会えるなど滅多にないことだ。

その戦闘機はまるでスローモーション映画を見るように真っ直ぐこちらに向かってきた。艦の手前数百メートルのところで風防ガラスが跳ね上がりパイロットが勢いよく放り出された。パラシュートが開きパイロットがゆっくりと海面に着水するのが見えた。救命艇が甲高いエンジン音を響かせながら着水地点に向かった。

パイロットを放り出した無人の戦闘機はそのまま海面に向かって墜ちていく。機体の横の日頃見慣れない六角星のマークが目に入る。水兵たちは一様にどよめいた。

イスラエル機は海面に機体をぶつけると水しぶきを高くあげて一度跳ね上がった。機体はつんのめるように機首を真下に垂直になると、次に180度仰向けに引っくり返り海面に叩きつけられた。

その間、横っ腹の六角星もゆっくりと180度回転した。米兵たちは最初その星が余りにもスムーズに転がるように見えたことに違和感を覚えたが、彼らはすぐにその理由に気がついた。彼らが日頃見慣れた五角形の星は回転がぎこちない。それに比べ六角形の星は滑らかに転がる。

彼らは同時に六角形よりも五角形の方が安定していることにも気がついた。五角形は両手両足を広げた人間の姿である。二本足で立ち、両腕を真っ直ぐ横にあげ、頭がしっかりと正面を向いている五角形の星。どっしりと構えた五角形の星は自信を示している。それに比べ上下左右ともに対照である六角形の星は一見安定的に見えるが、目の前の『ダビデの星』は流れるように転がって行く。そして『ダビデの星』は水面を滑るように一回転し、やがて水兵たちの視界から消えていった。

『ダビデの星』は海の中でもしばらくはゆっくりと回転していたが、やがて胴体は回転を緩め今度は木の葉のようにゆらゆらと揺れながら沈んでいった。海面からの光は弱まり、星の形も見分けられなくなりつつあった。そして機体はペルシャ湾の漆黒の闇に吸い込まれて行った。

艦橋からイスラエル軍パイロットの救助を双眼鏡で確認した艦長は直ちにペンタゴンに状況を報告した。

報告を受け取た国防長官は独り言をつぶやいた。

<これで『シャイ・ロック』の親父に貸しができた>と。

 (続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

荒葉一也:areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

 

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(12月11日)

2010-12-11 | 今日のニュース

・現行生産枠維持の見通し:今日エクアドルでOPEC総会

・IEA、来年の石油需要見通しを上方修正

・ナイミ石油相の後任探し始まる:サウジ政府高官明かす  *

・中国CPC、Occidentalのアルゼンチン権益を24.5億ドルで買収

*拙稿「辞めさせてもらえないナイミ石油相」(2007年4月)参照。

 

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今週の各社プレスリリースから(12/5-12/11)

2010-12-11 | 今週のエネルギー関連新聞発表
12/8 出光興産    ノルウェー領北部北海 探鉱鉱区で試掘に成功 http://www.idemitsu.co.jp/company/information/news/2010/101208.html
12/8 Saudi Aramco    Saudi Aramco Ranked Top Oil Company http://www.saudiaramco.com/irj/portal/anonymous?favlnk=%2FSaudiAramcoPublic%2Fdocs%2FNews+Room%2FNews&ln=en#clr=N&lang=EN&category=Our%20World&month=&year=&page=&lnchPath=
12/9 JXホールディングス    インドネシアにおける潤滑油製造会社の設立について http://www.hd.jx-group.co.jp/newsrelease/2010/20101209_01_0950261.html
12/9 東燃ゼネラル石油    人事異動に関するお知らせ http://www.tonengeneral.co.jp/apps/tonengeneral/pdf/2010-12-19_1ja.pdf
12/9 石油連盟他    COP16へ向けての緊急提言 http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2010/12/09-000458.html
12/9 Chevron    Chevron Announces $26.0 Billion Capital And Exploratory Budget For 2011 http://www.chevron.com/chevron/pressreleases/article/12092010_chevronannounces260billioncapitalandexploratorybudgetfor2011.news
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新たなる半世紀に踏み出したOPEC(5)

2010-12-10 | OPECの動向

(注)本シリーズはホームページ「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0166OpecNext50Years.pdf

 5.生産割当の歴史
 OPEC各国が埋蔵量にこだわる一つの理由は、埋蔵量が多ければ生産能力を高めることができ、高い生産能力を誇示できれば有利な生産割当量が得られる、という三段論法が成り立つからである。本章ではOPECの生産割当の歴史を振り返ってみることにする。

OPECが初めて国別生産割当(Quota)制度を導入したのは1982年3月の第63回臨時総会である 。総会では当時の加盟13カ国の原油生産量を同年4月以降1,800万B/Dとすることが決定された(注、13カ国中アンゴラ及びインドネシアはその後脱退。またイラクは現在対象外である)。その背景には1979年の第二次オイルショックにより40ドル近くまで急騰した価格が急速に下落する様相を見せたこと、さらには全世界の石油の消費量が減少する中でOPEC自体のシェアがかつての50%から30%にまで低下したためである(図「地域別生産量とOPEC生産比率の推移」http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-2-95aOilProduction1965-1.gif 参照)。

OPECは第一次オイルショックでその威力をまざまざと見せつけ、その後も石油価格を意のままに操ってきたが、その市場支配力に陰りが見え始めたのである。OPECは今一度結束して価格支配力を取り戻すべくQuota制度を導入した。このQuota制度はその後の度重なる試練をくぐり抜け、現在では「Quota」から「Allocation」という穏やかな呼び名が使われているものの、その本質は変わっていない。

 1990年代に入ると世界の石油需要が順調に伸びたことによりOPECはQuotaを引き上げ、実生産と輸出量は年々増加、価格も20ドル前後でほぼ安定した。石油はかつての「戦略商品」から「市場商品(Commodity)」とみなされるようになった。これはOPECにとっては、石油収入が安定するとともに欧米先進国のOPEC敵視政策が薄らいだという二重の意味で好ましい状況だったと言える。

 しかし21世紀も石油の需要が増えるとみたOPECがQuotaを1998年1月にそれまでの2,500万B/Dから一挙に2,750万B/Dに引き上げると(注、この年からイラクが生産割当の対象外となりこれ以降割当対象国は10カ国となって現在に至っている)、途端にアジア向け指標原油であるドバイ原油の価格は10ドルを割り、年間平均WTI原油価格も12ドルに暴落した。OPECはあわててQuotaを次々と引き下げ2000年4月には2,100万B/Dまで落とした。これによって価格は1998年の12ドルから99年に21ドル、2000年には34ドルへと急回復したのである。

 ただOPEC加盟国の中にはこのような大幅なQuotaの削減について行けず抜け駆け生産を行った国が少なくない。と言うのは生産割当量から年々増え続ける国内消費量を差し引けば輸出量は大幅に削減せざるを得ないのであるが、それは歳入の殆どを石油輸出に頼るOPEC加盟国にとっては自殺行為だったからである。各国の経済は1980年代のオイルブームで膨張したままであり、経済をブーム以前の状態まで引き締めるのはもはや不可能だった。こうしてOPEC加盟国がQuotaを公然と無視する傾向が2000年以降ますます強くなった。OPEC組織にはQuota破りに対する強制力も罰則規定もない。外部の目にはQuota制度はOPECの名ばかりのゼスチャーと映るようになった。

OPECのQuota制度は総会でまず全体枠を決め、それをQuota開始当時の各国割当量に比例配分する方式であり、その後の各国の生産能力の変化を考慮したものではない。そのため例えば生産能力が停滞した上に国内消費が増え輸出余力のなくなったインドネシアなどは2004年には与えられた枠の生産ができないどころか数年後には純輸入国に転落する有様であった(同国は結局2009年にOPECの正式メンバーからはずれた)。

幸いにも2000年以降世界景気が上昇に転じ石油の消費量も増えたため、2005年のOPEC生産枠 は2,800万B/Dという過去最高の生産水準を誇り全世界の生産量に占める割合は45%に回復している。そして価格も大幅に上昇したためOPEC各国は膨大なオイル・マネーを手にすることができた。

OPEC加盟国の中には、自国の生産割当量に不満を持つ国、割当量を無視して増産に励む国もあり、決して一枚岩ではない。しかしいずれの国も高止まりしている現在の原油価格に満足している。彼らは(少なくとも当面は)OPECにとどまることにメリットを見出している。だからこそ割当量を順守するかしないかはさておき、生産割当と言うパイの取り分をできるだけ大きく持っておきたいのである。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(29)

2010-12-08 | 中東諸国の動向

砂漠と海と空に消えた「ダビデの星」(5)

回転する六角星:海に墜ちた一番機(上)
  『マフィア』に続いて『アブダラー』も編隊を離脱した後、一番機の『エリート』はペルシャ湾上空をホルムズ海峡に向かって真っ直ぐ飛行を続けていた。彼の横には米軍戦闘機がぴったりと並走しており、コックピットのパイロットの姿をはっきり見ることができる。パイロットは時々こちらを見ては親指と人差し指を丸め<そちらはどうか?>と聞いてくる。『エリート』も同じ身振りで<OK!>と無言のサインを送る。

<彼らはどこへ連れて行かれたのだろう?>

 『エリート』は並走する米軍機に僚友2機の行く先を尋ねたい衝動に駆られた。親分肌の彼は仲間の安否が何よりも気がかりだ。しかし無線の会話は禁じられている。そして自らの命運も米軍パイロットに委ねられていることに思いが至った。今はただ仲間二人と一緒に祖国に凱旋することを信じて状況に身を委ねる他なかった。

 パイロットが再びこちらを向いて指でサインを送ってきた。今度は親指を下に突き出し、こぶしを上下に振った。<下降せよ>との合図らしい。米機は少し速度を上げて前に出ると高度を下げ始めた。

『エリート』もそれに合わせて前のめりの下降姿勢に入った。それまで正面に見えていた水平線がコックピットの斜め上方に持ち上がり、視界が一面コバルトブルーのペルシャ湾の海に覆われた。波も無く穏やかすぎる海面。二つの巨大な球形タンクを抱えたタンカーが音も無く海面を滑って行く。天然ガスを液体のまま運搬するLNGタンカー船だ。

カタールのLNG基地に向かっているのだとすれば、既にペルシャ湾の中ほどを過ぎたようだ。燃料計はほとんどゼロを示している。残された時間は少ない。

その時、視界の先にタンカーの数倍もある巨大な物体が現れた。銀色に輝く鋼鉄の塊は何者も寄せ付けず、辺りの全ての物を威圧する圧倒的な存在感を示している。船を斜めに横切る甲板には白と黄色の直線が走り、その甲板を見下ろす艦橋がピラミッドのようにそそり立っている。米国が誇る海の要塞、原子力空母「ハリー・S・トルーマン」。それはイスラエル空軍のパイロットが初めて見る威容であった。

「貴機の救援体制は整っている。そのまま高度を下げ着水前に緊急脱出せよ。空母から直ちに救命ボートが出動する。」

米軍パイロットはそう告げると機首を反転させ、先程のLNGタンカーが向かいつつあった方向に飛び去った。

 (続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

荒葉一也:areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

 

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(12月7日)

2010-12-07 | 今日のニュース
・石油価格、2年来の高値。ロンドンBrent$92.03、ニューヨーク$89.76に。
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ニュースピックアップ:世界のメディアから(12月4日)

2010-12-04 | 今日のニュース

・LNG生産量、豪州が今後10年以内にカタールを抜いて世界一に *

 

*「BPエネルギー統計シリーズ2010年版・天然ガス篇」参照

 

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