総合文化雑誌「KUMAMOTO」43号
NPO法人 くまもと文化振興会 2023年6月20日発行
一 「文學の森大賞」を受賞して ー
永田満徳
このたび、句集『肥後の城』が第十五回「文學の森大賞」を受賞した。名誉ある大賞を頂き、身の引き締まる思いである。
「文學の森賞」は月刊「俳句界」を発行している文學の森にて刊行された2021年の句集を対象に選出する賞である。
『肥後の城』(文學の森・令和三年九月)は『寒祭』(文學の森・平成二十四年)に次ぐ、第二句集である。平成二十五年より令和三年までの三四四句を収めた。二十五年間の句業の集大成である『寒祭』に比べて、短期間の句業を収めることができたのは、インターネットやSNSなどの情報通信技術の恩恵に浴するところが大きい。
私が代表を務める「俳句大学」では、例えば、インターネットの「俳句大学ネット句会」、或いは、Facebookの「俳句大学投句欄」に於ける、講師による「一日一句鑑賞」、会員による「一日一句互選」や週ごとの「席題で一句」「テーマで一句」「動画で一句」、特別企画の「写真で一句」などに投句し、講師として選句も担当してきた。私の作句数は月に五〇句を超えることがしばしばで、八年間で五〇〇〇句以上の俳句を残せた。近年のコロナ禍にあっても、より積極的に、より活発に活動できた。
本句集は、平成二十八年四月に起こった熊本地震の句を起承転結の〈転〉の部分に当てるつもりで編集を進めていた。一度は文學の森で初校まで出来ていたところ、令和二年七月、郷里の人吉を大水害が襲ったため、二つの大災害を悼むことにした。さらに、「未来図」の鍵和田秞子主宰の「あなたは熊本にいるのだから、熊本城や阿蘇、天草を詠みなさい」というご助言や元熊本大学教授で「火神」主宰の首藤基澄先生の阿蘇への思いの集大成とも言うべき句集『阿蘇百韻』(本阿弥書店)に促されて、熊本城、阿蘇、天草を詠み込んだ句を多く残すことにした。テーマ性と郷土色を盛り込んだ内容の読物になるように心掛けたと言ってよい。その意味で、熊本の多くの人に読んで頂きたい気持は強い。
また、夏目漱石は熊本にて運座(句会)を開き、正岡子規の新派俳句を熊本にもたらした。しかし、今日、漱石俳句の継承者はいない。そこで、私は漱石の後継者を自認し、漱石の言葉である「俳句はレトリック」に倣い、連想はもとより、擬人化・比喩・オノマトペなどを駆使して、バラエティーに富んだ、多様な俳句を作ることを試みた。
この内容と表現において、本句集がどれほど成功しているかは覚束ないが、この大賞を励みにチャレンジしていきたいと思っている。
『肥後の城』抄(十句)
阿蘇越ゆる春満月を迎へけり こんなにもおにぎり丸し春の地震
水俣やただあをあをと初夏の海 大鯰口よりおうと浮かびけり
立秋やどの神となく手を合はす あぶれ蚊の寄る弁慶の泣きどころ
大鷲の風を呼び込み飛びたてり 巌一つ寒満月を繋ぎ止む
朝日差す富士のごとくに鏡餅 喧嘩独楽手より離れて生き生きと
(ながた みつのり/「火神」主宰・俳人協会熊本県支部長)
※一部変更