カタール航空の成田発ドーハ行きの機内は、1席おきに座るようになっていたが、座れるところは大体埋まっていた。思っていたより人が多い。海外旅行する人が急増していた時期なのだ。ハワイ行きのツアーなどは満員御礼だとニュースでやっていた。
私の席は、窓寄りに並んだ3席の通路側だった。私は長時間のフライトでは通路側に座ることにしている。もちろん心置きなく酒を飲み、気兼ねなくトイレに行くためだ。窓側には欧米人らしき髪の短い小柄な女性が座っていた。50代後半~60代前半くらいに見える、物静かな人だ。私も席について手荷物を前の座席の下に置き、シートベルトを締める。空港にたどり着くだけで疲れていたものの、久しぶりの飛行機なので、やはり「わ~い」と声を上げたくなるような、たのしい気分になった。
クッションのアラビア語の文は英語の「Be inspired」の直訳
今回の旅では、カタール航空のドーハ経由の成田・ローマ往復チケットを購入し、ローマを足掛かりに他の国・都市に移動することにした。成田・イスタンブール往復も考えたが、ローマの方が安かったのだ。
日本から欧州に飛ぶ場合、欧州系の航空会社を利用した方がむろん所要時間が短くて楽なのだが、中東系の航空会社の方がずっと安いので、私のような貧乏旅行者はそちらを選ぶことになる。
中東系の航空会社ではアラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ航空(ドバイ経由)とエティハド航空(アブダビ経由)、そしてカタール航空の3社が候補に挙がるが、私はカタール国営の衛星テレビであるアルジャジーラを日常的に視聴しているため、カタールを身近に感じると同時に、カタール封鎖をした側だったUAEのダークサイドに詳しくなり、UAEという国に深い不信感を抱くようになっていた。サービスや機内食はエミレーツの方がいいのだろうが、UAEはなるべく通りたくない。
そういった経済的・政治的な理由で、今回はカタール航空一択だった。カタール航空はコロナ禍を考慮して、キャンセルや変更が無料で何度でも出来るキャンペーンを展開していたので、悪くない選択だったと思う。また、この時期に欧州系の航空会社でチケットを購入した人が直前にキャンセルされたという話をよく耳にしたが、中東系ではそういう話は聞かなかった。
成田を22時40分頃に出発し、ドーハに4時25分に着く予定だった。時差が6時間なので(日本の方が進んでいる)、約12時間のフライトだ。その間、マスク着用が義務付けられていた。途中で息苦しくなるかと思ったが、立体的なマスクを用意したせいか、案外大丈夫だった。機内食を食べている時や、酒を飲んでる間(長い)はずっと外してたしな…
靴下や耳栓などが入ったアメニティーバッグの他に、今回はマスク・消毒用ジェル・ゴム手袋が入った衛生キットが配られた。
こういうやつ
マスクは水色っぽいダサいやつで、手袋も水を通しやすくてあまり役に立たない代物だったが、ジェルは便利だった。
カタール航空で楽しみなのは、機内エンターテイメントだ(私だけ?)。アルジャジーラのニュース中継は見られないが(なぜなんだ、カタール?!)、番組録画は多少見られるのだ。今回は「المسافر」(ムサーフィル=旅人)という旅番組のオランダ編があった。この番組は見事なフスハー(標準語)を操るアラブ人男性の「旅人」が世界各国に出かけて様々な体験をするという内容なのだが、彼はオランダ編では農家のトラクターに乗ったり、レストランの厨房で肉を焼いたりしていた。私は「そんな旅人おるかい」などとツッコミを入れながら、3回分のシリーズを全て観た。
これは「ムサーフィル」のイスタンブールの回
旅番組の他にも、アラブ世界の女性が抱える問題を当事者たちが出演して語り合う趣旨の番組(「ビカスル・ター」بكسر التاء 訳しにくいが、「女性の沈黙を破る」という意味合いのタイトル)の録画があった。強制失踪がテーマの回で、シリア・エジプト・イエメンで当局によって家族の男性が連れ去られて消息不明になった女性や弁護士、生還した男性らが出演し、自分たちの経験を語るという内容だった。こういう濃い内容の番組をあえて機内エンタメに入れてしまうカタール航空。
司会のレバノン人の女性キャスターがかわいい
機内食は2回出た。夕食と朝食だ。夕食にはチキンカツ丼、朝食にはスクランブルエッグのハッシュポテト添えをそれぞれ選んだ。
夕食のチキンカツ丼。当然豚肉は出ない。
味はまあ普通。カツはふやけていたが、蕎麦サラダはオリーブオイルが効いていて美味しかった。デザートは食べていないのでわからないが、見た通りの味だと思う。赤ワインはオーストラリア産で意外に美味しかった。キリンビールも飲んだ。夜中にはラムをもらいに行ったが、なかったので代わりにシェリーを飲んだ。
朝食
スクランブルエッグは原型を留めておらず、ポテトも味が薄かったが、不味いというほどではなかった。っていうか、食べすぎた…
私の1つ向こうに座っていた女性は、客室乗務員さんの早口の英語が全く聞き取れないようで、機内食を選ぶのに毎回苦労していた(乗務員さんが)。朝食の時、乗務員さんがスマホの自動翻訳を使おうとして、何語が出来るかと何回か尋ねたら、女性は「ポルトガル語と日本語」と答えた。え、日本語が出来るんだ…
私が「日本語が出来るんですか?」と日本語で尋ねたら、女性は「はい。あ、日本人ですか?」と聞き返してきた。何人だと思われてたんだろう…とにかく、日本語が出来るならと、私が通訳を買って出て、メニュー選びを手伝ってあげた。私の英語も彼女の日本語もかなり怪しくて、けっこう時間がかかったが、乗務員さんにも彼女にも大変感謝された。
食後、着陸までの短い時間にお喋りしたところ、彼女は(非日系)ブラジル人で、出稼ぎのための来日して長年働いていたが、お母さんの介護のため、ドーハ経由で母国に戻るところだった。
飛行機が着陸態勢に入る少し前、彼女はトイレに立って、しばらくしてから戻ってきた時、私に封筒を差し出して、「これ、後でお読みになって下さい」と言った。
言われた通り、その場では封筒を開けずにバッグに仕舞い、着陸後に彼女と別れてから取り出して開けたら、中にはこんなものが入っていた。
エホバの証人のパンフレットの切り抜き…
想像の斜め上を行く展開というのは、こういうことを指すのだと思った。
(続く)
なかなか良いペースで、アップされているので、熱狂的なミチさんファンとしては、嬉しい限りです。
>そういった経済的・政治的な理由で・・・・・
「クスッ」としちゃいけないのかもしれないけど、やっぱり「クスッ」です。
件の彼女、ドーハ経由で日本からブラジルに帰るって、「エッ」って感じもしますが、あるのでしょうね。確か、成田からインドのハイデラバードに行くのも最安値は、ドバイ経由だったなぁ。政治的な理由ではないですが、利用せずシンガポール経由で行きました。
最後のオチ、確かに「想像の斜め上」を超えていますね。不敬虔なクリスチャンの僕からすると、エホバの証人は、異端ですが、カルトではないと思います。ヤレヤレですかね。
残暑の熱さに負けず、執筆をお願いします。楽しみにしています。(笑)
では、また
ドーハ経由で日本からブラジル、すごく長旅になりそうですね。あの封筒、「なんだろう、機内食選びを手伝ったお礼の手紙かな?」とウキウキしながら開けたら、あの禍々しいイラストが出てきて仰天~まだ目的地についてもいなかったのに、濃厚な体験でした。
ヒマなうちに、そして忘れる前になるべくサクサク書こうとと私なりにがんばってます~今後ともよろしくお願いします~