【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会会長代行 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

「火神」主宰 「俳句大学」学長 「Haïku Column」代表 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞/中村青史賞

国際俳句についての試み!

2020年10月24日 08時28分59秒 | 国際俳句

国際俳句についての試み!

◆Facebookグループの「Haiku Column」(俳句大学国際俳句学部投句欄)投句された「Today' KIGO」から言えることは「常識は守ることではなく、破ることである」ということである。

◆KIGO(季語)は日本独特なもので、季節のない国の人々がKIGO(季語)のあるHAIKUを創ることは困難だという常識は覆りつつある。季節のない国からも「KIGOのあるHAIKU」が多く投句されてきており、俳句は「KIGOの詩」という認識が世界で広まっている。

◆世界への俳句の発信が叫ばれている今こそ、空理空論に終始することなく、実践的に「俳句の何を」「俳句をどう」発信するかが問われている。

 

【国際俳句の試み】本題

俳句大学国際俳句学部では、2015年10月に国際俳句交流のFacebookグループ「Haiku Column」を立ち上げ、私は代表として、「Haiku Column」を管理している。

現在、参加メンバーは2023年9月27日現在、3059人を越え、一日の投句数も100句に及ぶ。瞬時に交流できるFacebookという国際情報ネットワークの恩恵を受けているのも特色である。

国籍もフランス、イタリア、イギリス、ルーマニア、ハンガリー、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、アメリア、インドネシア、中国、台湾と多様である。

人種、国籍を問わず投句を受け入れていることから、その「人道主義的」スタンスが広く支持されており、HAIKUによる国際文化交流が国際平和に繋がることを痛感する毎日である。

⚫️国際俳句改革の必要性

俳句は日本の伝統的な詩の一つである。今では世界各地域の言語文化という場で世界化し、また、進化している国際的な文学形式である。現代の世界俳句では、三行書きで、無季(自由季)のHAIKUが優勢であることは否定しようがない事実である。

しかし、現在の国際俳句は、俳句実作者の立場からすると、俳句の型と本質から外れているように思われる。

三行書きにしただけの俳句は形式のみで、三行詩(散文詩)的なHAIKUが標準になっていることがあげられる。HAIKUは三行書きなりという定型意識が強い。

それは俳句の型と俳句の特性に対する共通認識が形成されていないからである。

そこで、世界に通用する「HAIKUとは何か」を明確にするために、「Haiku Column」において、俳句の本質であり、かつ型である「切れ」と「取合せ」を取り入れた二行俳句」を提唱した。

ただ、日本の俳句の場合、「切れ」があっても、「取り合わせ」でないことである。例えば、「大蛍ゆらりゆらりと通りけり 一茶」や、切れ字のある「白藤や揺りやみしかばうすみどり 芝不器男」のように、切れ、或いは切れ字のある一物仕立ての二句一章はその内容から言って、二句があまり断絶していず、句意が一句一章とは大差がない。

しかし、切れ(切れ字)があることによって、空間をもたらし、想像の余地を与え、余韻を残す。これが「切れ(切れ字)」の最大の効用である。

HAIKUにおいて、二行俳句を推進しているのは、「KIRE(切れ)」を明確にするためで、KIREのない、単なる散文詩的なHAIKUの是正を図っている。

 

①〔7つの俳句の規則〕

取組み:まず、「切れ」と「取合せ」を基本とした「7つの俳句の規則」〔7rules of Haiku〕を例句とともに提示した。

〔国際俳句の「7つの規則」〕〔向瀬美音訳〕

1.【取り合わせ】       【TORIAWASE】
〔例句〕永田満徳      〔Example〕Mitsunori Nagata
春近し            near spring
HAIKU講座は二ヵ国語    lecture of HAIKU in two linguages
2.【切れ】         【only one cut】
〔例句〕永田満徳       〔Example〕Mitsunori Nagata
オートバイ          motorbyke on an autumnal path
落葉の道を広げたる      whirlwind of dead leaves
3.【季語】          【season word(KIGO)】
〔例句〕永田満徳       〔Example〕Mitsunori Nagata
百夜より一夜尊し       one night more precious than hundred nighat 
クリスマス          christmas
4.【今を読む・瞬間を切り取る】【catch the monent, tell now】
〔例句〕永田満徳       〔Example〕Mitsunori Nagata
春の雷             spring thunder
小言のやうに鳴り始む      beginning like scording
5.【具体的な物に託す】    【use the concrete object】
〔例句〕永田満徳       〔Example〕Mitsunori Nagata
肌よりも髪に付く雨      the rain dropping on hair not on skin
アマリリス          amaryllis
6.【省略】          【omissions】
〔例句〕永田満徳       〔Example〕Mitsunori Nagata
良夜なり           relaxed night
音を立てざる砂時計      sandglass without sound
7.【用言は少なく】      【avoid verbs,adjevtives, adjective verbs as much as possible】
〔例句〕永田満徳       〔Example〕Mitsunori Nagata
春昼や            spring afternoon
エンドレスなるオルゴール   endless music box

結果:「Haiku Column」では、最初、説明的で観念的な句が多かったが、「7つの規則」を提示して以来、形容詞、動詞などが減り、具体的なものに託した表現を基調とし、省略された俳句が多くなった

②〔季語の提示〕
取組み:二つのパターンの二行俳句(取合せ)を提唱しました。
・一行目はKIGO(季語)と二行目はKIGO(季語)とは関係のない言葉。
・または一行目はKIGO(季語)とは関係のない言葉と二行目はKIGO(季語)。
結果:この二つのパターンの二行俳句によって、季重なりはもちろんのこと、無季語による評価の困難さが解消されつつある。さらにメンバーの句が日本の俳句に近くなっている。
そして、この二つのパターンの二行俳句は国際俳句作家にとって俳句の本質を踏まえたHAIKUが作りやすいという点では大いに効果がある。

 

③〔和訳の工夫〕
1、五七五の17音の和訳を試みている。比較的にセンテンスの長い、これまでのHAIKUをただ端に、無理に日本の俳句の五七五の17音にすることではない。
また、日本人読者に読むやすいように、便宜上、五七五訳をするのではない。
これらの取り組みによって、省略された文が俳句の原句として五七五の17音に収まり、自然に受け入れられています。
ここにおいてこそ、五七五の17音の和訳がHAIKUの真価を再現するものであり、国際俳句の定型化に一歩近づくための有効な手立てであることを強調しておきたい。
2.さらなる方向性として、HAIKUの原句を五七五訳を一行書きに統一する。
二行書き俳句に拘ることなく、二行書きでも、一行書きでもいいということである。なお、、どうしても散文的、または三段切れになりやすい三行書きを推奨するつもりない。
その場合、もちろん、切れのマーク「 ー 」を入れ、切れと取合わせのある句であることを示すことは必要である。
〔例〕永田満徳訳
戦争や瓦礫のなかの名なき花   ※戦争=夏の季語とする
War‐among the rubble a nameless flower
Guerra‐tra le macerie un fiore senza nome
 アンジェラ ジオルダーノ/Angela Giordano (イタリア/Italy)

 

④日本人による国際俳句の具体的な指導
※2024年3月からこの試みは日々行なっている。
※国際俳句に於いても、俳句のルールを学ぶことは国際俳句の交流の基盤をなすものでである。
※こういう指導添削ができるのも、FacebookなどのSNSの発達のお陰である。

a【原句】

sunburned fields 
falling peaks of clouds quench the thirst

Probir Gupta
【大津留直訳】
雲の峰落ちて渇きを癒しけり

[永田満徳]⇨
どういう情景ですか?

Probir Gupta] →
Nagata  Mitunori 'falling peaks of clouds' obviously can fall as rain and certainly not as cloud. These rains relieve the thirst of sunburned ground.
永田満徳
「雲の峰が落ちる」は、明らかに雨として降ることもあるが、雲として降ることはない。
この雨は、日焼けした大地の渇きを癒す。

[永田満徳]⇨
わかりにくい。

[Probir Gupta] →
Nagata  Mitunori Agreed. I have to practice writing with more simple words and structure.
永田 満徳
 同感です。もっと簡単な言葉と構成で書く練習をしないと。

[永田満徳]⇨
ご理解いただきありがとうございます。

b【原句】
A.G
mattina d'estate
un bimbo svuota l' oceano con un secchio
夏の朝
バケツで海を空にする子供

【指導例】本人の承諾済み
永田満徳:
In che senso?
un bimbo svuota il mare col secchiello
下記の言葉はどういう意味ですか?
子供がバケツで海を空にする

A.G:
Nagata  Mitunori intendo dire che il bimbo si illude di svuotare il mare con un secchio.
永田満徳......つまり、子供はバケツで海を空っぽにすると妄想してるってこと。

永田満徳:
それを俳句では表現できていない。
これならいい。

夏の夢
バケツで海を空にする子ども

【本人による訂正】
A.G
sogno estivo
un bimbo svuota l' oceano con un secchio
夏の夢
子どもがバケツで海を空っぽにする

- 三行書きの国際俳句の指導添削例(4/9)   -※本人の了解済み

Evgeny Khvalkov:
Under moon's soft gaze,  
Dew-kissed fields embrace the night,  
Dreams drape like a shawl.
(満徳訳:月の柔らかな視線の下、
露に濡れた野原が夜を包み、
夢がショールのように垂れ下がる。)

永田満徳:
ここは二行書きか、一行書きにしてください。

その①
Evgeny Khvalkov:
Nagata  Mitunori you listed "dew" among the KIGO, didn't you?
(満徳訳:永田満徳さんは季語の中に「露」を挙げていらっしゃいましたね。)

永田満徳:
季語があるだけではダメです。

HAIKU is a short poetry-type literary 
artbased on "KIRE", in which themes 
such as"KIGO" play an important role.
(満徳訳:俳句は「季語」などのテーマが重要な役割を果たす「切」を基本とした短い詩形式の文芸です。)

「切れ」「取り合せ」が必要です。

Evgeny Khvalkov:
Then this haiku is fine or not?
(満徳訳:それでこの俳句はいいのでしょうか?)

永田満徳:
これならいいです。


野原が夜を抱く


なまなざし

長い夜(満徳提案・秋の季語)
夢はショールのように広がる

その②
Evgeny Khvalkov:
Silenzio profondo,  
la rugiada adorna l'erba,  
manto di frescura.
(満徳訳:深い静寂、  
露が草を飾る、  
涼しさのマント。)

永田満徳:
どういう意味ですか?

Silenzio profondo, la rugiada adorna l'erba, manto di frescura.

Così?
(満徳訳:深い静寂、草を飾る露、涼しさのマント。
こんな感じ?)

永田満徳:
三段切れということで、俳句ではNGです。

三段切れのよくないところは詠む材料が多いということです。

俳句は三行詩とは違います。

永田満徳:
これならいいです。
いい俳句です。

「深い静寂」は俳句で言えば
答えになっているので省きます。

露が草を飾る
マントのように

その③
Evgeny Khvalkov:
Sous un ciel d'orage,  
l’épouvantail veille, stoïque,  
garde des moissons.
(満徳訳:嵐の空の下、  
ストイックなかかしが見張っている、  
収穫を守っている。)

永田満徳:
ストイックという措辞がいいですね。

逐次訳の二行書き
嵐のかかし
ストイックに収穫物を見守る
五七五訳
ストイックに見守つてゐる案山子かな

Le 575 traduzioni giapponesi riproducono il vero valore dell'HAIKU e sono collegate alla formulazione degli haiku internazionali.
(満徳訳:五七五の十七音の和訳は、HAIKUの真価を再現するものであり、国際俳句の定型化に繋がりものである。)

Evgeny Khvalkovさんの俳句は比喩が特にいいです。

 

⑤〔機関誌の発行〕
機関誌「俳句大学」では、月刊「俳句界」掲載の国際俳句を収録している。

⑥ 月刊「俳句界」掲載
※2021年の『俳句界』10月号から、優秀な作品が揃って来たので、1ページ増えて、3ページに渡って掲載している。
※2020年12月号から作者の国名を入れ、世界から投句されていることを示している。

 

国際俳句の五七五訳についての疑問❔

[ 日本語への翻訳が俳句の価値をきめてしまう。怖いことです。]

【答え】
日本語訳が目的でなく、手段である!

① 五七五訳を参考にして、どの言葉が不必要で、どの言葉が必要かを考えるためである。

② 五七五の十七音の和訳は、HAIKUの真価を再現するものであり、国際俳句の定型化に繋がりものである。

③原句に対して意訳せず、逐語訳に努めて、原句通りに五七五訳をし、原句がそのまま五七五訳ができるところまで来ている。

従って、日本語訳が目的でなく、手段であることである。

 

「国際俳句についての試みの例」

2424年3月からはより具体的に、より丁寧に指導した結果、形式的には日本の俳句に近くなり、内容的には日本の俳句を越えるHAIKUSが増えている。

Haiku Column(俳句大学)今月の秀句(「俳句界」R6.8月号)

7月号から、五島高資氏が監訳者として参加しています。

【今月の秀句monthly excellent Haikus  永田満徳選訳 訳:Anikó Papp・大津留直 監訳:五島高資


summer time...
surfing the sports channels all day
 ●
Momolu S. Freeman(America)
モモル・S・フリーマン(アメリカ)
 ●
夏来るスポーツ番組サーフィンす

summer morning
smell of fresh baked bread
 ●
Nuky Kristijno(Indonesia)
ナッキー クリスティジーノ(インドネシア)
 ●
焼きたてのパンの匂ひや夏の朝

sera d’estate -
melodia del flauto da un balcone
summer evening -
flute melody from a balcony
 ●
Daniela Misso(Italy) 
ダニエラ ミッソ(イタリア)
 ●
夏の夕バルコニーよりフルートの音

family chit chat outdoors
summer evening
 ●
Christina Chin(Malaysia)
クリスティーナ チン(マレーシア)
 ●
屋外の家族の喋り夏の宵

night rainbow . . .
all my dreams are coloured
 ●
Rosa Maria Di Salvatore(Italy)
ローザ マリア ディ サルバトーレ(イタリア)
 ●
夜の虹すべての夢の彩らる

vento estivo -
tra l'erba le capriole d'un gatto
 ●
Marisa Schiavon(Italy)
マリサ シアボン(イタリア)
 ●
夏風や草むらに猫宙返る

طائرة ورقية
أكتشف اتجاه نسيم الصباح
paper airplane
find  the direction of  morning breeze
 ●
Fatma Zohra Habis( Algeria)
ファトマ ゾーラ ハビス(アルジェリア)
 ●
朝風の吹ける方へと紙飛行機

quiet evening sea
fish always swim as a sign of life
 ●
Achmad Rif'an( Indonesia )
アハマド リファン(インドネシア)
 ●
夕凪や生きるあかしに魚泳ぐ

summer mountain
silence of my steps ascends to the sky
 ●
Kim Olmtak Gomes (Holland)
キム オルムタック ゴメス(オランダ)
 ●
足音は空へと昇る夏の山

summer lake~
sitting on a wooden chair feeling the breeze
 ●
Dyah Nkusuma(Indonesia)
ディア ヌクスマ(インドネシア)
 ●
夏湖や木の椅子にそよ風を聴く

squid fishing -
moonlight my accomplice
 ●
Paul Callus(Marta)
ポール カルス(マルタ)
 ●
烏賊釣や月の明かりを輩に

rattan chair
memory of mother still lingers
 ●
Irmareeves (Indonesia)
イルマリーヴス(インドネシア)
 ●
籐椅子や母の記憶のまだ残る

ice cream
the little boy asks his mom to open her mouth
 ●
Ariani Yuhana(Indonesia)
アリアニ ユハナ(インドネシア)
 ●
アイスクリーム子どもは母に「口開けて」

Crème glacée
rouge fraise la langue de la petite
 ●
Ouechtati Faiza(Tunisia)
ウエクタティ ファイザ (チュニジア)
 ●
アイスクリーム小さな舌の紅色よ

hammock
the waves did not disturb his sleep
 ●
Rufkiyandhie Rambe(Indonesia)
ルフキヤンディ ランベ(インドネシア)
 ●
ハンモック波は眠りを妨げぬ

sunglasses
reduce my nervousness
 ●
el Hamied(Indonesia)
エル ハミード(インドネシア)
 ●
緊張を和らげるサングラスかな

a mosquito in the same carriage as me -
the last train home
 ●
Tanpopo Anis (Indonesia)
たんぽぽ亜仁寿(インドネシア)
 ●
一匹の蚊と乗り合はす終電車 

fievole luce-
un pianeta lontano o una lucciola?
 ●
Anna Rimondi(Italy)
アナ リモディ(イタリア)
 ●
微光なり遠き惑星か螢火か

onde di grano dorato
tuffo nell'infanzia
waves of golden wheat
dive into childhood
 ●
Angela Giordano(Italy)  
アンジェラ ジオルダーノ(イタリア)
 ●
麦の波子供時代に飛び込みぬ


strawbery ~
grinning little girl held back a sour taste
 ●
Dyah Nkusuma(Indonesia)
ディア ヌクスマ(インドネシア)
 ●
につこりと酸つぱさに耐ゆる苺かな

 

Haiku Column(俳句大学)今月の秀句(「俳句界」R6.6月号)

【今月の秀句monthly excellent Haikus  永田満徳選訳 訳:Anikó Papp・十河 智・大津留 直

(Facebook「Haiku Column」より)


Angela Giordano(Italy)

war...
among the rubble a nameless flower

guerra...
tra le macerie un fiore senza nome

アンジェラ ジオルダーノ(イタリア)

戦争や瓦礫のなかの名なき花

Daoud Bouhouch(Tunisie)

ثياب بالورود~
الربيع يستضيف المولود الجديد 

ダウド ブーフシュ(チュニジア)

赤ちやんを迎へる春や花柄服

Hina Ya (France)

early spring
eraser crumbs piling up

ヒナ ヤ(フランス)

春浅し消しゴムの粉溜まりけり

Nuky Kristijno  (Indonesia)

near spring
horses in the backyard

ナッキー クリスティジーノ(インドネシア)

春隣バックヤードに駿馬たち

 Irmareeves (Indonesia)

calm ~
doing taichi on the beach feeling the breeze

イルマリーヴス(インドネシア)

のどかさや浜の風受く太極拳

Probir Gupta(India)

I turned back to see who was stalking me
a spring wind

プロビル グプタ(インド)

春風や誰がゐさうで振り返る


Probir Gupta(India)

spring wind
into the sail while oars splash 

プロビル グプタ(インド)

帆に入るオールのしぶき春の風

Barbara Olmtak(Holland)

hazy moonlit night
drowning in the depth of his eyes

バーバラ オルムタック(オランダ)

朧月夜瞳の奥に溺れけり

Daniela Misso(Italy) 

consapevolezza nel respiro -
mare di primavera 

awareness in breathing -
spring sea

ダニエラ ミッソ(イタリア)

春の海呼吸するのを意識して

Zamzami Ismail(Indonesia)

nothing lasts forever
melting snow

ザンザミ イスマイル(インドネシア)

不滅なるものはあらずや雪解くる 

Rufkiyandhie Rambe(Indonesia)

picnic
his soul is as fresh as freshly picked fruit

ルフキヤンディ ランベ(インドネシア)

野遊や心採れたて果実のやう

Adoni Cizar(Syrie)

kite
hearts' uniting with an invisible thread

アドニ シザー(シリア)

凧揚げて心繋がる見えぬ糸

Tanpopo Anis (Indonesia)

good weather for kites -
even strangers can become friends 

たんぽぽ亜仁寿(インドネシア)

知らぬ子も友になりたる凧日和 

Paul Callus(Malta)

spring shawl ‐
sunshine across her shoulders

ポール カルス(マルタ)

肩越しに輝く日差し春ショール

Zana Coven(Romania)

fox cubs
mother's love is unique 

ザナ コヴェン(ルーマニア)

母の愛は特別なもの狐の子

el Hamied(Indonesia)

first butterfly -
the sound of baby crying in delivery room

エル ハミード(インドネシア)

初蝶や分娩室にややの声

Dyah Nkusuma (Indonesia)

pigtailed little girl~
laughing chasing butterflies

ディア ヌクスマ(インドネシア)

蝶を追ふお下げ髪なる少女の笑まひ

Nani Mariani(Australia)

spring tangerine
the sweet and sour taste of loneliness

ナニ マリアニ(オーストラリア)

孤独てふ甘酸つぱさよ青蜜柑

Kim Olmtak Gomes (Holland)

azalea 
my ancestral  home in the mountains

キム オルムタック ゴメス(オランダ)

躑躅咲く先祖の家は山の中

Angela Giordano (Italy)

daisies
mother's name on the cold marble

margherite
il nome di mamma sul freddo marmo

アンジェラ ジオルダーノ(イタリア)

マーガレット大理石には母の名前

Valentina Meloni (Italy)

violette tra i ruderi--
nostalgia per quello che non ho vissuto 

violets among the ruins--
nostalgia for what I haven't experienced

バレンティーナ メロニー(イタリア)

廃墟の菫これまでになき郷愁 


【「俳句界」R4.5月号】より
Haiku Column(俳句大学)今月の秀句
永田満徳選評・向瀬美音選訳(仏・伊)・中野千秋訳(英)

(Facebook「Haiku Column」より)


Angela Giordano(Italy)

war...
among the rubble a nameless flower

guerra...
tra le macerie un fiore senza nome

アンジェラ ジオルダーノ(イタリア)

戦争や瓦礫のなかの名なき花

Daoud Bouhouch(Tunisie)

ثياب بالورود~
الربيع يستضيف المولود الجديد 

ダウド ブーフシュ(チュニジア)

赤ちやんを迎へる春や花柄服

Hina Ya (France)

early spring
eraser crumbs piling up

ヒナ ヤ(フランス)

春浅し消しゴムの粉溜まりけり

Nuky Kristijno  (Indonesia)

near spring
horses in the backyard

ナッキー クリスティジーノ(インドネシア)

春隣バックヤードに駿馬たち

 Irmareeves (Indonesia)

calm ~
doing taichi on the beach feeling the breeze

イルマリーヴス(インドネシア)

のどかさや浜の風受く太極拳

Probir Gupta(India)

I turned back to see who was stalking me
a spring wind

プロビル グプタ(インド)

春風や誰がゐさうで振り返る


Probir Gupta(India)

spring wind
into the sail while oars splash 

プロビル グプタ(インド)

帆に入るオールのしぶき春の風

Barbara Olmtak(Holland)

hazy moonlit night
drowning in the depth of his eyes

バーバラ オルムタック(オランダ)

朧月夜瞳の奥に溺れけり

Daniela Misso(Italy) 

consapevolezza nel respiro -
mare di primavera 

awareness in breathing -
spring sea

ダニエラ ミッソ(イタリア)

春の海呼吸するのを意識して

Zamzami Ismail(Indonesia)

nothing lasts forever
melting snow

ザンザミ イスマイル(インドネシア)

不滅なるものはあらずや雪解くる 

Rufkiyandhie Rambe(Indonesia)

picnic
his soul is as fresh as freshly picked fruit

ルフキヤンディ ランベ(インドネシア)

野遊や心採れたて果実のやう

Adoni Cizar(Syrie)

kite
hearts' uniting with an invisible thread

アドニ シザー(シリア)

凧揚げて心繋がる見えぬ糸

Tanpopo Anis (Indonesia)

good weather for kites -
even strangers can become friends 

たんぽぽ亜仁寿(インドネシア)

知らぬ子も友になりたる凧日和 

Paul Callus(Malta)

spring shawl ‐
sunshine across her shoulders

ポール カルス(マルタ)

肩越しに輝く日差し春ショール

Zana Coven(Romania)

fox cubs
mother's love is unique 

ザナ コヴェン(ルーマニア)

母の愛は特別なもの狐の子

el Hamied(Indonesia)

first butterfly -
the sound of baby crying in delivery room

エル ハミード(インドネシア)

初蝶や分娩室にややの声

Dyah Nkusuma (Indonesia)

pigtailed little girl~
laughing chasing butterflies

ディア ヌクスマ(インドネシア)

蝶を追ふお下げ髪なる少女の笑まひ

Nani Mariani(Australia)

spring tangerine
the sweet and sour taste of loneliness

ナニ マリアニ(オーストラリア)

孤独てふ甘酸つぱさよ青蜜柑

Kim Olmtak Gomes (Holland)

azalea 
my ancestral  home in the mountains

キム オルムタック ゴメス(オランダ)

躑躅咲く先祖の家は山の中

Angela Giordano (Italy)

daisies
mother's name on the cold marble

margherite
il nome di mamma sul freddo marmo

アンジェラ ジオルダーノ(イタリア)

マーガレット大理石には母の名前

Valentina Meloni (Italy)

violette tra i ruderi--
nostalgia per quello che non ho vissuto 

violets among the ruins--
nostalgia for what I haven't experienced

バレンティーナ メロニー(イタリア)

廃墟の菫これまでになき郷愁 

 

【「俳句界」R4.5月号】より

Haiku Column(俳句大学)今月の秀句

永田満徳選評・向瀬美音選訳(仏・伊)・中野千秋訳(英)

【今月の秀句(monthly excellent Haikus)】  (Facebook「Haiku Column」より)

Agnese Giallongo (Italy)

lucciole -
una speranza per l' Ucraina tutta al buio
〔Commentaire de Mitsunori Nagata〕
La luce della 'houtaru' (lucciola) è anche destinata a portare fortuna. La lucciola che brilla nel "buio" del cambiamento forzato dello status quo da parte della Russia è la stessa "speranza dell'Ucraina". È una frase che risuona in tutto il mondo, poiché esprime la speranza che il disastroso campo di battaglia causato dall'invasione russa dell'Ucraina sia portato a termine il più presto possibile.
アグネーゼ ジアロンゴ (イタリア)
ほうたるや闇にウクライナの希望 
〔永田満徳評〕
「ほうたる」(螢)の光は幸運を呼び寄せる意味もある。ロシアの力による現状変更を強引に進める「闇」の中で光る螢は「ウクライナの希望」そのものである。ロシア軍のウクライナ侵攻による悲惨な戦場の様子を見るにつけ、一刻も早く終息してほしいと願う気持が込められていて、世界の共感を呼ぶ句である。。


Olfa Kchouk Bouhadida( Tunisia)

tulipes noires ~
la nature en deuil à Kiev
〔Commentaire de Mitsunori Nagata〕
Kiev est la capitale de l'Ukraine. L'Ukraine est un pays de plaines, de steppes et de plateaux fertiles, traversé par les fleuves Dnepr, Donets et Dniester, et riche en nature. La Tulipe noire représente la tragédie de l'invasion russe en Ukraine, et la phrase "La nature de Kiev est en deuil" est profondément émouvante.
オルファ クチュク ブハディダ(チュニジア)

黒きチューリップキエフの自然は喪に服す 
〔永田満徳評〕
「キエフ」はウクライナの首都。ウクライナの国土は肥沃な平原、草原、高原で占められ、ドニエプル川、ドネツ川、ドニエステル川が横切っており、自然豊かである。「黒きチューリップ」がロシア軍のウクライナ侵攻による悲劇を代弁していて、「キエフの自然は喪に服す」という措辞は深い感銘を与える。


Angela Giordano (Italy)

urban warfare ...
a daisy blossoms inside a crack
guerriglia urbana...
una margherita sboccia dentro una crepa
〔Commented by Mitsunori Nagata〕
'Urban warfare' leaves cities in ruins. Strategic bombing of cities is followed by civilian casualties. Russian forces attack indiscriminately in various parts of the country, even involving large numbers of civilians. The poem touches the reader's heart by comparing the Ukrainian people to the 'hina chrysanthemum', which is treated as a weed in Europe, and by expressing the feeling that one cannot help but wish for a strong recovery.
アンジェラ ジオルダーノ(イタリア)

市街戦亀裂より咲く雛菊よ  
〔永田満徳評〕
「市街戦」は都市を廃墟同然にする。都市への戦略爆撃に次いで、市民への被害を発生させる。ロシア軍は大勢の民間人を巻き込むこともいとわず各地で無差別に攻撃している。ヨーロッパでは雑草扱いの「雛菊」にウクライナの人々をなぞらえ、力強い復興を願わずにはいられない気持を詠んでいて、読む者の心を打つ。

【今月の秀句(monthly excellent Haikus)】(Facebook「Haiku Column」より)
〔ウクライナ特集〕
ウクライナ侵攻に対する各国の俳人の投句を見るのつけ、俳句という短詩形が持つ「伝達性」と「記録性」、「慰撫の力」とを改めて思う。(永田満徳)


Gabriella De Masi (Italy)

ucraina -
la primavera esplode tra le macerie
ガブリエラ デ マシ (イタリア)

ウクライナ春は瓦礫に爆発す


Paul Callus(Malta)

sunflowers of hope -
a nation oppressed but not subdued
ポール カルス(マルタ)

向日葵や屈服をせぬ国のある  


Carmen Baschieri(Italy)

ghiaccio sottile
la pace sulla Terra un'utopia

thin ice
peace on earth is a utopia
カルメン バシエリ(イタリア)

薄氷や平和といふはユートピア 


Feten Fourti (Tunisia)

sale cette guerre
boue de printemps
フテン フルティ(チュニジア)

春の泥汚き戦争ありにけり 


Nuky Kristijno (Indonesia)

not a single butterfly in sight
cry of war
ナッキー クリスティジーノ(インドネシア)

戦争や蝶の一つも見当たらず  


Imelda Senn(Switzerland)

bourgeons de printemps
les discussions politiques n'ont point porté de fruits
イメルダ セン(スイス)

実りなき政治論争木の芽張る 


Rachida Jerbi(Tunisia)

matin de printemps ~
les mimosas explosent les bombes aussi
ラチダ ジェルビ(チュニジア)

爆弾もミモザも爆発春あけぼの 


Mudher Iraqman(Iraq)

tambours de guerre -
les oiseaux gazouillent pour le vide
ムドハー イラクマン(イラク)

戦争の太鼓や虚しき囀り 

【今月の季語(Kigo of this month)】(Facebook「Haiku Column」より)
※                                                    

【 朧月 おぼろづき oborozuki / hazy moon / lune voilée 】
Hervé Jayol (France)

lune voilée
nuit effrayante dans la forêt des pins noirs
エルベ ジャヨル(フランス)

朧月黒松の森の夜の怖さ  


Christina Chin(Malaysia)

hazy moon
my footsteps and I
クリスティーナ チン(マレーシア)

自らの足音連れて朧月 

【 バレンタインデー ばれんたいんでー  barentainde(-) / Valentine’s Day / la Saint-Valentin 】
Nuky Kristijno(Indonesia)

sealed with red lipstick lips
my Valentine’s card for you
ナッキー クリスティジーノ(インドネシア)

封印の口紅バレンタインカード 


Souad Hajri(Tunisia)

Saint-Valentin ~
coeurs rouges sur vitrines enfarinées
スアド ハジリ(チュニジア)

バレンタインデー真つ白き窓に赤きハート   

【燕来る  つばめくる tsubamekuru / swallow coming / hirondelle retour 】
Olfa Kchouk Bouhadida(Tunisia)

rrivée de l'hirondelle ~
la maison au bord de mer attend la famille
オルファ クチュク ブハディダ(チュニジア)

燕来る浜辺の家は家族待ち


Cello Muse(France)

lettre parfumée de l'amoureuse ~
hirondelles dans le ciel
セロ ミュゼ(フランス)

燕来る香りの付きしラブレター 

【薔薇の芽 ばらのめ baranome / bud of rose / bouton de rose 】
タンポポ 亜仁寿(Indonesia)

rosebud
baby's hand slowly opens
タンポポ 亜仁寿(インドネシア)

薔薇の芽やゆつくり開く赤子の手


Rina Darsa(Indonesia)

bud of rose
a baby clenching fist while sleeping
リナ ダルサ(インドネシア)

薔薇の芽やこぶしを握り眠る嬰 


華文俳句【俳句界】2022,5月号
永田満徳選評・洪郁芬選訳

夫婿三代相似的穿著
春節

雨靈
〔永田満徳評論〕
春節是從陰曆的正月元日持續到正月五日。台灣的原住民有民族服裝和傳統衣著,於每年定例的活動或祭典中穿著。大年初二是已經出嫁的女兒回娘家的日子。這首俳句描寫家人三代聚集一起,穿著相似的衣服,大夥兒一同慶祝新年的情景。春節中相聚,能聯絡感情,使家庭關係親密。而本俳句也勾勒出重視傳統的台灣習俗,饒富趣味。

三代の揃ひの服やお正月

雨靈
〔永田満徳評〕
春節は旧暦正月の元日から5日までを指す。台湾の原住民族には民族衣装・伝統衣装があり、行事やお祭りのときに着用する。2日は嫁いだ娘が実家に帰る習慣がある。「三代」の親族がうち揃い、「揃ひの服」を着て、正月を祝っている情景であろう。「春節」に集う家族の絆が窺え、また伝統を重んじる台湾の習俗が描き出されて、興味深い。


裝滿星星的石滬
桜鯛

胡同
〔永田満徳評論〕
「石滬」是一種利用潮汐的傳統陷阱式漁法,在退潮時捕捉殘留於石滬的魚。心型的石滬是很普遍的,然而,如果魚群裡參雜了一尾「櫻鯛」,一天的風景就有所不同了! 試圖用手去捕捉時,逃跑的櫻鯛五顏六色的輝映著月光,美麗的粉紅鱗片閃閃發亮,伴隨著四周灑在水面上的星光點點。

桜鯛星いつぱいの石滬

胡同
〔永田満徳評〕
「石滬(シーフー)」は潮の満ち引きを利用した仕掛け。潮が引いた時に石滬のなかに取り残された魚を捕まえる。石滬はハート型が一般的であるが、その中に「桜鯛」が混じっていたのである。手づかみで捕えようとすると、逃げ回る桜鯛の色鮮やかで、きれいなピンク色に染まった鱗のきらめきとともに、水面に映った星のきらめきが美しく切り取られている。


父親初戀的記憶
櫻花

明月
〔永田満徳評論〕
屬於亞熱帶的台灣,櫻花季大約是一月下旬至三月中旬之間。島上栽植的櫻花種類,除了從日治時期以來的品種之外,還有台灣特有的櫻樹,和日本與台灣混種的櫻花樹。作者賞櫻,忽然想到父親的初戀,和種種關於櫻花的回憶。藉由與櫻花的兩項對照組合,思索父親的羅曼史,也是思念父親的一種表現,並使我們窺見親子之間的緊密聯繫。

初恋の父の記憶や桜花

明月
〔永田満徳評〕
亜熱帯の台湾では、桜の見ごろは1月下旬から3月中旬である。台湾固有のものから日本統治時代に植樹されたものや日本と台湾の掛け合わせの品種が見られる。「桜」を見て、「父」の「初恋」と「桜」にまつわる話を想い出したのだろう。桜との取合せによって、父のロマンに心を寄せ、父を偲んでいる子の姿が浮かび上がってくる。親子の絆の強さを詠んでいて、心温まる。

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第四回「二百十日」俳句大会 レポート

2020年10月24日 08時03分13秒 | 「二百十日」俳句大会

第四回「二百十日」俳句大会 レポート

 阿蘇を舞台とした夏目漱石の小説『二百十日』を記念した第四回「二百十日」俳句大会が、令和二年八月二十九日(土)、阿蘇ホテル一番館で開催された。主催は「二百十日」俳句大会実行員会。応募数・投句数ともに昨年をはるかにこえる九十三名、計三百三十句の投句があった。参加者も、パンデミックの中、四十席を用意した会場がほぼ満席になった。

 来賓挨拶は阿蘇市長代理観光課長の秦美保子氏、月刊「俳句界」文學の森社長の寺田敬子氏、くまもと漱石倶楽部会長の吉村隆之氏。そのあと講話は緒方宏章氏の「『二百十日』の旅」で、漱石の阿蘇登山の行程を、「正岡子規へ送りたる句稿(その三十四 九月五日)に基づき、踏査したもの。大津から善五郎谷に至る道筋の史跡・文学碑を、新古の写真を交えつつ解説された。特に、西巌殿寺から善五郎谷(漱石が道に迷った所)への道は、九州自然歩道と重なる部分もあるようで、興味深い話であった。

 昨年からの画期的な試みは、選者それぞれの特選一句、秀逸四句の選評が文字化されて、プリントアウトされたことである。受賞者の名誉は言うまでもなく、一般の応募者にとっても、貴重な教訓になると思う。「二百十日」の旅は、漱石にとって「厄日」だったかもしれないが、本大会は、発足以来、快晴つづきである。

 講話の後は、入選句の披講、表彰に続いて選評が行われた。事前投句の選者の奥坂まや氏、五島高資氏は欠席のため選評は代読となり、その後、永田満徳氏が選評を行った。なお、大会賞6句は3人の選者の特選、秀逸から各後援団体が選んだ。(紙面の関係で、選評は大会賞入賞句のみの掲載)

■大会大賞

島陰に島ある二百十日かな    宮木登美江

五島高資氏評

 『蜻蛉日記』には、死んだ人に会えるところという意味で五島が「みみらくの島」と詠まれている。その中に、<いづことか音にのみ聞くみみらくの島隠れにし人を尋ねむ>という藤原長能ながよしの歌があるが、掲句の「島影」にもそのような異界の雰囲気が感じられた。現実の「島」を包摂する「島影」に作者は真実の世界を洞見しているのかもしれない。台風などの嵐が多く厄日とも呼ばれる二百十日は、風祭で安寧を願う神聖な日でもある。神と人が接するという意味で異界とも共鳴する。

■阿蘇市長賞    

雲海の海石となりし阿蘇五岳   村上 重夫

  永田満徳氏評

世界有数のカルデラの「雲海」に浮かび上がる「阿蘇五岳」を「海石」と見立てたところがむろんよいが、それ以上に、万葉集にも出てくる「海石」という神秘的な古語を持ってきたことが手柄である。「海石」は「いくり」と読み、海の中にある岩、暗礁のことである。2300年前からの神話・伝説に彩られた阿蘇の風物にふさわしい言葉の使用で、心惹かれる。

■阿蘇ジオパークガイド協会賞

七夕や短冊にただ《寂しい》と  中村 暢夫

  奥坂まや氏評

 七夕の短冊は、本来、習字の上達を願って七夕竹に結びつけるものでした。近年は、様々な願い事を記して吊るすのが主流になっていますが、掲句の短冊にはただ一言「寂しい」」とのみ書いてあったのです。願い事も、それぞれの人間の率直な気持を表わしたものに違いないのですが、この「寂しい」の一語は、ただ感情を真摯に述べて何も願ってはいないだけに、ひときわ心を打ちます。短冊に記したからには、何かを願う気持はあるのでしょうが、あまりにも深い寂しさが、願いを具体的に述べるのを不可能にしているのが伝わってきます。短冊のこの一語を目にした者は、願っても詮無い寂しさ、人間存在の本来の寂しさに向き合うことになるのです。

■熊本県俳句協会賞

天籟のかすかなうねり芒原    古荘 浩子

  五島高資氏評

 天籟は、天然に発する響き。広大な芒原も風が吹けば穂波がうねる。天地の交歓がそこに感じられる。

■俳人協会熊本県支部賞

うつし世に蝸牛となりて神の里  日永田渓葉

永田満徳氏評

 「蝸牛」(かたつむり)という生まれ変わりが素材になっている。悪いことをすると虫に転生するということなのであまり喜べないが、今の世の喧騒とコロナ禍をよそにして、急がず騒がず、ゆったりとしたかわいらしいカタツムリであるならば「蝸牛」に転生しても悪くない。「神の里」とあるからには、ある徳のある、高貴なお方が「蝸牛」に身をやつして、「うつし世」、つまり現世に出現したと受け取れるところもおもしろい。

■熊本県現代俳句協会賞

噴煙を己が纏ひて阿蘇良夜    田代 幸子

奥坂まや氏評

 月光の美しい夜は、噴煙も阿蘇の山脈が纏う薄衣のように感じられることでしょう。月に照らされて耿々と輝く、阿蘇の堂々たる姿が見えてきます。

■月刊「俳句界」文學の森賞

阿蘇よりの水ほとばしり夏は来ぬ 山田 節子

奥坂まや氏評

 阿蘇の四度の噴火で降り積もった火山灰は、雨水をろ過してきれいな地下水を作ってくれるといいます。熊本市の水道水は、すべて地下水なのも、阿蘇連山のおかげ。阿蘇からの水が直接、水道からほとばしるなんて、羨ましい限りです。水が一番大事な夏の季節は、とりわけ阿蘇の有難みが沁みることでしょう。

  •    ☆

 講話の「『二百十日』の旅」を聞きながら、「草枕の道」を連想した。

 熊本市内の自宅から、迷い迷い、夕暮れ近くまで歩き、小天温泉の那古井館に一泊したことがある。早春の、疲労と感動の一日だった。

 「二百十日」の道も、九州自然歩道がからんでいるようなので、立野から奥の道ならば、面白いのではないか。特に、漱石が道に迷って終日さまよったという辺りを、ほどほどにさまよってみたい気がする。「草枕の道」は、数多くの人の努力で出来たのだそうだ。頭が下がる。実にありがたい。「二百十日」の道も、緒方宏章氏の土台の上に、どなたか仕上げを、と虫のいいことを考えている。       

(レポート・古賀一正)

月刊「俳句界」11月号(縮小版)掲載

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〜俳句大学 Haiku Column 「今月の秀句」2020・11〜

2020年10月24日 07時52分10秒 | 「俳句界」今月の秀句

俳句大学国際俳句学部よりお知らせ!

 

〜俳句大学 Haiku Column 「今月の秀句」2020・11〜

 

◆俳句総合誌『俳句界』11月号が発行されました。

◆俳句大学 〔Haiku Column〕の「今月の秀句」から選句・選評した句を掲載しています。また、「俳句界」2019年1月号から毎月連載しています。

◆ 向瀬美音氏は日本語訳の改善に着手している。五七五の17音の和訳は、HAIKUをただ端に日本の俳句の五七五の17音にしただけではなく、原句のHAIKUの真価を再現するものであり、国際俳句の定型化に一歩近づくための有効な手立てであることを強調しておきたい。

◆例えば、ある日本の国際俳句大会で「飢えた難民の/前に口元に差し出す/マイクロフォン一本」のような三行書きにしただけで散文的な国際俳句が大会大賞、或いはある国際俳句協会のコンクールで「古い振り子時計―/蜘蛛の巣だらけになっている/祖父のおとぎ話」のような切れがあっても三段切れで冗漫な国際俳句が特選を受賞しているように、三行書きの国際俳句が標準になっていることに危惧を覚えて、俳句の本質かつ型である「切れ」と「取り合わせ」を取り入れた二行俳句を提唱して行きます。

◆2017年7月にフランス語圏、イタリア語圏、英語圏の55人が参加する機関紙「HAIKU」を発行しました。12月20日発行の2号では91人が参加しました。また、5月31日発行の3号では96人が参加し、320ページを数えます。さらに、12月26日発行の4号では112人が参加し、500ページを数えます。そして5号では150人が参加して、550ページを越えて、8月1日に出版しました。そして、6号では2020年11月初旬に出版する予定です。また、2020年3月1日には「国際歳時記」の第1段として【春】を出しました。「HAIKU」6号と「歳時記」は原句の内容を損なうことなく五七五に訳出しています。

◆総合俳句雑誌「俳句界」2118年12月号(文學の森)の特集に「〔Haiku Column〕の取り組み」について」が3頁に渡って書いています。

◆「華文俳句」に於いては、華文二行俳句コンテストを行い、華文圏に広がりを見せて、遂に、2018年11月1日にニ行俳句の合同句集『華文俳句選』が発行されました。

◆ 二行俳句の個人句集では、洪郁芬氏が『渺光乃律』(2019、10)を〔華文俳句叢書1〕として、郭至卿氏が『凝光初現』(2019、10)を〔華文俳句叢書2〕として、次々に刊行している。

◆さらに、2020年1月からは月刊『俳句界』に「華文俳句」の秀句を連載している。

◆『俳句界』2020年3月号の特別レポートにおいて、熊本大学で行われたラウンドテーブル「華文俳句の可能性」の報告が8頁に渡って掲載されました。

◆どうぞご理解ご支援をお願いします。

 

novembre aout de 「HAIKUKAI俳句界」!

〜Haikus du mois de Haiku Colum de Haiku Universite〜

◆L novembre de aout de HAIKUKAI俳句界 vient d'etre publie.

◆il contient les meilleurs haikus du mois selectionnes par M. Nagata. 

◆Selon ce plan nous allons continuer a publier des haikus en deux lignes avec kire et toriawase.

 

The November issue of 「HAIKUKAI俳句界」!

〜Haiku Colum of Haiku University [Monthly best Haikus]〜

◆the November issue of HAIKUKAI俳句界 has just been published. 

◆It contains the best haikus of the month selected by M. Nagata. 

◆according to the plan, we will continue to publish 2 lines haikus with kire and toriawase.

 

Haiku Column(俳句大学国際俳句学部)

今月の秀句(「俳句界」R2.11月号)

 

【今月の秀句(monthly excellent

Haikus)】    

永田満徳選評・向瀬美音選訳

(Facebook「Haiku Column」より)

 

レカ ニトレ

  •  

子規忌かな雨の匂ひに開く薔薇

〔永田満徳評〕

「雨の匂ひ」によって、「薔薇」が開花したとの捉え方は斬新で、時代の雰囲気を感じ取った正岡子規の俳句革新と似通うものがあり、「子規忌」にふさわしい句である。

 

Reka Nyitrai

  •  

Shiki's death day‐

roses open to the smell of rain

〔Commented by Mitsunori Nagata〕

The idea that the "rose" has blossomed due to the "smell of rain" is new, and there is something similar to Shiki Masaoka's haiku innovation that sensed the atmosphere of the times, and it is a phrase suitable for "Shiki's death day "

 

 

マリン ラダ

  •  

葉に落つる雨粒秋の涙とも 

〔永田満徳評〕

秋の雨はどこかうそ寒く、寂しい。殊に葉っぱに降ってこぼれる「雨粒」は「秋の涙」にふさわしく、写生の効いた、秋雨の風情をよく捉えた句である。

Marin Rada

  •  

lacrima toamnei ‐

prima picătură de ploaie pe frunza galbenă 

 

larme d'automne‐

la première goutte de pluie sur la feuille jaune

〔Commentaire de Mitsunori Nagata〕

La pluie d'automne est en quelque sorte froide et solitaire. En particulier, les «gouttes de pluie» qui tombent sur les feuilles conviennent aux «larmes d'automne», et sont une phrase qui capture le goût de la pluie d'automne avec un bon croquis.

 

 

フェテン フルティ

  •  

述べずして心の呼吸俳句かな

〔永田満徳評〕

いい句ができることを「賜る」と言い、だれしも経験することである。「心の呼吸」でできた句はまさに句を「賜る」と言ってよく、作句の機微を言い当てている。

Feten Fourti

  •  

haikus

respiration du coeur en peu de mots

〔Commentaire de Mitsunori Nagata〕
On dit que pouvoir faire une bonne phrase c'est «donner», et tout le monde en fait l'expérience. Une phrase composée de «respirer le cœur» peut être considérée comme un «cadeau», et c'est la subtilité de la phrase.

 

 

【今月の季語(Kigo of this month)】 

永田満徳選評・向瀬美音選訳

 

(Facebook「Haiku Column」より)

 

 

【 秋の暮 あきのくれ akinokure / autumn evening / soir d'automne 】

アグネス キナシュ 

  •  

裏庭にブランコ軋む秋の暮

Agnes Kinasih

  •  

autumn evening

the creak of the swing in the backyard

 

タンポポ 亜仁寿

  •  

振り向いて母に手を振る秋の暮   

タンポポ 亜仁寿

  •  

turning around and waving a hand to mother 

autumn evening

 

 

【 秋深し あきふかし akifukashi / deep autumn / automne profonde 】

アブダラ ハイジ

  •  

深秋や砂のショールにくつつきぬ 

Abdallah Hajji

  •  

automne profond

des graines de sable collées à mon châle

 

ミレラ ブライアン

  •  

ひとりでに軋む揺椅子秋深し

Mirela Brailean

  •  

deep autumn‐

the rocking chair squeaky into the void

 

 

【 秋惜しむ あきおしむ akioshimu / to regret autumn / regretter l'automne 】

アンジェラ ジオルダノ

  •  

わが髪に触るる祖母の手秋惜しむ 

Angela Giordano

  •  

grandma's hand in my hair

autumn regret

 

モハメッド ベンファレス

  •  

秋惜しむペンは夕日にかかりたる

Mohammed Benfares 

  •  

la plume s'accrochant aux derniers rayons 

regrets d'automne 

 

 

【 カシオペア かしおぺあ kashiopea / cassiopeia / cassiopée 】

オルファ クチュク ブハディダ

  •  

空にある私の手紙カシオペア 

Olfa Kchouk Bouhadida

  •  

cassiopée‐

dans le ciel la première lettre de mon prénom

 

イサベル カルヴァロ テレス

  •  

カシオペア君がいないと北失ふ  

Isabelle Carvalho Teles

  •  

cassiopée 

sans toi j'ai perdu le nord





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〜Facebook「華文俳句社」Kabun Haiku 2020・11〜

2020年10月23日 22時45分00秒 | 「俳句界」華文俳句

俳句大学国際俳句学部よりお知らせ!

 

〜Facebook「華文俳句社」Kabun Haiku 2020・11〜

 

◆2020年『俳句界』11月号が発行されました。2020年1月からは月刊『俳句界』に「華文俳句」の秀句を連載しています。

◆華文圏に俳句の本質かつ型である「切れ」と「取り合わせ」を取り入れた二行俳句を提唱して行きます。

◆2018年11月1日には、二行書きの華文俳句の合同句集『華文俳句選』が発行されました。

◆ 二行俳句の個人句集では、洪郁芬氏が『渺光乃律』(2019、10)を〔華文俳句叢書1〕として、郭至卿氏が『凝光初現』(2019、10)を〔華文俳句叢書2〕として、次々に刊行しています。

◆さらに、全季節を網羅した「華文俳句歳事記」(仮題)が2020年11月末には刊行予定で、これで季重なりの問題が解消されるでしょう。

◆2020年『俳句界』3月号の特別レポートにおいて、「熊本大学」で行われたラウンドテーブル「華文俳句の可能性」の報告が8頁に渡って掲載されました。

◆どうぞご理解とご支援をお願いします。

 

俳句大學國際俳句學部的通知!

 

~Facebook 「華文俳句社」Kabun Haiku  2020・11〜

 

◆2020年『俳句界』11月號已出版。

◆於華文圏提倡包含俳句的基礎「一個切」和「兩項對照組合」的二行俳句。

◆2018年12月1日已出版華文俳句的合著,『華文俳句選』。

◆2020年『俳句界』3月號以八頁的篇幅特別報導了於「熊本大學」舉辦的「華文俳句の可能性」座談會。

◆請各位多多支持指教。

 

華文俳句【俳句界】11月号

永田満徳選評・洪郁芬訳

 

郭至卿

  •  

詩人執筆的手不停啊

春潮   

〔永田満徳評論〕

在風景秀麗的海濱屋裡,拍打岸邊的「春潮」節奏宛如宜人的BGM,而此刻詩歌的創作卻出乎意料地順利。伴隨著迎春的喜悅, 此俳句描繪春季的柔和美好。

 

郭至卿

  •  

詩人の書く手が止まらない

春の潮

〔永田満徳評〕

見晴らしのよい海辺の家の情景で、打ち寄せる「春の潮」のリズムある音があたかも心地よいBGMとなって、詩作が思いの外はかどっているのであろう。春を迎えた喜びとともに、おだやかな春の季節をうまく表現している。

 

 

簡玲

  •  

剛出爐的爆米花

魚鱗雲

 

〔永田満徳評論〕

在魚鱗雲飄逸的秋空之下,大口吃著芳香四溢的熱爆米花,是符合食慾之秋的一個場景。天與地的對比何等遼闊,視野一望無際的延伸。真是一首巧妙的兩項對照組合俳句。

 

簡玲

  •  

出来立てのポップコーン

鱗雲

〔永田満徳評〕

「鱗雲」が広がる秋空のもと、「出来立て」の温かく、香ばしい「ポップコーン」を頬張っている情景は食欲の秋にふさわしい。天と地との対比によって広がりのある句になっていて、取合せの妙技がうまく生かされている。

 

胡同

  •  

開水滾的鳴笛聲

冬曉   

〔永田満徳評論〕

大概是要煮咖啡吧。開水滾後廚房傳來的茶壺鳴笛於寒冷的早晨,伴隨著咖啡的香氣,使心情放鬆並感受到幸福。此俳句描寫作者以好心情迎接「冬曉」的一個畫面。

 

胡同

  •  

お湯の沸く薬缶の音

冬の暁

〔永田満徳評〕

珈琲でも淹れるためであろうか。台所から聞こえてくるお湯の湧く音は珈琲の香りとともに、寒い冬の朝であればあるほど、気持がほぐれ、とても幸せな気分になる。気持よく迎えた「冬の暁」の一場面をうまく切り取っている。

 



 

 

 

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