月刊誌「俳句界」を発行する文学の森(東京)の「第15回文学の森大賞」に3月、熊本市の永田満徳さん(68)の句集「肥後の城」が選ばれた。最大震度7を観測した2016年4月の熊本地震と20年7月の九州豪雨の経験と、復興への願いが詠み込まれている。(右田和孝)
永田さんは熊本県人吉市生まれ。高校の国語教諭を務めながら30代で俳句を始め、退職後は俳句グループ「俳句大学」の代表を務める。
7年前の4月14日と16日、自宅で激しい揺れに襲われた。2週間にわたり水道が使えない生活が続き、頻発する余震におののく日々。そのような中で、地域の炊きだしで出されたおにぎりに人の真心をしみじみと感じた。
こんなにもおにぎり丸し春の地震 ※「地震(ない)」
折々に詠んでいた熊本城も大きな被害を受けた。「当たり前のようにあった城だけれども、我々にとっていかに大きな存在だったかを思い知らされた」。城内の神社から瓦を失った天守閣や崩れた石垣を見て自然に涙が流れた。
石垣の崩れなだるる暑さかな
身に入むや被災の城に鴉舞ふ
熊本城を悼む「肥後の城」というタイトルで句集をほぼまとめたとき、故郷の人吉市など県南部を豪雨が襲った。球磨川が氾濫し、実家に暮らす兄(71)は被災した街の片付けに追われた。「ふるさとは元に戻るのか」。祈るような気持ちで1年余りかけて句集を編み直した。
一夜にて全市水没梅雨激し
むごかぞと兄の一言梅雨出水
同賞は同社から1年間に刊行された書籍が選考対象。俳人の能村研三さん、古賀しぐれさんによる第15回(2021年度)の最終選考では、災厄を詠みながらも郷土愛に満ちていると評価された。永田さん自身も阿蘇の雄大な景観や、大きく崩れた石垣の上で変わらず咲き誇る桜に勇気づけられたという。
阿蘇越ゆる春満月を迎へけり
曲りても曲りても花肥後の城
永田さんは「自然は時に人々を翻弄するけれども、同時に励まし慰めてくれる存在でもあることを実感した。これからも郷土を詠んでいきたい」と話している。同賞には千々和恵美子さん(79)(福岡県岡垣町)の句集「飛翔」も選ばれた。
参照:「讀賣新聞」(九州版) 2023年 (令和5年)4月9日(日曜日)
讀賣オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20230408-OYTNT50055/