イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊」読了

2024年02月07日 | 2024読書
椎名誠 「サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊」読了

雑魚釣り隊の前身は怪しい探検隊という集団だったのだが、その人たちを知ったのはいまからおそらく40年近く前のことだったと思う。(実際は、その前身に「東日本なんでもケトばす会」というのがあり、それが怪しい探検隊になった。)椎名誠という作家の名前を知ったのも、同じタイトルのエッセイだったと思う。テレビが先ではなかったと思うが、毎週日曜日の朝、椎名誠を中心にした中年近い人たちが大勢でキャンプをするという内容の番組が放送されていた。日曜日の早朝にテレビを観ていたということはきっと社会人になってからのことだったのだろうから、本を読み始めたほうが早かったはずである。(そんなことはどちらでもよいが。)それから先、師と椎名誠の本ばかり読んでいた頃もあった。
山賊(というか、海岸べりばかりでキャンプをしていたからどちらかというと海賊だな。)のように適当に集まり、組織立ってはいないが何となく分業しながら何事もグイグイ進めてゆくというひとりひとりの距離感と団結が面白かった。もちろん、アウトドアという舞台にも惹かれていた。

いつかは、どこかにあるそんな集団に加わりたいと思いながらキャンプ道具もいっぱい集めた。しかし、それらは今になってはほとんど使うことなく朽ち果ててしまった。家族ができればキャンプに行けると思ってもいたが、それも儚い夢であった。子供の嗜好というのは絶対的に母親の嗜好に従うのだということをついぞ知らなかった。
テントは友人が貸してくれというので1度だけ他人の手で張られただけ、タープはいまだ広げられたことがない。コールマンの大型のランタンにも未だ灯が燈ったことがなく、ツーバーナーは能登の地震をきっかけにして災害の時にはきっと役に立つだろうと使えるかどうかをみるために引っ張りだしてみると、すでに壊れてしまっていて使えなくなってしまっていた。

よくよく考えたら、小さい頃から集団生活になじめず、遠足も運動会も雨が降って中止になってくれないかといつも願っているような性格だったのでたとえ山賊のような緩やかな集団の中でさえなじめなかっただろうから、大量のキャンプ道具は最初からそうなる運命だったのである。
それに加えて、旅に出ることも嫌いであったのだからどうしようもない。行くのはいいが行ったら必ず帰ってこなければならないというのが面倒だったのである。ついでに後片付けをするのも面倒だ。
何人分ものキャンプ道具を管理するなど最初から無理なことなのである。
無理というと、経済的にも社会的にもやっぱり無理だ。
雑魚釣り隊は「つり丸」という雑誌の企画でスタートし、週刊ポストの連載として引き継がれてきたのだが、当然だが取材費用が出ていたであろう。コーディネーターも存在する。経済的にも根回しにも問題はない。
そして、メンバーの紹介欄を読んでみると、自分の仕事に自信を持っている人たちばかりのようにみえる。みんなクリエイティブな世界の一線で活躍しているようなひとたちばかりだ。原因と結果というものはいつの間にか入れ替わっていることがあるが、一流の仕事ができるから遊びに全力で打ち込むことができ、遊びに全力で打ち込めるから一流の仕事ができるものである。前年踏襲と逃げ腰のサラリーマン生活では遊びも全力で打ち込めないのだとこの本を読みながらしみじみと思うのである。
悲しいけれども、人知れず小さな焚火の炎を眺めるのが関の山ということだ。
それでも、こういった本を読んだり、SNSに投稿されている、河原や自宅でおこなわれている豪勢なバーベキューを見るとうらやましくてしかたがなくなるし、電車に乗りながらビジネス街が近づいていくにつれ、日経新聞を広げている一流ビジネスマンが増えてくる。その間に座って、こんな本を読みながらグフグフ笑っていると、こうなるのもっともだと思うのである。

雑魚釣り隊の釣行記はこの本で最後だそうだ。掲載されている釣行記の連載期間は2019年の始めから2023年の始めまでということで、スタートはコロナ禍が日本中に広がりつつあったころである。僕も自粛はしなかったが雑魚釣り隊も自粛とは無縁の人たちであったようだ。とはいうものの、椎名誠もすでに80歳近くになっていて、なかなか自由に動くこともやりにくくなっていたようである。しかし、大本営として自らはほとんど動かずとも配下の隊員やドレイたちからの報告を素に面白おかしくその状況を描写している。昭和軽薄体は令和の時代でも健在であった。

雑魚釣り隊は三度どこかの雑誌に引き継がれるのか、それともこのまま消滅してしまうのかはわからないが、椎名誠がその中心にならないかぎりはもう二度とこんな集団は現れないだろう。そう思うと残念で仕方がない。
ここでも時代がひとつ終わったということか・・。
コメント
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