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(アラビア語版)
2023年3月
Part III:キメラ(Chimera)
73. ネオ・ギャラクシーの誕生(2)
創造主の前に現れたキメラはドクタージルゴの過酷な実験のおかげで命が尽き果てかけていた。創造主は報告を受けるまでもなく、キメラがヒトからどのような仕打ちを受けたか即座に理解した。ギャラクシーの遺伝子の鎖が無残にも断ち切られ、一部の遺伝子情報が取り除かれたのち、再び鎖が繋がれた状態であった。
遺伝子の鎖を断ち切ったのがヒトであったことを知り創造主は慨嘆し、次に激怒した。鎖を断ち切ることができるのは創造主だけであるにもかかわらず、ヒトは土足でその領域に踏み込んできたからである。それまでヒトの進化を頼もしく見守ってきた創造主は初めてヒトの進化が手に負えない領域に入りつつあることを悟った。
ただギャラクシーからキメラに突然変異した遺伝子の鎖の再接続の傷跡を見て創造主は少し安堵した。再接続がヒトではなく、ギャラクシー或いはキメラ自身によって為されたことを示していたからである。
ヒトであるドクタージルゴは何度も再接続を試みたものの、結局成功しなかった。その間にもキメラの繁殖力は急速に弱まっていったが、何とか生き延びようとするキメラは最後の力を振り絞って自ら遺伝子を再接続し、キメラに変異したのである。ドクタージルゴはその突然変異したキメラを培養した。こうして地球上には実験室の外でこれまで通り生き続けたギャラクシーと実験室で誕生した突然変異種のキメラの二つの株が生存競争を繰り広げる状態になった。そしてキメラが宇宙に飛び出し創造主に秩序の回復を求めたという次第である。
経緯を知った創造主はヒトの進化の速さに気づくのが遅かったことを後悔した。創造主はヒトが直立歩行し道具を利用して生存領域を広めていくのを最初は温かく見守っていた。しかしヒトが物理学を探求して原子核を操り、分子生物学を究めて遺伝子操作を行うまでに進化した。創造主はヒトが自らコントロールできなくなり、いずれスタンピードを引き起こすであろうことを真剣に案じ始めた。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html