俳句大学投句欄よりお知らせ!
〜 季語で一句 60 〜
◆2024年『くまがわ春秋』11月号(第104号)が発行されました。
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R6.11月号)
秋の日(あきのひ) 「秋―天文」
森川雅美
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死亡事故現場看板秋入日
【永田満徳評】
「秋日」は「秋入日」のことで、「看板」に日差しがスポットライトように当たっている情景。「死亡事故現場」であるがゆえに、日差しがまぶしいのである。陰影もくっきり見える「秋入日」の特徴を詠んでいる。
【季語の説明】
「秋の日」は秋の日の光であり、秋の一日でもある。まぶしく美しい秋の太陽、その日差し。ことに秋の入り日は美しく華やかである。近年では秋といえども秋の太陽は残暑をもたらす。しかし、しだいに秋らしく、爽やかになり、晩秋には日差しも衰える。冬が近づくころには「釣瓶落し」と言われるように、一気に暮れる。
小鳥(ことり) 「秋―動物」
岩永静代
●
小鳥来る古地図にここは森であり
【永田満徳評】
「古地図」と言えば、近代地図などを含めて良い。まだ森林開発が進んでいない江戸時代以前の「古地図」であろう。「古地図」を見ながら、現代の乏しくなった「小鳥来る」頃の森の佇まいを思いやっている。
【季語の説明】
俳句で「小鳥」といえば、秋、日本に飛来する小鳥、また留鳥のカラ類など山地から平地に下りてくる小鳥のこと。遠くに出かけなくても、身近にたくさんの野鳥を見つけることができる。具体的には尉鶲、連雀、花鶏、鶸、鶫などが含まれる。庭木に来る小鳥は可憐であり、小鳥が飛び交う景はいかにも秋らしい。
栗(くり) 「秋-植物」
檜鼻幹雄
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丹波栗大字小字の住所録
【永田満徳評】
「丹波栗」は古来、丹波の名産として知られ、丹波地方から産する実の大きな栗である。「大字小字」の多い山間部の「住所録」を拡げて、気候と風土に恵まれている「丹波栗」の産地の豊かさを思っているのである。
【季語の説明】
「栗」はブナ科の落葉高木の実。栗の皮だと思われている表面の皮(鬼皮)が他の果物の果肉にあたる部分。鬼皮だけむいた渋皮つきのものが種である。実は中の胚乳を焼いたり茹でたりして食べる。硬く光沢のある外皮や渋皮を剥き、栗飯などの料理に使うほか菓子の原料にもする。丹波栗など大粒種もある。
「くまがわ春秋」2024年9月号よりお知らせ!
令和6年 第4回「中村青史賞」を受賞して
永田満徳
このたび、令和6年第4回「中村青史賞」を頂き、身の引き締まる思いです。選考いただいた「一般社団法人くまもと文化振興会」の理事の方々に、心より御礼申し上げます。
「くまもと文化振興会」の顧問を務められた中村青史先生は、徳富兄弟、夏目漱石、小泉八雲ら熊本ゆかりの文学者についてのさまざまな顕彰活動が認められ、2019年に「熊日賞」を受賞されました。それをもとに、 2020年に創設されたのが「中村青史賞」です。
「中村青史賞」は、その年に熊本の文化芸術面において貢献した者へ贈られ、素晴らしい文化活動に対する顕彰として、熊本の文化界で重要な存在となっています。
中村青史先生との出会いはかれこれ50年ほど前、私が大学を出たばかりのころです。「熊本歴史科学研究会」会員の永野守人氏の家に招かれたときに初めてお目にかかりました。その席で、中村先生に「文学研究を続けたい」と思いを述べたところ、「熊本には誰でも入れる『熊本近代文学研究会』があり、代表の首藤基澄先生に紹介しよう」ということになりました。
「熊本近代文学研究会」は毎月一回の研究発表と機関誌「方位」の寄稿という車の両輪で行われていました。私はそこで、夏目漱石や木下順二、小泉八雲などの研究を発表したり、寄稿したりしました。熊本の文学者を扱った単行本『熊本の文学』(審美社)では三好達治、蓮田善明、三島由紀夫を担当しました。これらは熊本カルチャーセンターで講師を務めている「熊本の文学」講座の12講座や、その他の講話の基になり、貴重な財産となっています。
また、首藤基澄先生には俳句を勧められ、現在、首藤先生が創立された俳誌「火神」主宰や俳人協会幹事、俳人協会熊本県支部長を任されています。第二句集『肥後の城』(文學の森、令和3年9月発行)では熊本の風土を詠み込んだものとして、第15回「文學の森大賞」(令和5年)を頂くまでになりました。
中村青史先生の紹介がなければ、今日の私の熊本ゆかりの文学研究はないと思っています。
中村青史先生は熊本出身の文学者の顕彰の会を数多く立ち上げてこられました。中村先生のそばにいると、熊本の文学がじかに感じられて、中村先生から推挙、または勧誘いただいた熊本の文学顕彰会には、すべて加入しました。
さらに、中村青史先生は「若い君が頑張れ」という励ましの言葉と共に、私を「熊本文化懇話会(文学)」の会員や「熊本アイルランド協会」の理事に推挙してくださいました。私を育てようというお気持に感謝の言葉もありません。「徳永直の会」「熊本・蘆花の会」においては中村先生が会長を退かれる際に相談を受け、知り合いを紹介したり、仲介を務めたりしました。私をそれほど信任していただいたことに胸が熱くなる思いでした。
このように、中村先生の冠のある賞を頂いたことは、中村青史先生に愛弟子のように育てていただいた私にとって、大きな喜びです。また、「火の国『くまもと』の文化を世界へ」を標榜している「くまもと文化振興会」に表彰を受けたことは、熊本の地から国際俳句の改革を発信している私にとって、大きな励みになります。
今後は、中村先生のご遺志を引き継いで、熊本の文化の発展に貢献していくことが中村先生の御恩に報いることであると思っています。その具体例として、熊本文学の研究・顕彰はもとより、国際俳句の指導添削の場であるFacebookグループ「Haïku Column」を通して国際俳句の興隆に勤しみ、俳句創作においては、夏目漱石の言葉とされる「俳句はレトリックの煎じ詰めたもの」に倣い、連想だけでなく、オノマトペ・擬人法・同化などを駆使して、ますます多様な表現に挑戦していくつもりです。そうすることによって、漱石俳句を継承すると共に、正岡子規の新派俳句を熊本にもたらした夏目漱石の顕彰に努めたいと思っています。
(ながた みつのり/俳誌「火神」主宰 熊本近代文学研究会会員)
俳句大学投句欄よりお知らせ!
〜 季語で一句 (54) 〜
◆『くまがわ春秋』2024年5月号(第98号)が発行されました。
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R6.5月号)
(かわず《かはづ》) 「春―動物」
辻井市郎
蛙鳴く月月火水木金金
【永田満徳評】
「蛙」は田に水が張られるころ、雄は雌を求めて、さかんに鳴き始める。日曜・土曜がない意の「月月火水木金金」という言葉を昼夜の別なく鳴き続ける「蛙」の生態に応用しているところがおもしろい。
【季語の説明】
「蛙」は脊椎動物の両生類の仲間。日本には5科42種のカエルが生息している。動いている生き物を探して舌で捕まえて食べている。「かえる」は日常語として、「かわず」は歌語として言い分けられてきた。皮膚呼吸しているために、土の中に染み込んでいる水分や夜露、沼、たまり水などで体の湿り気を補っている。
土筆(つくし) 「春―植物」
西村楊子
ままごとのママは忙しつくしんぼ
【永田満徳評】
「つくしんぼ」は「土筆」のこと。「つくしんぼ」を材料にしながら、家族に見立て、家庭を模した「ままごと」遊びをしている情景。日頃、忙しい母の口真似をして、周りの子どもたちに差配しているところがいい。
【季語の説明】
「土筆」はシダ植物の仲間。「スギナ」という植物の一部分で、早春に芽を出す胞子茎のこと。胞子を飛ばして子孫を残す役割がある。土筆狩りも子供の遊びであり、春の風物詩。日当たりのよい草原や田畑、道路わき、土手など身近な場所でも見つけられる。「土筆」は土に刺した筆のような姿から名付けられた。
白魚(しらうお《しらうを》) 「春―植物」
岩永靜代
ひらがなで歌ふをさな子花菫
【永田満徳評】
童謡かなんかを口ずさみながら「花菫」摘みを楽しんでいる情景であろう。「ひらがなで歌ふ」という措辞によって、白い菫の花言葉のように、あどけなく、無邪気な「をさな子」の様子がうまく表現されている。
【季語の説明】
「菫」は日当たりのよい草地や田畑のわき、堤防、道端などに自生している多年草である。女性の名前に使われるくらい可愛らしい草花。小ぶりで落ち着いた色の花を咲かせる姿とは裏腹に、強健な植物である。東アジアの温帯に広く分布し、日本中どこでも見かける。松尾芭蕉や夏目漱石が俳句の題材にしている。