石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

油価下落が直撃、売上・利益が大幅減:五大国際石油企業2015年度業績速報シリーズ(16完)

2016-03-15 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0372OilMajors2015.pdf

 

IV. 8カ年(2008-2015年)業績推移の比較(続き)
5.石油及び天然ガス生産量
(1)石油生産量
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-10.pdf 参照)
 5社の2008年から2015年までの石油生産量の推移を見ると、8年間を通じてExxonMobilは他の4社を大きく引き離している。同社の生産量は2,405千B/D(08年)→2,387千B/D(09年) →2,422千B/D(10年) →2,312千B/D(11年) →2,185千B/D(12年) →2,202千B/D(13年) →2,111千B/D(14年)→2,345千B/D(15年)と常に2百万B/D以上を維持しているが、これに対して他の4社は7年間を通じていずれも百万B/D台である。

 ExxonMobil以外の2008年の生産量はShell1,771千B/D、Chevron1,649千B/D、BP1,575千B/D、Total1,456千B/Dで4社間に大きな差は無かった。その後Chevronが2009年、2010年と生産量を増やし、ExxonMobilに次ぐ第2位の生産量を誇っている。しかし2010年以降2014年までは5社はいずれも毎年生産量が減少し続けており、2014年の各社の生産量はExxonMobil2,111千B/D、Chevron1,709千B/D、Shell1,484千B/D、BP1,106千B/D、Total1,034千B/Dに落ち込んだ。2015年はExxonMobil, ShellおよびTotal3社の原油生産量は前年を上回り、Chevron、Shellの2社は横ばいであった。

 2008年の生産量を100とした場合、2015年の各社生産量はExxonMobil 98、Chevron 106、ShellおよびTotal 85、BP 78であり、5社の中でChevronのみが2008年を上回っているが、他の4社は8年前の生産量を下回っている。特にBPの減少幅が大きい。

(2)天然ガス生産量
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-11.pdf 参照)
 2008年から2015年までの天然ガスの生産量は各社で明暗が分かれている。2008年の生産量はExxonMobil、Shell及びBPが80~90億立法フィート/日(以下cfd)でほぼ並んでおり、TotalとChevronは50億cfd前後であった。その後2010年から11年にかけてはExxonMobilの生産量は急激に増加伸び、またShell及びTotalも漸増傾向を示したのに対し、BPは大幅に減少、Chevronは横ばいにとどまっている。但し2011年以降ExxonMobilは生産量の減少に歯止めがかからず2011年の132億cfdが2015年には105億cfdに落ち込んでいる。

 2015年の各社の生産量はExxonMobil 105億cfd、Shell 84億cfd、Total 61億cfd、BP 59億cfd、Chevron 53億cfdとなり、トップのExxonMobilとTotal、BP及びChevronとの格差は2倍前後に開いている。因みに2008年の生産量を100とした場合の各社の2015年のそれはTotal 125、ExxonMobil 116、Chevron 103、Shell 98、BP 71である。

(3)石油・天然ガス合計生産量(石油換算)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-12.pdf参照)
 石油と天然ガスの合計生産量(石油換算)を見ると、2008年にはExxonMobil(3,921千B/D)とBP(3,838千B/D)が並び、これにShellが3,248千B/Dで続き、Chevron(2,530千B/D)とTotal(2,341千B/D)は2百万B/D台であった。

 2015年までの8年間でBPは220万B/D前後まで急減、その他4社は2014年までほぼ横ばい乃至下降気味となり、2015年にはやや回復している。上記(1)石油生産量及び(2)天然ガス生産量の推移からもわかるとおり、BPは石油、天然ガスともに激減しており、ExxonMobil、Shell、Totalの3社は石油の落ち込みを天然ガスの増加でカバーして横ばいを維持している状況である。

(完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(3月14日)

2016-03-14 | 今日のニュース

・イラン石油相:米国企業の進出歓迎

 

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油価下落が直撃、売上・利益が大幅減:五大国際石油企業2015年度業績速報シリーズ(15)

2016-03-14 | 海外・国内石油企業の業績

 

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

 

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0372OilMajors2015.pdf

 

 

IV. 8カ年(2008-2015年)業績推移の比較(続き)
4.設備投資
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-09.pdf参照)
 2008年の設備投資額はShellが384億ドルで最も多く、BP(307億ドル)、ExxonMobil(261億ドル)、Chevron(228億ドル)と続きTotalは163億ドルで最も少なかった。翌2009年にはShellとBPの2社は投資額が大幅に減少しているが、Shellは引き続き6社の中では最も多い317億ドルでであった。2009年以降2013年にかけては設備投資額が増加する傾向にあり、2013年には5社とも2008年の投資額を上回っている。2008年と2013年を比較した場合、特にChevronは1.8倍、ExxonMobil、Totalは1.6倍など大きく膨れ上がり、Shell及びBPも1.2倍であった。

 しかし2014年および2015年はいずれも設備投資を抑えている。特にShellは2013年に460億ドルとピークに達した後、373億ドル(14年)→289億ドル(15年)と急激に減少しており過去8年間では投資額が最も少ない。またBPも366億ドル(2013年)→238億ドル(14年)→195億ドル(15年)と減少しており、両社の設備投資は2008年の7割前後に落ちている。2014年の石油価格の暴落により売上および利益が急落したこともあり各社とも設備投資を削減する方向にあるが、特に上流部門の設備投資削減は安定的な生産維持にとっては懸念要因である。

(続く)

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   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
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今週の各社プレスリリースから(3/6-3/12)

2016-03-12 | 今週のエネルギー関連新聞発表

3/7 Chevron    Chevron Achieves First LNG Production at Gorgon http://www.chevron.com/chevron/pressreleases/article/03072016_chevronachievesfirstlngproductionatgorgon.news
3/8 Chevron    Chevron Affirms Production Growth; Announces New Spending Cuts http://www.chevron.com/chevron/pressreleases/article/03082016_chevronaffirmsproductiongrowthannouncesnewspendingcuts.news
3/10 出光興産    第26回出光音楽賞 受賞者決定のお知らせ http://www.idemitsu.co.jp/company/news/2015/160310.pdf
3/10 Shell    Shell publishes Annual Report and Form 20-F http://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2016/shell-publishes-annual-report-and-form-20-f.html
3/11 コスモエネルギーホールディングス    丸善石油化学株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ http://ceh.cosmo-oil.co.jp/press/p_160311_01/index.html

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油価下落が直撃、売上・利益が大幅減:五大国際石油企業2015年度業績速報シリーズ(14)

2016-03-11 | 海外・国内石油企業の業績

 

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

 

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0372OilMajors2015.pdf

 

 

IV. 8カ年(2008-2015年)業績推移の比較(続き)
2.利益
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-07.pdf 参照)
 2008年から2015年までの5社の利益の推移を見ると、2008年はExxonMobilが452億ドルの利益を計上、Shell(263億ドル)、Chevron(239億ドル)、BP(212億ドル)、Total(156億ドル)にくらべTotalの3倍、BPの2倍等、他社を寄せ付けない圧倒的な収益力を誇った。
 
 翌年の2009年にはリーマン・ショックと油価の急落によりExxonMobilの利益は前年比で半減するなど各社とも利益が100億ドル台に急減、5社間の利益格差は一気に縮まった。2010年はメキシコ湾原油流出事故によりBPは欠損となったが、その他の4社は油価上昇の恩恵を受けて利益が急回復し、翌2011年にはExoxonMobil以外の4社は8年間で最高水準の利益を計上している。同年の5社の利益はそれぞれExxonMobil(411億ドル)、Shell(308億ドル)、Chevron(269億ドル)、BP(257億ドル)、Total(171億ドル)であった。

 ExxonMobilは2012年に前年を上回る449億ドルの利益を計上したが、他の4社は利益下落の兆しが表れた。そして2013年以降は5社すべての利益が減少局面に入り、特に2015年には対前年比で50%以上急減している(詳細はIII.2参照)。2015年の各社の利益はそれぞれExxonMobil(162億ドル)、Total(51億ドル)、Chevron(46億ドル)、Shell(19億ドル)、BP(マイナス65億ドル)であるが、これを2008年を100として比較するとExxonMobil 36、Total 33、Chevron 19、Shell 7、BP -37となり、ExxonMobilおよびTotalで3分の1、Chevronが5分の1、Shellで12分の1、BPは利益から欠損へ転落と言う惨憺たる有様である。

3.売上高利益率
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-08.pdf参照)
 過去8年間を通じてExxonMobilとChevronは売上高利益率が安定して高い。ExxonMobilの利益率は9.5%(08年)→6.2%(09年)→7.9%(10年)→8.4%(11年)→9.3%(12年)→7.4%(13年)→7.9%(14年)→6.0%(2015年)であり8年間を通じて6%以上の利益率を確保している。Chevronも8.8%(08年)→6.1%(09年)→9.3%(10年)→10.6%(11年)→10.8%(12年)→9.4%(13年)→9.1%(14年)→3.3%(15年)と時には10%を越え、2010年から14年まではExxonMobilを上回る利益率を示している。

 Shell、BP、Total3社の利益率は2008年は6%弱でほぼ横並びであった。このうちBPは2009年には6社中で最も高い利益率(6.9%)を示したが、翌年は一転して5社の中で唯一マイナスの利益率(-1.3%)を示し11年以降は6.8%(11年)→3.0%(12年)→6.3%(13年)→1.1%(14年)→マイナス2.9%(15年)とかなり不安定な状態である。Shell及びTotalは2011年以降利益率の低下に悩まされており、Shellの2013年の利益率は3.6%と5社の中で最も低く2015年は0.7%にとどまっている。TotalはShellほどではないが、それでも2011年の6.6%をピークにその後は低下する一方であり、2015年の利益率は3.1%である。

(続く)

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油価下落が直撃、売上・利益が大幅減:五大国際石油企業2015年度業績速報シリーズ(13)

2016-03-10 | 海外・国内石油企業の業績

 

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

 

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0372OilMajors2015.pdf

 

 

IV. 8カ年(2008-2015年)業績推移の比較
 ここでは2008年から2015年までの過去8年間の5社の業績の推移を比較検討する。因みに2008年は年央にBrent原油の価格が史上最高の147ドル(バレル当たり)を記録しており、また2011年から13年までの3年間は年間平均価格が100ドルを超えた。そして2015年は一転して50ドル台に半減している。

1.売上高
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-06.pdf 参照)
 2008年の売上高トップはExxonMobilの4,774億ドルでありShellが僅差の4,709億ドルの第2位であった。そして売上高第3位はBP(3,611億ドル)で、ChevronとTotalは2,730億ドル及び2,647億ドルであった。5社の順位は2008年から2011年までの4年間はExxonMobilがトップであったが、2013年以降はShellの売り上げが4年連続してExxonMobilを上回っている。ただし両社の差は小さくBP、ChevronおよびTotalの3社とはかなりの差がある。8年間を通じてBPはExxonMobil、Shellの8割前後であり、ChevronおよびTotalはトップ2社の5~6割の水準で推移している。

 年毎に見ると2009年は各社とも前年比で大きく落ち込んでいる。これは2008年に原油価格が史上最高値となったが、同年9月にリーマン・ショックが発生、世界景気が一気に冷え込んだためである。2009年の原油平均価格は前年比で4割近く下落、販売量も落ち込んだため各社の売上高はExxonMobil35%減、Shell40%減、BP34%減など軒並み30%以上の大幅な減収となった。

 2010年以降は原油価格が持ち直し各社とも売り上げは回復、2011年には年間平均価格が100ドル(Brent)を超えたためExxonMobil、Shell、BPの3社は2008年をしのぐ売上高となり、Total、Chevronもほぼ元に戻っている。2012年から2013年にかけてはBP、Totalは横ばいで、その他3社は5~10%程度の減収となった。しかし2014年後半から石油価格が急落したため同年の売上はいずれも前年を7%前後下回った。2015年は価格がさらに大幅に下落したため5社の売上高は共に前年を30%以上減少、リーマンショック後の2009年を下回り過去8年間では最低の売上高となっている。2008年あるいは2011,12年と比較すると2015年の売上高は5社のいずれも半分近くになっている。例えば2008年を100とした場合2015年の各社はExxonMobil 56、Shell 58、BP 62、Total 62、Chevron 51である。

(続く)

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 前田 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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油価下落が直撃、売上・利益が大幅減:五大国際石油企業2015年度業績速報シリーズ(12)

2016-03-09 | 海外・国内石油企業の業績

 

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

 

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0372OilMajors2015.pdf

 

 

III. 2014年と2015年の5社業績比較 (続き)
3.設備投資
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-28.pdf 参照)
 設備投資は5社すべてが前年を下回っており、ExxonMobiは385億ドル→311億ドル(19%減)であり、Shellは373億ドル→289億ドル(23%減)で5社の中では減少幅が最も大きい。またBPは238億ドルから195億ドルに18%減少、Totalは241億ドル→204億ドル(16%減)、Chevronは403億ドル→340億ドル(16%減)である。
 各社とも原油価格の下落とそれによる業績悪化のため設備投資を削減している。設備投資のうち探鉱開発投資の減少は将来の各社の石油・天然ガス生産量の減少となり懸念される。

(続く)

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(3月9日)

2016-03-09 | 今日のニュース

・イランから経済制裁解除後初の原油第1船がヨーロッパに到着

・米シェブロン、株主の圧力を受け経費削減。2017-18年の予算は36%カット。 *

・クウェイト石油相、原油は生産しただけ売ると言明

・UAE石油相:増産凍結で価格回復。800人のアンケートで90%が今年の油価を20-50ドルと回答

 

*「五大国際石油企業業績速報」(連載中)参照。

http://blog.goo.ne.jp/maedatakayuki_1943/e/cc0cc7ac0d594ed17ed63745bb8d23b8

 

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(10)

2016-03-09 | その他

第1章:民族主義と社会主義のうねり

4.イスラエル独立(その2):ユダヤ人とは?
 「イスラエルはユダヤ人の国である」と言うことに異議を唱える人はいないであろう。しかし「ユダヤ人」を定義するとなると厄介である。ユダヤ人のルーツは旧約聖書を正しいとすれば、紀元前20世紀頃中東パレスチナのカナン(約束の土地)に定住したアブラハムの一族である。彼らは民族的にはセム系に属し、アラブ民族と同じ系統である。ユダヤ人たちはアラブ人と同一視されることを嫌がるであろうが生物学的あるいは民俗学的にみれば両者は同じ系統である。

 古代イスラエル人は部族として一神教のユダヤ教を信じ、信仰のリーダーを預言者として結束して行動してきた。紀元前13世紀にエジプトに抑留されていた一族を引き連れて再びカナンに戻ったモーゼはそのような預言者の一人だった。その後紀元前10世紀頃にダビデとその息子ソロモンがエルサレムに神殿を築きイスラエル王国、さらにはユダ王国として繁栄するのである。しかし紀元前6世紀以降たびたび隣国の新バビロニア王国の侵略を受けユダ王国は滅亡、ユダヤ人はエルサレムからバビロニアに強制移住させられた(バビロニア捕囚)。その後、新バビロニアを滅ぼしたペルシャ王キュロスによって彼らは解放されてエルサレムに帰還、エジプト王朝の支配下でエルサレム神殿を再興、紀元前から紀元後へとローマ帝国の属領ユダヤ王国として生き延びることになる。

 紀元100年前後にはローマ帝国に対して度々反乱した結果、135年にハドリアヌス帝によって徹底的に弾圧され、ユダヤ人はエルサレムに住むことを禁止された。この時から長いユダヤ人の「離散(ディアスポラ)」が始まり、彼らはヨーロッパ各地に移り住んだのである。

 キリスト教が深く根を下ろし、白人が定住するヨーロッパ各地で、固有の宗教を信奉するセム系のユダヤ人が蔑視され迫害されたことは言うまでもない。キリストを裏切ったユダの汚名がいつまでもユダヤ人について回った。キリスト教徒たちはユダヤ人を「ゲットー(居住区)」に押しこめ、自分たちが忌避する仕事を押し付けた。

 そのような職業の一つが金貸し業である。中世キリスト教社会では金融業は汚らわしい職業とみなされていた。人間を金に縛り付け強欲が支配する金融業は宗教の持つ清廉さと相容れないためであろう。実は金融業を忌避するのはキリスト教に限ったことではなく、イスラム教ではさらに厳格に解釈されており、現代でもイスラム社会では金利は「ハラーム(忌避すべきもの)」とされ金利を取ることは禁止されている。当時の金貸し業がユダヤ人の専売特許であったことはシェークスピアの戯曲「ヴェニスの商人」を見てもよくわかる。当時のヨーロッパではシェークスピアのような文化人ですらユダヤ人を毛嫌いしていた。このようなステレオタイプなユダヤ人観は20世紀前半まで残り、その最大の悲劇こそナチスドイツによるホロコーストだったと言えよう。

 以上のようなユダヤの歴史を振り返り改めて「ユダヤ人とは何か?」と言う問いに向き合ったとき一言で答えることは極めて難しい。

 まずユダヤ人は生物学的な意味での独自の民族と言うことはできない。彼らの起源がセム語族の中の一部族であることは間違いないが、2千年近いディアスポラを経た現在のユダヤ人が「血」の絆を共有しているとは言えないからである。

 それではユダヤ教と言う宗教でユダヤ人を定義することができるだろうか。否である。ユダヤ教からキリスト教に改宗した者たちも自らをユダヤ人と称している。米国のユダヤ人は大半がキリスト教徒である。「心(信仰)」の面でもユダヤ人は多義的である。

 結局ユダヤ人とは他者が「お前はユダヤ人である」と名指しするか、或いは自らを「私はユダヤ人である」と自称する者がユダヤ人である、と言うことになる。これは同語反復であってとても定義などと言えるものではないのである。

 近世までのヨーロッパでは白人たちが「お前たちはユダヤ人である」と決めつけてゲットーに閉じ込めようとした。それを嫌ったユダヤ人たちはユダヤ教を棄教してキリスト教徒として生きるか、或いはユダヤ人であることをひた隠しにして社会の片隅でひっそり生きてきた。

 しかしロスチャイルドに代表されるユダヤ人の金融資本家が戦争遂行に一役買うほどの実力をつけ、またアインシュタインなどユダヤ人の優秀な頭脳が見直されると、ユダヤ人たちの間にアイデンティティを鮮明にする動きが起こり、「私はユダヤ人である」と自称する者すべてがユダヤ人とみなされるようになった。ホロコーストを経た第二次大戦後は「ユダヤ人である」と名乗ることで身の安全と将来の繁栄が保証されるようになったのである。その意味でソ連邦崩壊後にロシアからイスラエルに大量に移住したロシア系ユダヤ人の中には本来のユダヤ人とは縁もゆかりもない移民がいるに違いないという疑念はぬぐえない。

 ともあれ他称、自称のユダヤ人たちによってイスラエルは建国され、今も版図を拡大し続けているのである。

(続く)

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油価下落が直撃、売上・利益が大幅減:五大国際石油企業2015年度業績速報シリーズ(11)

2016-03-08 | 海外・国内石油企業の業績

 

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III. 2014年と2015年の5社業績比較 (続き)
2.損益
(1)総合損益
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-26.pdf 参照)
 2015年の利益は2014年に比べ各社とも大幅に減少している。2015年に5社で最も利益が多かったのはExxonMobilでその額は162億ドルであった。しかしこれは同社の2014年の利益325億ドルから半減している。他の4社の利益はExxonMobilよりもさらに悪くTotalは前年の4割(128億ドル→51億ドル)、Chevronが4分の1(192億ドル→46億ドル)、Shellが7分の1(149億ドル→19億ドル)にとどまっており、BPの場合は前年度38億ドルの利益に対して今期は65億ドルの損失を計上している。

(2)上流部門と下流部門の損益比較
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-30.pdf 参照)
 各社の利益を上流部門(生産)と下流部門(精製)に分けてみると2014年と2015年はさらに大きなコントラストを見せている。例えばExxonMobilの場合、2014年の上流部門利益は275億ドル、下流部門は30億ドルであったが、2015年は上流部門28億ドル、下流部門66億ドルである。上流部門の利益が10分の1に急減した一方、下流部門は倍増している。そして上流部門の利益と下流部門の利益が逆転している。この傾向はExxonMobil以外の他の4社も同様であり、特にBP、Total、Chevronの3社は上流部門の利益がマイナスに転じている。またいずれの企業も下流部門の利益が上流部門を上回っており、これまで上流部門の利益に依存していた5社は下流部門の稼ぎに頼っているのである。

(注) 最終損益額には石油化学部門その他の損益が合算されているなど各社によって異なるため、部門別の上流・下流部門の損益合計額とは一致しない

(続く)

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