石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

鬼の居ぬ間に:中東の政治的空白に暗躍する国々(2)

2020-12-08 | 中東諸国の動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。


http://mylibrary.maeda1.jp/0520PoliticalVacuumInMe.pdf

(英語版)

1.ロシア:着々と軍事拠点を拡大
 ロシアの中東地域の軍事拠点はこれまでシリアのTartus軍港のみであったが、シリア内戦ではアサド政府を強力に支援している。Tartus軍港からロシア製兵器をLatakia空軍基地に輸送、ロシア爆撃機の空爆によりIS(イスラム国)勢力を壊滅した。さらにIS追討後はシリア政府軍との共同作戦でクルド勢力、民主勢力などの混成部隊からなる反政府勢力を弱体化させた。こうしてロシアはアサド政府との同盟関係を強化 、同国に確固たる軍事拠点を確立したのであった。

 この前後のロシアの中東進出は目覚ましいものがあり、トルコに対して地対空ミサイルシステムS-400を供与した。トルコはNATO加盟国であり、第二次世界大戦以降、旧ソ連に対する防波堤の役割を担ってきたが、エルドアン政権は米露二大国を天秤にかける全方位の強国外交を打ち出したのである。西側の軍事機密がロシアに漏洩することを懸念したトランプ米政権がそれまで前向きであったステルス戦闘機F-35の供与に難色を示したのは当然であった 。しかしエルドアン大統領はそれをものともせず、東地中海でロシアと共同軍事演習を行っている 。

 ロシアは地中海における勢力拡大のためリビアでは東部ベンガジを拠点とするハフタール将軍の反政府軍事組織に肩入れした。リビアでは首都トリポリの正統政府軍と東部ベンガジ反政府軍の間で内戦状態にあり、トルコはトリポリ政府を支援している。ロシアは自国の民間軍事企業ワグナー・グループを表に立てて反政府軍を支援し、自国の軍用輸送機の表記をカムフラージュして兵員と兵器を増強した 。その結果、反政府ハフタール軍団は一時首都トリポリに迫る勢いであったが、トルコはなりふり構わずシリアから民兵を送り込み正統政府を援護した。現在、リビアの石油関連施設は正統政府が支配権を奪回し、石油生産量は急速に回復している状況である 。

 ロシアはリビアではつまずき、東部地中海に押しとどめられたが、地中海からインド洋に抜ける海上ルートの開拓を狙って、アラビア半島の対岸、紅海に面したスーダンに目を付けた。タス通信はロシアがポート・スーダンに軍港を開港する計画だ、と報じている。10月下旬に米国はスーダンがUAE、バハレーンに次いでイスラエルを承認すると発表 、その見返りとして同国に対する経済制裁を解除すると公表しており、ロシアはまさにそのタイミングを狙ったかのようにスーダンへの軍事進出を狙ったのである。これによりロシアは地中海から紅海を経由してインド洋に至るシーレーンが確保できるわけである。ロシアの軍事拡大作戦はとどまるところを知らない。

(続く)

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com
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石油と中東のニュース(12月7日)

2020-12-07 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)
・サウジ、ファイザーのコロナワクチンを数週間以内に入手。-70度の運搬ルートも整備済み

(石油関連ニュース)
・OPEC+の小幅削減合意を歓迎、原油価格上昇。Brent $49.23, WTI $44.08

(中東関連ニュース)
・カタールボイコット問題、近く解決の見通し。クウェイト/米国が精力的に仲介
・クウェイト総選挙結果、新顔31人当選、30人は45歳以下。女性は全員落選
・エジプト大統領、フランスを公式訪問。地域問題で協議
・UAE、イスラエルとの国交正常化後、サイバー攻撃の目標に。 *
・オマーン、国営エネルギー開発会社設立。国営石油PDOの国家予算切り離しが目的
・UAE、金取引市場のハブ狙う
・クウェイト小売業の雄Al-Shaya、94歳で死去

*レポート「和平合意で急速に深まるイスラエルと UAE の関係」参照。


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今週の各社プレスリリースから(11/30-12/5)

2020-12-05 | 今週のエネルギー関連新聞発表
11/30 ExxonMobil
ExxonMobil to prioritize capital investments on high-value assets
https://corporate.exxonmobil.com/News/Newsroom/News-releases/2020/1130_ExxonMobil-to-prioritize-capital-investments-on-high-value-assets

12/1 経済産業省
クウェート国との共同石油備蓄事業の開始に合意しました
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201201001/20201201001.html

12/1 出光興産
人事異動に関するお知らせ
https://www.idss.co.jp/content/100033274.pdf

12/1 出光興産
機構変更に関するお知らせ
https://www.idss.co.jp/content/100033273.pdf

12/2 出光興産
カーボンリサイクルのビジネスモデル検討を開始-排ガスなどからのCO2を「持続可能なジェット燃料」に転換-
https://www.idss.co.jp/news/2020/201202_1.html

12/2 出光興産
有機EL材料製造工場「出光電子材料(中国)有限公司 成都工場」を本格稼働 中国での供給体制強化を目的とする、当社グループ最大の生産能力を有するアジア3カ所目の製造拠点 12月1日にオープニングセレモニーを実施
https://www.idss.co.jp/news/2020/201202_2.html

12/3 Chevron
Chevron Announces $14 Billion Capital and Exploratory Budget for 2021
https://www.chevron.com/stories/chevron-announces-$14-billion-capital-and-exploratory-budget-for-2021

12/3 OPEC
The 12th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting concludes
https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/6257.htm

12/4 石油連盟
石油連盟会長コメント 第12回OPEC・非OPEC閣僚会合の合意に対して
https://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2020/12/04-001905.html

12/4 国際石油開発帝石
インドネシア共和国 アバディ LNG プロジェクト(マセラ鉱区)におけるインドネシア国内向け LNG の供給に関する覚書の締結について(お知らせ)
https://www.inpex.co.jp/news/assets/pdf/201204.pdf
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石油と中東のニュース(12月4日)

2020-12-04 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・OPEC+閣僚会合、12/3日に開催。来年1月から50万B/D減産緩和を決定。毎月閣僚会合で見直し
・OPEC+、長時間の議論の末、減産緩和幅50万B/Dの妥協。合意済みの200万B/Dを大幅に下回る

(中東関連ニュース)
・トルコとロシア、アゼルバイジャン・ナゴルノカラバフ地域の平和維持活動で協定締結
・米、イランMeisami社を経済制裁対象に追加
・バグダッドの米大使館、スタッフ人数削減。イランとその同調者を警戒
・UAE、建国記念日に4基目の地球観測衛星を仏領ギアナから打ち上げ
・サウジの外国人労働者、留守家族のコロナ禍のため本国送金19%増加
・クシュナー米大統領特別顧問、最後の得点稼ぎ。GCC亀裂の調停のためカタール訪問

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鬼の居ぬ間に:中東の政治的空白に暗躍する国々(1)

2020-12-03 | 中東諸国の動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。


http://mylibrary.maeda1.jp/0520PoliticalVacuumInMe.pdf

(英語版)
(アラビア語版)

はじめに:中東に政治的空白をもたらしている米国と西欧
 米国と西欧諸国の中東に対する影響力が一時的にではあるが弱まっている。米国は来年1月の政権交替を控え、今後の中東への対応が定まっていない。西欧諸国は今年末に迫った英国のEU脱退、すなわちBrexitの影響がはっきりせず、加えて新型コロナウィルス禍(Pandemic)による経済・社会の混乱は収まる気配が見えない。米国、西欧共に中東問題に関与する余裕がないのである。

 特に米国の場合、バイデン・民主党政権の新しい中東政策がトランプ・共和党政権時代と大きく変わることは必至である。トランプ政権はイラン核合意から脱退しイランへの経済制裁を強化する一方、エルサレムへの米大使館移転、ヨルダン川西岸入植及びゴラン高原併合の容認などイスラエル寄りの姿勢を明確にした。バイデン次期大統領はイラン核合意復帰を明言しており、イスラエル問題についてもトランプ政権の政策を変更することは間違いなさそうである。

 トランプ政権下で大いに得点を稼いだイスラエル、逆に経済が疲弊し青息吐息のイランは共に固唾をのんでバイデン政権の新中東政策を見守っている。その他の中東各国あるいは中東に少なからぬ利害を持つすべての国々が米国の出方を注視している。と同時にこれらの国々はユーラシア大陸西端の西ヨーロッパ諸国が今後どのような中東外交を繰り広げるかにも大きな関心を寄せている。しかし現在は米国も西欧諸国も身動きが取れず明確な中東政策を打ち出せる状態ではなく、中東は政治的空白の状態にある。その間隙を縫って利害関係国が暗躍しているのが現在の中東と言えよう。

 ロシアは黒海から地中海、さらにはインド洋に向かって着々と軍事拠点を拡大しつつある。これまでNATOの忠実な一員としてEU加盟を夢見てきたトルコはギリシャ・東欧などのキリスト教国家に行く手を阻まれている。そのトルコはイスラムに目覚めかつてのオスマントルコのような中東の覇者を目指している。イスラム国家に囲まれたユダヤ国家イスラエルは米国トランプ大統領の強力な支援を受けてUAEなどと国交を回復、アラブの分断に成功した。イスラエルの次の標的はイランであり、そのためには手段を選ばないであろう。そのイランは米国の経済制裁で極度に疲弊しているが、闘争意欲は旺盛である。バイデン次期米国大統領の出方をうかがいつつ、富国強兵に余念がない。中東の軍事衝突・地域紛争は終わることがない。

 そのような軍事衝突を横目に見ながらユーラシア大陸をまたにかけて経済進出に熱心なのが中国であり、その象徴が「一帯一路」政策である。そして経済・金融面で忘れてはならないのがオイル(天然ガス)マネーを武器に存在感をアピールするGCCの小国UAEあるいはカタールであろう。

 各国はパワーゲームを繰り広げている。しかしその動きに取り残されそうな国がある。サウジアラビアとエジプトである。両国は中東の大国と見なされているが、エジプトはイスラエルのアラブ分断政策によりアラブ盟主としての地位が危うい。サウジアラビアは石油を浪費するばかりで新たな国造りは砂上の楼閣に終わる恐れが出ている。

 来年から始まる米国の民主党政権、英国のEU離脱(BREXIT)、そしてコロナウィルス問題の終焉(ポスト・パンデミック)を控え、現在の中東は政治経済の空白時期と言えよう。本稿はこのような空白の時代、欧米と言う鬼の居ぬ間に暗躍する各国を概観しようとするものである。

(続く)

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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com
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石油と中東のニュース(12月2日)

2020-12-02 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・OPEC総会、OPEC+減産協議、急遽12/1から12/3に延期。減産緩和の足並みそろわず。 *
・OPEC11月原油生産、75万B/D増の2,531万B/D。 **

*「OPEC+(プラス)の減産強化は持続可能な路線か?」(2019年12月総会レポート)参照。
**OPEC原油生産量の推移(2018.1月~)

(中東関連ニュース)
・トルコ、ギュレン派の軍人82人を拘束
・UAE、第49回独立記念日迎える
・エジプトの観光収入21.6%減。失業率は過去2年で最高の9.6%

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メジャーズを凌駕するENEOSと出光興産の利益率:2020年7-9月期業績比較(4完)

2020-12-01 | 海外・国内石油企業の業績
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0519MajorEneosIdemitu2020JulSep.pdf

2.過去1年間の四半期業績の推移(続き)

(4) 売上高利益率 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-22.pdf 参照)
 2019年7-9月期の売上高利益率はChevronが7.1%と最も高く、これに次ぐのがShell(6.6%)、Total(5.8%)、ExxonMobil(4.9%)であった。日系企業のENEOSは2.1%、出光は1.1%であり、BPのみがマイナス(▲1.1%)であった。続く10-12月期はExxonMobilが8.5%で最も高い利益率であったが、前期トップのChevronは7社中ただ1社▲18.2%という大幅な欠損率であった。今年1-3月期は5社がマイナスであったが、特にENEOSは▲13%の大きな欠損率となり出光も▲5.9%であった。日系2社は決算期が3月であるため、いずれも特別損失を計上したためと見られる。その後の4-6月期はコロナ禍の影響で7社全てが欠損を計上したが、特にShell、BP及びChevronは▲50%強の大幅な損失率を記録、Totalも▲40%近いマイナスであった。ExxonMobilは比較的軽度のマイナス(▲3.3%)におさまっている。今期(7-9月期)は各社とも利益が回復したものの、利益率は低水準にとどまっている。その中でENEOS及び出光2社はそれぞれ2.3%及び4.8%の利益率を確保しており、メジャー5社を上回っている。

(5) 上流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-23.pdf 参照)
 昨年7-9月期のメジャー5社の上流部門の利益はChevronが27億ドルで最も多く、ExxonMobil、BPが21億ドル台、Shell、Totalは共に17億ドルであり、5社の間に大きな差はなかった。それ以降の3四半期はメジャー各社間で大きな変動があった。中でも変動が激しかったのはChevronであり、昨年10―12月期は▲67億ドルのマイナスで最下位に落ちると、続く今年1-3月期には29億ドルの利益を計上、しかし4-6月期には再び▲61億ドルの大幅な赤字を記録、今期は2億ドルの黒字に戻り激しいアップダウンを記録している。Shellは昨年7-9月期以外はすべてマイナスであり、今期も5社の中で最も悪い▲11億ドルの赤字であった。BPは今年4-6月期に▲85億ドルという巨額の赤字を計上したが、それ以外の四半期は黒字であった。

日系2社は上流部門が小さいため利益幅も小さい。ENEOSが今年1-3月期に▲7億ドルの欠損を出した以外、両社ともわずかではあるが利益を計上しておりメジャー5社とは異なる結果を出している。

(6) 下流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-24.pdf 参照)
 昨年から今年初めまでの各社の上流・下流の損益幅を見ると、上流部門はプラス61億ドル(ExxonMobil10-12月期)から▲85億ドル(BP今年4-6月期)まで大きな差があるのに比べ(上記参照)、下流部門はプラス26億ドル(Shell昨年7-9月期)から▲30億ドル(同Shell 今年4-6月期)まで差異はさほど大きくない。原油価格が大きく変動する中で上流部門に比べ下流部門は比較的安定していたと言える。

 下流部門の利益が高く安定しているのはBPであり、毎期6~19億ドル前後の利益を計上している。ExxonMobilは下流部門の利益が安定せず今年1-3月と7-9月期は赤字である。日系2社のうちENEOSは昨年末まで数億ドル規模の利益を計上していたが、今年の1-3月及び4-6月期は連続して赤字となっている。特に1-3月期の赤字は7社の中で最も大きい▲24億ドルとなっている。出光の下流部門は経常的な赤字体質であり、5四半期のうち3期は欠損を出し、特に今年の1-3月及び4-6月期は連続して10億ドルを超える赤字となっている。

以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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