10月にトルコに旅するにあたって、友人の田村佳子さんから、彼女が主宰しているシリア支援プロジェクト「みんなで作るシリア展」で集まったお金の一部を預かり、トルコを拠点としてシリア国内支援をやっている団体・個人に寄付金として届けることになった。つまりインターナショナルな飛脚をやったわけだ。
イスタンブルでは、ダマスカス郊外東ゴータへの支援を行っている「ウィファーク」という団体に寄付金を渡しに行った。トルコ人の友人Aさんがここで働いている関係で、彼がフェイスブックで発信する記事や動画を通して活動内容は概ね把握していたが、事務所を訪ねて直接話を聞くのは今回が初めてだった。
ウィファークの事務所は、敬虔なムスリムが多いファーティハ地区にある。今回の写真は全てカメラ女子(?)の妹がごつくて重いカメラで撮影したもの
現地での支援の様子を記録した動画を見せてもらったりしながら、活動状況の説明を受けた
ウィファークは、ダマスカス郊外東ゴータの現地で活動している9つの人道支援団体を傘下に置いて統括し、活動のコーディネート、事務や経理、SNSでの情報発信、寄付金集めや現地への送金などを行っている。9団体が全く別々に活動するよりも、連携したほうが効率がいいし、かかる費用も軽減できるとの考えから生まれた組織らしい。Aさん以外のメンバーは全員シリア人。9団体のうち3つはシリアで反体制運動が始まる以前から活動している。現地では約200人が活動に携わっており、イスタンブル事務所に勤務しているのは10人。そのうち6人はボランティアだ。
東ゴータは反体制派支配地で、2012年からずっとシリア政府軍とその同盟勢力の封鎖を受けており、国連等の支援物資が届かない。最近、東ゴータで食糧・医薬品等の欠乏のため死に直面している子供達や病人の様子がメディアで取り上げられることが多いので、シリアに関心を持っている人はこの状況をご存知かもしれない。
封鎖のため、電気やガス、水道の供給が止められ、あらゆる物資が不足しているが、この地域を統治する地方評議会には学校教育や貧困家庭への支援を提供するための予算も組織力もない。このため、地元の民間団体が支援活動を担っている。東ゴータの人口は約35万人といわれ、資金も物資も極めて限定されている中で、支援が全体に行き渡るのは不可能だろうが…
説明によると、ウィファーク傘下の諸団体は、14の学校の運営、孤児約1500人への教育支援、2歳以下の乳児約7000人への粉ミルク支給と妊婦のケア、貧困家庭の女性の就労支援、貧困家庭への食事支給、障害者の作業所運営、栄養失調の子供約1500人へのミルクやビスケットの配給などを実行している。砲撃や空爆のため負傷したり、手足を失ったりした障害児を元気づけるための料理コンテスト等のイベントを実施する団体もあり、その動画を見せてもらった。
ロシア・イラン・トルコの主導(っていうか、プーチン大統領の主導)によるシリアの「和平」をめぐるアスタナ協議で、東ゴータは緊張緩和地帯のひとつとされたが、政府側の空爆や砲撃は止むことがなく、むしろ激化している。10月6日には、粉ミルク配達時に空爆があり、作業をしていた5人が死亡、3人が負傷したという。
お茶とシリアのお菓子をいただきつつ話を聞いた。サクサクした胡麻クッキーは「バラーゼク」。もうひとつの方の名前はなんだっけ…
それにしても、周りを政府軍・民兵集団に取り囲まれている地域に、どうやってお金や物資を運び込んでいるのか? 私が前々から抱いていた素朴な(?)疑問を口にしてみたら、こういう答えが返ってきた。
「活動資金や物資の搬入に長さ8kmの地下トンネルを使っていた時期もあるが(ガザみたいに)、トンネルの出口があるダマスカス北部バルゼ地区が政府軍支配下に入ったため、ほぼ使用不可能となった。使える区域のトンネルは軍事用とされ、民間団体は使用できない。しかし、ヨルダン、ダマスカス等の各地のマネートランスファー・サービスなどを利用して、なんとか資金を届けることができる。物資の搬入のために、政府軍の兵士に賄賂を渡すときもある」
なお、ウィファークの関連組織は全て民間団体で、現地を支配している反体制派武装勢力とは無関係。但し、必要に応じて協力を求めざるを得ない状態だ。そうしなければ支援は成立しない。
彼らの話では、日本のJICA(ジャイカ=国際協力機構)は、反体制運動が始まる以前、2002年に東ゴータでの障害者用の作業所創設に向けて、資金を提供している。また、日本政府は、2006年に貧困家庭の女性の就業支援のため、ミシンを送付している。これらの作業所やミシンは現在も使われており、ウィファーク関係者たちは日本に非常に感謝している。そして、できれば現在の東ゴータの窮状を理解して、今後も支援を行ってほしいと願っている。
日本から送られたミシンを使って制作した衣料品を用いて、過去にトルコの人道支援団体IHHと協力して貧しい女性や子供に服を贈るキャンペーンを行い、1200着を子供に、1500着を女性に渡したこともあるそうだ。服を渡す際は、あらかじめ選んで配るのではなく、ひとつのスペースにずらりと並べて、そこから好きなものを選んでもらうよう計らった。そうすることにより、もらう側はお店で服を買っているような気分になり、喜びが増すからだ。
訪問の終わりに、「みんなで作るシリア展」からの支援金を渡したら、きちんと領収書をくれた。そして、約3週間後、Aさんからこんな動画が届いた。
彼らが東ゴータで実施していた貧困家庭のための食事の炊き出しキャンペーンにシリア展からの寄付金を使ってくれ、それがはっきりとわかるように、調理場などに「みんなで作るシリア展」の寄付に感謝する旨英語・日本語で書かれた紙を張り出した上で、現場の様子を撮影して動画を作成してくれたのだ。まさかここまでやってくれるとは思わなかったので、その配慮と組織力、仕事の速さにびっくり。嬉しいサプライズだった。
現在彼らは、活動資金を賄うためにトルコや欧州の各種人道支援団体から寄付を募っているそうだが、日本でも寄付を集められればいいなあ…。
事務所のある建物の下のフロアで、シリア難民の女性たちが手作りした衣類や装飾品、食品などが販売されているということだったので、帰り際に覗いてみた。
なんと、そこではクッベが私たちを待っていた…クッベは挽き割り小麦ベースの皮でひき肉などの具を包んだ料理。いなり寿司っぽい外観の揚げクッベと大きめの焼きまんじゅうみたいな焼きクッベがあった。ちなみに私は焼きクッベ派だ(誰も聞いてない)
懐かしいシリアのお菓子も並んでいた。シリア菓子ファン垂涎の光景か
食べ物以外の手芸品も充実
アクセサリーも色々揃っている。意外に色合いがシックだった
なんと、ウエディングドレスまであった。いつか結婚するときに着たいものだ(いつやねん)
「クッベを食べるか」と聞かれて頷いたら2種類の両方が差し出され、代金を払おうとしても受け取ってもらえなかった。「シリアあるある」な展開だ。苦境においても笑顔と優しさを忘れない人達。
日本の人たちの来訪を心待ちにしているとのことなので、イスタンブルにお越しの際には、ぜひウィファークにお立ち寄り下さいませ。トルコにいながらにしてシリアを満喫できます。
フェイスブックのウィファークのページ(アラビア語)住所や地図が見られる
https://www.facebook.com/Wifak.ARD/?fref=ts
トルコ語のページはこちら
https://www.facebook.com/pg/samkardeslik/about/?ref=page_internal
東ゴータの状況に関するAFP日本語版の記事
http://www.afpbb.com/articles/-/3147789
(終わり)